アイデアル・ドール

ブラン 作
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次の日、多恵子は昼前に目が覚めた。
自宅のベッドの上で服を着たまま突っ伏して寝ていたのだった。

「あれ?わたし・・・どうして服のまま寝てるの?」

昨日の夜、服を着替えて外に出かたところまでは覚えているが、多恵子にはそ
のあとの記憶が抜け落ちていた。

「外に出てそれから・・・うーん、思い出せないわ。私、一体どこに行ってた
の?」

身体の節々がだるい感じがした。

「体のあちこちが痛いわ・・・運動でもしたみたい。本当に何も思い出せな
い・・・」

多恵子は男と一晩中交わっていたこともすっかり覚えていなかった。激しい
セックスをしたおかげで体の節々がだるかったが、昨晩のようなムラムラとし
た変な気分は過ぎ去りすっきりとしていた。
ベッドから起き上がりキッチンで水をごくごくと飲み干す。窓ガラスにはブラ
ウスを着たリナの姿が写っていた。

「あっ!そうだ。やっと、連続装用が終わったわね♪」

多恵子はようやく7日間の連続装用を終え、トランス・システムのスイッチを
オフにした。リナの体が多恵子の体へと戻った。この7日間のほとんどをリナ
の体で過ごしていたのでそれに慣れてしまって逆に多恵子の体が不自然に感じ
た。
多恵子はだるい身体をしっかりさせるために熱いシャワーを浴びることにし
た。
服を脱いで久しぶりに鏡に映った北山多恵子の姿をじっくり眺めると、この7
日間で少し痩せたように感じた。幾分ふっくらしていた頬はシャープになり、
気になっていたウエスト回りのお肉もかなり減って引き締まっているように見
える。
リナの姿になっている間は飲食しないし、空腹感も感じない。一定時間、多恵
子に戻って食事とトイレを済ませるがまたすぐリナに戻るという生活を送って
いたので食事は最低限、間食も獲らないので自然と痩せる。体重計に乗ると大
きく数字が減っていることに多恵子は大喜びした。

「やった!ダイエットまでできちゃうなんてアイガールに感謝ね。」

多恵子は連続装用7日間の体験をレポートにまとめた。もちろん自慰行為のと
ころは伏せてである。もし書けばこれも結構な報酬がもらえるのだが多恵子は
やはり恥ずかしくて書けなかった。
部屋には7日間で作製した人形やぬいぐるみが沢山並んでいた。多恵子は一番
出来のいいのを一つ残してその他はネットで売りに出すつもりにしている。
それが売れればまたかなりの臨時収入が得られるはずである。
これだけ人形作りに没頭してみてやはり多恵子は人形が好きだということが改
めて感じた。アイガールのモニターが終わってもバイトの日数を減らしてでき
るだけ人形製作に力を入れようと心に誓うのであった。

連続装用を終えた後、再び忙しいアルバイト生活に戻った。
一週間休んだ後なのでコンビニもファーストフードもシフトが目一杯に詰まっ
ており忙しい日々を過ごした。それでも多恵子は以前に比べて生活に張り合い
を感じるようになっていた。アイガールを体験したお陰で、人からどう見られ
ているか意識するようになり、身だしなみも整え、最低限のおしゃれもするよ
うになった。

「北山さん 最近いいことあった? なんだか色っぽくなったよね?」

そう話しかけてきたのはファーストフードのアルバイトの女性だった。

「そう?そんなことないわよ。」

「本当に?お肌もプルプルしてるし、何か使ってるの?」

「何も使ってないわよ。変なこと言うわね。」

多恵子は色っぽくなったと言われて内心嬉しかった。
コンビニの男性店員の間でも多恵子の評判はよくなっているようだった。

やがてモニター期間が終わり、アイガールを返却する日がやってきた。
多恵子はリナに変身してしばらくその姿を名残り惜しんでいたが、決心してト
ランス・システムのスイッチを切った。彼女はそれを元の箱に収めて梱包する
とアイデアル・ドール社が指定した配送業者にそれを引き渡した。

アイガールを返却してから一週間が経ったある日、アイデアル・ドール社から
一通の手紙が届いた。

『北山 多恵子 様
 このたびはアイガール21のモニターにご協力いただき誠にありがとうご
 ざいました。
 モニターの方々から寄せられた貴重なご報告をもとに、さらなる商品開発
 に活用させていただきます。特に北山様のレポートは細部にわたって詳し
 く書かれており、お陰様で貴重なデータを収集することができました。
 誠にありがとうございました。
 当社では新たなアイガールの開発も進めており、またモニターの募集を検
 討しております。その際は北山様にも案内を差し上げますので何卒ご検討
 の程、よろしくお願いいたします。

 同封の明細書にはお約束しておりました報酬の内訳を記載しております。
 後日、北山様の銀行口座に振り込みいたしますのでご確認ください。

                  IDEAL DOLL LTD.,』

多恵子は明細書に目を通すとその金額に驚いた。アルバイトの給料にして3ヶ
月分ほどの数字が印字されている。オプション項目の“水泳”と“連続装用7
日間”のボーナスが大きいようだった。

「こんなにもらっていいのかな? でも水泳と連続装用はそれなりに苦労した
から・・・ま、いいか。」

その後、アイガールが発売されたというニュースは聞かなかった。
多恵子はインターネットなどでチェックするようにしていたがそれらしき
ニュースは見つからなかった。多恵子の人形製作も徐々に軌道に乗り出し、
次第に日常に忙殺されてアイガールのことは彼女の記憶から薄れていくので
あった。しかし、

「あんっ、あっ、ああっ、いいっ・・・き、きもちいい!!・・・も、もうだ
めえっ!いっちゃうっっ!!」

困ったことにモニター期間中に多恵子の胸やあそこは以前よりも格段に感じや
すくなってしまったようで毎日のオナニーが日課になってしまった。最近、
色っぽくなったとか肌のつやがよくなったとか言われるようになったのもこ
のことが関係しているようである。

END