美容室のお姉さん 14

ブラン 作
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最近、お姉さんの機嫌がいい。
女心の読めない僕にでも大体それくらいのことはわかる。
一つにダイエットが順調にいっているということが考えられる。しばらくジョ
ギングを続けた結果、気にしていた体重は少し減ってきたようだ。
そのためジョギングに行く回数も少し減ってきていて、帰りにホテルで休憩す
るのを楽しみにしている僕は少し残念な気分を味わっている。
もう一つの理由、おそらくこれが大きいのだと思うが、さやかちゃんに友達が
できたことだろう。あれだけの無口で人見知りの彼女だから今まで友達という
ものができたことがなかったらしい。しかし、最近クラスにやってきた転校生
と友達になったらしく一緒に学校へ行ったり、帰りに遊んだりしているそう
だ。先日、さやかちゃんがその友達を連れて家にやってきたことをお姉さんは
嬉しげに僕に語ってくれた。
お姉さんが言うにはかなり変わった娘らしいが、どんな子にせよ娘に友達がで
きたのは母親として大変な喜びのようだ。
具体的にその子のどういうところが変わってるんですか?と質問したのだけれ
どお姉さんはにやにやと笑って真面目に教えてくれない。またそのうち来ると
思うからその時まで楽しみにしてなさいと言うのだった。


本城まいがやってきたのはある平日の夕方だった。
僕は大学の講義が休講になり早めに家に帰ってきたとこで、玄関先の扉を開け
たら丁度さやかちゃんとその子とが家に上がろうとしているところだったの
だ。

「こんにちは!お邪魔してます!」

同じ制服を着た女の子はだいたいさやかちゃんと同じくらいの背丈で、日に焼
けていて活発そうな感じだった。至って普通の中学生に見えるが、一体、この
子のどこが変わっているというのだろう?

「こんにちは。僕はこの家に……」

「あっ!!家庭教師の浜口先生ですねっ!私、さやかのクラスメイトの本城ま
いって言います。前にお邪魔したときに先生のお話をしてて今日お会いしたい
なと思ってたんです!」

彼女の元気な声が廊下に反響した。
僕らはリビングへと移動し、僕がキッチンで飲み物を準備した。
本城まいはソファーに腰かけさやかちゃんと何やらしきりに喋っているが、何
のことを喋っているのか聞き取れなかった。しかも、しゃべっているのはほと
んど彼女の方でさやかちゃんはうなづいたり、うんとか違うとか言ってるだけ
だった。

「あのー……。先生はさやかのことどう思ってます?」

「へっ?」

質問の意味がよくわからなかった。

「この子、すっごく可愛いでしょう?いくら歳が離れてるといっても、やっぱ
りさやかの魅力の虜になっちゃったりしますよね?」

この子は唐突に何を言い出すのだろう。お姉さんがちょっと変わっていると
言ってた意味がわかってきた気がした。

「いやぁ、確かにさやかちゃんはかわいいし、出来のいい教え子だけど……」

「そういうのじゃないんです!見てください。さやかのこの大きなおっぱ
い……。毎日これを見てたら変な気が起きたりしないですか?」

「そ、それはさすがに……」

僕は中学生を相手になんて言っていいかわからなかった。それに下手に答える
とさやかちゃんを傷つけてしまいかねない。
さやかちゃんが小声で彼女に何か言ったようで収まったようだった。

「そうですか……よかったです。私は転校してきて初めてさやかを見たときに
どきゅんとハートを撃ち抜かれてしまったのですっ!なんて可憐で清楚でしか
も儚く美しい少女なんでしょう?そして大人も顔負けの魅力的な大きな胸。ク
ラスで誰とも接することなくぽつんと孤独にしている彼女と何とか近づきた
い。親密になって、そして守ってあげたいって思うようになったのです。私は
そのとき、『里中さやかファンクラブ会員番号1番、兼親衛隊長』になること
を決意したんです。さやかを苛めたり、変な視線を向けてくる奴は私が一切許
さないのです!」

確かにかなり変な子だ。
さやかちゃんとは言うと本城さんの手を引っ張り、気恥ずかしさから僕の前か
ら消えてしまおうとしている。
全く対称的な二人だと思った。思ったことをずばずばと包み隠さず何でも言っ
てしまう本城まいとほとんど何も喋らないさやかちゃんは見事な凸凹コンビだ
といえる。


日が暮れる頃になってお姉さんが仕事から帰ってきた。
本城まいが帰った後の里中家は大きな嵐が過ぎ去った後のように静かだった。
さやかちゃんは本城さんを送った後は自分の部屋に籠っている。
僕は早速、彼女がやってきたことをお姉さんに報告した。

「うわさ通りの変わった子ですね。」

「ふふふ、そうでしょう。でもいい子じゃない?」

「そうですね。異常にさやかちゃんに惚れ込んでますね。」

「学校ではさやかにくっついて離れないらしいわよ。少しでもちょっかいを出
す男子がいたら物凄い剣幕で追い回すんだって。」

「じゃあ、最近、さやかちゃんが学校を休まなくなったのは彼女のお陰です
か?」

「そのようね。学校では本城さん、家では浜口くんが見てくれるから私も安心
だわ。あ、そうそう。あの子、浜口くんのことをライバルだと思ってるみたい
よ。」

「ライバル?何の?」

「もちろん恋のライバルじゃない。」

「へっ?」

お姉さんの言っていることが全く僕には理解できなかった。
本城さんは僕がさやかちゃんを狙っているとでも思っているのだろうか?腑に
落ちない顔を浮かべる僕を見てお姉さんはまたニヤニヤと笑っている。
僕にお姉さんの言ったことの意味がわかるのはもっと後になってからのこと
だった。