secret police 海猫
(3)

作:出羽 健




抵抗女優

そのパーティはとくに秘密裏に開かれたわけではなかったが、さりとて大っぴらな宣伝をしたのでもない。それなのに、ここ大阪ミナミのクラブを借り切った会場には溢れんばかりの人が押し掛けてきている。この人数は尋常でない。

『内藤基子さん一時帰国記念パーティ』

正面の壁にかかった横断幕。まさにそのパーティには全国津々浦々から実に多様な人間が馳せ参じて来ていた。

今や遅しと元大女優の登場を待ち焦がれて、立錐の余地もないフロア。手にカクテルの入った洒落たグラスを持っているものの、正装した男女ばかりでなく、ジーンズ履きの若者も目立っている。それは田村弓彦監督の孤高の運動に共鳴している若者から、内藤基子の熱狂的なファンまで、志に幅がある出席者の特徴を表していた。

野辺地大洋も、その巨躯を黒のスーツに包んでつっ立っていた。胸のうちのごく一部に特務庁治安局局長としての仕事上の企みを持ち、しかし大部分は純粋なミーハーファンの意識をときめかせながら──。

もちろん彼は正式に招待された客ではない。だれが秘密警察のドンを自分のパーティにすすんで招き入れるだろうか。それでなくとも盗聴やスパイ行為で理不尽にプライバシーへ侵入してくる輩なのだ。できれば顔も見たくない種類の代表である。けれども招待状を手に入れるのは野辺地の立場からすれば造作もない作業だった。なんなら部隊ごと乗り込み、御用御用と全員連行する強権だって発動できる。どうせ生意気な反体制女優のもとに集まる有象無象など、叩けば埃が出るに決まっている。

しかし、それは、まだ早い。
内藤基子にはとびきり贅沢な準備が必要であった。

(なにせ、相手はそこらの跳ねっ返りの学生とは違う、お姫さまだからな。彼女にふさわしい用意立てをするのが、ファンのあるべき姿というものだ)

野辺地はわざわざ招待状を盗ませ、偽造させたのである。
この会場には部下の原田も潜入して出席者の写真を超小型カメラに収めているはずだ。その辺に抜かりはない。

野辺地のところに少女が寄ってきた。トレイにカクテルの入ったグラスが数個乗っている。ポニーテールを結った貌は細面で癖がなく、紺色のノースリーブのシャツから剥き出た二の腕やショートパンツをはち切らんばかりの素足の白さが眩しい。胸もヒップもかなりの成熟を見せているが十六、七歳だろう。むろんホステスとかコンパニオンなどではなく、ボランティアか何かなのだろう。

「いかがですか──」

声は稚さの残る可憐なものだが表情は素っ気ない。大人や男に媚びることを知らずに育ったのかもしれない。
野辺地はグラスをひとつ取った。

「お嬢さんも内藤基子のファンなんですか」

五十男が精一杯の優しい笑顔をつくって尋ねる。第三収容所の女性収容者には一生目撃できぬ表情だ。

「いいえ──」

と、少女は心持ち険のある声でいい、

「私は田村監督のファンです。別に奥さんなんかに興味ない」

(ふふ、子供のくせにジェラシーを抱いてやがる)

「田村監督の映画は素晴らしいよねぇ」
「ええ、もう本当に」

と、うっとりするような目付きになり、

「代表作の『時の声』、ご覧になりました? あんなに弱者の立場に立って権力に物言う姿勢を鮮明にする芸術家は他にいないでしょう? 日本の文化人なんてみんな海猫を恐がって何も発言しないんですもの、情けない。そう思われるでしょう?」

くりくりした瞳を輝かせ、若い義憤をぶつ少女。

(俺の身分を証したら腕にでも咬みついてくるんじゃないか。まったく我が国のティーンエージャーの乱れは極みだな。こういう娘は早いところ矯正せなければなるまい)

つい職業的な目で少女を見てしまい、少女は野辺地の眼光の陰湿さを鋭い感受性で察知したのか、ふと口をつぐんで身をすくめる。

「あっ、そ、そうだったね。うん、『時の声』は悪くない。僕もずいぶん評を書かせてもらったがね」
「あら、評論家の方でしたの」

少女はなんとなく納得したように、警戒の気色をといた。

「失礼ですがお名前は?」
「えーと、知らないんじゃないかな、海外のほうで活動しているから……それより君、喉が渇かないかい。ここは暑いものねぇ。そうだ、僕がジュースをおごってあげよう。田村監督のファン同士、お近付きの一杯だ」
「ナンパですか」

少女はクスッと笑った。そうナンパ、ナンパと野辺地も笑いながら少女の肩を抱くようにしてカウンターに向う。少女は別にためらわなかった。たぶん育ちのいい娘なのだろう。社会の不正義に対する憎しみは人一倍なのだが、本来は人を疑うことの知らない純な性格なのだ。

バーテンを呼んでコーラを注文した。照明がすーっと暗くなり、壇上にあがった司会者にスポットライトがあたった。客たちが騒めき、少女もそちらを見つめている。野辺地はバーテンが持ってきたコーラを受け取り、素早く懐中から仁丹大の錠剤の入った小さな容器を手にして、一粒二粒グラスに落とした。錠剤は飛び跳ねる炭酸の泡に紛れて一気に溶解した。

「さ、来たよ、飲みたまえ」

少女は野辺地の差し出すグラスをもらい、一口つける。

「喉、乾いていたんですよね」

そう言うと少女は初々しい唇をグラスの縁につけてごくごくと飲んでいく。白い喉を晒すように気持ちのいいほどの一気飲みだ。

「若いってのは羨ましいね、まったく。僕もあの日に帰りたいよ」

少女は濡れた唇を手の甲で拭い、横に置いていたトレイを再び持ちあげた。

「さあ、お仕事お仕事──」

と、野辺地に礼を言うと少女は人込みに戻っていく。こちらに向けたショートパンツの可愛い臀部を眺めながら、野辺地は内心ほくそ笑む。

(あと十数分もすればショートパンツを履いてきたことを後悔するに違いない。『華乱散』の効き目は凄いからな。まず乳首が硬くなる。痛痒さに驚いていると、お次はクリトリスの勃起が始まる。唾液が犬のように湧いてきて脳髄が痺れだす。その頃になると×××がびしょびしょに濡れて、パンツから染みだし、内腿に垂れてくる可能性は大ってわけだ。我慢できなくなってトイレへ駆け込み、おっぱいに爪を立て、股ぐらを掻き毟る。理性を忘れて自慰に没頭しているところへ、この野辺地大洋様が乗り込んで──)

最近のバイオ漢方の目覚ましい発達は、遺伝子を操作して超催淫力を持った植物の根をつくり、少女をあっという間に多淫症に変貌させるのも朝飯前である。

しかしそれはデザートで、まだ後の話だ。今は、そう、ようやく退屈な時局講釈をおわり、いかに今の日本に田村映画と内藤基子の内助外助の功が必要かをうたいあげ、美人女優の輝かしい経歴を紹介して、登場を促す司会者の声と大喝采のなか、壇上の袖から現れた四年ぶりの基子の美貌と肉体を、穴の開くほど見つめなければならない。それが今日の俺の最大の目的なんだからな──野辺地はのしのしと巨体を揺すって人並みを掻き分け、前列に進んでいった。

内藤基子は純白のイブニングドレスに肢体を包み、スピーチを始めた。野辺地の目に映る彼女は以前に増して光り輝いているように思えた。期待していたような着物姿でなかったのは残念だが、これだって全然かまはない。スポットライトに照らされて浮かび上がる基子──スピーチの最初に、今年四十を迎えました、と皆を笑わせた──は年齢相応の成熟と時の流れに抗する若々しさに溢れている。映画に出ていた頃より多少痩せたかもしれないが薄化粧に耐えられる美貌は衰えを知らず、ふっくらとボリュームをつけた黒髪が額をなかば隠し、肩まできたところで左右にカールしている。袖なしのドレスのために剥き出しているその肩はいくぶん贅肉が乗ったかもしれないが、かえって色香が増したところだ。それにつづく細腕や金鎖のネックレスが飾る胸もとの白さ、肌理の細かさときたらどうだろう。そしてわずかに覗ける胸の谷間は、巨乳へとふくらんでいくバストの豊かさの証明のように、深い。なにがそこらの中年女と違うといって、黒のベルトに締まった腰のくびれの艶やかさは際立っている。これがこの女のボディにパンチを効かせている特徴なのだ。いったいどうやってその細さを維持しているのか。

それからそれから、と野辺地はカクテルを飲み干し、視線のギラつきを隠そうともせず、基子の臀部を凝視する。くびれが再び腰骨のところからはりだして、これは大年増特有のムンムンするヒップラインを形成している。ハイヒールにほんの少し助けられてきゅっともちあがった双臀の量感は、思う存分捏ね繰り回してやりたい雄の衝動を沸き立たせるに十分だった。

基子は深紅のルージュのひかれた美唇をマイク──これがどうしても野辺地にはペニスにダブって見えてしまう──に近付けて、ユーモアたっぷりに特務庁の跳梁を皮肉ったスピーチをしていく。

「……彼らが頼りにしているのは、コンピューターに管理された市民の情報と、百年以上前のあの太平洋戦争中の特高のマニュアルでしょう。自分たちの頭で考えだしたものなど何もないのではございませんか。しかし我々のほうは違います。すくなくともあの時とは違う。その証拠にこのようなパーティが盛大に行なわれているんですから……」

拍手と笑いが交錯する彼女のスピーチは歯切れがあって飽きさせない。この女の頭の良さを如実に表している。

(なるほど危険人物だ……亭主のほうよりもずっと手強い敵になる。このまま放っておけばだが……)

特務庁局長はそういう職業意識を心に浮かべつつも、それでもまだ内藤基子への憧憬のこもった視線は変わらない。非国民とはいえ、理想を持ち、誇りを崩さず、愛と信念を貫き通す彼女の人間性は美しい。外見だけではなく内面から滲み出てくるものが、今の内藤基子の美しさの秘密なのだろう。だとすれば彼女を逮捕し、収容所に放り込んで再教育する職務の遂行は、彼女の美しさに引導を渡してしまうことにならないか──。

(いや、それこそが俺の見てみたい内藤基子の姿なのだ)

と、野辺地は思いなおす。人間性を剥脱され──高橋ミカのように乳首と股ぐらにガムテープを貼られ──妻としての、女としての誇りを踏躙られてボロボロになっていく内藤基子。きっと精も魂も果てた彼女の姿は、ただの醜い大年増なのだろう。それだってかまわない。どうせこのまま野放しにしておいても、あと数年もたてばさすがの美貌も衰え、プロポーションも崩れていくのだ。内藤基子の女の盛りは今がピークで、もうなだらかな下降線を辿っていくに違いないとしたら、ここで俺の手でトドメを刺し、伝説のみを生かし続ける方策を考えても、ちっとも無益ではあるまい──。

「……なお同規模の集会は引き続き全国各地で行なわれる予定で……」

反体制映画監督夫人のスピーチは終った。万雷の拍手に彼女は深々とお辞儀をする。その際にわずかな瞬間覗けた豊満な胸のたわみに、会場の男たち、とくに前のほうの男たちはあんぐり口を開けて見惚れてしまう。

(けっ、偉そうなことを言っても男はみんな同じじゃねぇか)

自分だって思わず背伸びをしたくせに、野辺地は他の男たちを嘲笑する。

室内楽が再開され、場内はリラックスしたムードに戻った。基子は壇上を下りて、人々とにこやかに談笑をかわしている。まさに彼女のいるまわりだけが華やいで見え、カラー映像だった。

野辺地はできるだけ彼女の視線から外れたところで彼女を観察した。海猫の局長の貌を知っているものは少ないが、あの映画監督の妻となればわからない。用心はしたほうがいいだろう。しかし……理性的な行動を忘れてしまうほど、間近に見る内藤基子の語らっている姿は美しかった。笑顔のさいには印象的なえくぼが現れる。上品な手の動き、琥珀色のカクテルにつける唇の色っぽさ、ときおり黒髪を掻き上げるしぐさは妖艶でさえあるのだ。

旧友や支持者との挨拶が一段落して、ふとエアポケットのようにひとりぽつねんとたたずむ基子。野辺地はもう我慢できなくなってしまった。新しいカクテル──その中には当然『華乱散』を溶け込ませ──を調達し、彼女に歩み寄る。

「は、はじめまして……」

年甲斐もなく言葉がもつれた。基子は気が付いて優雅に微笑む。きっとファンが緊張して話し掛けてきたと思ったのだろう。それは表面的には正しいのだが……。

「私、ずっと内藤さんの映画を見続けてきた者なのですが」
「あら、どうもありがとうございます。嬉しいですわ」
「どうぞ、これを──」

と、カクテルを渡すと、あっさり一礼して受け取った。それにしてもこの芳しい肌の匂い、黒髪の香り。

「東南アジア、長いですね」
「ええ、もうなんだかんだと、四年も」

基子は感慨に耽るように視線を床に落とす。それとも残してきた夫の姿でも思い出しているのだろうか。ややあって我に返りカクテルに口をつける。アルコールには弱いらしく、すでに頬や胸もとがほんのり桜色になっている。

野辺地は腹の中でペロリと舌を出しながら、

「今はどちらで撮影を?」

と、仕事も忘れない。特務庁のスパイ活動は国内だけとは限らないが、田村弓彦の動静はなかなか掴めないでいた。

「ええ、まあ奥地のほうかしら……」

さすがに明確な返答は避けた。かえって疑念を誘発する。

「やはりテーマは日本企業の現地資本に対する支配、ということなんでしょうな?」
「それもあると思いますけど、私は制作の内容までには踏み込んでいませんの。田村はひとりでしょいこむタイプですわ」

そんなことはあるまい。ふたりは好き合った仲である以上に、同じ政治意識を共感する同志でもあるのだ。

(何かキナ臭いものがあるな。これは突いてみる価値はある──)

もともと田村にはゲリラコマンドとの関係を云々された時期があったし、事実学生時代は過激な活動をしていた前科もあった。野辺地大洋の海猫としての嗅覚が反応する。

基子は再びグラスを口に運び、同時になにげなく野辺地の貌を見つめた。先程から気になっていたこの恰幅のいい大男、どこかで見た記憶があったのだが、もう少しで思い出しそうになった。途端──

「……!?」

長い睫をたたえた二重の眼ぶたが大きく見開かれる。酔いに紅潮していた頬がさーっと蒼ざめた。
いかん、と野辺地は思ったが遅かった。

「……野辺地大洋、あなたがなぜここに──」

基子は絞りだすように言った。実際に逢うのは初めてだが、夫が所蔵していた写真で知っている。そしてその悪業の数々も……。

「フフフ、気付かれてしまったようですな。天下の大女優に名前を知っていただけているとは光栄の至りです。しかしあまり大きな声をたてるのはお薦めできません。せっかくのパーティが白けてしまいますからね。それに今日、私は仕事でまいったわけではありません。純粋なあなたの一ファンとして出席させていただいているのですから。ファンを職業で差別することはしないでしょう、人権擁護の立場のあなたとしては──」

二人のまわりには他の客たちがいなかった。会話は誰にも聞かれていない。

「すぐに出ていってくださいっ」

と、小さいが鋭い声で基子は言った。怒りに眦があがり、小鼻がかすかにヒクついていた。よりによってこんな鬼畜にも等しい男がパーティに忍び込んでいたなんて許せない。

「ここは拷問局長の来るところではありませんわっ」
「これは手厳しい。あなたの出演した映画のビデオ、全部持っているんですよ。そんなに嫌われる筋合いではありませんな。やはりご亭主の危険思想に感化されておられるようだ。ご婦人はどうしても惚れた男の……」
「いいえ、聞きたくありませんっ。誰が考えてもあなたは狂っているとしかいいようがないわ。いったいその手で、何人の若者の命をあやめたのです。いつか必ず天罰が下ってよっ」
「フフ、この国の神はあなたがたに罰を与えろと言っているようですがね。まあ、私の仕事に対するご懸念には、その内ゆっくりとご説明申し上げる時も来ると思いますが。それよりも──」

と、野辺地は基子の耳もとに囁きかける。ようやく二人のただならぬ気配を察したのか、他の客が近寄ってくる。それに聞かれぬよう──、

「実はあなたが今、口にしているカクテルに一服盛っておきました」
「えっ……」
「ご心配なく。生きるの死ぬのという毒ではございません。大人の遊びといえばいいでしょうかな、ただちょっと、男が欲しくなってたまらなくなる種類の漢方薬で。今から吐き出しても遅いでしょうが、なに効き目は明日の朝には嘘のように消えてしまうでしょう。恋しいご亭主と離れてお淋しい、あなたのことを思っての私からのプレゼントですよ」

そこまで言って変質的な笑みを浮かべる野辺地の頬に、基子の手の平が飛んだ。

ビシッ!

乾いた殴打音が鳴り響き、出席者のざわめきが波紋の広がるように止んでいく。しーんと静まりかえる場内。
突如、それを破るように野辺地が笑いだした。

「いやあ、失礼なことを言ってしまったようですな。どうもアルコールが入ると口が軽くなっていかん。ご婦人に嫌われても致し方ない。帰ったほうがいいようだ」

野辺地は強ばった表情のヒロインに恭しく一礼すると、くるりときびすを返して出口へ向う。非難めいた視線を投げ掛けてくる客を、逆に鋭い眼光でにらみ返して竦み上がらせ、秘密警察のドンは廊下に出た。

が、やはり平手打ちを食らったのには、動揺したらしい。

(クソッ、生意気な。このおとしまえは必ず付けてやる。俺が掻かされた恥の、百倍の生き恥を掻かせてやるからな、内藤基子っ、覚えてろ)

後を追ってきた男がいた。部下の原田だ。野辺地は彼に一瞥をくれると、不機嫌そうに聞いた。

「写真、撮ったんだろうな」
「ええ、もちろん……それで局長、例の……」

原田は何事か野辺地に耳打ちする。野辺地はそれを聞くと、フムと鼻を鳴らしてネクタイを緩めた。


内藤基子のパーティはこのビルの七階のクラブで行なわれていたが、その一階下のフロアは今日が日曜日であったためほとんどの店は閉まっている。

少女──野辺地に『華乱散』を盛られた少女──がこの階のトイレに駆け込んだのはかれこれ十五分前だ。今や少女の稚い美貌は悪い病にでもかかったように不潔な生汗にまみれている。ハァハァと犬のように熱い息をする口から、啜っても啜っても涎が糸を引いている。狭いトイレの壁にぐったりともたれ、蓋を閉めた便器に、ショートパンツを脚首あたりに絡みつかせたままの片脚を上げた、はしたないポーズ。タンクトップのシャツは胸までたくし上げられて愛らしい乳ぶさがあらわになり、激しく揉みたてられたらしいそれには艶っぽい手の平の痕が赫く染み込んでいる。まるで小便を洩らしたかの如き、びしょ濡れのパンティは女貝に貼りついてその形を浮かび上がらせ、はみ出た黒毛は逆立ち、およそこの年齢の娘にふさわしくない淫相を呈している。

少女が自分の身体の変調に気付いたのはどれくらい前だろう。乳首が硬くなりだし、おかしいな、と思ったのが最初であるが、ノーブラが習慣の娘にはたまに経験がある変化でそれほど気にも留めなかった。でもそれが尋常ではなくなりだした。あっという間に痛みを伴うほどの屹立を示し、じんじんと全身に甘い痺れを伝えはじめたのだ。眼がかすむほどの脂汗が吹き出し、やがてはっきりとした性的昂奮を陰部にも感じだす。まだ処女ではあるものの、とくにオナニーに禁忌を覚えない現代的な娘にとって性欲の昂まりはつとに対験済みだったが、これは病的にすぎる! しばらくすると性器が疼いて疼いて立ってもいられなくなった。腰が気怠く痺れ、ホステス業などはとても続けられず、人目のない場を求めて、壁を伝い階段の手摺りにしがみつきながら、やっとここに辿りつくや、少女は痴呆のように脳を空っぽにして、胸をまさぐり、陰唇を摘んではシゴいた。驚いたのは、一度、獣のような低い呻き声を発しながらこれまで味わった経験のないアクメに達してガクガクと腰のタガが外れ、へたり込んでしまったその後も、二、三分もすると肉体がどうしようもなく燃え上がってきた己の身体だ。そして心もそれに引きずり込まれるようにして蟻地獄に墜ちていく。連続するオルガスムス、途切れない性欲。賢うそうな瞳の輝きはとろんと濁り、何をしにこのビルへ来たのかも思い出せないほど少女の脳は鈍摩し、肉体は消耗する。
「ううッ、むぅ……」

パンティのなかに潜り込ませた人差し指で淫熱に爛れほつれた秘裂をさばき、クリトリスを擦り潰す。もう生易しい愛撫ではとても満足できない。双乳を、片手をいっぱいにひろげてまとめて束ね、練り合わせるようにして捏ねくりまわすと、少女は細い身体をくの字に曲げ、貌を牝猿の尻のように真っ赤に紅潮させて、イキんだ。唇をつきだし、小鼻をふくらまし、眼をギュッと暝り、眉間に深い皺を寄せ、よがり狂った。サウナに入れられたように全身から流れ垂れる汗の臭いと、そして股間から漂ってくる性臭が混じりあって、狭いトイレは家畜小屋を思わせるムセかえりが充満した。

突然、電子ロックされているはずの扉が開け放たれた。

「はーっ?!」

少女の霞んだ視野を覆い尽くしたのは、相撲取りのような体躯をした大男──。それはやっとの思いで窮屈な戸口から侵入してきて、

「小娘っ!」

と、一声怒声を浴びせると、いきなり少女の頬を平手打ちした。

少女の身体は回転し、男に背を向け万歳をする格好で壁に貼りついた。男──野辺地大洋は便器を跨ぎ越えると巨体で少女を圧迫する。冷たいコンクリートの壁と野辺地の腹と胸にサンドイッチにされた少女は、横貌をこちらに見せ、事態の急変に声も出ず、この男が先程のパーティ会場のあの男だとも思いつかない。

「助平な貌を見せてみろ」

野辺地は少女のポニーテールを掴んでじりじりと引き絞っていく。しだいに仰け反りながらトイレの照明に曝されていく少女の昇せ貌は、まだ恥ずかしいくらいに赫い。

「何やってたんだ、こんなところで。お前、高校生だろ。こんな時間に繁華街をほっつき歩いていて、いいと思ってるのか。おおかた薬でもやっていたんだろっ」
「……ち、違います……」
「違うかどうか──」

と、野辺地は髪を引っ張られ上向いた少女のあごをぐりぐりとわし掴みして貌を固定する。

「調べてやるっ」

野辺地の分厚い唇が少女のそれを貪った。

「ンーッ……」

鼻を鳴らすのが精一杯。けなげに噛み縛った歯を簡単にこじ開けて舌を侵入させる。それを押し返す術など知らぬ処女の小さな舌を苦もなく絡め取り、甘い唾液を舐めつくすと、ピンク色のとばりをした口腔に己れの唾液を流し込んだ。はじめは小さく身体を震わせて抵抗した少女も、肝を吸い尽くされたように動かなくなる。初体験のディープキスに発情している肉体はひとたまりもない。少女はひととき萎えていた性欲がまたまたこみあげてくるのを感じるのだ。もちろん積極的に舌を絡めるなどとは思いも及ばないものの、太腿をよじりあわせ、ずり落ち気味のパンティから半分露出している双臀をクリクリと蠢かしてしまう。それはもちろん密着している男の股ぐらを刺激する事態になる。

と、男は唇を離した。

「はあーっ……」

大きく息を吐き出し、吸い込み、弄ばれるつらさと肉の異常な昂ぶりとに板挟みになって、少女の頭は混乱する。

「臭い唾をしておる。やっぱりラリってるな、お前」

野辺地は冷たく言い放ち、違うわ……と、か細い声で訴える少女の両腕を取って背中にねじ曲げる。

「うう……い、痛っ……」

ポケットから取り出した銀色の手錠をかけた。

「薬でいつも発情しているのか。誰から買うんだ。え、金はどうする。売春か──」

少女はもう言葉もなく頚を振るだけ。

「まだ白を切るきか。それじゃあ、これはどういうことだ」

野辺地は腕をまわし、乳ぶさをわし掴みし、先端の尖りをからかってやる。

「あ……」
「真っ赤じゃないか。売女のおっぱいだぞ。じゃあ、こっちは──」

と、空いている片手を股間に滑り込ませた。うぶ毛のような陰毛の柔らかさを楽しんでから、分泌液まみれになっている局部をペットの喉でもあしらうような手つきでまさぐってやる。

「びしょびしょだ……」

野辺地は意地悪く少女の耳もとで囁いた。少女はうなじまで紅潮させて羞恥に身悶えた。

「これじゃ申し開きもできんだろ。小娘、名前を言えっ」
「……」
「ふん、不良が──」

野辺地の両手が少女の双つの乳首を攻めにかかる。つんと摘み上げてチリチリと揉み潰す。少女は頚をがくんと折って眼を暝る。口の端から涎が糸を引いた。

「名前は?」

野辺地が繰り返した。

「……手、手塚……エミ……」
「お前は目上の者に対する口の聞き方を知らんようだ。最後に、ですます、をつけるのが女のたしなみだろうが。ほらもう一度だ」
「手塚エミです……」
「手塚エミ、お前はいつから薬をやっている?」
「薬なんかやってない……やっていません……ううッ、いや……」

男の指がいっそう強く揉み込んできたのだ。そしてうなじに息を吹き掛けられる。

「感じるんだろう」

再び乳首をつねり上げられた。エミは口惜しさに下唇を噛みながらも思わず頷いてしまう。

「しらふの女子高生がこの程度の愛撫で感じるわけがあるまい。そうだな、手塚エミ」

エミはとうとうしゃくり上げはじめる。

「薬をやっているんだな」

必死になって卑劣ないたぶりと己れの弱さに抗っている少女の頬に、野辺地はその脂ぎった頬をぴたりとくっつけ、そうしてポケットからバネのきつそうなクリップを取り出すと、プチンと乳首を挟みつける。

「うう……」
「片方だけで許してやるから早く言え、オラッ」

と、クリップを爪弾かれれば、抵抗も限界をむかえ、乳頭攻めに痺れ切ったエミの脳はやがて従順な降伏へと崩れ落ちていく。

「いつまでも強情を張っていると、頭が馬鹿になってセックスのことしか考えられなくなるぞ、手塚エミ。薬を使ったと白状すれば、ちゃんとしてやる」

どう、ちゃんとするのか、そこまで思いをめぐらす余裕もなく、エミは蚊の鳴くような声で白旗をかかげた。

「薬、うう……使いました……」
「よしよし、よく言った。自白すると罪も軽くなる。売春もしたんだな?」
「……は、はい……」

その言葉と同時に野辺地はズボンのベルトをゆるめ、チャックを下ろしはじめた。

「いいか、手塚エミ、捜査というものはややこしいところがあってな。ただ自白しただけじゃ駄目なんだ。それを立証しないことにはどうにもならん。売春にもいろいろあるだろう。本番やらせるとか、手淫までとか、口でやるとか。わかるか、手塚がどこまでやっているのか、それをこれから俺様がじっくり調べてやる、有り難く思え」

露出した野辺地の男根は想像を絶する女性経験の豊富さを物語るように鉛色に淫水焼けし、まだ半勃起の状態だというのに巨木を思わせる極太長大さを示していた。カリ高の亀頭の鈴口から銀の絲をとめどもなく垂らしているそれを、少女のパンティを剥いて、可憐な切れ込みに擦りつける。

「ああッ……い、やぁぁ……」

すでに自分の運命のなりゆきを本能的に感じ取っていたとはいえ、エミにとってはあまりにも凶暴すぎる怒張の感触に悲鳴を上げずにはいられない。野辺地はエミの肚を抱えて便器に腰掛ける。毛むくじゃらの太腿に坐らされ、開脚されるように跨がらされた。天を衝く砲身に稚貝を摩擦されたエミは竦み上がると同時に、妖しい欲望に肺腑をがんじがらめにされたようで、絶息する。野辺地は小振りだが揉みごろな乳ぶさを根からぎゅうぎゅう攻めたて、最後の防御線を崩しにかかった。ピンク色の乳頭に噛まされたクリップが激しく揺れている。

「ひッ……」

いよいよ挿入を開始したのだ。赫ら貌を左右前後に振って、痛みにのたうつエミ。

「くらえっ、にきびヅラの淫売!」

断末魔の苦しみの後、ついに最終の激痛が走って、絶叫する。電流を通された蛙の脚のように、エミの下肢はびくびくと痙攣した。処女膜をひきちぎり、容赦なく子宮口に達した男の先端を呪いながら、手塚エミ十七歳は破爪の衝撃に失神した。

力の失せた肉体の重みを心地よく楽しみながら、野辺地は十数分後、最奥に大量のほとばしりを放出した。条件反射的にきつく収縮するエミのとば口──そこから流れる鮮血の生あたたかさを棹に受けて満足し、白い頚や贅肉ひとつない肩や背の汗をぺろぺろと舐めつつ、野辺地は考える。汚れを知らぬバージン娘がこの乱れようだとしたら、あの熟れ熟れの四十女の悩乱ぶりとはどんなだろう。一人寝のホテルの一室でシーツを掻き抱き、枕に貌を埋めて自慰に狂う美人女優、内藤基子……俺様の頬を張り飛ばした鉄火も、『華乱散』にどろどろに溶かされ、豊満な肉体に脂汗を噴かせながら連続するオルガスムスに痙攣を繰り返すのか。

(あの白ブタ、今日は眠れんぞ……)

そんな姿を連想していると、たったいま爆ぜたばかりのペニスがまた膨張をしはじめ、窮屈な少女の膣口をゆっくりとくつろげはじめるのである。




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