ある小国の話

ブラン 作
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昔、ルーマニアとハンガリーの国境付近に小さな国があった。取り囲んだ
山々が自然の要害となっていたお陰で外敵からの侵略も少なく平穏な国であ
った。
300年ほど続く王家の長、つまりこの国の国王には跡目を継ぐ王子が生まれな
かった。しかし、王には双子の娘がおり、2人のうちのどちらかに王位を継
がせることにしていた。
双子の姫は姉がオリビア、妹はメリルという名だった。二人とも皇后の血を
受け継ぎ、美しい少女に育っていた。この国には少し奇妙だが、大きな胸の
女性を豊饒の女神の生まれ変わりとして崇める風習があり、王の妃には国一
番の豊かな胸の持ち主が選ばれた。そのため、二人の姫も妃の血を受け継い
で見事な胸に成長していた。
王はどちらの娘に王位を譲るか悩んだ。最初は長女であるオリビアに継がせ
るつもりでいたが、メリルの乳母が実はメリルの方が先に生まれていたと主
張したため国を二分する大騒動になったのだった。オリビアの乳母、メリル
の乳母とも国内の大商人の娘が努めており、簡単に主張を退けることがかな
わなかった。
国の最高裁判官に相当するモゼフ老師は国王からの相談に対して、2人の姫
のうち、胸の大きい方の娘が豊饒の女神の生まれ変わりだとして王位を継が
せるのがよいとの見解を示した。二人の姫は12歳を過ぎる頃からぐんぐん
と胸が大きくなり、16歳で国一番と言われるほどに育っていた。しかし、
二人の胸の大きさは寸分たがわず同じであり、王位の継承はそのまま棚上げ
となった。

不運なことに、王は諸国を外遊中、盗賊の一団に襲われ、跡継ぎを決めぬま
まあっけなくこの世を去ってしまった。困ったのは王を失った重臣達であっ
た。
大臣、乳母、商人達はオリビア側とメリル側に分かれて争いを始めた。事態
を収拾するために担ぎだされたのは中立の立場を取るモゼフ老師であった。
彼は次の王を決める方法として、王が最後に発表した言葉、すなわち、胸の
大きい方の娘に継がせることが妥当だという見解を示し、姫達が18歳にな
る誕生日に乳くらべを行うことと取り決めた。

次の日からオリビア派、メリル派に分かれそれぞれの姫の胸を少しでも大き
くするための熾烈な競争が始まった。オリビア派は国内の識者や魔術師、呪
術師などを集めて様々なまじないを施したり、薬を与えたりした。メリル派
は潤沢な資金を利用して、世界中から豊胸作用のある言われる食物を集めて
姫に与えた。
6ヶ月ほど経ち、姉のオリビアの胸は目に見えて大きく成長していた。これ
まで着ていたドレスは全て仕立て直さなくてはならなかった。メリル派は世
界中に家臣を派遣したため食物の調達に時間がかかり、オリビア派に遅れを
とるかたちとなった。
しかし、やがて品物が到着し始めると次第にメリル派が盛り返してきた。
メリルの取る食事は胸の成長に良いと言われる食材を中心につくられた。
いずれも脂肪分の多いものが多かったため、全体的な肉付きも良くなった
が、胸はそれ以上に大きく成長した。1年が経ち、メリルの胸囲はオリビア
を追い抜いていた。
オリビア派は焦り始めた。魔術師たちのまじないには大きな効果がないよう
であったし、豊胸薬も最初のうちは大きな効き目を示したが、次第に効果が
得られなくなることがわかった。薬の量を増やしても同じだった。1年半が
経過したころ、オリビアはメリルに圧倒的な差をつけられていた。オリビア
のバストも大きなスイカほどサイズになっていたが、メリルのそれは胸の前
で手を組むのがやっとなくらいまで巨大になっていた。

約束の18歳の誕生日、姉オリビアと妹メリルは2年振りに城を訪れた。
モゼフ老師や重臣達は中庭で姫達を待ちかまえた。先に姿を現したのはメリ
ルだった。メリルは召使いに両脇を抱えられられながら登場した。メリルの
後ろには大勢の乳母や商人達が続いた。
モゼフ老師と重臣達はメリル姫の巨大に成長したバストに目を見張った。
メリルは特注の乳当てを着け、大きく前に突き出したバストを揺らしながら
ゆっくりと歩いた。
「むおっ。なんと豊満な。40、いや45ターク(約180センチ)はあり
そうじゃ。」
しばらくして、オリビアが到着したとの知らせがあった。しかし、どれだけ
待っても姫はやってこない。重臣達はメリル姫のバストの大きさを見て驚
き、負けを認めて帰ったのではないかと囁き合った。モゼフ老師は重臣達と
相談し、メリルに軍配を上げるべきかと話始めたとき、馬車が近づいて来る
音が聞こえた。
「なんと、中庭に馬車が!入ってきてはならぬ。」
警備兵が集まり、馬車を取り囲むと御者はモゼフ老師にオリビア姫を連れて
きたと伝えた。
御者が馬車の幌を少しづつ外していくと、オリビアの乳母とオリビア本人が
現れた。
馬車の荷台はベッドのようになっており、オリビアはそこに横たわってい
た。周囲にどよめきがおこった。オリビアの胸元は小山のように盛り上がっ
ていた。乳母が胸元を覆い隠していたシーツを取ると、オリビアのバストが
露わになった。
「うほっ。な、な、なんということだ。70ターク(280センチ)はある
のでは。」
オリビアはバストが大きくなりすぎて立ち上がることができなくなってい
た。大きさは測定するまでもなくメリルを遥かに上回っていた。

女王に着いたオリビアは、お披露目をして民衆から大歓迎を受けた。胸が大
きくすぎて歩くことができないのは不自由だろうということで、自分で歩く
ことができるくらいの大きさにするよう減量に努めることになった。しか
し、バストは小さくなるどころか、その後もどんどん大きくなり続けた。
しばらくして、オリビアは民の前に姿を現さなくなった。
オリビアにはその時代で最高と言われた白魔術師が禁断の魔術を施したと伝
えられる。魔術を受けたオリビアは激しい飢餓状態に陥り、食事の量が急激
に増え、摂取した滋養は全て胸に蓄えられたそうだ。いくら食べても満腹に
はならない姫の胸は見ている間に大きくなったという。妹メリルとの乳くら
べには勝利したが、その魔術を止める方法はだれも知らなかった。
2年の間、新しい王選びに巨額の黄金と大勢の人夫をつぎ込んだせいで国は
疲弊していた。そこに同盟国だったはずの隣国が攻め入り、300年続いた小国
はあっけなく滅んでしまった。
オリビア、メリルのその後は書物には書かれておらず知る由もない。