甘い誘惑

ブラン 作
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人気スイーツベスト100食べ尽しをクリアしたゆり子が伝説を達成するのは時間の問題
だと思われていた。クリア以降もゆり子にいくつかのイベントが仕掛けられたが、それら
も難なくクリアし最終日前日まで来ていた。
「今日は29日目です。いよいよ明日を無事クリアすれば伝説達成になります。」
どこかから番組プロデューサーの声が響いた。
番組スタッフ達の間に緊張が走り、急にそわそわとし始めている。
重々しいBGMが鳴り、扉が開いて黒幕であるプロデューサーが登場した。
そのサングラスをかけた中肉中背の中年の男の名前はタナカと言い数々の人気バラエティ
ー番組を手掛ける売れっ子プロデューサーであった。普段、めったにタレントの前に姿を
現すことはなく、ゆり子の奮闘ぶりもこれまでモニターで見ていたのみで本人の前に現れ
るのは初めてであった。
タナカはサングラス越しに恐れおののく番組スタッフ達とぴっちりと窮屈すぎる体操服に
身を包んだタレント、篠原ゆり子の姿を認めた。静まり返った現場にタナカのだみ声が響
き渡った。
「伝説達成の前祝いというわけじゃないが、特別にキミにこれを用意した・・・」
扉が開いてワゴンに載った大きな包みが彼女の部屋に運ばれてくる。
「どどーん!超豪華スペシャル7段ケーキ!」
包みのベールが解かれると自分の背丈より高い巨大なケーキがゆり子の前に姿を現した。
「な、何なんですか、これ?」
「食べてもらいます。明日の夜11時、生放送の放送終了が期限です。」
プロデューサーは無情にもそう言い放った。
ゆり子はそのケーキのあまりの大きさに愕然とし肩をがくりと落とした。
普段はあまり感情を露にしない助手もさすがに腹を立てたようで無謀にもプロデューサー
に喰ってかかった。
「タナカP、いくらなんでも無茶ですよ!こんなの大きすぎます。視聴者からクレームが
殺到するに決まってます!」
タナカは助手の言葉をあっさり無視して部屋を立ち去る。助手はタナカを追いかけて部屋
を飛び出そうとするがそれを押しとどめたのはゆり子だった。
「待って!まだ諦めた訳じゃないわ。わたし、やれるだけのことはやってみる。応援して
くれる視聴者や事務所の人たちのために!」
ゆり子の頭には坂崎まどかの顔も浮かんだ。彼女のためにも絶対に成功させると誓ったこ
とを思い出した。

ゆり子はおもむろに立ち上がり巨大ケーキの前に立った。
カメラにはブルマに包まれたゆり子のヒップが大写しになっている。幅、厚み、形とも申
し分のないそのヒップにはLLサイズのブルマが小さすぎるかと言わんばかりに布地が喰
い込んでいる。ヒップにはたっぷりと脂肪が蓄えてられているが、かつての新体操と今は
フィットネスジムで鍛えた適度な筋肉のおかげでだらしなく垂れることはなく押せば跳ね
返されそうな十分な張りを保っている。
ゆり子はよし!という気合いとともにかかとを伸ばして7段ケーキの最上段を取り外す。
そして、テーブルに着くとデザートスプーンを握りしめてそのケーキに取り掛かった。
「いただきまーす!!」
直径15センチほどのケーキはものの数分でゆり子の胃袋に吸い込まれていった。
7段目を片づけると同じように6段目を取り外してテーブルに置いた。当然、7段目より
も一回り大きく重みも増している。
しかし、これもあっさりと10分程度でゆり子の胃袋に収まった。スタッフたちはゆり子
が尋常ではない気合に包まれているのを感じた。
以後も順調に5段目を片づけて4段目に入ったが、徐々にゆり子のペースが落ちてきたの
が誰の目にも見て取れた。
「ゆり子さん、ファイト!」
助手や他のスタッフから励ましの檄が飛ぶようになった。
しかし、彼女は4段目を半分くらい食べ進んだところでスプーンを置いた。
「ふう。」
ゆり子の腹部は食べたものでパンパンに膨れていた。消化を待つために外に出て軽く散歩
をし、しばらくしてまた戻ってきて席につく。
撮影班はゆり子の苦しそうな表情や散歩での気分転換の様子など一部始終を逃さないよう
にカメラに収めている。
彼女は再び食べ進め、なんとか4段目の最後のひとかけらを食べきった。
「ゆり子さん、4段目クリアです!この調子で次もいっちゃいましょう!」
しかし、ここからピタリと彼女のスプーンは動かなくなった。
「く、苦しい。もう、だめぇ。」
結局、この日は3段目のケーキには進めず最終日にすべてを賭けることになったのだ。