「グラビアの仕事ですかぁ・・・」
ゆり子はため息まじりにマネージャーの話に耳を傾けていた。
「だいたい、どうして冬場に水着の写真を撮るのですか?」
グラビアの仕事が来ることもそれが冬場に行われることもゆり子には寝耳に水の話であっ
た。マネージャーによれば、春先に発売される雑誌のグラビアは冬の時期から撮影が始ま
るのだそうだ。ゆり子はこのところのケーキの食べ詰めで体重は最高記録を続伸しており、
お腹回りも気になってきている。スタイルに自信のないゆり子は仕事を受けることを渋っ
ていた。
「この仕事、坂崎さんがやっと掴んできたものらしいですよ。坂崎さんはタレントとして
売れるにはグラビアは登竜門と考えていらっしゃるようです。」
マネージャーはゆり子がチーフプロモーターの坂崎まどかに弱いことを心得ていて、ここ
ぞというときには坂崎の名前を使った。ゆり子もそう言われると渋々承諾せざるをえなか
った。
彼女はせめて撮影日までダイエットをしておこうとスケジュール帳を確認するが、スイー
ツ店のロケ、ドーナツショップとお菓子メーカーのCM撮影と甘いものを食べる仕事が目
白押しになっているのを見て目を覆うしかなかった。
−−
撮影の当日
ゆり子はサイズ合わせのために水着を試着しておくように言われた。彼女は簡易の更衣室
に水着を持ち込んでそれに着替える。水着はもちろんビキニである。高校時代、新体操の
選手だった頃はレオタードはよく着たが、海やプールに遊びにいくこともなかったためビ
キニを着るのは初めての体験であった。
ゆり子は水着の布の面積がかなり小さいことに尻込みしてしまった。
「(これって下着よりも布が少ないじゃない・・・)」
ゆり子は来ていた服を脱ぎ、下着を外した。たっぷりと脂肪を蓄えメロンほどに大きさを
増した胸にその水着を当てた。彼女の胸が大きいためかそれとも水着が小さいためか水着
のカップは乳房の半分の面積も覆えていない。
「(なにこれ?小さすぎるわよ)」
それでもなんとか背中のホックを止めようとするがやはりサイズが小さいのかなかなか止
まらない。しばらくの格闘の末、ようやくホックを止めることができたがカップの上下左
右から柔らかい乳肉があふれ出しビキニを弾き飛ばさんばかりになっていた。
水着の下側も同じであった。ショーツに両足を通して引き上げるとふにふにと柔らかい太
ももの肉に阻まれてしまう。
「(おかしい・・・上まであがらないわ。)」
なんとか無理矢理引き上げてみるが今度はむっちりとボリュームの増したヒップが障害と
なって上まであがらなかった。ヒップの大部分は覆えておらず、形の良い豊かな臀部があ
らわになり、お腹回りの柔らかい脂肪が水着の拘束から逃れて盛り上がりを作っていた。ショーツの紐の部分はやわらかい脂肪に埋もれてしまっている。
「(もう、やだこれ)」
なかなか試着室から出てこないゆり子を心配してマネージャーが確認にやってきた。
「どうですか?ゆり子さん?」
「きゃあ、急に開けないでください!」
マネージャーは明らかに水着が相当きついのを目にしたようだった。
「グラビアはちょっと窮屈な方が受けがいいんですよ。それくらいが丁度・・・」
「ぜんぜん丁度じゃないです!!もう少し大きいサイズにしてもらってください!!」
「おかしいなぁ。サイズを間違えないようにゆり子さんのスリーサイズを伝えてたはずな
んですが・・・もしかして太りました?」
「・・・・」
「あっ、いえ、なんでもありません。サイズを変更してもらいます。」
ゆり子が殺気十分の鋭い目で睨み付けるとマネージャーはその場から退散した。
今度は代わりに撮影班の女性スタッフがゆり子のところにやってきた。
「すみません。ちょっと採寸させてくださいね。」
そういうと女性スタッフは伸ばしたメジャーをゆり子の身体に巻き付ける。
「トップ96のアンダーは70・・・ウエストは・・・65。ヒップは94。・・・でした
ら、こちらの水着がいいと思います。」
ゆり子はその測定結果にまた少し自分が太ってしまったことにショックを受けた。
高校時代に新体操で鍛え上げられたスリムなボディには柔らかな脂肪が蓄えられ、むちむ
ちとした豊満な身体へと変貌を遂げているのであった。
「ウエスト65って・・・はぁ」
肩を落とすゆり子に気付いて女性スタッフが優しくフォローを入れる。
「大丈夫ですよ〜。職業柄グラビアアイドルさんとよく仕事するんですが、ウエスト70
センチ超えなんてざらにいますからね。気にしなくていいですよ〜。」
ゆり子はスタッフからワンサイズ大きい水着を受け取って再び着替えた。水着のホックは
止まるようになったもののやはり胸がカップからはみ出してしまう。ショーツについても
ボリュームのあるヒップに少し食い込み気味になっている。
「わお!ばっちりじゃないですかぁ〜!」
「あの〜、まだちょっときついんですけど・・・」
「大丈夫、大丈夫。これくらいが丁度です。ちょっと失礼します。」
スタッフはそういって水着のブラに手をすべり込ませゆり子のバストをぐいと持ち上げ、
さらに脇に逃げていた乳肉も無理矢理カップに収めた。そうするとびっくりするほど魅惑
的で深い胸の谷間ができあがった。
「モデルさんによってはガムテープを使って無理矢理おっぱいを寄せたりするんだけど、
篠原さんの場合はそんなことしなくても十分きれいな谷間ができますね。」
−−
グラビアの撮影は順調に行われた。
最初はぎこちなく、執拗に胸元を狙ってくるカメラに緊張して表情は固く何度かNGを繰
り返した。しかし、スタッフの一人が機転を利かせてゆり子の大好きなスイーツを準備す
ると彼女の顔が急に明るくなった。
「では、篠原さん。こちらに用意した特大フルーツパフェをいつもの感じで食べてみてく
ださい!」
「はーーい!」
ゆり子は生クリームを口いっぱいに頬張りながらカメラに満面の笑顔をサービスする。
「テーブルに両肘をついてパフェ越しにカメラの方に顔を向けて!」
テーブルにはゆり子のたおやかなバストがどっかりと乗りその形を変える。
「口元にクリームがついてますよ。舌で舐めて!」
カメラマンの要求にゆり子は次々と答えていく。
「今度はバナナの先についてる生クリームを舌で!」
その後もプールサイドに寝転がったり、ビーチボールで遊んだり、プールで泳いだり、シ
ャワーを浴びたりと撮影をこなし全てのスケジュールは無事に終了した。
−−
後日のことになるが、このグラビアもまた大きな反響を呼ぶことになった。
そしてその後もいくつかの雑誌のグラビアも飾り次第に期待の新人タレントとして篠原ゆ
り子が世の中に認知されていくのであった。