夏美の夜の夢

ブラン 作
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高校では夏美は胸の大きさで有名になっていた。制服を押し上げる大きな胸の膨ら
みはどこにいても注目を浴びた。上級生を含めても彼女の胸は学内で最も大きく、
男子生徒からは性の対象として、女生徒からは羨望あるいはやっかみの対象とされた。
特に問題なのは体育の授業であった。体操着に包まれた大きな胸の膨らみは否が応
でもクラスメイト達や先生の視線を浴びた。体操着の生地は胸にぴっちりと貼りつ
いてその優美な形と明らかに高校生のレベルを超えている大きさを際立たせていた。
歩くだけでも揺れてしまう胸は、走ると暴れるように大きく揺れて乳房の付け根が
痛くなり、運動するどころの話ではなかった。
そのため彼女は体育の授業をほとんど休むようになった。そして、制服姿のまま授
業を見学するか、授業が終わるまで保健室に行って時間を潰すのであった。

夏美はその日の体育も休むことにして保健室に向かった。
彼女は保健室の常連になっており、保健の先生とも顔見知りになるほどであった。
しかし、その日は保健室にいつもと違う非常勤の先生が居て彼女は戸惑うことに
なった。
「あらっ。アナタが夏美さんね♪」
非常勤の保健の先生は名前を早乙女いずみといい、30歳を少し過ぎたくらいのなか
なかの美人だった。どうやらいつもの先生から夏美の話が伝わっているようだった。
「夏美さんはなんともから特に検診する必要ないって前任の辻先生から申し送りを
受けてるの。でも一応検温はしましょうね。」
いつもの辻先生はしばらく産休で休むことになったそうで代わりに早乙女先生が新
しくやってきたということたった。新しい先生もどうやら“話がわかる”部類の人
のようで夏美は少しホッとした。

「それにしても・・・立派なバストね。羨ましいわ♪」
先生は制服の胸元を押し上げている二つの膨らみに目をやりながらそういうと、
夏美の顔が少し曇ったので、先生は慌てて付け加えた。
「ご、ごめんなさい。アナタにとっては気にしているところだったかもしれない
わね。」
夏美は気にしないでくださいとの意味を込めてニッコリと微笑んだ。
「実はね、辻先生からわたしなら夏美さんの悩みを助けられるんじゃないかって言
われてきたの。どんなお役に立てるかどうかはわからないんだけど。」

夏美は前任の辻先生とは仲が良く、先生にだけは胸の悩みのことを話していた。
信頼していた辻先生が勝手に早乙女先生に自分の悩みを話していたことに少し不満
を覚えたが、先生に何かの考えがあってのことかもしれないとすぐに思い直した。
早乙女先生は夏美としばらく他愛のないを話をしながら次第に彼女が頭を悩ませて
いることについて少しづつ話しを掘り下げた。
夏美は体育をサボって保健室に来ている理由、かなりのペースで胸が大きくなり続
けていること、去年の夏頃までAカップで78センチしかなかった胸が一年半ほど
で外国製のブラでも簡単に収まらない108センチの爆乳に成長していること、病
院にも行ったが原因はわからず、そして今も成長が続いていることを辻先生に話す
のと同じように早乙女先生に語った。
先生は静かに夏美の話に耳を傾けていた。

「それは困ったわね・・・。いろんな病院で調べても原因がわからないって。」
だが、早乙女先生はその辺りの事情は既に聞いているようだった。
「ところで、辻先生から聞いたんだけど、いつも同じような夢を見るんですって?」
これも夏美が辻先生に何度か話したことだった。去年の夏頃からときどき同じ夢を
見るようになったことを。ただし、それが性夢であることは隠していた。
「よかったら、その夢の内容を詳しく話してくれないかしら?私、実は夢占い師を
やっているの。」
「夢占い師?」
「そう、本職は夢占い師。でもそれだけじゃ食べていけないのでしがない非常勤の
先生もやってるわけ。」
早乙女いずみの説明によれば、夢占いというのは夢の内容によって現在置かれた状
況を予測し、それを元に将来を占うものなのだそうだ。幼い頃から不思議な夢をよ
く見ていた彼女は夢占いに興味を持ち、フロイトやユングを始めとする多くの著作
に精通し、いつしかそれを生業にするまでになったのだった。
先生本人の真剣な目つきからすればどうやらそれは本当らしかった。

夏美はいつも見る夢を語り始めた。見知らぬ薄暗い部屋、男たち、天蓋つきのベッ
ド、ロウソクと香草の匂い、とてつもなく大きく成長した自分の胸。身動きできな
い自分の胸を男が触ってくることを。
早乙女先生は冷静に言葉を選びながら夢占いの結果を話した。
「何度も全く同じ夢を見るということだけど、これはあなたに向けられたメッセー
ジのように受け取れるわ。そして、何かの存在が夢を通じて夏美さんに語り掛けて
いるのかもしれない。夏美さんの遠い先祖、もしくは、前世にあたる女性。その存
在がメッセージを送り続けている・・・。」
「夢と私の胸の成長には関連があるのですか?」
「断定はできないけど、あると言っていいと思うわ。夢は夏美さんに何らかの作用
を及ぼしている。その作用は科学では説明できない不思議な力。その力が夏美さん
の胸を少しずつ膨らませている。」
「不思議な力・・・」
早乙女先生はしばらく頭の中で何かの記憶を呼び起こしているようだった。
「少し時間をもらえないかしら?何かが私の頭の中をかすめているの。ゆっくりと
時間をかけてそれらを捕まえれば何かわかるかもしれないわ。」
夏美には無論その申し出を断る理由はなかった。


一週間ほどのち、夏美は先生のマンションに招かれていた。先生の言った不思議な
力について何かわかったとのことであった。
冬の弱い日差しの中、彼女はお気に入りのコートを羽織って家から出掛けていた。
厚手のコートの上からでもその胸の膨らみが相当な大きさであることがわかった。
そのマンションはかなり高級な部類に入るようでエントランスを抜けてエレベータ
ホールまでの間には落ち着いた中庭があり、庭木にはきちんと手入れが行き届いて
いた。

「いらっしゃい♪」

先生が中から顔を覗かせ、彼女を招き入れた。玄関にはインド風の雑貨が飾ってあ
り、何かの神様の絵やタペストリーが壁に掛かっていた。しかし、リビングでは様
子が変わっており、中世ヨーロッパ風に家具や調度品が揃えられていた。部屋には
イミテーションの暖炉がありオレンジ色の炎が部屋全体を温めている。
夏美がコートを脱ぐとセーターに包まれた大きな胸の膨らみが現れた。クリーム
色のセーターは大きな胸に押し上げられてぴっちりと貼り付いており、いやが応に
もその大きさを主張してしまっている。早乙女いずみはその大きさに目を留めなが
らも胸の話題には触れないようにした。
夏美は先生の淹れたハーブティーを飲みながら部屋に飾られた奇妙なオブジェ達を
興味深げに眺めていた。
しばらくして、早乙女先生は何冊かの古めかしい書籍を重そうに抱えてリビングに
戻ってきた。その本たちは電話帳ほど分厚く、なめし皮で装丁された重厚な本で今
までに見たことのない言語で書かれていた。(後に中世ラテン語だと聞かされたが)
先生は一冊の本を広げてページを繰った。
「これはね、800年前にヨーロッパで書かれた本なの。この部分よ、読んでみる
わよ。」
先生は相当なオカルト好きらしく目を嬉々と輝かせて本のページをめくった。
そして先生は見知らぬ言語が書かれたその本をゆっくりと読み始めた。
『その国の王女は凶作で疲弊した国庫と民たちのことを案じ、北の山脈に赴いて
ウィラの一族を訪ねた。ウィラ族の長は王女の慈愛と強い意志に感銘し、秘伝であ
った女神の祝福を授けた。女神の祝福を受けた王女の乳房は日ごとに大きくなり、
城に戻るころにはそれはとても大きくなった。白い騎士はデルレの儀式を執り行い、
ほとばしる女神の乳を聖なるゴブレットに受けた。王女がカールヴェル川に女神の
乳を流すと、干からびた田畑には青々とした草が生い茂り、枯れ木だらけの林は豊
かな森になり、虫や蛙、それを追う鳥たちが舞い戻り、その国は一日にしてかつて
の豊穣の大地を取り戻した。』
「それから、もう一冊も読むわね。」
先生は中でも最も厚みのある本を開いた。
「こっちは、魔術大全という世界中の呪術のいわば辞典ね。この部分を読んでみる
わね。」
『グランポワ 白魔術の最高秘伝の一つ 乳房は神のエーテルを吸い再現なく肥大
化する 乳房から流れ出る女神のミルクは人に安悦と地に豊穣をもたらす ラマン
ド地方のウィラ族の間に代々伝えられる 女神の祝福とも言われる』
「私はね。夢の中に出てくるとんでもなく大きな胸の夏美さんにはこれと同じ魔法
がかかっているんじゃないかって思ってるの。」
「グランポワ・・・」
夏美は真剣な面持ちで先生の話を聞いた。
「夏美さんの夢には中世風の古い部屋、天蓋付きのベッド、燭台が出てくるって言
ったけど、その話を聞いてこの本のことが私の頭をかすめたの。夏美さんの手に口
づけをした青年、この青年はまさに白い騎士。そしてそれから後の行為は女神のミ
ルクを出させるためのデルレの儀式と考えられる。夢の最後はどうなるのかしら?
この推論の通りなら女神のミルクが溢れ出てるはずよ。」
「夢の最後・・・ですか。」
夏美は青い目の青年に乳房を責められた挙句、あまりの快感に気を失ってしまうの
でよく覚えていないのであった。先生には単にその部分の記憶がないと答えると先
生は少し残念そうな顔をした。
「あと、不可解なのはこのグランポワという魔法が現代の夏美さんに引き継がれて
いるという点ね。」
「私に魔法が・・・?」
「そう考えるのが妥当だと思うわ。ある存在が夏美さんに夢を通じて語りかけてい
る。その夢によってグランポワという不思議な魔法が夏美さんにかけられている。
グランポワは神のエーテルを吸収し胸を膨らませる。それがどういう目的なのか、
何を意味するのかはわからないけど・・・」
夏美は夢の中の自分と現実の自分のことを考えた。夢の中が800年も昔の出来事
だとするとベットに横たわっているのは自分であるはずがない。
先生はハーブティーで一息つきながら、好奇心に満ち溢れた目つきで夏美を見据えた。
「私の推測が本当かどうか。試してみたいことがあるの・・・。一週間後の満月の
夜、7時にまたここに来てくれる?デルレの儀式は満月の夜に行うものなの。」
早乙女いずみは根っからの魔術オタクであるようだった。