夏美の夜の夢

ブラン 作
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三人は宿屋を出て土埃に煙る街道を歩き始めた。
宿の女主人に書いてもらった簡単な地図を頼りにモゼフ老師の邸宅を目指した。
街道には市民や兵士、商人たちが忙しく行きかっており、早乙女が用意した衣装の
おかげで三人もその風景に溶け込むことができていた。時折、道行く人が夏美の大
きな胸の膨らみを見つけ、じっとそれを凝視することがあった。三人は相談して早
乙女と冴木が夏美の前を歩くようにしてできるだけ目を引かないようにした。
モゼフ老師の邸宅は庶民の住宅よりは大きいもののかつて国の司法長官を務めたと
は思えないほど質素なものであった。老師は一連の権力争いには加わらず、マドラ
が実権を握ってからは隠居して静かな暮らしを送っているのだそうだ。
モゼフ老師は外国から来たという三人に少し警戒しながら、珍しい客を客間に招き
入れた。早乙女は突然訪れたことの非礼を詫び、老師に自分たちの目的を伝えた。
「我々はある魔術について調べるために諸国を旅しております。このリムナスは魔
術の研究では特に優れていると聞きました。」
老師は自分用の椅子に身体を預けながら静かに早乙女の話を聞いている。
「老師はグランポワという魔法について何かご存じないでしょうか?」
モゼフの白い眉が少しだけぴくりと動いた。
「伝説なら聞いたことはある。数百年前、この国の山岳地帯に住んでいたウィラと
いう一族の秘術じゃ。古の女王は苦難の末にこの術を受けて女神のミルクを得、そ
れをカーボヴェルデ川に流してこの国を豊穣の大地に変えたと伝えられる。しかし、
それも昔話。その一族も術も既に途絶えてしまったと言われておるが・・・」
「実はここにいる女子がその魔術にかけられているのです。」
早乙女はそう言って後ろにいた夏美に前に出るよう促した。老師はその美しい修道
服の女の胸元が異様に膨らんでいるのを見て取った。
「むほぉ。なんと豊満な娘さんじゃ。」
夏美の胸の膨らみを前にして老師が興奮気味になったのが見て取れた。
「かつてのオリビア姫とメリル姫を思い出すのう。二人の姫もその娘さんと同じく
らい豊満な胸をしておられた。」
三人は老師が始めた昔話を聞くことになった。
「わしが城に使えていたころは平穏じゃった。王にはオリビアとメリルという美し
い双子の娘がおられた。二人とも豊穣の女神の生まれ変わりと言われた母親の血を
受け継いで豊満な乳房を持った美しい少女に成長された。母親は二人の物心が付く
前に流行り病で亡くなられておったので、城に仕えるものにとって姫たちの成長を
見守ることは大きな楽しみであった。」
「姫様のお名前はお聞きしたことがあります。確か、オリビア姫が女王になられて、
メリル姫は辺境の地に移られたとか。」
「その通りじゃ。平穏な日々は続かんかった。姫たちが16歳のときに王は諸国を
周遊中に盗賊に襲われ命を落とされてしもうたのじゃ。二人の姫のどちらかが女王
になることになったのじゃが、これが国中を巻き込む勢力争いの始まりじゃった。
この国の慣例に従って乳比べで女王が選ばれることになったのじゃが、二人の姫の
乳房は寸分たがわず同じサイズ。そこで2年後、姫が18歳の成人を迎えられる
誕生日に改めて乳比べを行うことになったのじゃ。しかし、それからというもの国
はオリビア派とメリル派の二つに分かれての争いが始まった。少しでも姫の乳房を
大きくしようと両派ともいろいろと手を尽くした。結局、勝利したのはオリビア王
女の方だった。かわいそうなオリビア姫は自分では身動きできないほどの巨大な乳
に成長しておられた。周りのものに支えられながら王位継承の儀式を終えられたが、
その後、病を患われて人前に姿をあらわされていない。」
老師は悔しさをにじませるように皺だらけの顔面をくしゃくしゃにした。
「わしも馬鹿なことをした。昔の慣例に従って乳比べなどをやらなければ・・・
今はまた違った世になっておったのかもしれぬ。おっと、すまん、昔話ばかりして
しまったわい。」
「いいえ、とんでもありません。この国を知るうえで貴重なお話です。」
早乙女は老人を慰めるように穏やかに言った。
「そうじゃった。グランポワについての話じゃったな。」
「そうなんです、この娘の胸は日に日に大きくなって困っているのです。このまま
ではいずれ身動きできなくなるほど大きくなるでしょう。それまでにこの魔術を解
く方法を見つけたいのです。」
「力になってやりたいが、わしは魔術のことでは役に立てそうもない。」
老師は心から残念そうに言った。
「どなたか魔術に詳しい方を紹介していただけませんか?」
「魔術か・・・。残念じゃが、第一人者と言われたノラ司祭はメリル姫について辺
境の地パローナに移られた。」
「そのパローナにはどうやって行けば?」
「パローナに行くことはできん。隣国との緩衝地帯であるとともに、国の軍隊が国
境の峠の要塞を固めておるから旅の者はおろかこの国の民でも通れんのだ。」
「他の方法でいくことはできないのでしょうか?」
「無理じゃ。北の山はこのリムナスの天嶮の塞。峠の要塞を通る以外の道はない。」
「そうですか・・・では、マドラ司祭なら何かご存知でしょうか?」
「マドラか・・・確かに奴も少しは魔術を齧っておるが・・・しかし、奴は今やこ
の国の実権を握る実力者。おぬしらを危険な存在とみてたちどころに捉えてしまう
かもしれぬ。」
帰り道、三人の心は暗かった。肝心のグランポワについての情報は得られず、ノラ
司祭が住む辺境の地パローラには行く方法がないことがわかった。
夏美は部屋に戻ると修道服を下からたくし上げてすっぽりと脱ぎ、胸のさらし状に
巻いた布を解き始めた。朝それを巻いたときよりも明らかに胸が締め付けられ窮屈
に感じられた。半日の間に乳房の容量が増し、行き場を失った乳肉が胸を圧迫して
いたのである。布を解き、拘束から解放された夏美は大きく深呼吸をした。
「夢の世界でも胸は大きくなるんですね・・・」
裸の胸を見下ろすとまた少し大きさが増したのを感じた。
「明日は布をきつく締めすぎないように気をつけるわ。」
着替えを横で見ていた早乙女は夏美にそのようにいった。そしてできるだけ早急に
グランポワを解呪しなければならないと思いを強くしたのであった。