次の日も見事な快晴となり、強烈な日差しが部屋に差し込んでいた。
早乙女は今日一日の計画を二人に説明していた。
「やはり、マドラ司祭に会いに行くしかないと思うの・・・。」
「そうね。ノラ司祭って人はこの国の外、辺境の地パローナに居るっていう話だし、
それに・・・誰に聞いても辺境の地パローナへ行く方法はないみたいだから・・・」
三人は多少のリスクはあるがマドラ司祭に面会するしかないとの考えで一致していた。
「正面突破ってやつだな。」
冴木は剣を鞘から抜いてその切っ先を光に翳した。
「ちょ、ちょっと、冴木君。力ではどうしようもないんだからね。」
「そうよ。私たちが特に害にならないとわかればマドラも何もしないわよ。」
三人はマドラに会いにいくことを宿の女主人イザベルに告げたのだが、この案は彼
女に大反対された。しかし、早乙女はマドラに会いに行かねばならない理由をイザ
ベルに打ち明けて説明した。
「あんたも相当頑固な女ね。まぁ、私も同類だけど・・・。よくお聞き。城には二
つの門があってね、通称、貴族の門と庶民の門と呼ばれている。貴族の門はまさに
貴族やご用達の商人、上級の神官や軍の幹部が使う城門よ。ここに行っても追い返
されるだけ。庶民の門には門衛が居て、そいつに城内への入場を申請するの、出入
りの商人や城の工事を請け負う者たちでごった返しているからすぐわかるわ。でも、
順番待ちで日が暮れることもあるし、申請をしても却下されるなんてざらだから本
当に覚悟がいるわよ。」
「わ、わかったわ・・・」
三人はイザベルの忠告を胸に庶民の門へと向かった。
朝早くだというのに門の前には人だかりができていた。後ろで待っていても一向に
順番が回ってくる気配はない。申請者の数に対して門衛の数が少なすぎるし、また、
門衛は何かにつけて申請を通そうとしないので罵り合いの口論がすぐに発生し渋滞
を発生させた。その日、三人はへとへとになった挙句、門衛のところまで行くこと
すらできなかった。
宿に帰ると疲れ切った三人をイザベルが迎え入れた。
「わっはっはっ。やっぱり、駄目だったわね。まずは温かいスープでもお飲み。」
豪快に笑うイザベルにムカッとしながらも三人は空腹の胃袋にスープを収めた。
「予想以上だったでしょう?うちのお客さんで1週間粘ったけど結局あきらめた人
もいるからね・・・。」
「じゃあ、明日は夜明け前に行って並びましょう。」
「ふふふ、皆考えることは同じよ。それよりもあたしにいい考えが浮かんだのよ。
食事の時間が終わったらその娘を連れて私の部屋まで来なさい。」
早乙女と夏美は顔を見合わせた。
次の日、三人は日の出と共に起き出して身支度を整え、城へと出発した。
冴木は夏美がいつもの修道服ではなく、白っぽいローブに身を包んでいるのを不審
に思った。彼がそれを指摘するとイザベルから借りたとっておきの服だとの答えが
返ってきた。そのローブは絹でできており陽の光を受けキラキラと光っている。
それを纏った夏美はいつもよりも美しく感じられたが、イザベルのアイデアという
のが目立つ白のローブを着るだけのことだったのかと冴木は内心少し落胆したのだった。
門の前には早い時間なのに、昨日と同じくらいの人山ができていた。しかし、
早乙女は庶民の門を通り過ぎて貴族の門へと向かっていた。
「ちょ、ちょっと。そっちじゃないだろ。」
冴木は慌てて注意をしたが、早乙女は黙ってついてきなさいと彼を制した。そして、
貴族の門の近くまできたときに早乙女は夏美に合図を送った。
「夏美、そろそろ取りましょうか。」
「は、はい。」
夏美は早乙女の合図でローブの紐を解き、そろりと羽織っていたものを脱いだ。
彼女は美しい真紅のドレス姿になっていた。しかもその胸元は大きく空いている。
大玉のスイカのような巨大なバストはドレスの生地では十分に被いきれずに今にも
こぼれそうになっており、溢れた乳肉は胸の中央に寄せられ、その真ん中には深い
谷間が出来ている。冴木はその優美な谷間に目が釘付けとなり、その大きさに圧倒
された。
「も、もう。あんまり見ないで。」
冴木は夏美に注意され、ばつが悪そうに胸元から目をそらした。夢の世界に来て夏
美の胸がまた一段と大きくなっていることに気づかされたのだった。
早乙女は夏美が先頭を歩くように指示した。大きな胸は一歩踏みしめるごとに重そ
うにゆさゆさと揺れた。目を引く赤いドレスに身を包み、巨大な胸を揺らしながら
歩く若い娘が周囲の注目を浴びないはずはなかった。
城門にいた人々はあっけにとられてその様子を眺め、夏美の優美に揺れる胸元に釘
付けになっている。
「何という豊満な・・・」
「いったい何ターク※あるんだ?」
「34、いや、35タークはあるんじゃないか?」
「なんて美しいのかしら?女神さまのようだわ・・・」
(※ターク:長さの単位。1タークは約4センチ。35タークは約140センチ)
夏美は胸元に人々の視線を集めながら貴族の門に向って歩みを進める。大きい胸の
女性が豊穣の女神の生まれ変わりと伝えられるこの国では老若男女を問わず豊かな
胸に惹きつけられる。城門の周囲では夏美を見ようと人だかりができていた。
門衛の前にいた人たちも夏美の雰囲気に圧倒されたのか不思議と道を開けてくれて
いる。
早乙女は門衛の前に進み出ると、自分たちは旅の者だがマドラ司祭にお目通りした
いと申し出た。門衛は夏美の豊かな胸元に完全に気を取られ、通常必要な確認作業
も忘れて三人を城内に案内するよう部下に言った。
「ホントに成功しちゃいましたね・・・恥ずかしかったぁ。」
夏美は無事に城門を通過できてホッと胸をなで下ろした。
「ははっ、すごい破壊力ね・・・」
早乙女も満面の笑みを浮かべていた。昨晩、イザベルが早乙女に授けたアイデアと
はこれだったのだ。夏美の巨大な胸を見せつけて門衛をメロメロにし城門を突破す
る作戦は見事に成功したのだった。
三人は謁見の間に通されていた。王の椅子と思われるところに背の高い中年の紳士
が座っていた。顎には黒々とした髭を蓄えている。彼がマドラ司祭だった。
マドラは椅子から立ち上がり三人に握手を求めた。彼は王女が病で不在なのを詫び、
自分がその代行をしていることを説明した。
早乙女は自分たちの非礼を詫び、どうしてもマドラ司祭に面会したかった理由につ
いて説明した。
「なるほど、おぬしらは魔術について調べておって、わしに聞きたいことがあると?」
「はい。この国は世界でも特に魔術についての研究が進んでいると聞いております。
その中で第一人者はマドラ司祭様だと伺っております。」
「いかにも、わしはこうやって王女の代行をやっておるが、司祭が本職なのじゃ。」
彼は遠い外国まで自分の名前が知れていると聞き気分を良くした様子だった。
「マドラ様はグランポワという魔術についてご存じでしょうか?」
「うむ。聞いたことがある・・・」
「実はここにいる娘がそのグランポワの魔術にかけられているのです。」
そういうと夏美は一歩前に出て、再び白いローブを取った。真紅のドレスに包まれ
た見事な胸元がマドラの前で露わになった。
「おお。なんと豊満な。」
「日に日に大きくなって困っております。何とか解呪する方法を知りたいのです。」
マドラは眉をひそめてしばらくの間、何かを考えを巡らせているようだった。
「その魔術はこの国の北の山に住んでいたウィラの一族の秘術。残念ながらその一族
も術ももう途絶えておると聞く。」
「そんな・・・マドラ様でもご存じないとは。」
三人はマドラの言葉に意気消沈した。
「気を落とすでない。実はわしの他に知っておるかもしれぬ者がおるのじゃ。」
「ほんとうですか?」
「ああ、ノラといってな。かつてはわしとともにこの国の司祭だった男じゃ。」
「ノラ司祭・・・」
「魔術に関してはわしに勝るとも劣らん知識を持っておるのじゃが、今はこの国に
はおらん・・・世間ではわしがこの国から追い出したことになっておるがのぅ。
わっはっは。」
マドラはそういって豪快に笑った。
「確かノラ司祭は辺境の地パローナというところに住まわれているとか。」
「そうじゃ、パローナじゃ。その地は隣国イメリアとの緩衝地域ゆえ勝手に立ち入
ることはできん。しかし、おぬしたち異国の者ならそれも許されよう。」
「では、パローナに通じる峠の要塞を通ってもよろしいのですか?」
三人の顔が急に明るくなった。
「うむ。よろしい。おぬしたちが通れるようにしておこう。ただし、一つ頼みがある。」
「ノラに会ったらこの国に帰るよう伝えて欲しいのじゃ。過去の諍いは忘れ、力を
この国のために役立てて欲しい。それなりのポストは用意するとな。」
「わかりました。」
三人はマドラに礼を言って謁見の間を退出した。意外にも丁重な扱いを受け三人は
上機嫌であった。パローナへ通じる峠の要塞の通行を許可してもらえたなんて想
定外の大収穫だった。しかも、マドラはその峠まで馬車で送ってくれるという。
夏美と冴木は覚悟して城に向かったのが嘘のようににこやかにほほ笑んでいた。
早乙女もマドラとの話し合いの成果には満足だった。しかし、宿の女主人や客、
モゼフ老師から聞いたマドラのイメージと違いすぎることに驚きを感じていた。
先ほど会ったマドラが勢力抗争で次々とライバルを追い落とし、自分と自分の取り
巻き達に特権を与えてこの国の富みを独占する独裁者とはとても思えなかった。
しかし、それと同時に彼女はマドラの慇懃で丁重な態度に何となく気のおけない気
持ちを抱いていたのであった。