乳神様の洞くつ 3

ブラン 作
Copyright 2015 by Buran All rights reserved.

私は次の日からの予定を全てキャンセルして、ダンジョンに潜る準備を整え
た。
私がエントリーしていた武闘会の役員から取りやめずに是非参加を検討して欲
しいと使者がやってきた。私が出ないと観客が集まらず赤字になってしまうら
しい。でもそんなことは関係がない。リンダと一緒に例の洞窟に向かうと決め
たのだ。

動きやすいなめし革の鎧を身に着け、細身の剣を腰につけた。
私の売りはスピードと技。どんな怪力でも攻撃が当たらなければ意味がない。
攻撃をひらりと交わして素早く踏み込み一撃をお見舞いするのが私のスタイ
ル。そのためには装備は軽く動きやすいものでなくてはならない、剣も軽量で
振り回しやすいものを選んでいる。
リンダがやってきた。
盗賊の彼女は私以上に軽装だ。必要なものは現地で調達するのがモットーであ
まり荷物を持ってこない。時々、それで痛い目に会うこともあるんだけど、私
と一緒に速く動けるのはうれしい。

「準備はできた?」

「ええ」

昼間に動くと誰かに目撃されてはいけないので日が暮れてから出発する。私は
ちょっとした有名人だから、誰かに見られると騒ぎになってしまう。夜陰に紛
れて王都ロブルを出る。目的地までは歩いて5日ほどかかる。

「有名人も大変ね。美人すぎる女剣士さん。」

リンダが言ったのは私に勝手につけられたキャッチコピーだった。美人と言わ
れて悪い気はしないが騒ぎ立てられるのは好きではない。毎日のように求婚し
にやってくる男どもにうんざりしているとリンダに愚痴をこぼす。隣で歩く彼
女もそれに被せた。

「私も最近、このむねで困ってるのよ。男たちが目聡く見つけて、結婚の申し
込みに来るのよ。ほら私、この通り童顔でしょ?それにこのおっぱいの組み合
わせはたまらないんですって。うふっ。」

少し乳が膨れたくらいで……ほんとこの国の男たちはどういう神経をしてるの
かしら?
ま、でも女でも羨ましく思ってしまう程の胸なのだから仕方がないけれど。
もしかして、あのお方も大きな胸が好きだったりするのかしら?

「でもさあ、マリアがむねおっきくなって帰ってきたら国中が大騒ぎになるん
じゃない?巨乳すぎる女剣士…なんて言われてね。その大きなおっぱいがこの
国の王子の目に止まり、王子様から直々の愛のプロポーズ……なんて」

「ば、ばかっ!!」

「ははは、赤くなったぁ。ったく、マリアの王子様は本物の王子様なんだから
たちが悪いよね。」

「ち、ちがうっ!あの方は雲の上のお人。単に尊敬申し上げてるだけよっ!」

「もう、そんなにムキにならないで。マリアが数々の求婚を断りづつけている
理由も、剣術の腕を磨いていつか近衛兵に召し抱えられ、王子様を警護するこ
とを夢見ているなんてこともちゃんとわかってるんだから。」

「リンダ!それ以上言ったら本当に斬るわよ。」

幼い頃、父に連れられて王宮に行った際に私は王子様に出会ったのだ。
近衛兵を務めていた父は幼い王子の世話役も兼ねていて、よく私と王子を二人
で遊ばせたのだ。金髪の端正な顔立ちの王子を私はいつしか慕うようになって
いた。
大きくなって王宮には出入りしなくなったが、何かの行事で王子を見かけると
立派になった姿に驚いたのを覚えている。そしていつか私も近衛兵になり王子
様に仕えるのだとそのとき心に誓ったのだ。
当然、私と王子では身分が違うのはわかっている。それに王族は他国との同盟
関係を維持するために国外から花嫁をもらうのが通例だから王子と結婚なんて
できないのはわかっている。でも王子のそばに居られるだけでいい。

「現実をみなさい。王子様だってそのうち外国から花嫁をもらうわ。あなた自
身の幸せを考えないと。」

リンダの言葉は私の心にずしりと響いた。彼女の言う通り王子に恋心を抱いて
いてもどこにも進めない、そんなことはわかっているのだけど。


数日かけてようやく目的のダンジョンの入り口に到着した。
リンダの情報によれば中は広いが、しかし階層はそれほど深くないということ
だった。
不思議な力が働いていて中には女性しか入ることができないらしい。男が入ろ
うとするとバリアのようなもので弾かれ吹き飛ばされたそうである。

「ふぅ、やっと着いたわね。むむっ、この足跡……。かなりの人がここを通っ
てるわ。」

このダンジョンの噂が広がったのだろうか、早くしないと先を越されてしま
う。
ただ、私としては中の魔物を倒し、いくらか胸が大きくなればそれでいいのだ
けれど。

「マリア、行くわよっ!」

「うん!」

こうして私たちはまがまがしい雰囲気漂うダンジョンに足を踏み入れたのだっ
た。