奇妙な冬が過ぎ、新しい春を迎えていた。夏美は高校2年生になった。
先生にホワイトナイトとなる男を探せと言われたが、付き合っている男性はおろか、
心当たる男友達もいなかった。男子生徒とは少しくらい話はするものの仲良くなる
のは苦手な方であった。
「お、おい。あれ見ろよ。3組の稲垣夏美。おとなしそうな顔に、あの爆乳は反則だ
よな。」
「あいつ、ちょっと見ない間にまた乳がでかくなったんじゃねぇか?」
「その辺のグラビアアイドルなんかよりそそるよなぁ。あれに挟んでもらいてぇ。」
胸の大きさで有名人になっていた夏美には胸に集まる視線やデリカシーのないひや
かしも日常よくある出来事だった。
「おい、冴木。お前あいつと中学の同級なんだろ?何カップあるか聞いとけよ。」
「・・・・」
特にこのようなガラの悪い男どもは無視するに越したことはなかった。
学校帰り、夏美はいつもの公園を歩いて通っているところで誰かから声を掛けら
れた。
「稲垣・・」
夏美は小さ目の声に気付き振り返った。
声の主は、夏美の高校の男子生徒であり、どこかで見覚えのある顔だった。彼女は
少し考えた末、彼が中学のときの同級生であったことを思い出した。
「冴木くん?」
冴木亮介、中学で同じクラスであったがほとんど会話を交わした記憶はなかった。
顔にあまり特徴がないためにあまり印象に残らなかったのかもしれない。ハンサム
でも不細工でもないがよく見れば端正な顔立ちをしていた。
「昼間はごめん。俺の連れが下品なことを言って・・・」
昼間の出来事など夏美はすぐに忘れていた。ましてやそのとき冴木が一緒にいたか
どうかということも覚えていなかった。
「ううん。気にしてないわ。よくあることだから・・・。でもどうして冴木くんが
謝るの?」
「俺はあいつらと連んでいたけど、俺は違うんだ。稲垣をあんな風に思ってないと
言いたかっただけだ。」
それだけ言うとバツの悪さに耐えきれなくなり、彼は走って去っていった。
大人しそうで少し頼りなさそうだが、夏美はもしかしたら彼ならホワイトナイトに
なってくれるかもしれないと直感的に思ったのだった。
次の日から夏美は冴木に接触するチャンスを窺うことにした。となりのクラスに所
属する彼にはなかなか接触のチャンスが生まれず、放課後、図書室や自習室に行っ
たりもしてみたがそこでも見つけることはできなかった。そうしている間にもすぐ
一週間が経った。
彼女は冴木が一人でずっと本を読んでいることをふと思い出し公立の図書館に行っ
てみることにした。
夏美の感は当たっていた。図書館で彼が一人で席に座っているのをみつけて彼女の
胸の鼓動は早くなった。そして、勇気を振り絞って彼の隣の席に腰をかけると、冴
木は夏美の登場にとてもびっくりしたようだった。
「いつもここで本を読んでいるの?」
夏美が小声で訪ねると彼がそうだと答えた。
その日から夏美は学校が終わると毎日、図書館通いを続けた。
図書館で冴木を見つけるとその隣の席にすわった。冴木は少し戸惑いながらも夏美
を迷惑がるようなことはないようだった。二人は肩を並べて本を読んだり、勉強をし
たり、ある時は小声で話をしながら、少しずつ親密になっていった。
数日後、夏美は先生から保健室に呼び出されていた。
「どう?あなたのナイトは見つかったかしら?」
夏美は先生に近況を報告した。
「なるほどね。で、どうするの?彼にはいつ打ち明ける?」
できるだけ近いうちにと彼女は答えた。しかし、まだ図書館で並んで勉強している
だけの仲だ。そう簡単には進展しそうにはない。
「冴木くん以外にも候補者を考えとかないとだめだったときはどうするのよ?胸も
また大きくなったみたいだし、あまり余裕はないわよ?」
わかってますと彼女は言った。先月よりまた胸は数センチ大きくなり、とうとう外
国製のブラジャーも容量不足となったためオーダーメイドでブラを作るはめになっ
ていた。注文してから出来上がるまでの間、明らかにサイズの合わないブラに胸を
無理やり押し込んでいる。
冴木と夏美の親密度は増しているものの、親密になるに従って夏美はだんだん例の
ことを打ち明けづらくなっており、話を切り出すタイミングを失っていた。
5月の満月の日、夏美は先生の家によばれていた。
夏美は進捗状況を報告したが、結局のところ冴木になかなか切り出せないでいる
と説明した。
「もう。そんなことだろうと思ってたわよ。でも、今日はそんな夏美さんに特別な
ものを用意してあるの♪ 入ってきていいわよ。」
リビングルームに入ってきたのは冴木亮介本人だった。