早乙女達が出発の準備を進める中、留守にしていたガイル将軍が戻ってきた。
将軍の話によるとパローナ一円の有力者と隣国イメリアの協力を取り付けてきたと
いうことで屋敷内は歓喜に包まれた。
「3日間の休養の後、いよいよリムナスに向かって進軍する!」
「おおーっ!!」
ガイル将軍の兵士たちの勝どきが森の中に鳴り響いた。
「最大の難関はハスバル将軍が守る峠の要塞だ。要塞を奪えばそれを合図にイメ
リア軍が呼応してリムナスに押し寄せる。パローナ、イメリアの二面から攻められ
ればマドラの軍とてひとたまりもない。」
「おおーっ!!」
「敵は峠の要塞の腰抜け共だ!腰抜けだが守りだけは堅牢だ。皆の者、心してかか
れ!」
「おおーっ!!」
ガイル将軍の演説が終わった後、メリル、ノラ、それから早乙女たちはテーブルに
着いた。そしてガイル将軍から詳細な報告を聞いた。
報告が終わるとノラ司祭が口を開いた。
「問題は峠の要塞だ。猛将ハスバルが守りを固めていると聞く。一筋縄ではいかぬ
だろう。あそこを出来るだけ少ない犠牲で攻め落とすのにどうすればよいか・・・」
ガイル将軍は口をつぐむ。彼の経験から少なからず犠牲が出るのは承知しており、
かなりの苦戦を強いられる可能性があることも知っているようだった。
そこで口を開いたのはなんと早乙女であった。
「私に良い考えがございます。」
一同が早乙女に注目する。
「私たちは先に峠の要塞に帰ります。私たちはマドラの許可を得ていますので、ハ
スバルは迎え入れるでしょう。その際にハスバルにある土産物を持っていくのです。」
早乙女は自分の考えの詳細を皆に話した。一同は早乙女が語る鮮やかな計画に関心
するのだった。
メリル姫が口を開く。
「サオトメさん達は峠の要塞に入ったとして、その後はどうされるのでしょうか?」
「私たちはリムナスの城に向かいます。諸事情があり、できるだけ早く城に着きた
いのです。」
「諸事情とは?」
「それは今は言えません。しかし、後で必ずお話ししましょう。」
「しかし、リムナスの城ではマドラが待ち受けている。みすみす捕まりに行くよう
なものだと思うが。」
「それは心配ありません。私はノラ司祭からデルレの儀式を教わってきたことに
します。そうすればマドラはむやみな扱いはしないでしょう。」
「しかし・・・いずれ我々とイメリア軍が城下に押し寄せた際は戦乱に巻き込まれ
ることになるかもしれませんぞ。」
「覚悟はできています。」
メリル、ノラ、ガイルは三人の決心が相当強いことを感じ取り、明日旅立つことに
了解したのだった。
早乙女たちは荷造りを整え、次の日の早朝にノラの屋敷を後にしたのだった。
ノラの屋敷を後にした三人は森の端で案内人と別れ、ラパの村を通り、温泉の村を
通りすぎる。今回はゆっくりとしている暇はない。歩き詰めの強行軍で峠の要塞の
近くの村までたどり着いた。夏美はデルレで胸が小さくなったお陰で歩くペースを
速めることができた。デルレ後にバストサイズは少しだけ増えたがそれも半ターク
(2センチ)ほどである。
その日は村の宿屋で休み、翌日、三人は意を決して峠の要塞に向かった。
峠の要塞の城壁はパローナ側から見ると遥かに高く、侵入はほとんど不可能のよう
に感じられる。早乙女たちが城門に近づくと衛兵が弓を構え狙いをすませる。早乙
女はマドラの通行許可証を掲げ、衛兵の一人にここへ戻ってきたのだと説明した。
衛兵は砦の中に姿を消した。おそらくハスバルに伺いを立てているのだろう。待た
される間も衛兵たちの弓が三人に狙いを合わせていた。
やがて重々しい音を立てながら大きな城門が開く。入ってよいとの合図である。
砦に入り、早乙女たちはこの要塞の主であるハスバル将軍に目通りした。
「なあんだ、姉ちゃんたちか。用事は済んだのかい?」
「ええ。ノラ司祭にお会いすることができました。これからリムナスの城に戻り、
マドラ様に報告いたします。」
「そうかい。」
「ところで、先日おっしゃっていた黒すぐりの酒とはこれのことでしょうか?」
そういって早乙女は冴木の背負い袋の中から小瓶を取り出した。ハスバルの顔つき
が変わり、身を乗り出して瓶に記された印を見つめる。
「そ、それはまさにラパの村の黒すぐりの酒じゃねえか!?」
「銀貨3枚・・・と言いうのは冗談で、ハスバル様に差し上げようとお持ちしま
した。」
「おおっ、気がきくじゃねぇか!」
ハスバルは冴木の手から小瓶を受け取ると早速栓を抜き、滴る酒を口に注いだ。
「うっ、うめえ!うめえぞ!こりゃあ、飛び切りの上物じゃねぇか!」
「喜んでいただいて光栄ですわ。」
小さな瓶の中の酒はみるみるとハスバルの口に注がれていく。
「おっと、一気に飲んじまうところだった。残りは大事にとっておくか・・・」
「実は大きな樽でお持ちしたかったのですが、何しろ重くて・・・この山道を運ぶ
のは難しかったものですからラパの村の者に依頼して後でここに届けるように申
しました。」
「本当か!?でかい樽でやってくるのか!?」
「出過ぎたまねをしてしまいました。樽を二つ頼んでしまっております。」
「うわっはっは。気に入ったぞ!何でも好きにしてくれ。幾らでも泊まっていって構
わん。」
「では、お言葉に甘えまして馬車を貸していただけないでしょうか?先を急ぐのです。」
「がっはっは。お安い御用だ。すぐに仕立ててやる。」
三人はハスバルに仕立ててもらった快速の馬車に乗り込みリムナス城を目指すので
あった。