甘い誘惑

ブラン 作
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いよいよ最終日の30日目
ゆり子は早朝6時過ぎに目を覚ました。
撮影班などのスタッフが現れて収録の準備が始められた。彼女は残された3段のケーキを
眺め、改めてその巨大さを認識した。当然ながら下に行くほどケーキの直径も厚みも大き
く、3段目の一つだけでも大きな晩餐会の主役を飾れそうなくらい立派である。
これだけの敵を目の前にしてゆり子は不思議と不敵な笑みを浮かべていた。
「(できれば使いたくなかったけど・・・)」
昨晩、彼女は再び強力胃薬ジアスター10を服用して就寝したのだった。
大きく膨らんでいた腹部もへっこみ、空腹のために目を覚ましたくらいだった。
「いただきまーす!!」
ゆり子はケーキにスプーンを入れる。
昨日、4段目にかなり苦労を強いられたが、それより一回り大きい3段目をものすごいペ
ースで食べ進める。スタートして2時間ほどでそれはカメラの前から姿を消した。番組ス
タッフからも歓声が上がる。
「その調子です!ゆり子さん。」
お昼前には2段目に取り掛かることができた。ケーキの下段ほど強度が必要なためにホワ
イトチョコレートで分厚くコーティングされており、ゆり子の進撃を阻んた。2段目も後
半に差し掛かると徐々に彼女の食べるペースは落ちていった。
「(まずいわね、時間はあと6時間。まだ、とんでもなく大きい1段目も残ってる・・・)」
ゆり子は立ち上がり気分転換に公園へ散歩に行くことにする。その前に助手を呼んで何や
ら耳打ちをした。
「えっ、ジアスター10を二倍量!?それはダメですよ!医師の指導のもと用法、用量を
守って服用しなきゃいけないんですよ!」
彼女はお構いなしに助手から薬を奪い取ると口に投げ込み、水でゴクリと流し込んだ。

ゆり子はたっぷりと時間をかけて公園を歩いた。最初はお腹に溜まったもののせいで動く
のも苦しいくらいであったが、歩くことで徐々に和らいでいった。しばらくすると、胃薬
が効力をあらわし胃の中のものをものすごいスピードで消化しはじめた。
やがて彼女は空腹を覚えながら収録現場に舞い戻った。
スタッフ全員がハラハラしながら彼女の帰りを待ち構えていた。
「篠原さん!いったい1時間もどこを散歩してたのですか!?制限時間はあと5時間を切
ってますよ!」
(ぐ、ぐーーっ)
「(しまった、お腹がなっちゃった。早く何か食べないと!)」
彼女は早速席につき、2段目の最後の部分をものすごい勢いで片づけた。

最後の1段目に入ってもゆり子のペースは衰えなかった。
大きなスプーンでケーキを切り取り、何度も口に運ぶ映像が生放送の特番で全国に放送さ
れた。
視聴者はかなりふくよかになった篠原ゆり子の姿に驚くとともに、その食べっぷりに舌
を巻いてテレビにくぎ付けになった。
一口づつしかし着実にケーキを口に運ぶ。不可能と思われた7段ケーキもあと少しを残す
のみとなっている。しかし、放送終了の時間も迫ってきており番組スタッフ、視聴者共々
手に汗を握ってゆり子の戦いを見守った。
とうとうゆり子はタイムリミットを5分30秒残して最後のひとかけらのケーキを胃袋に
送り込み、巨大にそびえたつ7段ケーキを目の前から消し去ったのだった。
伝説達成の合図である銅鑼が何度も何度も鳴り響いた。
スタッフや関係者がゆり子を取り囲んで祝福の言葉を浴びせる。
ゆり子は妊娠したかのように膨らんだ腹部を突き出しながら皆の讃辞に答えた。
番組の視聴率は予想を大幅に上回り、視聴者からも数え切れないほど賞賛の声が寄せられ
たのだった。
−−
次の日は基本的にオフであったが、ゆり子はドクターの検診を受けておくようにと言われ
ていた。
ドクターも昨日の生放送を見ていたようで、あれだけ食べてなんとも異常がない彼女に驚
いた様子であった。
診察の結果は問題なく、今度は体重を測るように言われる。
「もう終わったんですから測らなくていいんじゃないですか!?」
「すみません、これも決まりですので・・・」
ゆり子はしぶしぶ承知して体重計に足を掛ける。
「74.5キロですね。」
「う、うそ・・・そんなに太っちゃったの、私??」
前回測定より8kgも増えており、70kgの大台の半ばまで到達したその数字に彼女は
大きなショックを受けた。
次はスリーサイズである。目の前でメジャーが大きく引き出される。
「バストは116センチですね。ウエストは78センチ。ヒップは112センチです。」
どの数字も伝説開始時に比べて大幅に増加している。顔はふっくらとし、折れそうに細か
った二の腕はむちむちと太くなり、もともと大きかった胸の膨らみは二回り以上大きくな
ってKカップのブラを弾き飛ばさんばかりに前に突き出している。くびれのラインはかろ
うじて判別できるものの脇腹にはたっぷりと脂肪がつき、ぽっこりと膨らんだお腹の肉が
ショーツの上にのっかっている。張りのある大きなヒップは幅、厚みとも十分でありショ
ーツで覆いきれない尻肉がはみ出しており、ふとももには一分の隙もなくみちみちと脂肪
がついていた。
「はぁ、こんな身体じゃグラビアはおろか、タレントとしてもテレビに出られないわ・・・」
巷ではゆり子の豪快な食べっぷりのほかに、むっちりを通り越したその体型も話題になっ
ていた。不思議なことに、「ふくよかでかわいい」、「痩せないで欲しい」という意見も意外
に多く、ファンの数は減るどころかむしろ増加しているのであった。

ため息をつくゆり子の肩を力強く叩く者がいた。
「よっ!よく頑張ったわね!!」
「まどかさん!!」
現れたのはゆり子をこの世界に引き入れたチーフプロモーターの坂崎まどかであった。
「あなたの活躍、私も見てたわよ!」
「ありがとうございます!」
「なーに、しょんぽりしてるのよ!ちょっと太ったくらいで。太ったら痩せたらいいじゃ
ないの!?今のあなたなら何だってできるはずよ!」
ゆり子はまどかに励まされてすぐに元気を取り戻した。
「わかりました!よーし、これから徹底的にダイエットします!」

そこへマネージャーが大慌てでゆり子の方へ駆け寄ってきた。
「ゆり子さん!また2つも番組出演が決まりましたよ!またまた人気番組です!番組名は
『全て食べるまで帰られま10』と『世界まるごと食堂部』。いやぁ、すっかり売れっ子に
なっちゃいましたねぇ。
それから、伝説挑戦中に撮影できなかったスイーツのロケが4日分、それにアイスクリー
ムと宅配ピザ、ファーストフード店のCM撮影も入ってますから、明日からよろしくお願
いしますよ〜」
「ちょ、ちょっと!それじゃぁ、ダイエットできないじゃないですかぁ〜!?」
その後もゆり子の体重が増え続けたのは言うまでもない。