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美 少 女 作:夜 桜 その3 不意に視線を反らして、あらぬ方向をに顔を向けた少年の行動の意味を、美香は知り尽くしている。余り親しく無いクラスメイトの男子や、時折部活で言葉を交わす下級生の男子達は、皆、照れてしまい、目の前の祐二と同じ様な行動を取るのだ。 生まれた時より周囲から可愛らしい美しさを賛美され続けて来た美少女にとって、同年代の男子生徒の思惑を察する事などは稚技にも等しい。この成り行きならば彼の口から事実が漏れる事はまず考えられない、美香は会見の目的を達していたが、目の前の小太りの少年に興味を抱き、彼の隠れ家である図書準備室に居座っている。 「祐二はあそこに何しに行ったの?」 「何しにって、本屋に豆腐を買いに行く奴はいないだろう… 」 秘密を共有する立場に成り、祐二の口調も砕け、多少の馴れ馴れしさ含む。 「ふ〜ん、あんた、そう言う口のききかたも出来るんだね。」 「気に触ったらゴメンな、俺は元来こういう奴なんだ。」 本当の所、祐二にとっては今は夢の様な一時なのだ、目の前に学園中の男子が親しく言葉を交わしたいと熱望する美香がいて、彼女は今は周囲に根暗オタクと蔑まれる自分だけを見てくれている、しかも、この瞬間に少年は美少女と2人だけの秘密を共有ているのだ。 だから、もっと洒落た口調で小意気な会話を楽しみたいと思いはするが、もともとネガティブな思考の持ち主だけに、彼女を喜ばせる様な話しのネタを持ち合わせていない。こんなチャンスはおそらくこの先に2度とは無いだろうから、もっと何か楽しい話をしたいのだが、異性と話した経験の少ない少年はまともに彼女の顔を見る事すらできないでいる。強烈な照れくささも手伝い、彼はぶっきらぼうな話し方しか出来ない自分が情けなく思える。自己嫌悪の波に揉まれ自分の殻に引き蘢りつつある少年には、目の前の美少女の瞳に妖しい光が宿ることなど気付く由も無い。 「それで、何か買ったの?」 美香のさり気ない一言が2人の未来を決める。 「ああ、西宮さんが見ていた写真集をね。」 色々な思いが錯綜して混乱していた少年は、彼女が消してしまいと考えているであろう事実を暴露するように、わざと嫌みを込めた口調で緊縄写真集を購入した事を告げる。 一瞬美少女の顔が強張るのを感じて、祐二の胸にも痛みが走る。 (ふっ… 何を考えているんだ、美香が俺と話しをするのは、あの光景の目撃者だからに過ぎないんだぜ。秘密が守られると分かれば、もうこの先こんな風に2人だけで話しをする機会なんて絶対にあり得ない。おそらく明日には俺の存在なんて眼中から消えている。それなら、せめて嫌な奴としてでも美香の心の片隅に記憶を留めておいて欲しいじゃないか!) 劣等感の塊である少年の自意識が悲鳴を上げて訴える。 「ふ〜ん、買ったんだ… あれ… 」 祐二は強烈な後悔の念に襲われていた。こんな事を口走るべきでは無かった。そうすればひょっとして、挨拶程度は交わせる友人位には成れたかも知れない。しかし、別の自分が自嘲的な笑みを浮かべて、これで美香が自分を簡単に忘れ去る事は無く、悪い印象をしばらくの間は持ち続ける事に少しだけ満足しているのを感じる。 小太りの根暗少年と学園の女王は向かい合ったまま姑くの間、お互いに自分の思考に沈み込み沈黙する。 「ねえ、祐二、あなた週末は暇?」 「な、何だよいきなり?」 突然に脈略の無い問い掛けに祐二は慌てる。 「あなた、何か書く物をもっていないの?」 「え? ああ、体育用のジャージだからな、俺は何も持ってはいないけれど、筆記用具ならば、そこの図書館カウンターに幾らでもあるぞ。」 美香は少年の指差すカウンターを見て、そちらに歩み寄る。机の上に俯き、図書カードの裏側に備え付けのボールペンで何事かを書き込んでいるのだろう。 祐二はまじかで美少女の後ろ姿を見る事に成り、前屈みになった事で美香のヒップラインがジャージにクッキリと浮き出る、少年はその眩しい位にエロチックな光景に見入ってしまう。 「これで、よしっと。はい祐二、これ上げる。」 いきなり振り返った美少女が、何かを書き付けた薄緑色の図書カードを差し出す。 「何だよこれ?」 少年は訝し気に手渡されたカードを開くと、住所らしき番地名と携帯電話の番号が書き記されているではないか。ポーカーフェイスを装うが、祐二の心拍数は、またまた跳ね上がる。 「日曜日のお昼くらいにそこに来て、住所だけで分からなかったら駅から電話をちょうだい。あの写真集を忘れないで持ってくるのよ、いいこと!」 それだけ捲し立てると満足げに頷き、美少女は踵を返して廊下に通じる扉に向かう。 「お、おい、ちょっと、待てよ! に、西宮さん、おいったら!」 祐二は慌てて手にした図書カードから視線を上げて、立ち去りかける美少女を見る。 「あ、それから、その携帯の番号は、誰にも教えた事が無いんだからね、うざったいから他の人に教えちゃダメよ。それじゃ、日曜日に、待っているからね。」 施錠を解き扉を開けた美少女は扉を開けるて振り返り、自分の言いたい事だけを話すと、風の様にその場を離れて廊下に消えた。閉まる扉を呆然と見ながら、少年は、その場に立ち尽くしてしまう。 週末までの2日間、祐二は首を傾げながら過ごしていた。図書準備室での密会からこちら、美香の生活態度には変化は見られない。昼休みや放課後には何時もの様に多くの取り巻きを引き連れて、上品な会話を交わし、清楚な笑顔を絶やさない。教室内では他の大部分の男子生徒と同様に祐二の事も無視している。 もしも胸のポケットに折り畳まれた薄い緑色の図書館カードが無かったら、あの準備室での出来事も、悪性の妄想に思えていただろう。家に帰ってポケットからカードを取り出し、整った美しい文字をしげしげと眺めながら、なぜ自分が美香に呼ばれたか考え込んでしまう。 写真集が欲しいだけならば、わざわざ家に呼び出したりはしないだろう。ひょっとして、何かの罠かもしれない、意気揚々と着飾って乗り込むと、そこには彼女を崇拝する取り巻きの連中が待ち構えていて、調子に乗って現れた少年を皆で彼を笑い者にする悪趣味な戯れでは無かろうか? と、までも想像を逞しくしてしまっていた。 次の話へ |