桜木ミリアの長い一日

ブラン 作
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僕は地下駐車場からワゴン車に乗って現場に向かった。
車の後ろはカーテンで仕切れるようになっていて、そこで衣装に着替えられるようになっている。
現場近くに来ると車を止めて僕は婦警さんのコスチュームに着替えた。

(かわいいぞっ!さすがにミニスカではないけど、ポリス姿もすっごく似合ってるよなぁ)

警察のワッペンがついたスカイブルーのシャツに紺色のスカート、頭には警察帽を被る。
メイクさんに化粧をしてもらいしばらく車の中で出番を待った。
スタッフの合図で車の扉が開けられると何人かのスタッフに守られながら警察署の玄関に進む。
すでに噂を聞きつけていたファンが詰めかけていて桜木ミリアを一目見ようと待ち構えていた。

"オォーー!"
"来たぞー"
"キャー!ミリアちゃーん!"
"カワイイ〜!"

大勢の観衆の前を歩くのは少しドキドキした。靴はヒールで歩きづらいのに加え、
胸の膨らみで足下が見えづらいためコケないように歩くのが精一杯だった。
体育館のようなところに大勢の警察官や関係者が集まっていた。
僕がそこに入ると一斉に視線が向けられ、また一段と大きな声援に包まれた。

"ワァーーッ!!"

男性警察官からの声援は低いうなりのようになって会場に響いた。
僕は手を振って笑顔を振りまきながらステージに上がったが、歓声はなかなか収まらなかった。
今日は一日署長を務めるということで、警察署長から任命書が手渡されてタスキが掛けられた。
ビシッと敬礼をするとまた大きな歓声が上がった。
今日は警察官の訓練を視察してから、交通安全のパレードに参加するというスケジュールになっていた。
パレードでは広報車の屋根に登って沿道の人たちに笑顔で手を振った。
人から注目を浴びるのが苦手な僕だが、顔の向きを変えただけで歓声が巻き起こるのは少し愉快だった。
でも、これがミリアの日常なのかと思うと一瞬たりとも気が抜けないので大変だなぁと思ってしまった。

一日署長の仕事が終わるとワゴン車に戻り、また元の服装に着替えて次の現場に向かった。
次は写真集の販促VTRの撮影ということで車の中でセリフを必死に覚えた。
近々、ミリアちゃんの写真集が発売されることはもちろん僕も知っている。そしてそれを既に2冊も予約している。
彼女の約2年振りの写真集ということでファンの期待もかなり高い。
普通、アイドルは有名になってしまうと水着を着なくなってしまうことが多いが、彼女は違う。
今回はこの写真集のためにパラオまでロケに行って、大胆な水着姿も惜しげなく披露してくれるという噂だ。

「あのー。写真集ってもう出来上がってるんですか?」

「もちろんよ!予約が殺到してるから発売前から増刷がかかっているし。見てみる?」

高木マネはイタズラな笑みを浮かべながら鞄から写真集を取り出して僕に手渡した。
表紙はミリアちゃんが三角ビキニを着けて浜辺に寝そべり少し挑発的な表情をこちらに見せている。
大きな胸は砂浜に押し付けられてひしゃげてしまっている。ページをめくってみた。

「ふんんんっーつ!こ、これはっ!まさに神が地上に遣わした天使っ!
かわいいぞっ、ミリア様!
まぶしすぎるっ!そしてデカイッ!発売前の写真集が見られるなんて感無量だぁ!」

「ミリア!ちょっと!今、あなたはミリアなのよ。」

僕はつい写真集に興奮が高まり取り乱してしまったのを高木マネにたしなめられた。

「すみません‥」

小さな声で彼女に謝り、写真集を彼女に返した。そうこうしている間に車は収録スタジオに着いた。
帽子とサングラスで顔を隠していたが、芸能人っぽい雰囲気が出ているためか車を降りると何人かに振り向かれた。
それに胸元の白いブラウスの大きな膨らみがどうしても目をひいてしまうのだ。
VTR撮影は意外と簡単だった。テレビカメラを見つめて、覚えたセリフ通りに喋るだけだ。

『アルティメット・テレビをご覧の皆さん。こんにちは!桜木ミリアです。
来月26日に私の2年ぶりになる写真集が発売されます。今回は南国、パラオで撮影してきました!
ぎらぎらした太陽のもと、私の元気いっぱいの姿を是非チェックしてくださいねー。
書店、コンビニ、インターネットでご予約、受付中でーす!』

こういう感じのを何カットか撮影した。
時々、身振り手振りを加えたり、ミリアちゃんが考えているときに良くする左斜め上の方を見る癖も入れたりしてみた。
撮影が終わるとまた移動で、次は夜の生放送のためテレビ局に行くということだった。

「生放送の前にリハーサルってあるんですか?」

「ええ。でも、今からだとリハには間に合わないかも知れない。楽屋に入ってから少し時間はあると思うけど。」

「ほとんどぶっつけ本番ってことですね?」

「お願いしますよ。わたし、ネット動画で見たことがあるんです。ミリアの曲を張り付きで完コピするオジサンを。
あなたですよね?同じようにやれば多分大丈夫ですよ。」

「知ってたんですか?僕のこと。」

「ええ。そりゃあ、スタッフの間でも塚口さんは有名人ですから。
ミリアのイベントにはいつも来てて、最前列に陣取ってますよね?」

高木マネの言う通り、僕は"ミリアはハートブレイク"の歌詞と振り付けを完全にマスターしていた。
友達とカラオケに行ったときの動画をネットにあげられてしまい、コピーのレベルが高すぎると賞賛を受けていたのだ。
ちなみにカラオケの点数は99.97点の全国1位に輝いたこともある。
そうは言ってもカラオケとテレビの生放送じゃ勝手が違いすぎる。
全く自信はなかったが、ミリアちゃんの顔に泥を塗るわけにはいかない。何としてでもやり遂げたかった。

テレビ局に到着すると高木マネに楽屋へ案内された。
本番までに衣装を着替えてメイクをし直し、歌と振付の練習もしておかないといけない。
衣装はお姫様が着るようなプリンセスラインの真っ赤なドレスが準備されていた。
肩が出るためブラはストラップのないものを着ける必要があり、彼女用のものが揃えられていた。
早速、衣装の着替えが始まった。僕は白いブラウスとキャミソール、そしてスカートを脱いで下着姿になると、
後ろ手にしてブラのホックを外した。ホックが外れるとズッシリと胸の重みを感じた。
準備されていたブラはストラップがない分、アンダーベルトが太くコルセットのようになっていて
ホックを沢山止めないといけなかった。
やはり胸をホールドする力は劣るようであまり揺れないようにキツく締められてしまった。
赤いドレスはとても良く彼女に似合っていた。
頭にティアラを付けると本当にどこかの国のプリンセスになったかのようで鏡に映った姿にうっとりとしてしまった。
メイクも終わり、僕は本番までの少しの時間、鏡の前で歌う曲の練習をした。

いよいよ出番が近づいてきた。大きなスタジオには大勢の観客が詰め込まれていて、
有名ロックバンドの曲が終わり歓声が冷めやらぬ中で桜木ミリアの名前がコールされた。

"キャー!"
"きたぁー!"
"ミリアちゃーん!"

僕はステージの中央まで進み出てスタンドマイクを握った。

「アロマ〜 キャンドルの〜♪」

曲が始まったとたん歓声は静まり返り、ステージ上のミリアはスポットライトに照らされる。
僕の発する声はミリアの声帯を通し、高い音で観客席にこだました。

「炎がゆれて〜 あなたの影を〜♪」

大勢の観客の目といくつかのカメラが自分に向けられており、最初は緊張感があったが、
歌い始めるとそんなことは気にならなくなった。

「思い浮かべる〜 いつだって〜 私は〜♪」

曲調がアップテンポに変わり振りが慌ただしくなる。観客のボルテージもどんどん上がってゆく。
僕は無心になって身体に染み込んでいる歌を歌い、忠実に振り付けを再現した。
僕が手を高く振り上げる度にファンから大きな歓声が上がった。
歓声を受けるのがこんなに気持ちのいいことなのかとその時初めて思った。
観客との一体感、きっとこれがアイドルの醍醐味なんだろう。

生放送はなんとか無事に終わった。
一応、ひとつのミスもなく"ミリアはハートブレイク"を歌いきった訳だ。
舞台袖にはけると高木マネが笑顔で僕を迎えてくれた。

「お疲れ様。やっぱ、私の思った通りだったわ。もしかしたら、本人よりもダンスのキレがあるかも?」

彼女からそう言われて僕はホッとして肩の荷が下りた気分だった。

その日、夜になってもミリアちゃんは帰って来ず、携帯に連絡もなかった。
こちらから連絡しても返事は返って来なかった。
僕は長い一日を終え、彼女のマンションの部屋でへとへとになった身体を休めた。



次の日、朝起きると携帯電話にメッセージがやって来ていた。

"やっほー!桜木ミリアさん。今日もいい天気ですね。見ましたよっ!昨日のテレビ。
歌も踊りも私そっくり!完璧すぎてビックリしちゃいましたー!すごい、すごい!
ところで、今日の夜にはそちらに帰ります。ご迷惑をお掛けしますがもう少しよろしくお願いします。
お土産、買ってくからね〜"

ミリアちゃんからだった。
もう一日、桜木ミリアをやるのかと思うと正直僕はげんなりした。
アイドルの仕事は楽しいこともある反面、普段は人からあまり見られることのない僕にとって
プレッシャーの大きい仕事だった。でも、ミリアちゃん本人の願いということであれば喜んで何でも引き受けよう。
彼女は気ままな塚口たかあきの生活を楽しんでいるのだ。退屈すぎてすぐ飽きてしまうのだろうけど。
今日の午前中は、大型ショッピングモールのオープンイベントに参加することになっている。
郊外にあるので7時半には出発しないといけない。
朝食はコンシェルジュが準備してくれる。ホテルのルームサービスと同じだなと思いながら、
そば粉のクレープとサラダを食べる。飲み物は昨日と同じ豆乳。どうやらこれが定番のようだ。
豆乳には女性ホルモンと似たような働きをするタンパク質が含まれていて胸が大きくなるって
噂を聞いた事があるが、もしかしてミリアちゃんの胸はこの豆乳で大きくなったんじゃないかと疑ってしまう。
食事を終えて身仕度を始める。メイクは高木マネが来たらお任せすることにして、取り敢えず着替えだけはやっておく。
着る服はコーディネートが考えられたものが用意されているので何を着るか悩む必要もない。
今日の服はイエローのミニワンピースで膝上15センチほどと短い。
裾からは彼女の白く美しい二本の脚が見えている。

(今日のミリアちゃんは一段とプリティーな感じだなぁ。イイッ!)

昨日は時間がなくて見る余裕がなかったのだが、部屋には大きなウォークイン・クローゼットが
備え付けられていて、そこには沢山の衣装が所狭しと並べられていた。
チェストの引き出しの中も服とか下着とかがいっぱい詰められていて、きっちり整理整頓されていた。
キッチンもキレイにされていたが、生活感は感じられなかった。
ほとんど休みもなく、忙しい毎日を過ごしている彼女には料理をする時間などないのだろう。
冷蔵庫を開けてみると中はほとんどスカスカで、飲み物と果物が入っているくらいだった。

(うおっ!高級そうなメロン!これ食べたら後で怒られるだろうな。あとは豆乳か、気に入ってるんだな‥)

冷蔵庫の横にウォーターサーバーがあり、ミネラルウオーターがセットされていた。

(千々山村の天然水・・・。千々山って、2年前にミリアちゃんがロケに行ってたあの村だよな?)

そういえば、冷蔵庫の中のメロンも豆乳も千々山村って書いてあった気がする。相当ハマってるようだ。
リビングルームは余計なものがほとんど置かれておらず、ソファに大きなクマのぬいぐるみが一つあるくらいだった。
大きなテレビがあり、その下にはゲーム機が置いてあった。おそらくテレビ番組でもらった景品だろう。
高木マネが部屋にやって来た。ミリアちゃんから高木さんにも今日の夜には帰ると連絡があったそうだ。
なので、今日一日頑張って欲しいとお願いされてしまった。
メイクをしてもらいながら今日のスケジュールを聞く。
ショッピングセンターのオープニング・イベントの後は、テレビ番組のクイズを出題する声の仕事、
彼女がCMしている化粧品会社の新商品発表会に出席。
夜は彼女がアンバサダーを務めるサッカーリーグの試合の観戦となっている。

「今日も予定が盛りだくさんですね。」

僕は多少うんざりしたような感じで言った。

「あら?これでも少ない方よ。テレビや雑誌のインタビューの仕事は明日以降にずらしてもらってあるしね。」

なるほど。僕がミリアちゃんになりきれるのも限界というものがある。
高木マネはその辺までお見通しというわけか。さすが、敏腕マネージャーと呼ばれるだけはあると思った。
準備が整うとワゴン車に乗り込んでショッピングモールへと向かった。
大きな広場を見下ろすステージの上に呼び込まれると、笑顔で手を振りながら歓声に応えた。
社長さんと思われるおじさんと握手をした後、紅白のテープを持って、合図とともにハサミで切った。
すると紙ふぶきが巻き起こり、会場が拍手で包まれた。鏡割りが行われたあとに僕の出番が来て、一曲披露することとなった。
僕はまたハートブレイクを振り付きで熱唱して観客を大歓声に巻き込むとそのショッピングモールを後にした。
次はスタジオに移動してクイズを出題する声の仕事をした。
ミリアちゃんの高くてカワイイ声に自分で聴き入ってしまいそうになった。
化粧品の発表会では、普段はお肌のケアはどうしてますか?とか、どんなことに気をつけてますか?
などと聞かれたが、事前に高木マネから答え方を教えられていたので何とか乗り切ることが出来た。
桜木ミリアはどこに行っても大歓声で迎えられ、僕はとにかく笑顔でファンに一生懸命手を振り続けた。

次に、サッカーのスタジアムに到着すると現地のスタッフからミリアの役柄について説明を受けた。
キックオフの前にグラウンドの真ん中までボールを届けるのが仕事のようだ。
しかし、観客には桜木ミリアだとは一切知らされておらず、ボールを渡した瞬間に
ビジョンに大写しになって彼女だとわかるというサプライズ企画だった。
控え室でサッカーのユニフォームに着替える。
ブラウスとスカートを脱いで上は半袖のシャツ、下はショートパンツという姿になった。
ユニフォームはまたしても胸のところがキツく、ミリアちゃんの胸のサイズを見誤ったようだった。
そのため、ボタンは今にも弾けそうになっていて、シャツの隙間から中が見えそうになっていた。
僕は時間になるとボールを受け取り、ダグアウトからグラウンドを歩き出した。
すぐに何人かの観客が気づいてザワつきが起こり始めた。
ユニフォームの前の大きな膨らみと金髪ですぐに桜木ミリアだとバレてしまったようだ。
ビジョンにミリアの姿が大写しになるとスタジアムは割れんばかりの大歓声に包まれた。
まるでサッカーでゴールが決まったかのようだった。
その後は試合を観戦するだけだったが、観戦中も時々自分がビジョンに大写しにされるので、
全く気を抜くことが出来なかった。
試合中、高木マネの電話に本物のミリアちゃんから連絡があった。
彼女は僕に、彼女を迎えに行くので試合が終わったらスタッフに送ってもらって下さいと伝え、
スタジアムを抜け出して行った。

(やれやれ。ようやく、ミリアちゃんが帰って来たのか。あともうひと踏ん張りだな。)

僕は大して興味のないサッカーの試合をニコニコしたり、時には真剣な顔で見つめたり、
手を振り上げたりしながら熱心に観戦した。



スタッフの車でマンションに戻ってくると高木マネが僕を出迎えた。
彼女、いや塚口たかあきは部屋にいるということだった。

(カチャッ)

部屋の扉を開けると僕がリビングのソファーでくつろいでいるのが見えた。

「ミリアちゃん!一体どこに行ってたんだよ〜」

「怒らない、怒らない!今の今まで、たっぷり高木ちゃんに怒られたとこなんだから〜」

塚口たかあきの姿をしたミリアは立ち上がって僕と向かい合った。

「でも、勝手なことをしてごめんなさい!あなたにはすっごくお世話になっちゃったわね。
お詫びと言ったら何なんだけど、ちゃーんとお土産を買って来たわよ。」

「どこに行ってたの?」

「千々山村温泉!とぉーーっても良かったわ!神秘的な山々、おいしい空気と水、源泉掛け流しの湯、
そして山の幸と千々山牛のおもてなし。
ぜーんぶ最高だったわ!前から1人でゆっくり行ってみたいって思っていたの。これも塚口さんのお陰よっ」

ミリアちゃんからそんな風に感謝されて僕はもうメロメロになってしまった。

「や〜、でも。誰にも全く見向きもされないって気持ちいいわねっ!
まるで透明人間になったみたいだったわよー」

「僕、いま、激しく傷ついたんですけど‥」

「はっ!あはははーっ、ごめんなさい!そんなつもりじゃなかったの!あっ、そうそう、お土産だったね!」

塚口たかあきの姿をしたミリアちゃんはたくさんの紙袋を持ち上げて僕に見せた。

(こんなに買ってきたのか・・・まるでコミケで爆買いしたアニメオタクだな)

「はーい、これ。千々山温泉まんじゅうに豆乳クッキー、千々山メロンゼリー、名水仕立ての醤油ラーメン。
千々山地鶏カレー。それから・・・」

(まだあるのか‥)

「千々山村と言えばコレ。ブラジャーよね。たくさん買ってきたから塚口さんにも一つ記念にあげるっ。
ほらっ、これミリアと同じサイズのやつ。寂しいときはこれをミリアだと思って抱きしめてね。うふ。」

(こっ、これは嬉しいかも知れんっ!ミリアちゃんと同じサイズとはっ!)

僕は純白のブラを受け取り、服の上からカップを被せてみるとそれがぴったりのサイズであることがわかった。

「も、もしかして、僕の姿でこの下着を買ってきたの?」

「もちろんじゃない。ショッピングセンターの二階の下着売り場ではさすがにジロジロみられたかなー。
それから、千々山縫製所にも行ってきたのっ!私が愛用しているボニータを作っているところよ。
ますますボニータへの愛が深まっちゃったわ!」

(ウソだろ。僕の格好で下着売り場と縫製工場に行って来たのか、完全なる変態男じゃないか・・・)

「あっ、忘れてた・・・はいっ」

塚口たかあきの姿をしたミリアちゃんは僕に向かって右手を差し出した。

「えっ、なに?」

「握手よ。1万人目でしょ?塚口さんが」

自分と握手だなんて変な感じだった。ミリアちゃんの白く小さな手が僕の太った手に触れた。
その瞬間、周りの空間がグラっと歪んだような気がした。

「あれ?ミリアちゃんが目の前に・・・」

見下ろすと1000ミリ砲の膨らみは無くなっており、僕のでっぷりと太った腹が見えるだけだった。

「元に戻ってる!?」

目の前には麗しいミリアちゃんの姿があった。

「お疲れ様でした〜。私はもう少し塚口さんのままで居ても良かったんだけど、お互いのお仕事もあるしね」

彼女は入れ替わったことには特に驚いていない様子だった。

「ミリアちゃんはこんな能力も持ってるんだ?」

「ううん。狙っては出来ないのよね。何かね、すっごく追い込まれたときに
こんなことが起こっちゃうみたいなの。また、入れ替わりましょうね〜」

「も、もう僕はゴリゴリだよ。ミリアちゃんになるよりも見ている方がいい!」

「じゃあ、これからもミリアのことを応援してくれるかな?」

「はいっ!これからも応援します!」

その後、僕は発売前の写真集に彼女のサインをしてもらい、それもお土産にもらった。
ミリアちゃんと別れるのは名残惜しいがもう夜も遅かった。僕は彼女に別れを告げ、
高木マネージャーと一緒にマンションを後にした。

次の日から僕は日常の生活に戻った。
桜木ミリアの生活を体験したお陰で何だか自分ももっと変われるような気がしてきた。
僕のワンルームの部屋にはミリアちゃんのグッズや写真が所狭しと並べられていたが、
その中でも一番良い場所にあの写真集を飾った。
そして、純白のKカップのブラジャーは色褪せてしまわないように箱に入れて大事にしまってある。
僕にとって桜木ミリアは永遠のアイドルであり、僕が生きている限り彼女のファンをやめるつもりはないだろう。



1ヶ月後、クレジットカードの請求書が届いた。
千々山温泉の宿泊代、電車代、タクシー代、大量のお土産代、ブラジャーの代金。
合計金額は僕の月収をはるかに超えていた。

「ミッ、ミリアちゃん。最高ランクの宿の一番いい部屋に泊まったんだね・・・。
でも、あれだけ喜んでくれたんだから・・・まぁ、いいかな。」

僕はしばらくの間、極貧生活を強いられることになったのだった。

END