夏美の夜の夢

ブラン 作
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馬車は快調に道を進む。日が暮れるころにようやく夕日に照らされたリムナスの城
が見えてくる。馬車は城下町の石畳を進み、貴族の門に差し掛かる。ハスバルの馬
車とわかると城門はすぐに開かれた。
城内ではマドラが執務の途中であったが、早乙女たちが到着したとの知らせを受け
てすぐに面会することになった。マドラは良い知らせを心待ちにしているようだっ
た。
三人は謁見の間に通されると王の椅子にマドラが腰を掛けて待ち構えていた。
「戻ったか。首尾はどうであった?」
「大変苦労しましたがノラ司祭とはお会いすることができました。しかし、グラン
ポワの解呪の方法はご存知ないとのことでした。」
「そうか・・・」
「しかし、デルレの儀式については教えていただきました。」
「おおっ!ま、まことか!?」
「本当でございます。この娘をご覧ください。胸回りは38ターク(152センチ)
ほどまで増えましたがその儀式で24ターク(96センチ)ほどになりました。こ
れが乳房から滴り出た女神のミルクです。」
早乙女は聖なるゴブレットに満たされた光り輝く液体をマドラに見せた。
「おおこれは。まさしく。」
女神のミルクは聖なるゴブレットにあるうちは聖なる光をたたえた液体であるが、
それ以外の器に移すと次第に光が失われ、徐々に昇華して最後には失われてしまう。
「実は・・・おぬしたちにさらに頼みたいことがある。」
マドラは周囲にいた者たちに出ていくように告げ、人払いをした。
「これからわしがいうことは決して口外禁止じゃ。よいな?」
「はい。」
「病気のオリビア女王のことなのじゃ。実は病気ではなくその娘と同じグランポワ
の魔術にかかっておる。」
三人は既に知っていたが意外だという体で聞いた。
「女王にもその儀式を執り行って欲しいのだ。」
「わかりました。私とここにいる冴木が執り行いましょう。」
「できるだけ早いほうがよい。早速、明日にでも」
「マドラ様。デルレの儀式が行えるのは満月の夜だけなのです。」
「そうだったのか・・・。満月まではまだ数日あるな。」
「それにいろいろと準備も必要です。」
「わかった。必要なものは何でも言ってくれ。それから儀式の日までは城内で寝泊
まりするがよい。」
三人に部屋が準備され、儀式を終えるまでは城内に滞在することになった。
本日は十分に休んで旅の疲れを取るように言われ、三人はそれぞれの部屋へと案内
された。
夏美は部屋で修道服を脱ぎ胸に巻いた布を解いていた。胸が窮屈に感じられる。
久しぶりに味わう感覚だった。パローナでの生活ではほとんど大きくならなかっ
た胸が、峠の要塞を越えてリムナス入ったとたん以前のように膨らみ始めたよう
だった。巻尺の数字は25ターク(100センチ)を少し超えていた。
早乙女の言っていたように高い山で隔てられたパローナとは神々のエーテルが降り
る量が異なるのだろうか。改めてその不思議な現象について考えさせられるのだっ
た。

次の日、三人はオリビア女王への面会が許されることになった。
「よいか。改めて言うがこれから見聞きすることは絶対に口外禁止だ。」
マドラは眉をぐっと寄せながら三人に念押しして城の奥へと案内した。石造りの城
内を歩くこつこつという音だけが辺りを支配していた。
いくつかの角を曲がって階段を上がったところで扉に突き当たった。その扉を開け
て外に出ると目の前には大きな塔が現れた。城の東の塔である。マドラが塔の入り
口の重厚な扉を開くと中にも同じような扉が見えた。
「ここは限られた者しか立ち入れぬのじゃ」
扉を開けてらせん状の階段をしばらく上がってゆく。オリビア女王がいるのは一番
上の階のようだった。階段を上がるとそこには二人の衛兵がおり、部屋の入り口を
見張っている。
夏美は衛兵のうちの一人の顔を見てハッとなった。
その青年は古代ギリシャ彫刻のような美しい顔立ちをしている。夏美はその顔とそ
の青い目に覚えがあった。そう、夢の中で夏美の巨大な乳房を弄んでくるあの青年だ
った。
青年は夏美には何の関心も示さず与えられた任務を遂行していた。もう一人の衛兵
がマドラの指示で女王の部屋の扉を開ける。その中の様子に三人は驚く。 
「(な、なんなのこれ?)」
部屋は円形の広い空間であり、その中央に巨大なベッドが置かれている。そしてそ
のベッドの上には山のように大きな塊が二つ鎮座しており、上から布が掛けられて
いる。
三人はすぐにそれが何であるかがわかった。
「(これが、オリビア女王の胸・・・)」
「(なんて巨大な乳房なんだ)」
山の高さは冴木の背丈以上もある。冴木は息を呑んでその光景を見つめた。
その隣で夏美がわなわなと震えている。心配して早乙女が小さな声で声をかける。
「夏美、どうしたの?」
「この部屋、見覚えがあるんです。部屋の壁、絵、燭台、私がいつも夢に見ていた
部屋なんです・・・」
マドラは小声で話す二人に注意を与える。
「女王の御前であるぞ!私語は謹まれよ。さあ、こちらに。」

三人は女王のベッドの脇へ近寄る。巨大な乳房の山肌から横たわったオリビア女王
の顔が見えた。女王はまるで息をしてないかのように目を閉じている。マドラが静
かに声をかけると女王はゆっくりと目を開け、空を見つめるような力のない表情で
三人の姿を眺めた。
ぞっとするほど美しい、冴木はそう思った。顔はメリル姫とそっくりだが、オリビ
アにはまた違った美しさがあった。メリル姫が健康的で人々に温かみと安心感を与
えるのにたいして、オリビア女王には病的で何か儚さ、不安定なものが感じられた。
しかし、それが女王の美しさを一段と引き立てているのだった。
女王は何か話そうと口を少し動かしたがそれは声にならなかった。巨大な胸とは対
照的に手足や身体はやせ細っておりかなり衰弱が酷いようだった。
マドラは女王に三人の紹介をした。話を聞くことはできるようだった。
早乙女は異国から来た有能な魔術師と紹介された。デルレの儀式を執り行うことが
でき、実例もある。女王は何も心配しなくてよいとマドラは熱弁を奮った。女王は
デルレと聞くと少し怯えた表情を浮かべたが、早乙女に向かって力弱く微笑みなが
ら痩せた手を差し伸べた。
早乙女はその手を取り女王の挨拶を受けた。冴木は早乙女の助手として紹介されデ
ルレの儀式においてはホワイトナイト役になる青年と紹介された。早乙女と同じよ
うに冴木も女王の手を取った。
夏美は女王と同じくグランポワにかかっている女性であると紹介された。女王は顔
を夏美の方に向けてじっくりとその顔を見た。女王は何か言いたげであったが声に
はならなかった。女王は弱々しく細い腕を夏美に差し出した。その手が触れた瞬間だ
った。
(パチン)
静電気が流れたときのような乾いた小さな破裂音がしたかと思うと夏美が急に苦し
み始めた。
「うっ、く、く、胸が苦しい・・・」
夏美はその場で前のめりにうずくまり苦しんでいる。 
「女王の御前であるぞ!」
マドラは大きな声で注意をしたが夏美はうずくまったままである。
「ま、まさか。冴木くん!早く夏美を外に連れ出して!」 
早乙女が大声でそう叫ぶと冴木は夏美を抱きかかえ言われた通り部屋の外に運ぶ。
しかし、夏美の苦しみは納まらないようだった。
「く、苦しい胸が・・・外して」
冴木は慌てて夏美の修道服をまくり上げると、胸に巻かれた布がぎゅうぎゅうに張
りつめているのがわかった。布の結び目はきつく締まっており解けそうもない。
冴木は衛兵から短剣を奪い、きつい布を慎重に裁断していく。布が切られるたびに
ぎゅうぎゅうに張りつめた乳肉が弾けるようにこぼれ出してくる。布をすべて切り
終え、はだけた夏美の乳房はむくむくと大きさを増しているのがわかる
「すぐにここから運びだして!」
早乙女が叫ぶ。冴木は夏美の修道服をおろし、彼女を背負って階段を降り始める。
背中でまだ夏美の乳房がむくむくと大きさを増しているのを感じる。
冴木が重さで押しつぶされそうになるのを二人の衛兵が手伝って支えてくれてい
る。ようやく塔の一階にたどり着くと、衛兵たちと力を合わせて夏美の部屋に運び入
れた。 
胸が膨らむ速度は徐々に落ち着いてきたようだが依然として大きさを増している。
ベッドに寝かされた夏美は気を失っているようだ。
「共鳴型の共時トンネル効果だわ・・・」
「いったいどういう事なんですか!」
冴木は苛立っているようだった。
「オリビア王女の胸に蓄えられた神々のエーテルが夏美の方へ流れ込んだのよ。
シンクロニティの高い二人には起こってもおかしくない現象だわ。」
胸の膨らみはようやく落ち着いたが、ベッドに横たえる夏美にかけられたシーツは
大きく盛り上がっている。
冴木は夏美が目を覚ましたら驚くだろうなと思った。冴木と早乙女はベッドの脇に
座って夏美が気が付くのを待った。しかし、夏美は気を失ったまま次の日まで目を
覚まさなかった。