甘い誘惑

ブラン 作
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梅雨が明け、じりじりと照りつけるような暑さが到来した7月のある日、ゆり子の人生を
大きく変えることになる電話がかかってきた。
「(トゥルルルー・・・ピッ)はい。篠原です。」
「ゆり子さんですか?お久しぶりです、マルトウ・プロモーションの坂崎です。」

電話はゆり子が高校時代、モデルのアルバイトをしていた会社の担当からであった。名前
を坂崎まどかと言い、やり手のキャリアウーマンである。
「どうもその節は・・・」
「ごめんなさい。こっちからかけておいて何なんだけど、今時間が無くて。手短にいうけ
ど、明日オーディションがあるんだけど来れないかな?」
「え、明日ですか?・・・えーと、一応予定とかはないですけど。でも‥‥」
「あー、よかった。詳しいことは後でうちの者に説明させるから、明日の午後1時から空
けておいてね!」
そういうと、台風のように坂崎まどかは電話を切ってしまった。

二時間ほど後、彼女の部下と名乗る人からまた電話があった。それによると、企業のポス
ターに使うモデルを探しているのだが、予定していたモデルが契約の関係で仕事ができな
くなり、代わりのモデルを選考で決めることになったそうなのだ。それで明日の選考に来
られそうな人に片っ端から電話をしているということだった。もしそれで合格なら、その
まま午後いっぱいで写真を撮るという強行スケジュールだそうだ。

次の日、ゆり子は待ち合わせに指定された場所へ向かった。どうやら撮影が行われるフォ
トスタジオのようだ。ゆり子を出迎えたのは電話をかけてきた坂崎であった。
「よく来てくれたわね。一応、これから事務室で面接があるんだけど、私の感だと、ゆり
子はクライアントのイメージにぴったりだから問題なく合格だわ。その後撮影するつもり
で、もう、スタジオも押さえてあるの。何しろ、今日中にネガを上げなきゃなんないから
ね。」
ゆり子は坂崎の強引さになすがままであり、せいぜい「はい」とか「ええ」とか返事をす
るのが精一杯であった。後で聞いたところでは、坂崎は編集者の仲間の間でジャンヌ・ダ
ルクと呼ばれている程のやり手なのだそうだ。
坂崎の言ったとおり、面接はあっさりと終了した。クライアントは一目見てゆり子を気に
入り一つ返事でOKを出したのだ。
「ねっ。やっぱりね。あの手のオヤジはゆり子のような清楚なタイプに弱いからね。モデ
ルのイメージは企業のイメージに大きく影響するからホントは選考に選考を重ねるものな
んだけどね。ま、でも、私もあなたで大成功間違いないと思っているわ。さあ、メイクと
スタイリストが来たからついて行って衣装に着替えてくれる?」
坂崎はマシンガンのように喋るだけ喋ってからさっと行ってしまった。

メイクも終わり、衣装合わせをすることになった。用意されたのはゆり子の清楚なイメー
ジにぴったりと合う花柄のワンピースである。細い手足が映えるように袖はノースリーブ、
丈も膝がやや出るくらいまでの短めにあつらえてあった。

ゆり子は着てきた服を脱ぎ、下着姿になった。高校のときCカップだった胸は一回り大き
くなりEカップのブラジャーを着けていたが、このところまた2キロほど増量したことも
ありそれも少し窮屈になっていた。
まだ歳の若そうな女性アシスタントはモデルの溢れんばかりになっている豊かな胸元を見
て明らかに動揺している。
「ちょっとキツイかもしれませんが一度着てみましょう。」
彼女はワンピースを着せてもらうと、スタイリストが背中のジッパーを上に上げていく。それは背中のあるところよりも上がらなくなった。
「(あーあ、やっぱりまずいことになっちゃった‥‥)」
「すみません、篠原さん。じゃ、じゃあ、いったん脱いでもらって。一度、採寸させても
らえますか。」
「はあ。」
ゆり子は申し訳なさそうにワンピースを脱ぎ、再び下着姿になった。そして、メジャーを
手にしたスタイリストが採寸を行った。
「90・62・89センチ・・・。篠原さんって結構着やせするタイプなんですね・・・」

ゆり子は周囲がにわかに騒がしくなっているのに気がついた。もうワンサイズ大きいのを
用意していないのかとか、今から寸法を変えられないかとか、数名のスタッフが怒号を交
えた議論を始めている。
「篠原さん、申し訳ないのですが、サラシを巻かせてもらいます。」
スタイリストは白く長い布を取り出してきた。
「ちょっと苦しいかもしれないけど、我慢して下さい。女優さんでもイメージを保つため
に胸を潰したり、ウエストを締めたりするんですよ。大丈夫、こういうこと日常茶飯事で
すからあまり気になさらないで下さいね。」
くるくると包帯を巻く要領でゆり子の身体にさらしが巻かれていく。果たして、できあが
ると胸元がミイラのようになっている。ワンピースのジッパーが今度は問題なく一番上ま
で上がった。

撮影は無事終了した。しかし、終了したと同時に、ゆり子は気分が悪くなってその場に座
り込んでしまった。胸を締め付けすぎたせいで十分に呼吸ができず貧血になってしまった
のが原因だった。
気がつくと医務室のベッドの上だった。そばには坂崎まどかが座っていた。
「ごめんなさいね。無理させてしまって。」
「私こそ、迷惑をおかけしました。前より太ったのでこんなことになってしまって。」
「確かに、最初見たときにちょっとふっくらしたかなーって思ったんだけどね。とにかく
、ゆりが大丈夫でよかったわ。お陰様で仕事もうまくいったしね!」