ココハ何処、頭ガスゴク痛イ。腕ガチギレチャウ。
万由子は自分がどうなん状況に置かれているのかまったく判らなかった。
別に目隠しをされているわけではないのだが、目を明けるのが億劫なほどにひどい頭痛に悩まされていた。
頭ガスゴク痛イ、何故、腕ヲ下ロセナイノ。腕ガチギレソウダヨ。
腕の痛みが頭痛の痛みに勝った頃、彼女は何とか目をあけて、自分の状況を確認しようとした。
目を開いてもなかなか焦点が定まらず、頭を何度も振っているうちに、次第にぼんやりとしていた頭もはっきりしてきた。
紺色でジャケットとスカートを組み合わせたスーツと白いブラウスを着た彼女は、地面にハイヒールのかかとがつく程度の高さではあるが、鎖で天井から手吊りにされているのだ。
しかも、周りには何に使うのか良くわからないが、いろいろな道具が置かれいていた。
そのうちに、十露盤板や、木馬など彼女が見たことのある道具が目に入ったので、これらが拷問のための道具であることが推測された。
とたん、彼女の顔からスーと血の気が引いていった。
これで、わたしを拷問しようと言うわけ?
...でも、何故?
その瞬間、彼女の頭にかかっていた霧が晴れていき、自分の状況が判って来た。
そう、誘拐されたのだ、そして、誰が誘拐したのかも大方の見当はつく。
「黒船館」だ。
公安部に勤める彼女は、警視の地位にあった。
2ヶ月程前から、「黒船館」と呼ばれる組織の内偵を命じられていた。
調べるうちにとんでもない組織らしいことが判ってきた。
この組織のエージェントと思われる人物と関わった若い女性が次々と行方不明になっていたのだ。目的は明らかだった。
この、クラブの会員と称される政財界の大物達の相手をさせられているのだろう。
一刻も早く、この組織に実態をつかみ、彼女達を救出しなくては。
そのため、彼女は寝食を忘れて調査に当たっていた。その日も深夜まで仕事をして、愛車のベンツC200で帰宅中に、後ろからきた軽トラックに追突された。
明らかに向こうがぶつかってきたのだが、Cクラスとは言えさすがはベンツ、暗がりであり良くは見えなかったがほとんど無傷であった。
それに引き換え軽トラックのほうは、前のバンパーが大きくへこみ、ヘッドランプも破壊されていた。
運転していたのは人のよさそうなおじさんで、本当にすまなさそうにしていた。
それを見た彼女は、おじさんがかわいそうになり、やさしく声をかけた。
わたしの方は大丈夫ですよ。
それよりそちらも怪我はしてませんか?ここだと邪魔だから少し動かしましょう。動きますよね。そんな顔しないで下さい。こっちまで悲しくなるじゃないですか。
大丈夫ですって、わたし、こう見えても警察官なんですよ。
ありったけの笑顔で、相手を安心させるように話したら。
向こうも少しほっとしたのか、車に乗り込むと万由子に付いて、路地の方に車を入れた。前方に大型トラックが止まっていたのでその後ろに車を止める。
そして携帯電話で警察に連絡しようとしたが、繋がらない。良く見ると圏外の表示が出ていた。
おかしいわね。こんな街中なのに。
その刹那、怪しい気配に振り向いた彼女を数人の男たちがあっという間に押さえ込み、顔に何か薬品をスプレーされた。
...彼女の意識はそこで途切れた。
あのおじさんもグルだったんだ。その人をかわいそうと思ったりして、なんてバカなんだろう。警官の癖に。
自己嫌悪にかられながらも、彼女は吊られた状態で少しでも楽になるように、鎖をつかみ足に力を入れた。
しかし、そんなにも長くはその状態を保てない。すぐに鎖をつかむ手が疲れてくるし、立っているのも苦痛だ。
といって、少しでも力を抜くと腕に体重がかかり、「痛いっ!」と悲鳴をあげてしまう。
どれくらい時間がたったのか、苦痛と疲労で頭がぼんやりとしてきた頃、目の前の鉄の扉が軋みながら開き、3人の覆面を被った屈強な男を従えて女が入ってきた。

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