今日も温泉境に朝がきました。
身支度を整えて寮から旅館の更衣室に向かうと、その途中で支配人の竹田さんに呼び止められ、なにかと振り向きます。
「志織ちゃん、ごめん。急で悪いんだけど、アスナちゃんの代わりに取材の案内してくれないかな。アスナちゃん、風邪みたいで」
そういえば今日、温泉の紹介記事を書くための取材があると聞いていたことを思い出し、わかりましたと私は首を縦に振りました。
「そっかー、ありがとう。助かったよ」
私よりずっと偉い人で、歳も五つは上のはずなのですが、その心底安心した様子が可愛くて……というのは失礼だけれど……、思わず微笑んでしまいます。
取材の概要について幾つか話し終わった竹田さんがそれに気付いて、
「な、なんだよぅ。笑うなよぅ」
と更に言う様子は、もう男の子そのもの。堪えきれずうふふと笑いながら私は了解しましたと言いながら更衣室へと向かいました。
「なに笑ってるの、しーちゃん」
ロッカーの並んだ室内に入ると、まだ笑顔のままだったのか、同僚の香織ちゃんにそんなことを言われました。
「だって、支配人がおかしくて」
「あー、しーちゃんカズくん可愛がってるもんねぇ」
「ちょっと、仮にも支配人だよぉ」
「しーちゃんこそ、仮のも……ってひどーい」
あ、と自分でも気付いて、今度は二人して笑います。
「さ、記者さんが来るまではいつも通りなんでしょ?早くいこっ」
そしてひとしきり笑ったあと、二人して更衣室から出て、職場へと向かいます。
スパッツと、浴衣を直に身につけ、手ぬぐいで髪を纏めて私の戦闘体制は完了。
私は太母温泉の乳女(ちちめ)、金江志織です。
乳女と温泉
私は香織ちゃんと湯部屋前の通路で別れて、第三湯部屋に入りました。もう先輩の二人が胸をはだけて母乳を絞り、お湯は薄い乳白色に変わり始めています。
「あら、志織ちゃん、今日は午後から取材だってね」
パンパンに張った乳首を扱く先輩、真紀さんの横に並ぶと、耳が早いことにそう声をかけられました。
……い、いくらなんでも一体どこから聞いてきたのでしょう。
私も浴衣をはだけさせながらそうなんですよ。代役で。と答えると、
「やぁっぱ若いからねぇ。志織ちゃんは代役じゃなくて最初から選ばれててもおかしくないもん」
と、真紀さんはからから笑いながら言いました。
「そんな、真紀さんだってそんなに歳変わらないじゃないですか」
「いやぁ、三十路とピチピチ二十代を比べちゃだめよ」
とは言いますが、凛と整った顔だち。軽くメーター超えし、西瓜が並んだような胸。
密かに目標にしている真紀さんにそう言われると照れてしまいます。
「んっん〜、ところでしおりん、また胸成長したね〜?お姉さん悔しいぞう」
と、頭の中で照れているうちに、もう一人の先輩である結さんが後ろからいきなり私の胸を揉みしだきました。
「ななな、なにするんですかあ!」
思わず抗議すると、いたずらっぽい二つ年上の先輩は笑います。
「にひひ、最初入った頃はあたしより小さいくらいだったのにな〜」
結さんの方を向こうと体を回転させるものの、巧みについて回って延々私のおっぱいの先端を弄り回します。
「や、やめ、あン」
自分で絞る分には何も感じないのに、次第に変な気分になって私はそんな声を漏らしてしまいました。
「ほれほれ〜良いんか。これが良いんか〜」
一方で結さんは変なおじさんみたいな口調で後ろからそんなことを呟きます。
「こぉ……らっ!」
ところが更に後ろからそう声がして、ごちっと鈍い音が響きました。真紀さんです。
「そんなに弄りたいなら自分の胸でしなっ!」
と威勢良く言った真紀さんは結さんを羽交い締めにすると、ちょっと乱暴に結さんの胸をぎゅっと握りました。
すると特大のお椀型おっぱいの先端からレーザーのように勢いよく母乳が迸り、湯にびゅうびゅうと注がれていきます。
「いンひぃ!?」
結さんはそんな声をあげて、体を一度震わせました。
「ったくもー、自分のノルマが早く出せるからってちょっかいばかり出してからに」
呆れた様子で真紀さんはそう言い、促されるままに三人で湯に乳汁を注ぎました。
いたずらしあったりするけど、私たちは仲良しです。
「なぁに〜?楽しそうな声を三人して」
今さっきのじゃれ合いを聞き及んだのか、女将さんが仕切りの竹塀から顔を出しました。
「遊ぶならおかみちゃんも仲間に入れてよぅ」
ちょっと口を尖らせながらそう言う女将さんの顔は、なんて言うか、その、ちびっこと同じ顔をしています。
「あ、遊んでないですよ。仕事してますよ」
「そ、そうそう。真面目にしてますって」
しかし先輩二人は知っています。女将さんがいると言うことは、その近くには……
「こらぁ! 真紀、結、志織!!女将を遊ばせないでよ!」
副女将の、七海さんがいることに。
「まだ遊んでませんて」
「……ならいいけど」
珍しく緊張している様子の結さんがそう言う間に、メガネの奥の眼光鋭く七海さんは女将の首根っこを捕まえて迷い猫を連れ戻す体勢です。
「ん? 女将、志織にもう記者が来ていることは伝えました?」
「え、聞いてないですよ、もう行った方がいいですか」
代わりに私が答えると、七海さんは女将どこほっつき歩いてたんですか。と嘆息します。
どうやら私が更衣室をでる頃と入れ違いに記者さんが予定より早い便で着いたらしく、開業前の様子も追加で取材するようでした。
「まあいいわ。用意をして」
と言われ、私は垂れていた母乳を拭ってから浴衣を直し、七海さんが持って来てくれていた温泉のはっぴを羽織ってロビーへと向かいます。
「まあ、そんなに重要な取材でもないから、気負わずね」
もちろん気を抜いたらだめだからね! と七海さんは慌てて付け加えました。
七海さんのそんなところが、私は大好きです。
「あ、どうも。お世話になります高木怜です」
応接室に着くと、記者の方が応接ソファで固まってらっしゃいました。
「お越し下さりありがとうございます。案内を務めさせていただきます、金江志織です」
そう挨拶をすると、高木さんはちょっと恥ずかしそうに笑いながら顔を伏せました。
「いやあ、ほんとに綺麗な方ばかりですね」
「ありがとうございます。それは、温泉のおかげです」
否定するわけにもいきませんので内心恥ずかしいですが私はそう答えました。
「では、まだ準備中の湯部屋にご案内します」
私は高木さんを先導して、先ほど来た通路を戻ります。
第三湯部屋の準備はもう済んでいるはずなので、香織ちゃんのいる第五湯部屋に向かいます。多分、アスナちゃんがいないから、誰か助っ人にいかないといけないですし。
「みなさん詩織さんみたいに、その、胸の大きな方ばかりなんですか?」
そう考えながら歩いていると、高木さんが声をかけてきました。
「遠慮なさらなくて良いですよ。みんな、胸のことについて褒めて頂ければ必ず喜びますから」
昨今の風潮を考えてか遠慮がちな高木さんにそう申し上げました。もちろん、逆にズケズケと見世物のように扱う男性と比べれば好もしいのだけれど。
「そ、そうですか……詩織さんの胸、服の上からでもわかるくらい大きくて、すごく素敵ですよ!!」
「ありがとうございます」
これは偽らざる本心です。思わず笑顔になってしまいます。
七海さんの言った記事の大小はともかくとして、この記者さんは良い方だと、私は確信しました。
「あ!! しーちゃん、助っ人に来てくれたのね……」
目的の部屋に着くと、香織ちゃんがすがるような声音でそう言いました。
推測通りそこには香織ちゃんと先輩の絹代さんの二人で、準備が済んでいないようです。
放っておいても準備が終わった人たちが助けてくれるから、準備が整わないなんてことは有り得ないことですが、責任感から出来る限りのことを香織ちゃんたち二人はやっていたようです。
「後ろの方は……?」
と、高木さんに気付いたらしい香織ちゃんはそう問います。
「あ、あ、あの、取材にきました、高木、怜、です」
自分が尋ねられたと思った高木さんはそう慌てたように言います。
「その、ほんとに胸を見られたりしても動じないんですね」
ああ、と得心した様子の香織ちゃんはこちらに向き直りました。
「取材の方ですか。それはもう、この胸は私の……っと、私たちの誇りですからね」
と胸を張ると、香織ちゃんの冬瓜型おっぱいが揺れました。
「えーと、じゃあ準備をしているところを撮らせて頂いていいですか」
またちょっと顔を赤らめているものの、恥ずかしがるとむしろ私たちも恥ずかしくなってしまうことを理解してくれたのか、高木さんはカメラバッグからカメラを取り出しました。
「私も手伝いたいので、ちょっと待って頂けますか」
そう言って私ははっぴを脱ぎ、浴衣をはだけさせて二人に並びます。
いつもはてんでバラバラに絞るものですが、こういう時は三人揃って絞ると写真として分かりやすくていい……と七海さんがいっていたからです。
高木さんの指示で大福のように柔らかで立派なおっぱいの絹代さんが手前に配され、香織ちゃん、私と並びます。
「はい、はい、はい。ありがとうございます。ほんとに乳女さんたちが絞って湯を作ってるんですね〜」
感動した様子でそう言う高木さんの鼻から、血が。
「う、うわあ、すみません!! えと、お話を聞くのは予定通り午後から。無理を言って準備も取材させてもらって、ありがとうございました」
それでは。と言って駆け出して高木さんは応接室へ戻って行ってしまいました。
「なんか……新鮮だね」
「うん、そうだね」
そう答える私は、その反応がちょっぴり嬉しかったりします。