乳神様の洞くつ 11

ブラン 作
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「えいっ、やあっ!」

日は流れ、剣舞を披露する前日になっていた。
マリアはこのところ練習に明け暮れていた。しばらくの間、大きな胸のせいで
稽古もできず、召使いたちにかしずかれて生活を送っていたので身体がなまっ
てしまっていたのだが、それを取り戻すための激しい稽古を自らに課したの
だった。

「はあはあ……。今日はゆっくり休んで明日に備えよう。明日、うまくいくと
いいんだけど。」


翌日、マリアは召使いを一人連れてロブル城へとやってきた。
城はお祭りムードできらびやかな装飾がなされており、大勢の人で賑わってい
る。外国からも来賓がやってきているようで見たことがない美しい馬車がたく
さんとまっている。
城門をくぐり、剣舞を踊る園庭へと進むと大勢の侍女たちが忙しそうに酒宴の
準備を整えていた。

「やあ、マリア殿。よく来てくれた。」

マリアを出迎えたのは近衛隊長のダインだった。歳は50を超え、王の片腕と
呼ばれるほどの男だが見た目は若々しく、精悍でいかにもたたき上げという感
じのする男だった。
マリアは少し緊張していた。もし今日の仕事がうまくいけば夢であった近衛隊
に召し抱えられる可能性もあるからだ。マリアはダインに挨拶をし、今日の式
次第、自分の出番について説明を受けた。そのあと、控室に通されて出番が来
るまでそこで待機しているようにと指示があった。

「いよいよね。最高の演技を見せるわよ。」

マリアはそう自分に言い聞かせた。
いつもより心臓の鼓動が早くなっているのに気づかないふりをしながら、ゆっ
くりと荷物を解き剣舞のときに着る衣装と剣を取り出した。
衣装は踊り子が着るような絹のドレスで瀟洒なレースときらきらと光る石で美
しく装飾されており、くるりと回るとふわりと花が咲いたようにスカートが広
がり、裾の切れ目から彼女の美しい脚がちらりと見えるようになっていた。剣
は刃がついていない踊り専用のもので鏡のように美しく、柄はきらびやかに装
飾されていた。

いよいよ侍女が呼びにやってきた。
マリアと召使いは侍女の後について園庭の脇までやってくると、酒宴がたけな
わになっている様子が伺えた。
王と王妃が並んで座り、その周囲を大臣や各国の来賓たちが取り囲んでいる。
そこから少し離れたところに王子が座っているのが見えた。マリアはその愛お
しい姿を認め心臓の鼓動が高鳴った。
召使いがマリアのドレスを引っ張って言った。

「マリア様、王子の周りに座っているのが隣国の姫たちです。いずれ劣らぬ美
しい姫様。きっと王子はあの中から将来のお妃を選ばれるのですよ。」

何の気なしに召使いの言ったことがマリアの心にぐさりと突き刺さった。
王子は周りの姫たちと楽しそうに談笑している。彼女たちはきらびやかな宝石
を身に着け胸の深くあいた美しいドレスを着て王子に親しげに笑いかけてい
る。どの姫もあふれんばかりの豊かな胸をしており、彼女たちが王子に魅力を
最大限にアピールしているかのようにみえた。

いよいよマリアの出番が回ってきた。
園庭の中央まで導かれて王の前で深々と一礼をした。
しばらくすると静かに弦楽器の演奏が始まる。ざわざわと騒がしかったお喋り
が静まり、マリアに注目が集まる。
マリアは演奏に合わせて剣を高らかに上げるともう一方の手を滑らかに振り、
舞を踊り始めた。観客たちは踊りを舞う美しい女を見つめた。マリアが剣を振
るとキラリと剣先が光り、身体をくるりと回転させるとドレスが優雅にはため
く。おしゃべりをしていた客も次第にマリアの演技から目が離せなくなり、そ
の美しい舞を息をのんで見守るようになった。

園庭はしんと静まり、静かな演奏のほかはマリアが振る剣の音と息遣い、衣擦
れの音くらいしか聞こえなくなった。
全ての観客たちがマリアの舞を見つめていた。その視線の中には王子のものも
あった。
マリアが時々王子の顔を確かめるのでその度に目が合ってしまうのだった。

「王子様……。私の最高の演技をあなたに捧げます。」

マリアは心の中でそうつぶやきながら美しい舞を踊った。
舞が終盤に差し掛かり、マリアの頬には汗が滴っていた。うまく踊れていると
いう自信がマリアの演技をいっそう可憐にダイナミックに見せた。観客は息を
詰めてそれを見守っている。

(あっ)

マリアは背中に少し変な感触を覚え誰にも聞こえないほどの小さな声を漏らし
た。
ブラの留め具のギシッと軋む音が聞こえたからだ。

(お願い!この剣舞が終わるまでもって!)

ここ数日、激しい練習を重ねてきたため小さく見せるブラにはかなりの負荷が
かかっていた。そしてその留め具はもうほとんど限界に近くなっていた。
マリアは背中を気にしながらも舞を続け、ようやく最後まで舞を演じきった。

そう思った瞬間だった。

(バチン!)

とうとうブラの留め具が耐え切れずに崩壊したのだ。
胸をきつく締め付けていた力がふっと抜ける。ブラに抑えられていた乳房が一
気に膨らみはじめ、美しい絹のドレスを窮屈に張り詰めさせてから、とてつも
ない力でそれをビリビリと破く。

「きゃあああっ! だ、だめっ!」

(ボイーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!)

ドレスの拘束を破って巨大な乳房が一気にあふれ出し前に大きく膨らんだ。
大きな胸がはだけて露わになり、マリアはそれを隠そうとするも両手では抑え
きれない。
マリアはずっしりを重い乳房を抱えきれずその場にへたり込んだ。こうなると
もう身動きはできない。


「な、なんだ!?」
「王の前で、け、けしからん!?」
「早くその者を何とかせよ!」

見守っていた人たちが騒然となる。

「おおーーっ」
「でっ、でかい!?」
「なんて巨大な乳なんだ!」

外国からの来賓たちもきょろきょろとお互い目を合わせその様子に驚いてい
る。

「ロブリアにはこんな乳の娘がいるのか」
「むほおっ。なんと豊満な…」
「我々の国にもここまで大きいものはおらん」

マリアの召使いが主人の元へと駆け寄ってきた。
彼女は機転を利かせて持ってきていた天女の布をサッと広げた。
布が青白い光を放ちながら広がり、マリアの胸にまとわりつく。そうして胸を
完全に包んでしまうとふわりと浮いたようになる。

「マリアさま!こちらへ!」

召使いはマリアの手を引いて立たせた。巨大な胸がふわんふわんと上下に揺れ
る。
マリアは恥ずかしさからずっと下を向いたまま召使いに手を引かれて園庭から
退場した。
園庭ではしばらくどよめきが収まらなかった。




剣舞で大失態を犯してしまったマリアは失意のどん底にあえいでいた。
あの後、近衛隊長のダインから厳しい叱責を受け、追って処分を言い渡すので
しばらく自宅で謹慎するように言われて帰ってきたのだった。

「はぁ……」

ため息しか出なかった。
王と王子、それからたくさんの王族や来賓の眼前で裸の胸をさらしてしまった
のだ。
ロブリア王の誕生日の祝いだったというのに完全に王の面目を潰してしまった
のだから少なくとも牢屋には投獄されるだろう。たとえ牢屋から出てきたとし
てもどうやってこの国で暮らせばいいのだろうか。当然、近衛兵に召し抱えて
もらうというマリアの夢も潰えてしまったのだ。

そんなことを考えているうちに屋敷の前に一台の馬車が止まった。とうとうマ
リアに処分が言い渡されるのだ。

召使いから城からの使者が来たとの連絡を受けて、マリアは自ら玄関の扉を開
けた。
しかし、そこに立っていたのは使者ではなく、金髪の美しい顔立ちをした背の
高い男だった。

「お、王子さま!」

「マリア。ああ、やっぱりキミはあの小さいマリアだったんだね?」

「はい。」

王子は小さいころマリアのことを小さいマリアと呼んでいた。
マリアという名前はありふれた名前だからきっと他のマリアと区別するために
そう呼んでいたのだろう。
マリアはそう呼ばれてすごく懐かしく感じた。

「城の庭でよく遊んだのを覚えているよ。でも小さかったマリアがまさかこん
な美しい女性になっているなんて思わなかったよ。」

憧れの王子に美しいと言われマリアは頭の中が真っ白になった。恥ずかしくて
王子の顔を見ることもできなかった。

「でも、今日はキミにあの出来事の処分を言い渡しに来たんだ。」

なんということだろう。せっかく憧れの人と会うことができたのにマリアはそ
の本人から自分の処分を言い渡されるのだ。

「キミはこれからずっと城で暮らしてもらう。私の妃として。」

「ええっ?」

王子の言った言葉がマリアには信じられなかった。

「結婚してほしい。」

「で、でも……」

しばらく沈黙の時間が流れた。

「僕はこの前の祝宴に参加していた姫の中から妃を選ぶよう王から言われてい
たんだ。外国の美しい姫たちが僕に紹介されたけれど、僕にはその誰もが同じ
ように思えたんだ。そんなとき、剣舞を踊る可憐な君の姿が目に留まった。
侍女にあれは誰かと聞くと君の名を教えてくれた。マリアと聞いて何か聞き覚
えがあるような気がしたんだ。よくよく顔を眺めると小さいマリアの面影が
残っている。その瞬間、僕はキミを妃にしようと決めたんだ。」

「王子様……」

「受けてくれるかい?」

「はい……喜んで。」

マリアはうつむいたまま小さな声で返事をした。

「では。キミをこれから城へと連れていく。さあ、馬車に乗るんだ。」

王子はマリアの手を握り、馬車に乗るよう促した。マリアは王子にエスコート
され、豪華な二頭立ての馬車へ導かれた。馬車に乗り込むと車内のスペースは
ほとんどマリアの巨大な胸でぎゅうぎゅう詰めになった。王子はその隙間に体
を滑り込ませてマリアの横に座った。

馬車はゆっくりとロブル城を目指して動き始めた。

END