千々山村役場 地域振興課

ブラン 作
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桜木ミリアとそのスタッフ達が村を去っていったのと入れ替わりに、仁科さんがバカン
スから戻ってきた。
俺の携帯電話に連絡があり、今から千々山鉄道に乗るので列車が着く頃に迎えに来て欲
しいと言うのである。何でもスーツケースが特大な上、土産物を買い過ぎてしまったそ
うである。時間的にもタクシーが待っていそうにもなく、俺に頼むしかないと思ったらしい。
どうせ暇だったから、俺は車のエンジンのキーを回し千々山駅で仁科さんを待つことに
した。

仁科さんは特大のスーツケースと重そうなバッグを2つ抱えて駅舎を出てきた。
俺はそれらを受け取ると後部座席に放り込んだ。

「どうでしたか?ハワイは?」

「それがさぁ、ずっと天気が悪かったのよ。だから一人ホテルでのんびりしてた。
ほら、全然焼けていないでしょう?」

そう言って仁科さんは運転している俺の目の前に腕を差し出した。

「一人で行ったんですか?ハワイに?」

「悪い??だって急に誘っても誰も一緒に行ってくれないでしょ!」

「それもそうですね。すみません。」

俺はホテルで黄昏れる仁科さんを想像してみたがいまいちピンと来なかった。

「確かに一人で行くところじゃなかったわ。周りはカップルか家族連ればかりだもん。あーあ、私も誰かいい人見つけないとなー」

仁科さんに良い人がいると言う噂はこれまで聞いたことはなかったが、この機会に
少し突っ込んでみようと思った。

「仁科さんって、付き合ってる人とかはいないんですか?」

「い、いないわよ。」

「そうなんだ。」

「な、なによ!なんか文句ある?」

「い、いや、仁科さんて結構美人なのにもったいないなと思って」

ちょっと機嫌を悪くしたのでお詫びに少し持ち上げておく。

「そうでしょ!そう思うでしょ!こんな美人がいるのに声かけないなんてどうかして
るよね!ところで中山くんって、どんな子がタイプなの?」

「えっ、俺ですか?うーん」

俺は少し考えてしまった。どちらかというと美人系より可愛い系が好きだし、控えめ
で大人しいタイプが好みだ。胸のサイズも控えめの方が嬉しい。しかし、そのまま
言うと仁科さんにケンカを売っているみたいになる。

「そうですね。一緒にいて楽な人がいいですね。」

「ふうん。そう。私とかじゃダメ?」

「えっ?」

「じょ、冗談よ!さ、家に着いたみたいね。」

俺は仁科さんの家の前に車を止めて、後ろから荷物を下ろした。スーツケースを持ち
上げて家の玄関まで運んだ。

「どうもありがとう。少し上がっていって、お茶でも出すから。」

「いえいえ、ここで失礼します。また明日役場で・・・」

すると、家の奥から母親と思われる人が出てきて俺は軽く会釈をした。

「おかえり、ふみえ。そちらの方は?」

仁科さんは役場の同僚だということを母親に説明すると、お母さんはぜひ家に上がっ
ていくようにといった。あまり固辞するのも失礼かなと思った俺はそれに従うことに
した。

「おやぁ、わざわざふみえを迎えにいってくださったのですか?すみません。こら!
無理やり言ったらパワハラになるわよ!ほんとすみませんねぇ。」

「いいえ、とんでもないです。ちょうど暇にしてましたし、日頃とてもお世話になっ
てますから。これくらいは。」

仁科さんの家はいかにも田舎の家という感じで立派な門構えの大きな家で中もすごく
広かった。
出されたお茶を飲み、お菓子をいくつか摘みながら切り上げ時を探っていたが、なか
なか話の切れ目が見つからなかった。

「ねえ、中山さんは彼女いるの?」

「お母さん!!」

お母さんは仁科さんに似て結構自由なタイプのようだ。

「うちの娘、どうです?ちょっと歳は食ってますけどこう見えて料理も出来るし、
意外と家庭的なんですよ。私に似てなかなかの美人でしょ?」

「もう、やめてよ!恥ずかしいから!」

ようやく切り上げ時が見つかり、やっと腰を上げて玄関で靴を履いた。

「中山くん、ごめんね。引き止めちゃって、それと今日は迎えに来てくれてありがと
う。」

俺は車を運転しながら、仁科さんが言った冗談のことを思い返していた。

(まさか?そんなことある訳ないよな。)



翌日、役場で仁科さんがお土産を配っていた。そして、仕事がたくさん溜まっている
らしく必死に仕事をこなしていた。
昼休みになって役場に秘書の匹田さんがやってきた。二人は近所の幼馴染である。
遠目からでも千々山村最大級の爆乳は否が応でも視界に入ってきてしまう。

「ふみちゃん、元気ー?」

「これ、お土産だよ。」

「わー、ありがとう。」

仁科さんはアロマオイルか何かそんな物を匹田さんに手渡し、しばらくハワイ談義を
していた。

「ふみちゃんさぁ、ちょっと太った??」

「やっぱわかる?旅先で食べすぎちゃって、実は2キロほど・・・」

一週間、飲んで食っての生活だったのだからそれも仕方ないだろう。

「おや?ここも少し成長したんじゃない?」

「うーん、そう言われればブラがキちょっとキツくなったかも?」

匹田さんは両手で仁科さんの胸を掬い上げるようにして上下に少し揺さぶった。

(ゆっさ、ゆっさ…)

全く、昼休みとは言え役場で何をしているんだろう。

「ところでさ。聞いちゃったんだけど、ふみちゃんって中山さんと付き合ってるって
ホントなの??」

「つっ!付き合ってる?私が??」

急に名前が出てきて俺は焦ってしまった。仁科さんは首を横に振って否定している。

「なあんだ、違うの?」

「誰がそんなこと言ってたのよ?」

「誰って、みんな噂してたわよ。」

匹田さんは少し残念な面持ちで言った。

「旅行から帰ってきたのを中山さんが迎えに来てたんでしょ?なんだかすごく仲よさ
そうに一緒の車に乗ってたって聞いたけど。違うのかぁ。でも、二人お似合いだと思
うんだけどなぁ。この際付き合っちゃえばいいんじゃない??」

途中から聞かない振りを決め込んでいたが、他の職員は俺をジロジロ見てくるし、
とても居づらくなってしまった。

その日の帰り、駐車場で仁科さんが俺のことを待っていた。
こんなところを見られたらまた噂になってしまうのではと思ったが、彼女はいつにな
く真面目な顔をしていた。

「中山くん、ごめんね。迎えに来てもらったばっかりに変な噂になっちゃって。でも
噂って、なんて広がるのが速いのかしらね。昨日の今日だよ。」

「田舎だから仕方ないですよね。それに、気にしてないですよ、俺は」

しばらくの間、沈黙が流れた。

「あっ、でもね。その、もし、よかったらなんだけど・・・この際、私たち付き合っ
ちゃうってどうかな?」

「いいですよ。」

「えっ?いいの?」

「はい。よろしくお願いします。」

そういう訳でちょっと変な成り行きだったけど俺は仁科さんと付き合うことになった。
俺の理想のタイプからはかなりかけ離れているけれど、まぁ、仁科さんほどの美人か
ら告白されることなんて人生でそうあることではないだろうから。いいんじゃないか?



仕事が殺人的に忙しくない限り、俺は食堂の小上がりを借り切ってやる同窓会には出
席していた。
そこでは馬鹿話もするが、地域振興に関わる話し合いなんかもできたりして意外と得
るものが大きかった。
メンバーはいつもの7人で、男は俺を含めて4人。高岡、加藤、林。女性は中野、望
月、三枝の3人だ。
高岡と加藤は農業をやっていて、最近テレビで取り上げられたメロンが大評判で来年
は大幅に作付を増やすと言っていた。今は何とかこのメロンをブランド化できないか
と知恵を絞っているところだ。

「しかしなぁ、中山が役場のマドンナをモノにするとはな。いやぁ、最近では一番の
ニュースだな。」

「まったくだな。一言も相談のないところがコイツらしいぜ」

林は林業をやっていて、旅館の増床が相次いでいて製材が追いつかないそうだ。

「で、どうやってモノにしたんだ?この色男。」

俺は分の悪いこの状況から抜け出そうと望月さんに仕事の調子を振ってみた。
彼女は村人のオアシス、ショッピングセンターかしのでスタッフとして働いている。
爆乳さんご用達の下着ブランド、ボニータの熱烈なファンでもあり、自らも下着モデ
ルを務めている。最近は全国からボニータの注文が倍増しており、忙しい日々を送っ
ているそうだ。

「もうすごいのよ、かしのの二階は。聖地巡礼とばかりに遠くからお客がやって来る
のよ。ところで、彼女さんとはどういうところに遊びに行ったの?」

中野さんと三枝さんは温泉旅館で働いているが、稼働率が100%に近い状態がずっと
続いていてやはり忙しいという事だった。
中野さんは俺の方を見ておどけて言った。

「二人でうちの旅館に泊まりに来たら?サービスするわよ。うふふ、色男さん。」

三枝さんは酔っ払っているのか特大の胸をテーブルにでんっと載せて林と喋っていた。相当飲んでいるようだった。

「ちぇっ、わたし、ショウ君のことちょっといいなって思ってたんだけどな。仁科さ
んじゃ相手が悪いかったわね。ねえ、林くん、誰か良い人いないかなぁ?」

「じゃあ、俺んところに嫁にくるか?」

「無理無理〜!」

畳の上にはビール瓶と焼酎の空き瓶が一本、また一本と並んでゆく。
こうして千々山村の夜は更けていくのであった。