千々山村役場 地域振興課

ブラン 作
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「今度、観光課でポスターを作るんだけど。中山くん、何かいいアイデアな
い?」

俺がPCのモニターを見上げると仁科さんが前かがみになってこちらを見てい
る。身長は165センチほどでやや高め、身体つきはスラリとしており手足も
細く、どちらかと言えば華奢な部類に入るのだが、それも胸の部分を除けばと
いう注釈付きになる。ちょうど俺の目の前が彼女の巨大な胸の膨らみになり、
視界が一瞬被われてしまう。

「ないですよ。振興課でも考えているところなんですから、あったとしても言
いませんよ。」

「ケチ・・・別に課ごとで競っているわけじゃないんだからね。いいアイデア
があれば私が協力してあげてもいいのよ。」

今、役場では千々山のPRポスターを公募している。
一般からの公募という形式をとっているが、これも広告代理店に依頼する予算
がないからであり、しかもほとんど誰も応募してこないという悲しい現実があ
る。その穴埋めをするために役場の職員が自ら応募するというさらに悲しい事
態になっているのだ。
俺の趣味が写真撮影であることは知れ渡っており、PCの壁紙にも千々山の自
然を撮った写真を貼り付けてあるのでその素材を狙って職員たちが話しかけて
くるのだ。
無論、仁科さんの提案も断るところなのだが、温めていたあるアイデアを試し
てみようと思いついたのだった。

「じゃあ、仁科さんをモデルにしてポスターを作ってもいいですか?」

「えっ、わっ、わたし??」

まさかの展開に仁科さんは戸惑いを隠せないようだ。
本気で村のPR用ポスターを作るなら、せめてそれなりのモデルが必要なの
じゃないかと考えている。単なる風景写真にキャッチコピーをつけただけでは
誰も注目してくれないのはわかっている。予算があればモデルを使うのだけ
ど、それがないとなれば身近で調達するしかない。幸いなことに仁科さんは
30歳に近い年齢ながら童顔が手伝ってその年齢には見えないし、まずまずの
逸材なのではないかと思える。

「はい。千々山といえばやっぱ温泉でしょう。山々をバックに女性が温泉のお
湯を両手ですくっている絵がいいんじゃないかなと考えていたところなんです。」

「おんせん??ダメ、ダメ!脱ぐのは絶対NGだわ。嫁入り前だし。」

「だれもそこまでやれとは言ってませんよ。服は着たままでもちろん構いませ
んから。」

「あー、びっくりした。ホントは最近すこし太っちゃってスタイルに自信ない
のよね。」

仁科さんはモデルという提案をすんなりと受け入れているようで、窓に自分の
姿を映してウエストをひねっている。

「ええっ、仁科さん、ぜんぜん太ってないじゃないですか。俺、モデルにする
なら仁科さんしかいないだろうなって思ってたんですよ。」

「ええっ、そ、そう?ありがと。ふふっ。」

うまくおだてに乗ってくれたようで、仁科さんはすっかりモデルをやる気に
なってくれている。

「ところで、仁科さんって胸いくつあります?」

「ちょっと、女の子に胸のサイズ聞くもんじゃないわよ。」

「この前、ブラジャーがきつくなったから買いなおしたって俺に自慢してた
じゃないですか。」

「自慢じゃないわよ。もう。困りごとなんだから。」

仁科さんは困り顔をしながら両腕で胸を抱え込む仕草をした。

「撮影の衣装の関係があるから教えてくださいよ。」

「この間、一つ上がったから、いまSカップよ。トップは125センチだった
と思う。」

(やっぱり。村の中でも結構デカい方だよな・・・)

*

前にも述べたが残念ながら俺は女性の大きな胸に性的な魅力を感じない。これ
はこの村で育った男には共通して言えることである。しかし、世の中を見渡す
といわゆる“巨乳”や“爆乳”といったワードが氾濫しておりその需要がいか
に高いかということがわかる。雑誌のグラビアにはほとんどと言っていいほど
おっぱいの大きな女の子が使われているし、エロ雑誌やDVDにしてもしかり
だろう。
一説によれば世の中の6割以上の男性は“巨乳好き”であると言われている。
男性たちが女性に求める理想のバストの大きさはEカップやFカップ程度と言
われているが、グラビアなどではIやJカップといったアイドルがもてはやさ
れていることからさらに大きなバストに対するニーズはかなりあると言えるだ
ろう。
世の女性も食の欧米化によりバストも大きくなり、EやFといっても珍しくな
くなってきているのが現状だが、IやJというサイズになればなかなかお目に
かかるのが難しいという状況らしい。
ところがだ。千々山村の女性はそれを遥かに上回るバストを有しているのであ
る。発育の早い子なら中学時代にIやJなどは通り越してしまうし、ほとんど
の女性が既製のブラジャーでは胸を納められず特注サイズのものを着けている
のだ。
俺たちから見ればただの脂肪の塊でしかない乳房も、世の中の男性からすれば
一度は触れて揉んでみたいと思う至高の宝物なのかもしれない。

俺は仁科さんと二人で車に乗って千々山温泉を訪れた。そして予め打合せをし
ていた温泉宿の支配人と話をして、ポスター撮影の段取りを伝えた。
そこは千々山温泉の中でも特に露天風呂が有名で、風呂からは深い渓谷と急峻
な山々の絶景が楽しめるのである。湯の色は乳白色で肌がしっとりとすること
から美人の湯とも言われている。
宿で準備してもらっていた浴衣を仁科さんに着てもらい撮影に入る。俺はカメ
ラを構え、考えてきた画角で撮影ができるポイントを探した。ピンク色の浴衣
を着た仁科さんを前に据え、その後ろに露天風呂、さらに背景に山々が映るよ
うにしてシャッターを切った。

「どう?ちゃんと撮れた?」

少し緊張気味の仁科さんが心配そうに訊ねる。構図は文句ないのだが、仁科さ
んの表情が幾分固いのだ。しかし、少しくらい素人っぽさがあるのも逆にいい
のかもしれないと思いつつ構わず何枚かシャッターを切った。

「仁科さん、お湯を手で掬って見せてくれません?」

仁科さんは言われた通りに両手で温泉の湯をすくい、カメラに見せるようにし
てにっこりと笑った。

「いいですね。バッチリですよ。」

構図とポーズは決まった。後、もう一つだ。

「仁科さん、ちょっと衣装をこれに着替えてきてくれません?」

そう言って俺は持ってきた紙袋を渡した。

「衣装?何かしら?」

彼女は袋の中を覗き込みながら更衣室へと入っていった。
実は準備してきた衣装というのは俺の姉から借りてきたニットの薄手のセー
ターである。縦に縞模様の入った俗に言う縦セタというものだ。あともう一つ
というのは仁科さんの“おっぱい”だ。この要素が加われば大うけは間違いな
しだろう。

「中山くーん!ちょっとコレ、きついじゃなーい!!」

当然のことだろう。俺の姉に比べ仁科さんの胸は一回り、いや二回りは大きい
のだ。淡い橙色のニットは巨大なバストの膨らみに引き伸ばされてぴっちりと
その膨らみに張り付いている。それによって丸い胸の形を浮き上がり、さらに
デザインの縦縞が歪むことによって胸の大きさを際立たせている。
このようにニットがピッチピチで窮屈になることはもちろん俺の想定内であ
る。ネットで調べた情報だが、巨乳好きの男共はこの縦セタというものが好物
らしいのだ。

「すみませーん。姉から借りてきたんですが小さかったみたいですね。でも一
旦、それで撮影させてくださいよ。」

「もう、仕方ないなぁ。」

仁科さんは再び温泉の湯を両手ですくい、カメラの前でポーズを取った。手を
前で合わせると両腕が柔らかなバストにめり込み、二つのバレーボールのよう
な膨らみがさらに強調されてしまう。

(よし。これがベストショットだな。)

俺は満足してシャッターを切り終えカメラを収めたのだった。


俺は撮影した写真に“神々の水 千々山の湯”とコピーをつけてポスターにし
た。威厳ある千々山の急峻な山々を背景に、秘湯と名高い千々山温泉の露天風
呂が移っている。ポスターの下側には両手に温泉の乳白色の湯を溜めた美しい
女性がにっこりとほほ笑みかけている。そして、その女性の胸元は爆発的な膨
らみを見せているのである。
もちろん俺は仁科さんの浴衣姿ではなくセーター着用の写真を採用させても
らった。こちらの方が“引き”がいいハズだ。

案の定、PRポスターには俺の作品が選ばれた。
アマチュアとは言え、俺の写真の技術はなかなかのものだと自負している。そ
れに、千々山の自然と温泉を存分にアピールしているということで文句なしの
一等賞となったのだ。仁科さんのニット着用についてもおかしいと異議を唱え
たのは仁科さん本人くらいで、特に問題にはならなかった。千々山の人たちは
仁科さんの爆乳が一般的に相当なインパクトを持っているということを全く分
かっていないのだ。
ポスターは広告代理店を通じて全国に配布され、JRの構内や公共機関の掲示
板に一定期間貼り出されるらしい。最初は少し不満げだった仁科さんも自分が
モデルを務めたポスターが全国的に展開されると聞いてコロリと機嫌が良く
なったのだった。

こうして俺の千々山村の村おこし大作戦は初めの一歩を刻んだ。さあ、これか
ら忙しくなるぞ。