阿曽沼あずさはその美しさよりも背が高いことで校内に名前が知れ渡ってい
た。顔は少しシャープな印象を受けるもののかなりの美人であり、モデルの
ようにすらりとした体型と長い手足を持っていた。
背は小学校の高学年からすくすくと伸び始め、高校3年の今では182cm
に達していた。女子生徒の中ではもっとも背が高いのはもちろんのこと、
男子生徒と比べても彼女より高い生徒は少なかった。
過去にはバレーボールやバスケットボールの選手にならないかと勧誘された
り、街でモデルにならないかとスカウトされたりしたこともあったが、
そのような考えは彼女になく、逆に彼女は背が大きいことで目立つ自分を
嫌っていた。
「いいなー。あずさは背が高くて、スタイルが良くて。私があずさだった
ら絶対モデルを目指すのになぁ。」
女友達は彼女によく言うのだが、彼女からすると小柄でかわいい友人達を
羨ましく思っていたのだった。
いつものように学校から帰る途中、見知らぬ女性が声をかけてきた。
「こんにちは。突然で悪いんですけど、アナタの身長を譲っていただけない
かしら?」
きっと何かのセールスか宗教の勧誘だろうと無視することにした。
「にわかに信じがたいでしょうが、私の仕事は身長と取引するトレーダー。
アナタの身長を少し譲ってほしいの。もちろんお礼はするわ。」
もちろん現実にこんなことがありえるとは信じられなかった。しかし、
あずさはつい足をとめて女の話を聞いてしまっていた。
「世界中に背を高くしたいって人は星の数ほどいるわ。でもアナタのように
背が高いことを嫌がっている人もいるわけよね。私はそういう人たちから
身長を引き取って、それを求める人たちに譲るのを仕事にしているの。
だまされたと思って私と契約してくれないかしら?あなたに損はないはず
よ。」
そういって、女は鞄から書類を出した。
「ここに譲渡する身長を書いて、サインをするだけ。簡単でしょ?
そうしたら明後日にはご希望の身長になってるわ。もう陰でデカ女なんて
言われることもなくなるわよ。」
彼女はサインしてみようと決心した。名前と減らしたい身長を書くだけなの
で悪用はされる心配もない。
「契約してくれるのね?ありがとうございます。何センチくらい譲ってい
ただけるの?5センチ単位でお願いね。」
彼女は長い間考えて、契約書に“30”と書き込んだ。
「きっと、かわいい女性に生まれ変わるわ。・・・ふふふ。」
あずさがサインした瞬間、女は目の前から突然雲のように姿を消した。
彼女には今の一連のできごとが本当に現実に起こったことだったのか自信
が持てなかった。
次の日の朝、あずさはメールの着信音で目を覚ました。
『阿曽沼あずさ様。5cm分の譲渡契約が成立しました。本日、昼12時に
引き取らせていただきます。』
見慣れない宛先からメールだった。
「うそぉ、昨日の女の人からのメールだわ。昼の12時って私学校なんだ
けど・・・、どうせ冗談よね。」
彼女はいつもの通りに学校へ行った。昨日の奇妙な出来事と今朝のメールの
件を誰かに聞いてもらいたかったけど、女友達に言っても取り合ってくれな
いと思ったので心の中にしまっておくことにした。
2時間目の授業が終わり、昼休みのチャイムが鳴った。時計は12時を指し
ていたが、例の女は現れなかったし、彼女に身には何も起こらなかった。
「(やっぱり何かの冗談だったんだわ。そもそもこんな話に少しでも期待し
た自分がバカだったわ。)」
しかし、席を立って見ると不思議なことが起きていることに気が付いた。
「(あれ?佐々木君って、私より背が高かったっけ???)」
隣の席の佐々木はさっきまで彼女と同じくらいの背の高さだったのだが、今
は少しだけ自分より高くなっていた。
「ま、まさか、本当に私がちっちゃくなっちゃったの!?」
彼女は昼食もとらずに、あわてて保健室に駆け込み、靴を脱いで身長を測定
してみた。
「177センチ!!ほんとに5cm低くなっている!!」
その次の日の朝、また携帯にメールが来た。
『阿曽沼あずさ様。10cm分の譲渡契約が成立しました。本日、午前10
時に引き取らせていただきます。』
彼女は眠い目を擦りながらメールを確認した。
「今日は10センチか・・・。どうしよう、10センチも低くなったらクラ
ス中のみんながびっくりするだろなぁ・・・。」
午前10時は体育の授業の最中だった。その日はハードルの授業で男女が順
番に並んで100mハードルを跳んでいた。あずさは体育の授業があまり好
きではなかったが、ハードルは背の高い彼女にとって楽な種目であった。
しかし、その日は時計が10時を指すのが気になって仕方がなかった。
「こら!!阿曽沼!何をキョロキョロしてるんだ!」
彼女が度々時計の方を見ていたので、それが体育教師の目に止まってしまっ
たのだった。
「さっきから見ていたら、お前本気で走ってないだろ?もう一本走ってこ
い!」
クラス全員が走り終えたあとにあずさ一人がもう一本走ることになった。
「(まずいな、ちょうど10時になりそう・・・)」
「ヨーイ。ハイ!」
第一のハードルを越えた時、彼女はふっと景色が変わったような気がした。
そして次のハードルでバランスを崩して足を引っかけ、大きく前に転んでし
まった。
「阿曽沼!大丈夫か!?」
彼女は立ち上がり、大丈夫ですと答えた。
「(やった、背がまた低くなってるわ。それでバランスを崩してコケちゃっ
たのね。)」
残りのハードルをいつもと違う感覚で何とかクリアしクラスメイト達が並ぶ
列に戻った。
「おい、阿曽沼!お前は一番後ろじゃないだろ?頭でも打ったか?」
不思議なことに、彼女が小さくなったことに誰も気が付いていないようだっ
た。
しかも、背の順では一番後ろだったのが、後ろから3番目が彼女の並び順に
なっていた。
「(うそぉ、高崎さんと児玉さんが私より後ろに並んでるわ・・・。夢みた
い。)」
体育の授業が終わり更衣室で着替えるときに、何かいつもと違う感覚に気付
いた。
鏡に写った彼女の顔は血色良くなり、以前のシャープさは陰を潜めて健康的
な印象を与えるようになっていた。ジャージの袖や裾は少し余ってだぶつい
ているのと反対に、胸の膨らみがその大きさを誇示するようにジャージを突
き上げていた。
ジャージとTシャツを脱ぐと、窮屈なBカップのブラに納まりきれないバス
トがその存在感を主張するようにカップから溢れ出していた。
胸だけでなく、全体的に以前のあずさよりも女性らしい丸みを帯びており、
くびれたウエストから腰にかけては理想的なラインを描いている。ヒップは
適度に脂肪で覆われて一回り大きくなり、履いていたショーツが少し窮屈に
なって食い込んでいる。
「ちょ、ちょっとサヨコ。お願い。悪いけどホック外してくれる?」
ブラが苦しいので外そうと試みたが、大きさを増したバストのせいでホック
が外れにくくなっていた。親友のサヨコが苦労してやっとの思いでホックを
はずすと、拘束されていたバストがブラを押し返し、圧迫感から解放され
た。
「あずさって、じつはすっごくスタイルよかったのね。」
「うらやましいなぁ。胸が大きくて。」
「今まで、わざと小さいブラをつけて我慢してたわけ?」
あまりの完璧なボディラインに女子達からは感嘆の言葉が漏れた。
「すごい・・・スタイルまで良くなるサービスつき?そういやお礼があるっ
て言ってたな♪」
その次の日の朝、また携帯にメールが来た。
『阿曽沼あずさ様。残り15cm分の譲渡契約が成立しました。本日、午後
3時に引き取らせていただきます。』
いよいよ、最後の引き取りとなった。
「午後3時だったら、音楽の時間か。よかった体育じゃなくて、昨日みたい
に怒られるのはごめんだわ。15cm小さくなったら、152cmぁ・・・
どきどきするなぁ♪」
3時が近づくにつれて、あずさの心臓の鼓動が早くなった。
「阿曽沼さんのグループ、壇に上がってリコーダーの演奏する番よ。」
先生の声で彼女は我に返った。彼女を含めた男女数人のグループが壇上にあ
がって演奏をする番になった。リコーダーの演奏中に時計の針が3時を指し
そうだった。
大きくなったバストのせいでこれまで来ていた制服のブラウスは窮屈になっ
ており、今にもボタンは弾けてしまいそうになっている。壇上に立つと、教
壇の上の時計が見えなくなり彼女は少し不安になった。
時計の針が3時を指した。
瞬間的に彼女が小さくなると同時にブラウスのボタンが勢いよく弾けた。
「(プチッ、プチッ)きゃあ!!なにこれ!?」
ボタンと同時にスカートのホックも壊れており、スカートがずれ落ちそうに
なっていた。彼女は慌てて片手で胸を、もう片手でスカートをおさえて教室
を飛びだした。クラス内は大騒ぎになった。
「なんだあれは!?」
「おい、阿曽沼の胸の谷間みたか?」
「おう、ばっちりな。しかし、あんなにデカかったか!?」
あずさは廊下を全速力で走ろうとしたが、大きな胸が上下左右に揺れて思う
ように走れなかった。
「(ちょ、ちょっと。こんな胸、大きすぎるよぉ・・・)」
やっとのことで保健室にたどり着いたが、あいにく保健の先生は不在だっ
た。
保健室の鏡に写った姿をみたあずさは唖然とした。大きくなったバストはブ
ラウスの第二と第三ボタンを弾き飛ばし、へそが隠れるくらいまでの大きさ
になっていた。
横から見ればそれは20センチほども前に突き出していた。
スカートを脱ぐと、ヒップも二回り以上大きくなっており、履いていたショ
ーツが紐のように引き延ばされて今にもちぎれそうになっていた。ふともも
の隙間はなくなり、ウエストには柔らかい脂肪がたっぷりとついていた。
「やーん!!こんな身体やだよー!!」
携帯にメールがきた。
『阿曽沼あずさ様。譲渡契約を完了いたしました。どうもありがとうござい
ました。なお、不要になった“体重”についてはお引き取りしかねますので
ご了承お願いいたします。』
END