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落 涙 の 白 百 合 セント・リリィ 作:凡田英二
第1話 落日の花園(はなぞの) その名を聞けば「ああ、あの学校か..」と誰しもが思い出す『学校』がある。 そしてその後には、必ずと言って良いほど、胸に切ない..青春への郷愁を覚えるはずである..。そう..あなただってその一人のはずだ..。 ..『はつ恋』の思いで..甘酸っぱい青春の夢..心に刻まれた様々な記念碑..。その学園の名は、..『私立 聖百合(セント・リリー)学園』...と言った。 明治の偉大な教育者にして、女子高等教育の母、華族・綾小路伯爵家夫人『綾小路百合子』が華族女学院に準ずべき女子高等教育機関として明治中期に創設した女学校..『私立 聖百合学園』は、都心の閑静な学生街に位置し、建学100年、輩出したOGは実に数十万を数える。都内有数の名門中の名門..である。 『聖百合学園(セント・リリー)学園』.. その名は、その2枚重ねの百合の校章と共に、戦前・戦後女性史を華やかに彩る様々な人材を輩出し、その名声は、国内はおろか、国外にすら広く知られている..。『女学校』であった..。 ここで『女学校であった。』..と、過去形で述べたのにはわけがある。 21世紀初頭..少子化と不況の嵐の中、日本全国の私立学校を経営難の嵐が襲っていた。 名門セント・リリーとて、その例外たり得なかった。 いや..むしろセント・リリーのように都内中心部に位置する女学校等は、凋落が他に比べて著しかった。 理由は簡単である。通学圏内に於ける生徒の激減..それがたった一つの..しかし最も深刻な理由であった。 地価の高騰の為に郊外にまで広がってしまった住宅地から、都心まで通うのは容易な事では無い。 長時間通学に伴う経済的負担の拡大、ストーカー等の多発に見られる治安の悪化、更には首都圏からの名門大学の郊外移転、若者文化発信地の23区外への拡大等..わざわざ都心の高校にまで通う必要は無くなっている。 都内のマンションは増加傾向にはあったが、いずれもビジネスユースであり、高校生を抱えるファミリーユースと言うわけでは無い。都心の空洞化に伴う生徒の減少と、これによる名門校の凋落は目を覆わんばかりであった。 今や名門セント・リリーと言えど、入学試験において、その年の学年の定員を確保する事すら困難な状況に陥っていた。 そんな頃..、名門『セント・リリー』に手を差しのべて来た学校があった。 同じ頃に経営難に陥りながら、奇跡的な経営建て直しで蘇った私立学校法人..その名を『聖カタリナ学院』と言った..。 「『生徒会を解散する』..?どういう事なんですか?」 「ですから、情勢が変わったんです。我々は改革を受け容れなければ次の時代に生き残って行けないんです。」 「『改革』ですって?正気ですか?馬鹿な事をおっしゃらないで下さい。..『女は男に隷属すべき存在である。』等と言う思想の、どこが『改革』なんですか?」 職員会議は紛糾していた。いや、正確に言えば紛糾等と言えるものでは無い。 騒いでいるのは、たった一人。女性教師・立花杏子である。そして、怒りの為に興奮した女性教師に詰め寄られているのは、教頭の新海三郎であった。 聖カタリナによるセント・リリーへの財務支援は、事実上の『買収』を伴うものであった。即ち、セント・リリーの債権を全て聖カタリナが買い取る事により、理事会の運営と、学校経営の権利の全てを学校法人・聖カタリナ学園が掌中にしたのである。 札びらで頬を叩くような買収..。その次にやって来たのは、当然の事ながら、経営ポストの要求であった。 先ず理事長が経営不振の責任を取って、退任を強いられ、次に学園長がクビになった。『放漫経営の責任を取って』..と言うのがその理由であり、退職金まで返上させられての..無念の詰め腹..である。 一般職員とて例外では無かった。 聖カタリナの経営方針に批判的な教師や学校職員が学園長に続き、セント・リリーを追われる事になった。 たった1〜2回の遅刻や、私用電話..或いは勤務時間中のちょっとした外出等..これまで、余程悪質でなければ見過ごされて来たような..そんな『些細な』落ち度を理由に、彼(彼女)達は、次々と退職に追い込まれて行った..。 邪魔者がいなくなった後..『主流派』を形成した聖カタリナ派の教師達が行ったのは、定石通りと言えば定石通りの行動である。 彼らはこぞって『学園改革』と称し、『自由』・『自立』・『民主』等と言った、セント・リリーの伝統を、次々と破壊にかかった。 その第1弾として行われたのが、セント・リリーの『共学化』であった。 『女性だけの』『ぬるま湯の様な』..甘えた集団の競争が、学力の低下を招く..と言う、理由にもならない理由で、男子生徒の編入・入学が進められた。 勿論、セント・リリーの男子生徒第1期生は、聖カタリナから送り込まれてきた。 3年生・酒田恭一を始めとする、各学年20数名から成る『男子編入生』達である。 次に進められたのは学校当局による、『白百合同盟:生徒会自治組織の解体』である。 全学年から民主的選挙によって選ばれた女子生徒によって構成される『セント・リリー生徒会(通称:白百合同盟)は、学校当局から解散を命じられ、代わりに学校当局から任命された『生徒委員会』が、生徒会にとって代わるべき存在とされた。 『生徒委員会』は、聖カタリナから編入して来た男子生徒によって構成されている。 『男子生徒が各クラス数名づつしかいないのにもかかわらず』..である。 そのポストの何れもが男子生徒によって占められている理由は、ただ一つ。『全ての女子は男子に従属すべき存在であり、女子のリーダーシップによる自立組織等は否定されるべき存在である。』..と言う、きわめて時代錯誤的な男尊女卑思想によるものであった。 そればかりでない。自らの統制力を強める為に、生徒委員会は、『特別反省室(特反)』なるものを設け、自分達で勝手に作成した『生徒規則』を振りかざし、これに違反した生徒達を〜全て女子生徒であったが〜次々と特反に送り込み、私的制裁を加えていった。 元々、自由闊達な自律的な校風を旨とするセント・リリーには、『校則』等と言うものが存在しなかった。..にもかかわらず..である。 勿論、ただ黙って指をくわえている女生徒達では無い。白百合同盟メンバー達は、全校女子生徒の支持をバックに、依然生徒会室に居残り、『委員会』の部屋明け渡し要求を拒否していた。 そればかりでは無い。些細な理由で『特反』に連行されそうになった女生徒を途中救出し、生徒会室に立て籠もったのである。 管理教育至上主義であるカタリナから来た生徒にとって、学校当局の命令は絶対である。 ..そう信じてきた『委員会』は、女生徒達の反乱に慌てた。何と言っても相手は多勢である。 『委員会』は学校当局に訴え出た。そして、その訴えに聖カタリナ派の学校当局が動いた。 教頭の新海は、全校放送で生徒会のメンバーに、生徒会室の明け渡しを要求した。 だが、『生徒会:白百合同盟』は、本来『生徒自身による』『生徒達の自主自立の為の』自治組織であり、セント・リリーに於いては、元々学校権力の遠く及ぶ所では無かった。 しかも、彼女達は、正当な選挙によって生徒に選ばれた、いわば生徒の代表である。 その生徒会が、いかに学校当局の後盾があるとは言え、単に『男だから』と言う理由と不透明な選考過程を経て選ばれた『委員会』に部屋を明け渡さなければならない『いわれ』など、微塵も無かった。 故に、牙城の明け渡しを拒否されても、聖カタリナ派の連中は、正当性を主張する事が出来なかった。 籠城が夜に及んで、父兄の動揺から警察沙汰に発展するのを恐れた学校当局は、結局その要求を黙って引っ込めるしか無かった。 たとえ悔しさに歯がみしながらでも..。 そして騒動の末、職員会議に於いて出された決定は.. 「生徒会は存続。生徒委員会と生徒会は並立し、組織統合については、生徒の自主的な話し合いに委ねる。」..と言うきわめて玉虫色の決着だった。 これが、生徒会:白百合同盟と生徒委員会の最初の戦いの『結果』である。 ..一見、引き分けのように見える。 だが、実は聖カタリナ派の主張の全面撤回を引き出した、セント・リリー側の全面勝利と言える結末であった。 一度は勝利した生徒会。 その夜、生徒会室に集った少女達は、シャンパンの代わりに炭酸ジュースで祝杯をあげた。 私達は勝った..。聖カタリナから来た占領軍達を見事撃退した..。 そう信じて疑わなかった..。 だが、事態は、少女達の願望をそのままには許して呉れるほど..、甘くはなかったのである。 聖カタリナ派の教頭達は、次の一手を打とうとしていた....。 女子高等教育の雄として、女生徒による自立的な生徒会・部活運営、或いは自由闊達な校風を誇り、幾多の女性リーダーを輩出して来たセント・リリー主義とも言える『伝統』は、押し寄せる聖カタリナの男尊女卑を基調とする、管理教育の校風の前に、今や『風前の灯』の状態にあった。 それでも何とか持ちこたえて来られたのは、生徒会顧問である国語教師『立花杏子』の力に負うところが大きい。 ..反カタリナの急先鋒である国語教師、立花杏子がクビにならずに、今まで残って来られたのは、『奇跡』と言えた。 立花杏子..26才、未婚。セント・リリーの卒業生にして、都内有名大学卒の才媛。 かつて..『百合校祭』に於ける美人コンテストで、在学3年間の間一貫して『ミス・セントリリー』の地位に輝き、その座を誰にも譲ることの無かった美貌と、元・白百合同盟会長..その経歴は輝かしいものであり、教師としてだけでなく、先輩としても、生徒に絶大なる人気を博している『美人教師』である。 反対派から見ればこれほど手強い敵は無く、味方からすればこれほど力強い味方は無い。 そんな杏子には、さしもの『占領軍』も容易に手を出せない状態であった。 勿論、クビに追い込まれた他の教師と異なり、付け入る隙や指摘されるべきミスが皆無であったと言う事も、杏子がこれまで生き残って来れた、大きな理由であった。 今や職員会議は聖カタリナ寄りの教師か、戦う意志を無くした日和見教師だけの集団と化し、誰一人として聖カタリナの占領軍(教頭)と戦う者は無く、ただ一人杏子だけが孤立無援の戦いを続けていた。 学園長代行兼任として、聖カタリナから送り込まれて来た教頭の『新海』は、決して頭の悪い男では無かったが、元々SMソープランドのオーナーをしていた男で、銭勘定は素早くても、弁舌さわやかと言うタイプでは無かった。 「そんな男が、何故名門女学校の教頭なぞ務めていられるのか?」..などと言われる御仁は、『新入部員・春菜』の本編をご覧になると良いだろう。 ただ一つ言える事は、口べたな『新海』にとって、杏子は最も苦手なタイプの女であり、それだけに、真っ正面からの論争はできるだけ避けたいと思って来た事であった。 職員会議..例によって聖カタリナ派の職員を相手に、杏子だけが孤軍奮闘し白熱した議論を戦わせている。 「さて..ここまで来たら平行線ですな。議論は尽くしましたし..後は多数決に致しますか..?」 いつものように議論を打ち切り、多数決に持ち込もうとする。多数派を握る、新海の常套手段である。 「冗談じゃありません、教頭。」 ここで多数決にされたら、絶対的少数派である杏子に、全く勝ち目は無い。 ここは何としてでも論戦を挑み続けて、教頭の厭戦気分を引き出し、案を撤回させるしか無かった。 「では、どうすれば良いのかね?既に老朽化のひどい『生徒会室』を取り壊す為の、業者手配は済んでいるし、現行の『生徒会』を解任し、『委員会』をこれに変える為の全校集会の準備も進んでいるんだよ。」 教頭の提案とは、施設の老朽化を理由に、生徒会の本拠である生徒会室を取り壊し、代わりに委員会室を設置する事であった。勿論、新しい部屋に入るのは、旧来の『生徒会』では無く、新しい生徒組織である『委員会』でなければならなかった。 言うまでも無く、これは露骨な『生徒会潰し』の陰謀である。 「ですから、お考え直しを..。生徒会は学生による自治組織として長く良き伝統を誇って参りました。それを、学校の経営方針が変わったからと言って、まるで人形のクビでもすげかえるかのように、コロコロ変えてしまうのは決して教育にとって、良い事だとは思いません。」 「また、『良き伝統』かね。ふん、それもいいが..いい加減、聞き飽きたよ。その『良き伝統』とやらの為に、この学校は潰れかけ、今に至っているのではないのかね、立花先生。」 「そっ..それは..」 言葉に詰まる杏子。 「それに、私は生徒会を潰すと言っているわけじゃ無い。新しく建て直した部屋に入れないと言っているだけだ。」 「それでは、生徒会の活動の拠点が無くなってしまいます。潰すのと何ら変わらないじゃないですか。教頭のおっしゃるのは『詭弁』です。」 なおも激しく食い下がろうとする。 杏子の剣幕に、さしもの教頭もたじろいだ。 「..まあいい..わかった。この件は保留として、明日、もう一度..と言うことにしましょう。お互いに頭を冷やして..。それでよろしいですな?」 「教頭!まだお話は終わってません!」 更に詰め寄ろうとする杏子。 「立花先生。もういいだろう?貴女はもう少し『分』と言うものをわきまえるべきだ。」 教頭の脇に座っていた学年主任の高崎が杏子を制した。 日和見だが一応学園の長老である老教師・高崎には、一応敬意を表す必要がある。 「..はい..。では、明日、この件はもう一度と言う事で。」 杏子はあっさりと引き下がることにした。 ここは硬軟使い分けた方が、相手から譲歩を引き出す為には得策だと思ったからである。 「わかりました..明日、再度の討議を..御願い..致します。」 さっと会釈して席に戻る杏子。 「ふう..わかった..わかった..。」 教頭が汗を拭きながら立ち上がった。 「起立、礼!」 教頭の起立に合わせるように号令がかけられ、会議は閉会となった。 ガヤガヤ.. 職員会議から出てきた教師で廊下は一時ごった返していた。 「先生..」 その時、杏子の後ろから近づく一つの影があった。クラスの女子生徒で、『田中さやか』と言う名前の、おとなしい生徒だ。 「なあに?田中さん..」 「あの..B組の酒田君から、この手紙を先生に渡すように..って預かりました。」 何かに怯えるように、おどおどしながら手紙を差し出す。 『B組の酒田』とは、聖カタリナから教頭や他の教師達と共にセント・リリーに乗り込んで来た男子生徒の名前である。 酒田恭一、3年生のボス的存在であり『生徒委員会』の委員長でもある。 頭は確かに良いが、日頃から粗雑な言動が多く、おそらくは田中さやかも脅されながらこの手紙を預かったに違い無かった。 「そう..何かしら?」 「さあ..ただ、この手紙はすぐに開いて見て下さい..との事です。」 「そう..」 珍しい事もあるものだと思う..。だが、連中が生徒会顧問である杏子に好意を抱くはずもなく、おおかたつまらない悪戯か..脅しの手紙に違い無いと思った。 今ここで手紙を開くべきかどうか..悩んだ末、杏子は手紙を開く事にした。 それは、杏子を見つめる田中さやかの視線に応える為でもあった。 『立花先生へ』と書かれた封筒を破り、中の手紙を取り出す。 「やれやれ、下手くそな字ね。」 教師宛に出す手紙にしては宛名の字が汚い。 ..どうせ大した話しではあるまい..。 3つ折りになった手紙を開き、文面を追う..。 読み出す前..最初は他愛も無い悪戯だと..しか思っていなかった。 だが、文面を追う杏子の視線が真剣味を増して行った。 やがて..蒼白になった顔が、ぶるぶると怒りで..震え出した。 次の瞬間、杏子は『生徒会室』へと脱兎の如く駆け出していた。 グランドを挟んで対角線上にある生徒会室〜白百合同盟本部。 ドアを開け、中に入った瞬間、杏子はあまりの惨状に目をそむけたくなった。 散乱した本、ノート、ペン、紙の束。ダンボールはひっくり返され、壁のポスターはズタズタに引き裂かれていた。 おそらくは会長、副会長、書記、会計の本部役員だけが集まった所を、委員会の連中に急襲されたのであろう。女生徒の中に手引きをした者がいたのかもしれない。 その経緯はわからないが、確実な事がたった一つだけあった。 ..委員会の連中によって、少女達が『特反』に拉致されてしまった..事である。 『特別反省室〜特反』は、体育館の地下に設けられていた。 体育準備室の床に、地下の入口へと通ずる『蓋』がある。 戦前からの歴史を誇るセント・リリーの地下には、戦時下、生徒と付近の住民を収容する為の大規模な防空壕が掘られていた。終戦後、その殆どの入り口は埋められたが、その幾つかは塞がれずに残っていると言われる。 『七不思議』と言われる怪談話し等はだいたいこうした防空壕にまつわるものが多い。 骨が埋まっているとか、魂がさまよっているとか..枚挙にいとまがない。 だが、それが女生徒を拉致監禁する為の目的に使われているとしたら、事は単なる『怪談話』では済まされない。 「もうそろそろおいでになる頃と思っておりました。立花先生、『特反へのご招待』受けて頂き感謝致します。」 体育準備室のドアを開けると、一人の男子生徒がそこに立っていた。 オーバーな動作でお辞儀をし、準備室の中へと杏子を迎え入れる。 「ふざけないで!生徒会の人達をどうしたの?こんな事をしてただで済むと思っているの!」 「『生徒会』?それは今日の職員会議で廃止になったはずじゃ無いんですか?我々は学園の強制立ち退き命令に従わなかった彼女達に反省を促そうとしただけですよ。」 「強制立ち退き命令は出なかったわ。結論は早くても明日と言うこと。ざまあ見ろと言うところね。いい?私がこの学園に居る限りは、絶対にあなた達の好きにはさせないわよ。さあ、わかったら早く彼女達を解放しなさい。」 「そうですか..教頭、しくじったんですね。..まあそれはいいでしょう。」 「やっぱりグルと言うわけね。強制立ち退き命令が無いんだから、彼女たちに違反行為は無かったと言うことになるわ。さあ、彼女たちを早く解放しなさい!」 「はは、せっかちですね。いえね..実は最初はそのつもりだったんですが、踏み込んだ所、彼女達には別件でもっと重大な違反行為が発覚しましてね..それで今取り調べている所なんですよ。」 「何ですって?」 「ですから、取り調べ中の彼女達を解放するわけにはいかないと言っているんですよ。」 「馬鹿な事を言わないで。彼女達にどんな規則違反があると言うの?」 「それを知りたければ中に入って直に彼女達に聞いて頂くしかありません。」 「なぜ?」 「彼女たちの名誉の為、顧問である先生の名誉の為..とでも申しましょうか。」 「どうしても中に入れと言っているのね..」 「はい..」 いつの間にか杏子の回りを数人の男子生徒が取り囲んでいた。 杏子は迷った。『特反』の中は委員会の連中の巣窟だ。何をされるかわからない。 ..でも..相手は16〜18の子供だ。それに生徒達はまさか教師に手を上げるような事はすまい。暴力沙汰になって一番困るのは、聖カタリナから来た教師連中のはずなのだ。 『虎穴に入らずんば虎児を得ず』の言葉もある。 「わかったわ。入るわ。入ればいいんでしょう。」 「ご理解頂き、感謝します。」 「ここね?」 男子生徒の先に立って床の上にある入口の『取っ手』を掴んだ。中に入ろうと思い切って重い蓋を持ち上げる。 「待って下さい。」 一人の男子生徒が杏子を制す。 「何よ」 「スカートとパンツを脱いで下さい。『特反』に入る前に、女子にはここでスカートと下着を脱いで頂くのがきまりなんで。」
一瞬、杏子は聞き違えたのかと思った。 スカートとパンツを脱げ..つまり下半身スッポンポンになれと? 「立花先生、申し上げにくいんですが、規則は規則でしてね。御願いします。脱いで下さい。ここに入る時、女子は下半身スッポンポンと言うのが、決まりになっているもんで。」 「馬鹿な事を言わないで。なんで部屋に入る前に下半身丸裸にならなきゃならないのよ!」 杏子は顔を赤らめて怒りだした。 だが男子生徒は動じる風も無い。 「忘れて頂いては困ります。ここは『特別反省室』なんです。自らの犯した罪を悔いて反省する為の部屋なんですよ。当然、『お仕置き』だって受けて貰う。わかります?『お仕置き』ですよ。『お仕置き』。『お仕置き』って言うのはねぇ、古今東西昔から、『お尻叩き』だって事に決まってる。『悪い子にはお尻ペンペンしますよ!』ってヤツですよ。..そうそう、先生達の大好きな『伝統』ってヤツですよ。だから、お仕置きを受ける為には、お尻丸出しにして貰わなきゃならないんだ。わかりますか?プールに入る前には水着を着るし、お風呂に入る時には服を脱ぐ。特反に入るときは、お尻丸出しにして貰うって事ですよ。」 「馬鹿な。私にはお仕置きされる理由なんか無いわ。勿論彼女たちにも無いはずよ。」 「だったら..脱げばいい。正々堂々としていればいいじゃ無いですか?何も悪い事して無いのなら、何も怖がる事は無い。悪い事をしていなけれ我々だってお仕置きはしませんよ。」 「ほっ..本気で言っているの?」 「本気ですよ。とにかく、女は下半身丸出しになって貰わなきゃここには入れないんだ。それがいやなら、ここで引き返して頂くしか無いんですよ。」 「馬鹿な事言わないで。教え子が監禁されている事がわかっているのに引き返せるわけが無いじゃない。」 「そうでしょう?」 「でも..あなた達の前で..」 相手は生徒とは言え、体格は立派な『男』である。髭も生えればセックスも出来る。 幾ら教師と言う立場があっても、杏子とて『女』だ。 このような状況の中で、剥き出しの下半身を晒す事に抵抗を覚えぬはずが無い。 「いいんですよ。綾子や夏美だってこの部屋の中でスッポンポンになって、先生の助けを待っているんだ。何も彼女達みたいに『完裸になれ』なんて言ってるんじゃ無い。『下』だけですよ『下』だけ。隠そうと思えば手でも十分隠せる。それでも先生が脱げないと言うんなら、別に俺達は一向に構いませんよ。先生は臆してここで帰る。そして、彼女達には永遠に助けが来ない...と言う事になる。それだけの事です。ただ、セントリリーのジャンヌ・ダルクとも言われた女闘士が、たかがパンツ1枚の事で生徒を見捨てたと言うことになれば、そっちの方が余程大きな問題だとは思いますがネ..。」 「『完裸』..?完全な裸って事?なぜ..彼女達は下半身だけじゃ無いと言うの?」 男子生徒は確かに完裸だと言った.. なぜ?..彼女たちが一体どんな罪を犯したと言うのか..。 「取り調べの為です。」 「狂ってる..。異常よ..あなた達..」 ..惨い..年頃の少女達が、同年代の男子達の前で素っ裸に剥かれていると言う。 彼女たちにとって、それは死にたい程の屈辱に違いない。 「脱ぐんですか?脱がないんですか?」 「..わっ..わかったわ..脱ぐわ..脱げばいいんでしょう。」 杏子は腕を脇に回してタイトスカートのホックを外した。 ジジジ..ファスナーを下ろす。片手はまだベルトの部分をつかんだままだ。 ゴクリ..と唾を呑み込む音がした。 意を決して手を放す。 ..パサリ..音を立ててスカートが足下に落ちる。 男子達の目の前に、ネイビーのフリルに覆われた『タンガ』と呼ばれるセクシーショーツがあった。 ストッキングは太股までの丈のものだ。 今日に限って..杏子は煽情的なデザインのショーツを身に着けて来てしまった事を後悔していた。杏子の下半身を見つめる男子生徒の視線が痛いほど突き刺さる。 それはそうだろう...母親の『デカパン』に慣れた少年達からすれば、タンガを身に着けた女など、それだけで未知の世界の住人である。 「ストッキングはいいや。その、やけに色っぽいパンティーだけ脱いで下さい。」 「どうしても..脱がなけりゃならないの?」 「スカートまで脱いだんです。ここまで来れば同じでしょう?」 いつの間にか後列の男子生徒の手にスカートが握られていた。帰りたくても『タンガ1つの』下半身では、帰るわけには行かない。 「さあ..」 杏子は覚悟を決めた。 両脇に手を添え、ゆっくりと..ためらいながらタンガを下ろして行く。 しゃがんで..左足..次いで右足の順に足を抜いた。 「さあ、脱いだものをお預かりします。帰りにはちゃんとお返ししますので。」 羞恥に震えながら、杏子は男子生徒の手に脱いだばかりの『下着』を手渡した。 そして..しゃがんだ姿勢のまま..杏子は凍り付いた様に動けなくなって..しまった..のである。 「くぅーキクぅ。これが三年間、ミス・セント・リリーの女王の座に君臨した『女』の臭いかよぉー。」 杏子の手から黒のスキャンティーを取り上げた生徒が、いつの間にかパンツを裏返すと、クロッチ(船底)の部分を鼻に近づけ、そこに染みついた匂いを嗅いでいた。 杏子はハっとして顔を上げた。 「何をするの! やっやめて!」 そう言えば..今日と言う日は、春先にしては珍しく蒸し暑く、座っていてもじわりと汗の滲むような、そんな1日であった。男子生徒の手にした船底の部分からは、残尿の残り香と外隠部から分泌された性腺の臭い、更に陰毛に覆われた恥丘から滲み出した甘く..酸っぱい汗の香りが混ざり合って、薫っているはずだ。 「やめなさい..!御願いっ..やめて..」 いつの間にか哀願口調になっている。 性欲に溢れた若い『オス』達の群の中で、陰部を剥き出しに晒されている..その恐怖が、今更ながらに杏子を支配しようとしていた。 「よせ、先生に失礼じゃねえか。」 リーダー挌の生徒が男子生徒からタンガを取り上げ、ポケットにしまいこんだ。 「ご安心下さい、先生。これは、先生のお帰りの時まで、ボクが責任を持ってお預かりする事にいたしますから。」
杏子は蹲ったまま、男子生徒を見上げた。 ..いやだ..何..この感覚.. 高い所から見下ろされる事が、こんなに威圧感を与えられるものだと言う事を、杏子は初めて知らされた。 うずくまった位置から見上げる男子生徒の顔は、まるで絶対権力を持つ『帝王』の様に見える。 ..ふふ..怯える様な杏子の視線に、男子生徒は征服者の快感を覚えていた..。 自分を見上げる杏子の目は、もはや『生徒を見る教師の目』では無い。 そう..『主人』を見上げる『牝奴隷』の目だ。 ..『女』は、『女』として生まれるわけでは無い。『女』は『女』にされて、初めて『女』になるのだ..。 ..昔誰かが言っていた『言葉』を思い出した。 ポケットの中の『戦利品』をぎゅっと握りしめる。つい先程まで、この女の肉襞を包み込んでいた『皮』だ。大事に扱わせて貰おう..。 勿論、永久に返すつもりは無い。元々、『特反』に入った『女子』がただで帰れるはずが無いのだ。そう、たとえそれが『教師』であろうと..。 「それでは先生。ご案内致しますので、立ち上がって、ボクについて来て下さい。」 恥部を覆うように前屈みの姿勢で杏子は立ち上がった。春にしては蒸し暑い日と思っていたのだが、こうして下半身裸になると不思議と何だか肌寒い気がしていた。 心細さと羞恥心と..様々な感情が成せる錯覚だったのかもしれない。 杏子は、男子生徒に誘われるまま、扉の下へと続く階段を下って行った。 10段ほど下った所で、ぶ厚い鉄の扉が目の前に立ち塞がった。 「『秩序』と『規律』の世界へようこそ..」 ギィィーと音を立てて鉄の扉が開かれる。 中は薄暗かった。目が慣れるまでには相当の時間を要するだろう... バターン!杏子の後ろで重い扉が閉じる音がする。 振り返っても何も見えない。 ただ..漆黒の闇が広がるだけだ。 突然、.. ピシィーン.. と言う肉を叩くような音が響いた..。 ..続いて.. 「キャアアア」 と言う、辺りを切り裂くような悲鳴。 「なっ..何?何が起こっているの..」 杏子は目を凝らして闇の奥を見つめた。 入ってきた入り口と反対側が部屋の奥になっているのだろう。 ぼうっとした頼りなげな灯りだけが闇に浮かんで見えた。 目が暗闇に慣れるにつれ、やがてその灯りは広がって、幾つかの『像』を形成して行った。 コンクリートが剥き出しになった壁、天井を走る何十本と言う鉄パイプ、太さ40センチ角はあろうかと言う大木の梁、そこからぶら下がった何本もの鎖..その光景は、中世魔女裁判の拷問部屋を彷彿とさせた。 ..そして.. 杏子の瞳は、部屋の奥に、信じられないような..ぞっとする光景を捉えた。 部屋の奥に走る天井の太い梁から、まるで屠殺場の牛豚のように、大きな『肉の塊』が4つ、これから解体を待つかのようにぶら下がっていた..。 闇の奥にぼうっと浮かび上がる4つの白き肉の塊.. だが、ここが『特反』である以上は、それが屠られた牛豚のはずは無かった..。 そう..確かに『肉の塊』ではあったが.. 杏子は最初、我が目を疑った。 「貴女達..どうしたの..その格好は..何?」 大きな肉の塊に見えたのは..、天井からつま先が届くギリギリの高さに..『両手』吊りにされた、4人の..全裸の..少女達だったのである..。 いやっ..いやぁぁぁぁぁ.. 何と恐ろしい光景だろう..。天井から一糸まとわぬ全裸で吊り下げられた白百合同盟の少女達は、死刑執行人のようなマスクをかぶった男子生徒によって鞭打たれ、その激痛に身悶えさせられていたのである。 少女達の身体には、鞭で激しく叩かれたのだろう..既に太いみみず腫れが幾条も走り、内出血した一部の肌が、紫色に変色していた。 だが、もっと酷かったのは、少女達の下半身同士を互いに横につないだ紐...いや、細い絹のような糸の存在..であった..。
そう、少女達は互いのクリトリスを剥き上げられた上でその根本を搾るように緊く縛られ、互いの身体をクリットだけで数珠つなぎにされていたのである。 鞭打たれる度に少女達は左右に大きく身悶える。だが、そうする事で互いのクリットは左右に大きく引っ張 られ、無惨にも引き千切れんばかり
の激痛が彼女達自身を襲うのだ。吊り上げられた足下には、少女達の失禁の痕が残されていた。涙、汗、尿..身体中の水分と言う水分が搾り出されていた。涙すらとうに既に枯れ果てている..はずで..あった。 だが、それでもなお、少女達を容赦なく襲う鞭と..それがもたらすクリトリスの激痛..。 部屋中に悲鳴を響かせながら、少女達の頬をとめどなく涙が伝わって行ったのである。 第2話 へ 続く |