サディスティック・パーク

第2話 奴隷航路

作:凡田英二


『調教』

「ううん・・。」弘美は目をさました。光が無く、時間の感覚も無いから、確証は無いが、朝が訪れているような気がしていた。
男達はいなかった。昨夜過ごした部屋じゃ無い。・・どうやら、違う部屋に移されているようだ。目の前には見慣れない鉄パイプ・・。パイプじゃ無い、鉄格子。私、檻の中にいるんだわ。まるで囚人の様に、弘美は檻の中に閉じ込められていた。随分と狭い。この大きさでは、手足を伸ばすことも出来ないだろう。「いたぁい・・。」狭い檻の中で不自由な姿勢を強いられていたせいか、関節が痛む。
痛む部分をさすろうとして、弘美は「あうっ・・。」と呻いた。
背中に回された手が、全く動かなかった。後ろ手に手錠がかけられているのだ。両手が全く動かせない。「いやぁ・・。」意識がはっきりとしてくるにつれ、記憶がよみがえって来る。
そう、それは悪夢の様な夜だった。
しかし、それがただの夢でなかった証拠に、粘液にまみれた裸体には、幾つかの痣が残されている。そして、そのしなやかなうなじには、いつの間にはめられたのか、黒革と鋲で作られた、大型犬用の、いかつい首輪が装着されていたのだ。
首輪から延びるゴツゴツとした鎖は、檻の鉄柵に南京錠でくくられていた。
もちろん、ツルツルにされた秘所には昨晩の男達の陵辱の痕が残されていた。
不自由な身体をくねらせて、弘美は身体を起こした。
部屋は薄暗い。非常灯のような、ぼんやりとしたオレンジ色の光だけがたよりだ。左右に部屋が揺れるのを感じる。
船・・、そうよ、船に乗せられたんだわ。・・私。
ここは、船倉なのかもしれない。だとすると、今は海の上?・・ここは、どの辺の海なのかしら、・・。
途端に言い知れぬ不安が弘美を襲った。・・もし、外洋の・・はるか海の上にいるのだとしたら、泳いで逃げることは無理だ。だとしたら、どうやって逃げればいいの・・。
弘美は、ゆっくりと部屋を見回した。部屋の隅には、工事現場で見かけるような大型の紙袋が乱雑に積んであった。室内は暖かい。紙袋の中身は、腐るような物では無いようだ。1メートル四方くらいの狭い檻には、床一面に藁が敷きつめられていた。不思議に寒さは感じなかった。いま、私はどこにいるのだろう。どこに連れて行かれるのだろう。
それとも、このまま、彼らに乱暴された上、殺されてしまうのだろうか..。イヤ..だとしたら、死にたくない。
あの人達にどんな酷い目に遭おうと、跪いてでも、命を乞い、生き延びて、東京へ帰って、そして、…「帰りたい・…。そしてもう一度・…、一目でもいいから・…、裕志さんに会いたい。」涙が頬を伝った。
恋しい人、故郷と引き裂かれた哀しみに、ぽろぽろと溢れる涙は止まることを知らなかった。


だが、自らの運命を嘆く時間さえ、弘美には許されていなかったのだ。
バタン、と不意に音をさせて、ドアが開いた。続いて、カツカツカツ…靴音を響かせて、3人の男が入って来た。先頭を歩く長身の男は初めて見る顔だったが、あとの二人は、弘美に悪夢をもたらした昨晩の男達だった。


「おはよう。お嬢さん、よく眠れたかね。」
長身の竜一が先頭に立って檻に近づく。その後に太ったマサオと、浅黒のテツが続く。初めて見る紳士的な男の態度に、弘美は一縷の望みを賭けた。
「お願いです。私を帰して下さい。私には両親が残してくれた僅かばかりの遺産と、結婚資金の貯えしかありません。貴方達が望むような、大金を払ってくれるような、親戚もいません。勤め先も大企業じゃありません。一介のOLなんかの為に、払えるお金なんかないいんです。私、そんなお金持ちじゃないんです。見ての通りの平凡な女の子です。たぶん、何かの間違いだと思います。もし、帰してもらえるなら、貴方たちの事は一生、誰にも喋りません。お願いです。お願いですから、私を帰して下さい…。」
弘美は、不自由な身体を折り敷き、床に散乱している藁に頭をこすりつけるように、哀願した。
しかし、男の『紳士的』態度はそこまでだった。
「お嬢さんを、檻から引き摺り出せ。丁重にな。」竜一は、弘美の訴えを無視し、そのまま檻に近づくと、作業に取りかかるよう2人に命じた。
マサオが檻の鍵を開け、中に手を差し入れる。
うずくまる身体を無理矢理引き起こすと、鉄格子に巻かれている鎖を解き、引っ張った。「いやぁ、やめてぇ。」悲鳴を上げる。
「ごたごたいわずに檻を出ろ。」
マサオは鎖を乱暴に引くと、檻から弘美を引き擦り出した。後ろ手錠の為に秘所を隠すこともままならい。太腿を擦り合わせながら上体を倒して抵抗する弘美。
だが、その白い尻球に非情な鞭が数度唸りを上げただけで、『痛さ』と『恐怖』のために、たちまち抵抗の気力を失った。
「い、いたぁい。いや、お願い。ぶたないで。お願いだから。」
慌てて弘美は、身体を起こした。
95センチのたわわな乳房が、ぷるるん、と揺れる。長身の竜一が、乳房を揉みしだきながら、耳元でささやいた。
「気を付けろ。俺達はできればあんたを無傷で届けたいんだ。その方がいい値が付くし、あんたも向こうの生活が楽になる。『もの』にならないと俺達が判断すりゃ、ここで海にドボンだ。あんただって太平洋上でサメの餌になんか、なりたかないだろう?」
いい値・・・向こうの生活・・・いったい何のことなの? 私は身代金目当てに誘拐されたんじゃなかったの?心の中で弘美はつぶやいた。
いずれにしても、今は生きることが第一。サメの餌になんかなりたくない。悔しいけれど男達の言いなりになるしか無い。
「わけがわからない。って顔だな。まあ、いずれわかるようになるさ。」
テツが鎖を引き上げ、顔を上向かせる。
「向こうに着くのは3日後だ。3日経てば、俺達は、お前を解放してやる。」
「ほんとう?本当ですか?」
「ああ。だからそれまで辛抱しろ。」男達がげらげらと笑った。
「本当に?本当に私を解放してくれるんですね?」
弘美の心に、かすかな希望の光が射した。
「ああ。それまでに俺達が、向こうの生活に早く慣れるように、みっちりと仕込んでやる。まあ、それでも足りねえだろうがな。少しでも可愛がってもらえるように芸を仕込んでやるんだ。ありがたく思え。」
太った男が尻に手を伸ばしながら言った。荒々しく叩く。
「あの..それはどう言う意味なんですか?解放して..くれるんじゃ?」
だが、その問いの答えは得られなかった。長身の男がヒュウと鞭を鳴らす。
「さあ、ぐずぐずするんじゃねえ。時間がねえんだ。今日の『調教』にとりかかるぞ。早く上にあがれ。」
生き延びる為に..そう、裕志さんとの再会のために・…弘美は従順に男達の後に従うしか無かった。


船室に入った途端、弘美は「うっ」と呻いた。幅10メートル、奥行き30メートルくらいの広々とした船室には、弘美が今まで見たことも無い、数々の卑猥な器具であふれかえっていた。中型の旅客フェリーを改造して作られた、この貨物船は、牧場までの日用品の輸送もやるが、主として拉致して来た女を調教する為に改造されていた。広々とした客室の敷居を取り払って作られた調教室は、ありとあらゆる調教を施す為に十分な広さと、設備を施してある。昨晩、この部屋でレイプされた時には気がつきもしなかったが、昨夜縛り付けられた検診台のような装置の他、磔台、天井に吊り上げる為のフック、水責めの為のプール、ガラス張りのシャワーユニット、その他、大小数百の器具で、溢れかえっていた。その何れもが、女を責め抜く為だけに、製造された、おぞましい地獄の責具ばかりである。
もちろん、今の弘美には、用途や目的など到底想像もつくはずの無い物が大半であった。
だが、弘美はその身を以て、やがて厭と言うほど思い知らされることになる。
棚には、数々の薬品類、しかも催淫剤・媚薬の類から、グリセリン・ドナンと言った浣腸薬まで並べてあった。器具から香る、独特の淫臭と、数々の女の悲鳴を滲み込ませた部屋の雰囲気に圧倒され、弘美は後退さった。


ヒュウウン…すかさず、鞭の音が鳴る。
「馬鹿野郎。どこへ行くつもりだ。『ここ』しかおまえの居場所は無いんだ。俺達は、おまえをここで、『女』から、『メス』に生まれ変わらせてやる。厳しいかもしれないが、それが俺達の『愛の鞭』だ。お前の為にビシビシしごいてやるから、愉しみにしておくんだな。」
弘美は、男が何を言っているのか、理解できなかった。しかし紛れもない恐怖の為に、その場に足がすくんで、動けない。
男は弘美の鎖を引くと同時に、二、三発頬を張った。恐怖と痛みで、弘美は正気に戻った。
「ぶたないで。・・お願い。・・お願いします。」
弘美は、その場で跪いた。
「素直になれ。素直になって俺達の調教を受けると誓えるなら、鞭打たずに済ましてやる。」
「はい。」暴力に対する恐怖感から、弘美は頷くしか無かった。
「まず、朝のご挨拶から練習だ。これからは、これがお前の毎朝の日課になる。」
マサオは、先ず弘美の手錠を外した。
手錠から解放された腕を、いたわるようにさする弘美。もはや抵抗する気力も失せていた。
しかし、身体を休める間もなく、両手のひらと両膝を、力ずくで床に押しつけられた。
昨夜のレイプで擦りむいた膝に、軽い痛みが走る。跪いた弘美の目の前に黄色く変色した張紙が見える。
大きな字だ。おそらく、この室内なら、どこからでも、一言一句間違えずに読めたであろう。
テツは、弘美に、声を出してそれを読むように促した。しかし、それを目にし、意味を理解した途端、弘美は大きく目を見開き、いやいやと大きくかぶりを振った。
ピシィーン。長身の男が、黙ったまま弘美の豊かな尻に鞭を振り下ろした。
「ひぃ・・。」弘美は悲鳴を上げた。真っ白な尻たぶに赤い線が走る。
「いいか。ここに連れてこられた以上、おまえは、もう『人間』じゃねえ。男の性欲に奉仕するためだけに生きている淫売の『メス奴隷』だ。どんなにイヤだと思っても、おめえが生きて行く道はそれだけしか無いんだ。だから、我々の命令には、絶対に従え。従わない時は、ここで鮫の餌になってもらうだけだ。」
『鮫の餌』の言葉に、弘美の足が竦んだ。
「わかったか。・・わかったら、声に出して読んでみろ。」
テツが、首輪を掴み、再度強要する。喉が苦しくなり、たまらず張紙を読みはじめた。
「わ、わたくしはマゾで露出狂の・・・み・・淫らな『メス奴隷』で、ございます。ふつつか物ではございますが、・・皆様に調教して頂いて、せいいっぱい立派なマゾに成れるよう努力させていただきますので、・・・どうか・・どうかよろしくお願い致します。うぅ・・。」
次に続く、あまりにも情け無い台詞に弘美が声をつまらせた。ヒュウッとマサオの鞭が空を切る。その音に怯えながら、弘美は続けた。
「そして、ど・・どうかこの淫乱マゾ女の『淫欲』を、皆様のお情けと愛のムチでお静め下さいませ。」
言い終わるなり、弘美は、わ・・、と泣きくずれた。いや泣きくずれようとした。しかし、無情な男の手は、弘美の長い髪を掴みあげると、弘美の身を起こした。
勢いで『Fカップ』のたわわな乳房が揺れる。涙が自然にあふれて出ていた。
三文エロ小説の中に出て来るような、使い古された陳腐な台詞だが、それだけに女をおとすためには効き目がある。・・どんな女でも・・竜一は思った。
「そういうわけだ。あんたはこれから『メス奴隷』として奉仕する生活を送ることになる。今から俺達が仕込んでやるから、ありがたく思うんだな。」
マサオが因果を含めるように言った。
弘美の頭の中を謎の言葉がかけまわっていた。
・・メス奴隷・・?一体・・何のことなの・・?私はこれからどうなるの・・
カチャリ、と音がして、新たな縄が首輪の金具にかけられた。

(前へ)

(次へ)


(メニューへ)