次の日、昨日のトランスレポートが送られて来ていた。毎日このように送られてくるようだ。
『3月○日のトランスレポート
なまえ:はるか
トランスタイム:3時間16分
シンクロレート:41.9%(+3.5%)
シンクロレベル:1
アイガールに色んな体験をさせてさらに同調性を高めましょう。
本日からアイガールでの外出が可能となります。ただし、激しい運動や身体への刺激はできるだけ避けるようにしてください。また、外出は1時間以内に控えてください。
本日のトランス可能タイム 4時間』
アイガールとのシンクロレートは順調に上がっているようだった。今日からようやく外出ができるということで朝から気持ちが踊っている。
いつも通りシャワーを浴び、朝食を摂ったあと僕はスマートフォンでトランスを選択した。
昨日試した衣装に着替える。上はクリーム色のニットのセーターとカーディガン、下はラズベリー色の花柄のスカートだ。
下着は昨日とは違う淡いブルーのブラとショーツの組み合わせにした。
そして、昨日の練習を思い出しながらメイクに取りかかった。昨日は基本に忠実に手順をひとつひとつ確認しながらだったので2時間もかかってしまったが、一般の女性はふだん20分ほどでメイクを済ませるらしい。
さすがにそれは慣れないと無理だろうが、昨日よりは手際よくメイクをこなして1時間弱で終わらせることができた。
「ふうっ…女って、毎日こんなことをやってるのか…」
ばっちりメイクを済ませたアイガールはファッション雑誌の表紙を飾る美女のように美しかった。
準備を済ませいよいよ外に出るとなるとさらに気持ちが昂る。僕は靴を履いて玄関を出るとエレベーターで1階へ下りた。
僕が住んでいるマンションは医師や弁護士、芸能人などが住んでいるかなり高級な部類のマンションで、1階はロビーでまるで5つ星ホテルのような高級感が醸し出されている。
カウンターには二人の女性のコンシェルジュが立っており、入り口にはドアマンが一人立っている。
多くの住人は地下駐車場から車で出入りすることが多く、1階は閑散としていることが多いが、コーヒーと簡単な軽食が食べられるラウンジには2、3人が席についている。
僕はコツコツと小気味よい足音を立てながらその横を通り過ぎ、エントランスを出た。別に悪いことをしている訳ではないが、ドキドキと胸が高鳴った。
春の爽やかな陽射しに照らされ、敷地から外へ出ると人々が道を往来しており日常が営まれているのを感じた。久しぶりの外出に気分が上がる。この辺りはオフィス街が近く、平日の午前中ということもあってスーツ姿の男女も見受けられる。
ガラスに写る自分の姿を見るとどう見てもどこかに買い物にでも行く品の良いお嬢さんにしか見えない。
とりあえず目的もなく街中を歩いていたが、スカートの中がスースーして落ち着かない。少し肌寒いなと感じてしまう。
しかも、ところどころでビル風の強い場所がありスカートがあおられてしまう。
(うわっ!)
風でめくれ上がるのを慌てて手で押さえる。パンツまで見えたかわからないが白い太ももをあらわにされ、予期しないサービスショットを道ゆくサラリーマンに披露してしまった。
街路樹の桜がぽつぽつと咲き始めていた。満開まではまだ1週間ほどあるだろうが、それでも春の息吹を感じることができて清々しい気分になる。
「公園まで歩いてみるか。しかし、腹減ってきたなぁ。何か食べるか。」
昼まではまだ少し時間があったが、久しぶりに外を歩いたためか空腹を感じてきた。アイガールも腹が減るのかと新たな発見をしたところでどこかで何かを食べて帰ろうと思った。幸いバックの中に財布も入れてきてある。
何にするか少し考えて、僕はコンビニエンスストアでサンドイッチと飲み物を買ってそれを公園で食べることを思いついた。大きな公園がマンションから歩いて7、8分のところにあり、その途中にコンビニも何軒かあった筈だ。
「いらっしゃいませ〜」
手近なコンビニを見つけて中に入るとカウンターに一人、品出しをしている店員が一人いた。カウンターの男性店員は挨拶をした後もチラチラとこちらを見ているのがわかった。
僕は棚から女子が好きそうなエビとアボカドのサンドイッチを取り、ペットボトルの紅茶と共にレジで会計を済ませた。
店員は僕の顔をジッと見つめているし、品出しをしていた店員は扉を開けて送り出してくれた。いつもと客の扱いが全然違うと思ったが、まさか中身が男だなんて彼らは夢にも思ってないことを考えると愉快だった。
街中を公園に向けて歩いていると、やはり道行く人々から視線を受けた。
ハラダ・ノブヒコのときとは違い、誰からも好意的な感情が差し向けられていた。
「おっ、おい、見ろよ」
「おおっ、すげぇ美人!」
「モデルか何かかな?」
すれ違った若い男たちが僕を見て囁いているのが聞こえた。
仮の身体とはいえ褒められるのは気分が良い。
公園に着くと桜の木の横のベンチに座わり、買ってきたものを食べた。どこから見てもこの近くで働く女性社員が一人でランチをすませているようにしか見えない。コンビニのサンドイッチは思っていた以上に美味しくて驚いたが、自分の味覚は特に変わってないようだった。
しばらく紅茶を飲みながら公園を眺めていた。時々、散歩をする老人やジョギングをする主婦らしき女性が通った。よく考えたら顔が売れてからはジョギングすることもなくなっていた。ここなら家から遠くないのでまたアイガールになって訪れようと思った。
ふと、視線を近くに戻すと2、3歳くらいの子供がよちよちと歩きながら僕の方へ近づいてきた。周辺の保育園から散歩に来ているようで、保育士が園児を連れているのが見えた。
「まー、まーまー」
服装から男の子とわかったが僕を母親か何かと間違えているようだった。
「ママじゃないよー」
僕は小さな男の子を抱き上げ、追いかけてやってきた保育士に渡した。
子供は思ったより遥かに重く感じる。子供が重いのではなく自分の筋力が女子の力になってしまったからだ。
「ばいばーい!」
僕は子供に手を振ると腰を上げて家へ帰ることにした。
アイガールでの外出は思いのほか楽しく、女性に変身して街中を歩くというシチュエーションが僕を興奮させていた。もともと女装趣味などないのにクセになってしまいそうだった。
マンションの部屋に戻ったのは外出してちょうど1時間後くらいだった。バッグを机に置いてカーディガンを脱いでいるとトイレに行きたくなってきた。
トランスを解除しようかとも思ったが、アイガールの姿で用を足せるかちょっと試してみようと思った。
トイレに入り、スカートのホックを外して下ろし、ストッキングを膝の上まで下げる。続いてショーツを下げ、便座に腰をおろしてみた。
果たして尿が出せるのか、また、どんな風に出るのかと少し待つと、シャーッと勢いよく放尿が始まった。
真下に向かって出るのかと思っていたが、下というより前方に向かって出るものらしい。放尿が収まると股を開いてトイレットペーパーで局部の水滴を拭き取った。まぁ、こんなものかという感じだが、それなりに貴重な体験ができたと思った。
トイレを済ませると僕はアイガールのトランスを解除して元の身体に戻った。トランス可能時間はまだ残っていたが、久しぶりに外を歩いたためかぐったりと身体が疲れていた。
昼下がりの日差しを受けながら、僕はリビングのソファでうたた寝を始めた。