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作:巽ヒロヲ
「鴻平、年賀状出してきてー!」 「ふぇ〜い」 母親の声に、的場鴻平は気の抜けた返事で答えた。 そして、近頃めっきり冷たくなった風に備えてコートを着込み、外に出る。 日曜の空は冴え冴えと青く、雲一つない。太陽はさんさんと輝いてるが、それでも外は寒かった。 「……全く、なんでこう世間は飽きもせず年賀状なんぞ出すのかね」 一人そんなことをぼやきながら、鴻平は、近所にある郵便局まで歩いていく。 「十二年一周期で同じようなもん出してるだけだろーに」 下らないことを理屈っぽくぼやくのは、鴻平のよくないクセである。 その顔は、夜更かしのために眠そうだ。 もともとあまりしゃんとした表情をすることの少ない鴻平である。緊張した表情を浮かべていれば、それなりに見映えのする顔なのだが、本人はそのことを意識していない。 角を曲がり、郵便局を視界に入れたところで、鴻平は立ち止まった。 「……?」 ポストに、誰かが顔を伏せるようにもたれかかっていたのである。後姿なのでよく分からないが、おそらく、鴻平と同い年くらいの少女だ。 布地の厚いハーフコートを着ているので判然としないものの、何となく、肩で息をしている感じである。 「あの……」 具合でも悪いのか、と思って、鴻平は控え目に声をかけた。それに、この少女にそのままの姿勢でいられると、手紙を投函することができない。 「ンぁ、だ、だいじょうぶ、ですから……って……コーヘイくん?」 ゆっくりと振り返った少女が、潤んだ瞳を見開いて、言う。 「え……初宮、か?」 名前を呼ばれ、鴻平も、思わず相手の名前を呼んだ。 少女は、鴻平の知り合いだった。 初宮椎子。鴻平と同じく、私立星晃学園一年生。 知り合いどころではない。つい先月、鴻平のほうから告白をしたばかりの彼女である。 と言っても、二人の関係は、あまりロマンチックなものではない。文化祭実行委員として一緒に活動したのが縁なのだが、鴻平にしてみれば、ぎゃんぎゃん言い合いをした記憶の方が強い。それでも鴻平にとっては、それは最高に楽しい思い出なのだが。 椎子は、男子の間では、それなりに人気があった。鴻平としては、ダメもとのつもりで告白したのだ。 無論、情熱的な愛の告白など、できるわけがないし、そういう二人でもない。“つきあってみないか?”と言っただけである。 鴻平にしてみれば、本当は、それまでの人生の中で一番緊張した瞬間だったのだが、精いっぱいそれを表に出さないように努力した。 椎子は、珍しくちょっと悩んだようだったが、OKしてくれた。 それから、デートを三回。三回目のデートは、昨日のことである。 手はつないだが、キスはまだだ。二人とも、映画やアトラクションなどを目一杯楽しむタイプなので、そういうしっとりりた雰囲気にならなかったのだ。 その椎子が、目の前にいる。 が、普段の、元気をもてあましている感じの彼女とは、どこか様子が違っていた。 その、小生意気な感じの吊り気味の目は、なんだか涙で濡れているようだし、柔らかそうな頬は、赤く染まっている。 着色も脱色もしていないミディアムショートの黒髪はちょっと乱れ、前髪が何本か、汗でおでこに貼りついていた。 (今日のこいつ……なんか、妙にカワイイな……) いつもは、気のおけない面白いヤツ、としか思っていなかった椎子が、普段と全然違う表情をしている。 「あ、手紙出すの? ゴメンね」 そう言って、のろのろとポストから体を離す。その足取りが、ちょっと危なっかしい。 「どうしたんだよ。体調悪いのか?」 輪ゴムで束ねてあった年賀状の束を、ごとん、とポストに投函しながら、鴻平が訊く。 「えへへ……そんな風に見える?」 いつものきりっとした顔ではなく、どこかぽやんとした表情で、椎子が言う。 「熱、あるみたいだぜ」 「んー、そんな感じかも」 そう言って、椎子は、いきなり鴻平の左腕に、んぎゅっ、と抱きついた。 「お、おい!」 鴻平が、慌てたような声をあげる。 「んふふ、鴻平クンだって、顔真っ赤だよ」 「お前、やっぱおかしいぞ。クスリか何か決めてるんじゃねーだろうなあ」 半ば冗談、半ば本気で、鴻平が言う。 腕にあたる、何枚かの布越しの椎子の体の感触が、妙になまめかしい。鴻平のズボンの中では、早くも臨戦体制が整いつつある。 「……どっかで、休むか? それとも送ってやろうか?」 自分の下半身の浅ましい反応を自覚し、コートを着ててよかった、などと思いながら、鴻平が言うと、椎子は、ちょっと考えた後、口を開いた。 「じゃあ、送ってくれる?」 「分かった」 椎子の家は、ここから歩いて10分ほどはある。が、鴻平は、歩くのは嫌いではないし、椎子が一緒ならなおさらだ。 二人、並んで歩き出す。 椎子は、力を緩めはしたものの、鴻平の腕を離そうとはしなかった。 「……あのさ、昨日一緒に観た映画だけどさ」 鴻平は、困ったようにちょっと視線を泳がせた後、とりあえず当たり障りの無い話題を振ってみた。 「俺としては、やっぱもっかい観るべきだと思うんだ。いろいろ分からなかった伏線とか、見つかるだろ」 「んー」 椎子が、気のない返事をする。すでにこの話題に関しては、すでに一度、議論を戦わせているのだ。 「だって、パンフには、二度は観るなって書いてあったよお」 「別にパンフの言いなりになるこたあねーだろ?」 「言いなりになるわけじゃないけどさ、同じ映画を二回観ても、純粋に楽しめない」 「そうかあ。そもそも俺、最初、誰が誰だか分かんなかったんだけど」 「鴻平クンてば、ポスターのブラピ見て『こいつ誰?』なんだもんね〜」 「人の顔憶えんの苦手なんだよ」 鴻平の言葉に、椎子が、くすくすと笑う。 しかし、その笑い声も、なんだか普段の半分くらいの元気しかない。鴻平は、可哀想を通り越して、ちょっと悲しくなってしまった。 だが、椎子の方は、辛そうというのとはちょっと違う。むしろ、なんだかご満悦な顔である。 (熱でハイになってんのかな……?) と、鴻平は、ようやくその音に気付いた。 ちゃり、ちゃり、ちゃり、ちゃり…… かすかな、金属と金属が触れ合うような音。 音のする方を見て、鴻平は、思わず目を見開いていた。 コートの襟に隠れてよく見えていなかったが、椎子の首に、黒い革製のベルトのような何かが巻き付いている。 縁の部分を赤い糸で縫合されている以外は、装飾らしきものはほとんどない。ベルトの端と端が重なる部分に、丸いシンプルな留め金のようなものがあるだけだ。 それだけ見ても、あまりに飾り気がなさ過ぎて、アクセサリーとはちょっと思えないようなデザインである。 さらに異様なのは、その留め金の部分に、やはりシンプルなデザインの南京錠が取り付けられてることだ。 さっきから聞こえているのは、その南京錠と金具とが触れ合っている音らしい。 「初宮、それ……何?」 訊かれて、椎子の顔が、さらに赤く染まった。 「首輪……」 ぽつん、と恥ずかしそうに、椎子が言う。 「え……?」 「く・び・わ・だ・よ♪」 そう言って、椎子は、今まで鴻平が見たこともないような色っぽい顔で、にっこりと笑った。 「ふーっ……」 すとん、と椎子は、その小さな丸いお尻を、自室のクッションの上に落とした。 3LDKの、どうということはないマンションの一室である。壁紙はミントグリーン系。ぬいぐるみはないが、マンガと、あとパソコン関係の雑誌が少々、フローリングの床に散らかっている。パソコンラックの上にあるのは、機能よりデザインが重視されたディスプレイ一体型マシンだ。 本棚に並んでる小説やマンガの傾向は、鴻平の好みとほぼ同じで、SFとファンタジーとミステリーとコメディーである。ホラーとスポーツものは一切ない。 「どういうことだよ、首輪ってのは」 道々訊いてもはぐらかされ続けた質問を、鴻平は、クッションの上に腰を下ろしながら、もう一度する。 「えっへっへ〜」 妙な感じで笑いながら、椎子は、その細い指で、首輪の南京錠に触れた。すでにコートを脱いでいるために、白く細い首に巻きついたその拘束具は、ひどくあからさまだ。 「驚いた? 鴻平クン」 「それは、そのう……でも、なんだ……驚いた」 しぶしぶ、といった感じで、鴻平は認めた。 「それ、なんかのオモチャか?」 「オモチャじゃないよ。本格的なモノだもん。オーダーメイドなんだから」 「どこで買ったんだよ」 「ネット通販」 そう言って、椎子が話した金額は、確かに、高校生が軽いお遊び気分で使うには、ちょっと高い額だった。 「その……それって、SMってやつ?」 「んんんー、そうなんだけど、ちょっと趣ないなあ。ボンデージって言ってほしい」 「ぼんでーじ……」 「こういうの、嫌い?」 鴻平は、その方面に対する興味は人並みにあるものの、自分の嗜好がいたってノーマルであると思っている。正直、鴻平は返事に迷った。 「と、とにかく、外さないか? なんだか落ち着かないし」 口の中が乾いていくのを自覚しながら、鴻平は、直接問いとは関係ないことを言う。 「外せないよ」 「え?」 「鍵がないもん」 それを聞いた鴻平の頭に、なぜか、かああっ、と血が昇った。 「外せないって……な、無くしたのかよ!」 「そんな感じ。とにかく、今は手に届くところに無いの」 「ど、どうするつもりなんだよ、お前!」 思わず、大声をあげてしまう鴻平。 「どうしようかなあ……あたしが読んだ小説だとねえ、学校とかは、包帯巻いてごまかしてたよ」 「小説う?」 「ネット小説でね、エッチなやつなんだけど……けっこうハマるよ。鴻平も、あとで読んでほしいな」 普段はさばさばしすぎているくらいに爽やかな椎子の顔に、奇妙にねっとりとした表情が浮かんでいる。 鴻平は、強すぎる自らの心拍にしばし呼吸が圧迫されるような感覚を覚えていた。椎子に告白するときも感じなかったような、脳が灼けるような錯覚すら感じている。 「鴻平クン、顔、真っ赤だよ……」 そう言いながら、椎子は、テーブルを挟んで向かい合っていた鴻平に、四つん這いで近付いていった。 ちょっと遠回りして、鴻平の右側からにじりよる椎子。スカートに包まれたその丸いお尻が、くりくりと左右に小さく動いている。 驚くほど近くから、椎子のうるうると濡れた瞳が、鴻平の顔を見つめていた。 「おかしいよ、お前……首輪、付けっぱなしなんて……それじゃ、変態じゃんか」 「……ッ!」 ぴくっ、と椎子の体が震えた。 ぎゅっと目を閉じ、眉を八の字に寄せ、唇を噛んでいる。 「……ぁぁぁぁぁ……っ」 ――こてん、と椎子の頭が、鴻平の膝の上に落ちた。 「お、おい、椎子!」 鴻平は、慌てたような声をあげる。 「あは……イっちゃっ……た……」 「!?」 「……ヘンタイって言われて、イっちゃったの……やっぱヘンタイだね、あたしって」 そう言いながら、うン、と伸びをする猫のように、再び両腕で上体を支える。 「首輪ってね、すごいんだよ。してるだけで、ドキドキしちゃって……まさか、こんなになるなんて、自分でも思わなかったよぉ」 「……」 「さっき、鴻平クンに会った時もね、あたし、ガマンできなくなってたの。ホントは、鴻平クンの家まで行こうかと思ってたんだけど……途中であんなになっちゃったわけ。びっくりしたでしょ?」 「椎子……」 鴻平は、ぼんやりと呟いていた。年相応に経験不足の彼にしてみれば、目の前に起こっていることは、とっくに理解力の許容量を超えてしまっていたのだ。 「鴻平クン?」 椎子が、小首をかしげて、再び鴻平の顔を覗きこむ。 「な、なんだよ、椎子」 「鴻平クン、あたしのこと、名前で呼んでるよ?」 「あ……!」 鴻平は、思わず右手で口元を押さえていた。 「これまで、ずっと苗字だったのに、どうして?」 「……」 鴻平には、答えられなかった。 答えられない事情があるのである。 夜、寝る前に、椎子の写真を見ながら自らを慰めるのが、いつしか鴻平の日課のようになっていた。 心の中で、何度も椎子の名前を呼び、自涜の快感に耽った。実際にその名前を口にしてしまうことさえ、しばしばあった。 それゆえに、現実の椎子の前では、鴻平は椎子の名前を口にしなかったのである。口にすれば、それだけで、自らの浅ましさを知られてしまうような気がしたのだ。 「ね、どうしてよお?」 「……」 「ま、いっか」 んふ、と笑って、椎子は、鴻平の胴に抱きついた。 「お、おい!」 「鴻平くゥん」 今まで聞いたことのないような甘たるい声で、鴻平の名を呼ぶ。 「鴻平クンの……おっきくなってる……」 言いながら椎子は、そろりと、鴻平の股間を右手で撫でた。 その言葉通り、鴻平のそれはすでに勃起し、痛いほどに自らをジーンズの布地に押しつけている。 「……見せて」 さすがに羞恥に頬を染めながらも、椎子が言う。 「……」 目の前で猥談でもしようものなら、呆れるか笑い飛ばすかどっちかの椎子が、自分のペニスを布越しにまさぐっている。 鴻平は、熱に浮かされたような状態の脳で、どうにか考えをまとめようとした。しかしこの状況は、わずか十六歳の少年が処理しきれるようなものではない。 分かっているのは、目の前の椎子が、着けている首輪が原因で、普段からは考えられないような精神状態でいるということだ。 (首輪の、せいで……) シンプルで象徴的な、飾り気のない革の拘束具―― 正体不明の熱が、ほとんど飽和状態の鴻平の頭にさらに注がれる。 「椎子……」 鴻平は、自分でもほとんど意識することなく、ベルトを緩め、ジーンズのファスナーを下ろしていた。 脚を広げるような姿勢で座りこんだ鴻平の膝の間に身を置き、椎子が、じっと鴻平のその部分を見つめている。 トランクスから、自分自身で呆れるほどにいきりたったペニスが、姿を現した。 「うわぁ……」 椎子が、子どものような声をあげる。その息が敏感な亀頭の表面で感じられるほど、彼女は顔を寄せていた。 「こんななんだ……マンガのと、ぜんぜん違うね。なんか、ごつごつしてる……」 浅ましいくらいに静脈を浮かした鴻平のペニスを、椎子はそう表現する。 「なんだ、初めて見んのかよ?」 ちょっとホッとした気分で、鴻平は言った。 「は、初めてだよっ!」 怒ったような、慌てたような声で、椎子が言う。 「そりゃ、今は、すっごくエッチな気分だし……エッチな小説とかマンガとかは、けっこう読んでるけど……初めて、だもん」 言いながら、恨みっぽい目で、じっと鴻平の顔を見る。 「……わ、悪かったよ」 鴻平がそう言うと、椎子は、一転、にこっと微笑んだ。 「初めてだから、ヘタだと思うけど……」 そう言って、何の前触れもなく、鴻平のペニスにその白い指を添え、先端をぱっくりと咥えこむ。 「あッ!」 視覚的なインパクトと、予想もしなかった口腔内の感触に、鴻平は思わず声をあげていた。 椎子は、少し眉をたわめながらも、とシャフトに沿って、その可憐な唇をゆっくりと滑らせていった。 (してる……シイコが、オレのチンポ……フェラチオしてる……) まだ、唇で触れたことすら無い椎子の唇が、自らの最も汚穢な部分に口付けしている。 オナニーをしているときに想像したよりも何倍も生々しい表情で、まだ付き合い始めて間もない彼女が、自らの牡器官に口唇愛撫を施しているのだ。 椎子の口の中は、唾液でぬめりながらもかすかにざらついており、奇妙に生温かかった。 後ろ髪に見え隠れしている黒い首輪が、ますます鴻平の背徳の快感を煽る。 確かに初めてなのだろう。椎子は、鴻平のペニスを口に咥え、もごもごとしたまま、それ以上はどうしていいか分からない様子だ。舌も、漫然とシャフトの表面に当てられているだけである。 しかし、初体験なのは鴻平も一緒である。主導権を握られている分、彼のほうが追い詰められているといえる。 「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……」 息が、自然と荒くなる。 心理的には、いつ射精してもおかしくないくらいに興奮しながら、物理的な刺激を与えられず、鴻平は、自然と生殺しの状態になってしまう。 しばらくして、あごが疲れたのか、椎子はペニスを口から出した。じゅるん、という意外なほど大きな音が、部屋の中に響く。 何とも言えない寂しさが、解放されたペニスにまとわりついた。 「……ね、鴻平クン」 口元をちょっとぬぐった後、椎子が上目遣いで訊いた。 「あたしのこと、好き?」 鴻平は、こっくりとうなずいた。 「好きだったら、うんとひどくして」 「ひどく、って……」 「だからね……いじめてほしいの。あたしのこと、泣かしちゃうくらいのつもりで……」 そう言う椎子の瞳が、何とも言えない期待感に濡れている。その目で見つめられているだけで、鴻平はおかしくなってしまいそうだ。 「だ、だって、それじゃ変態だよ……」 どうにかこうにか、鴻平はそれだけ言った。 「うん……一緒に、ヘンタイになろっ♪」 その時―― 鴻平の中で、何かが切れた。 「……ッ!」 膝立ちになり、椎子の髪をつかんで、その口元にペニスを押しつける。 「あぐ……ン……ッ!」 ずるん、といった感じで、半ば強制されて、椎子は鴻平のペニスを飲み込んだ。 先程よりもさらに深く、鴻平のペニスが椎子の口腔を犯す。 鴻平は、椎子の髪を乱暴につかんだまま、腰を動かしていた。 「んッ! んぶッ! んぐ! んんんんンーッ!」 喉奥を小突かれ、椎子がくぐもった悲鳴をあげる。 しかし、鴻平の腰は止まらない。動物的な本能と、正体不明の兇暴な衝動に突き動かされ、容赦のない動きで口内を蹂躙する。 小生意気ながら可愛い顔が苦悶に歪み、その目尻からは涙がこぼれている。 その表情が、なぜか、胸が苦しくなるくらいに愛しい。 頭の片隅では、理性と良心が制止の声をあげているが、それとて、鴻平の性感を煽ることにしかなっていなかった。 好きな少女を陵辱するという、凄まじい罪悪感を伴った快感。 もはや、椎子に淫らな誘いを受けたことすら忘れ、ただただその口を犯すために、腰を使い、膨れ上がったペニスを繰り出す。 「くうううぅ……ッ!」 思わずうめき声をあげるほどの強烈な射精感が、鴻平の腰をぞくぞくと震わせた。 このまま、椎子の口の中に出してしまうことへの、ほんの少しのためらいが、脳の中をよぎる。 しかし、どす黒い愉悦のうねりが、そんな考えをどこかに押し流してしまった。 「うあッ!」 びゅうううううッ! というほどの激しい勢いで、熱いスペルマが椎子の口内で弾け飛んだ。 「ンンンンンーッ!」 今まで味わったことのないような、強烈な青臭さを伴う独特の苦味に、椎子が悲鳴のような声をあげる。 その声を聞きながら、鴻平は、二度、三度と椎子の口の中におびただしい量の精液を射精し続けた。 視界が真っ白になるような、かつてない快美感。 膝立ちの姿勢を保つことすら困難なほどの、強烈な感覚だ。 「んぐ……ンぶ……んうぅうう……」 椎子は、口内に溜まった粘性の高いスペルマをどうしていいか分からない、といった感じで、眉をたわめ、うめき声をあげている。 が、覚悟が決まったのか、こくん、こくん、と、少しずつ、その汚穢な粘液を嚥下していった。 「はあぁぁぁぁぁぁぁ……」 ようやく、鴻平は、椎子の髪から手を離した。 そして、とうとう、クッションに座り込んでしまう。 ぬるん、と、唾液と粘液に妖しく濡れたペニスが、再び椎子の口から解放された。 「椎子……」 一度射精して、少しだけ醒めた気持ちで、鴻平が呼びかける。 「……」 椎子は、四つん這いの姿勢のまま、まだどこかぼんやりとした顔で、鴻平の顔と、次第に力を失いつつあるペニスを交互に見つめていた。 「椎子、ごめん、俺……」 「謝っちゃダメ!」 慌てたように、椎子が言った。 「ダ、ダメって……?」 「ダメだよ、鴻平クン……だって、あたしが、してって言ったんだよ……なのに、鴻平クンが謝っちゃったら、台無しになっちゃう……」 「でも……」 鴻平は、納得がいかなかった。イラマチオなどという言葉は知らないが、無理やりに椎子の口を犯してしまったことへの、強い罪悪感を伴った意識がある。 「俺……今さら言うのもなんだけどさ……椎子とは、普通に、その、したいって言うか……」 「……鴻平クン、けっこうロマンチストなんだね」 そう言って、椎子が小首をかしげて鴻平の顔を覗きこむ。 「でもさ、あんなに激しくしてくれたじゃない」 「あ、あれは、その……自分でも、なんであんなことしたのか……」 もごもごとそう言いながら、ペニスをジーンズの中にしまおうとする。 「あ、待って、鴻平クン」 「へ?」 ちょっとひんやりとした白い手に手を重ねられ、鴻平はちょっとマヌケな声を出してしまう。 「まだ、おちんちんどろどろだよ……あたしが、綺麗にするから」 「き、きれいにって……あうっ……!」 またも、鴻平は声をあげてしまった。椎子が、ピンク色の舌を伸ばして、萎えかけの鴻平のペニスを舐めあげたのだ。 「や、やめろよ、椎子……そんなことしたら、また……」 そう言いながらも、鴻平は、椎子を跳ね除けることができない。椎子は、まるでミルクを舐めるネコのような姿勢で、鴻平の股間に顔をうずめた。 「遠慮しないで……ここをお口できれいにするのは、奴隷のつとめなんだから……」 どこでそんなセリフを憶えたのか、椎子が笑みを含んだ声で言う。 「ド、ドレイって……どういう……」 「ほら、首輪つけてるでしょ。だから、あたし、ドレイなの……」 面白がりながらも、どこか陶然とした口調で、椎子は言った。言いながら、次第に硬度を取り戻しつつあるペニスの裏筋を、ちろっ、ちろっ、と舐め続ける。 「あは……また、すっごくなってきた……もっかい、射精したいんでしょ?」 椎子のあからさまな言葉に、鴻平のペニスは、ますます力を取り戻してくる。 「いいよ……また、お口でも、顔でも……御主人様の、好きなようにして……」 そう言いながら、ちゅううっ、と敏感な亀頭部分を、椎子は吸引する。 「ご、ごしゅじんさまって、どういう……ンああああああッ!」 じゅるっ、じゅるるっ、と音をたててペニスのあちこちを吸い上げられ、鴻平が切羽詰った声をあげる。二度目にしては早すぎる射精感が、すでに、怒張の根元に集まりつつあるのが、自分でも分かった。 またもや、脳が煮えるような興奮が、鴻平の理性を駆逐していく。 「あたし、鴻平クンの奴隷になりたい……恋人じゃダメなの……ドレイがいいの……」 ぴちゃぴちゃと雁首の部分を舐めながら、熱に浮かされたような声で、椎子が言った。 そして、鴻平の反応を見ながら、少しでも快感を引き出そうと口唇愛撫を続ける。 「そ、そんなの……そんなのって……」 暗い窟に引きこまれるような絶望感を伴った、甘美すぎる誘惑。 自分でも意識していなかった少年らしい潔癖さが、再び椎子をスペルマで汚してしまうまいと、必死になってその誘惑に抗っている。 しかしその抵抗は、鴻平自身から見ても、いかにも無駄な抵抗に思えた。 それほどの圧倒的な快感が、鴻平の心と躯を追い詰めていく。 「鴻平クン……」 フェラチオをしながら、椎子も興奮の極みにあるらしい。その声は、まるで蜜のようにねっとりと甘く濡れている。 「……おねがい、鴻平クン……椎子の、御主人様になってぇ……」 「あ、あああ、あ、あーッ!」 その時、鴻平の頭の中の何かのブレーカーが、一斉に落ちた。 我慢の限界を突き破って、大量の精液が、椎子の可愛らしい顔に浴びせられる。 その様子が、鴻平には、まるでスローモーションのフィルムのように見えた。 そして鴻平は、自分が、椎子の“御主人様”にさせられてしまったということを、ぼんやりと納得していた。 「ふうー……っ」 自分でいれた熱い紅茶を飲み干して、椎子はようやく落ち着いたようだった。 が、その首には、相変わらず、南京錠で留められた黒い首輪がある。 「……」 鴻平は、そんな椎子の首筋をちらちらと盗み見ながら、紅茶をちびちびとすすった。猫舌なのだ。 「あのね」 椎子が、そんな鴻平に語りかけた。すっかり、いつもの口調に戻っている。 「あたしさ、自分で言うのもなんだけど、体も丈夫だし、手のかからない子どもでさ、あんまり、親にかまってもらえなかったんだよね」 椎子が、自分と知り合う前のことを話すのは、初めてだった。鴻平は、ちょっと意外そうな顔をして見せる。 「その上、弟は喘息でさ……でも、そのことで弟を恨んだりしちゃ、それこそ逆恨みでしょ。だから、ずっと、手のかからない子でいたの。いい子ぶって、学級委員やったり……男の子にいじめられてる女の子を、助けてあげたりね」 「何となく想像できるな、それは」 「そう?」 「どーせ、いじめっ子の股間を蹴り上げるくらいの事はしたんだろ」 「それは、その……しないことも、なかったけど」 冗談に対する冗談にならない返答に、鴻平は思わず自分の股間を軽く押さえてしまう。 「でもね……あたし、いじめられてる女の子が、ちょっと、羨ましかったな」 「……へえ」 「誰かにかまってもらってるってのが、何だか、すごく、羨ましかったの。でさ、エッチな話とかしたり、本とか読んでも、そっち系の方にばっか興味が湧いちゃって」 「そっち系って……SMのこと?」 鴻平の言葉に、てへ、と椎子は舌を出して見せた。 「うんまあ、そういうこと。でね、思いきって首輪したら、いままで抑えてたのがバクハツしちゃった感じだった」 そう言いながら、椎子はくすくすと笑った。 「……」 「鴻平クンは、そういうのダメなヒト?」 「……分からないよ」 正直に鴻平は答え、さらに続けた。 「でも……何だか、ハマりそうで怖い」 「あたしとしては、鴻平クンにハマってほしいな♪」 にこー、と笑いながら、椎子が言う。 (たぶん、もう、ハマっちゃったよ……) その言葉を、鴻平は、紅茶とともに飲みこんだ。 「あー、そうそう!」 と、椎子が素っ頓狂な声をあげた。 「な、なんだよ?」 「来週の土曜の話! あたしはねえ、やっぱアレ観るのは1回で充分だと思うの。だから、今度のデートは、別のとこがいいな」 「あのなあ……じゃあ、水族館とかにしとくか?」 「ゲーセン巡りがいい! 今度は負けないんだから!」 「分かった分かった。じゃあ、それまでに腕磨いとけよ」 そう言って、鴻平は苦笑いした。 帰り道。 鴻平は、まだ整理のついてない心を抱えて、一人、道を歩いていた。 「まだ、俺たち、キスしてないんだよな……」 ふと、そんなことを呟く。 「ま、いっか」 そう言いながらも、天を仰いで、小さくため息をついてしまう。 冬の空は、鴻平の悩みなど知らぬげに、いやになるくらいに爽やかだった。 そして―― 数日して、鴻平に、1通の封筒が郵送された。 差出人は椎子。中に、1つ、小さな鍵が入っている。 「首輪の、鍵か……」 おそらく、あの時、投函したのだろう。 キーホルダーも何も付いていない、シンプルなデザインの銀色の鍵。 これが無いと、椎子は首輪を外せない。 実際、ここのところ椎子は、本当に首に包帯をして学校に来ているのだ。あの下に首輪がある、と思うだけで、鴻平の頭と股間は、授業中でもかっと熱くなってしまう。 今、首輪の鍵を握るだけで、その時の興奮が蘇るようだった。 「とりあえず……ぎりぎりまで、持っておくか」 一人そう言いながら、ちょっと苦笑いする。 そして鴻平は、鍵を、財布の中に入れるのだった。 このお話には続編があります。 |