乳神様の洞くつ 1

ブラン 作
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「はっ! やあっ! えいっ!!」

マリアは朝日を浴びながら自宅の庭で細身の剣を振っている。
剣先は絵を描く筆か何かのようになめらかな軌跡を描き、時々陽の光を反射し
てきらりとまぶしく光る。金髪の長い髪は彼女の動作に合わせて左右に揺れ、
額から噴き出した汗が頬を伝わり地面にポタリと落ちる。すらりと背が高く、
適度な筋肉がついて均整のとれた美しい身体。贅肉というものはほとんど見ら
れない。
マリアはロブリア国の女剣士の中で随一と言われるほどの実力を持ち、その技
量の高さは男たちからも一目置かれている。国の剣術大会では、男に交じって
出場し優勝とはいかないまでもかなりの好成績を収めていた。また、彼女は剣
の腕に加えて見る者を虜にしてしまうほどの美貌を持ち合わせており、試合に
は彼女を見るために大勢の観客が殺到し、家には求婚者が毎日のように押し寄
せるという人気ぶりだった。

日課の朝稽古を終えると布を取って丹念に汗を拭い、朝食の準備が整う食卓へ
と向かった。

「朝早くから頑張るわね、女剣士さん。」

「リンダ!?」

マリアと比べるとかなり小柄な女性が食堂の壁に背中を持たせかけている。
日々やってくる訪問者を追い返すために高い給金で有能な門番を雇っているの
だが、リンダはいとも簡単にそこをすり抜けてきてしまう。

「門番の奴に見つかったら追い返されるでしょ?だからこっそり入ってき
ちゃったのよ。」

腕の良い女盗賊であるリンダにとって屋敷の門をくぐり抜けることくらい簡単
なことだった。華奢な体に細い手足、くりっとした大きく青い瞳のせいで顔は
かなり幼く、子供っぽく見えるがマリアとは同い年である。
リンダは敢えてそう見せているのである。初めて会う人はまさか彼女が盗賊だ
とは誰も思わない。

「もう、何の用なの?」

マリアはいぶかし気に彼女を見た。彼女が持ってくる話でいい思いをしたこと
がない。半年ほど前も財宝が眠るというダンジョンに二人で入り、苦労して見
つけた宝箱はすでに中が開けられ、おまけに魔物の毒液を浴びてボロボロに
なった装備をつけて恥ずかしい思いをしながら王都ロブルまで帰ってきたのを
思い出した。

「いい話があるのよ。」

ほら、きた。とマリアは思った。
正直言って女剣士としてある程度有名になった彼女は今のところお金にも困っ
ておらず、剣術の大会や指導などで日々忙しい生活を送っている。わざわざ危
険な思いをしてダンジョンに潜りにいく必要などないのだ。
適当にリンダの話を聞いて断ろうとその時は思ったのだった。