アイデアル・ドール ING

ブラン 作
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少女の姿で泉あきなの家に通うという生活が半年以上続いていた。

「るんるんる〜ん♪」

僕は普段の日は20歳の大人のはるかで過ごし、あきなの家に行く時は12才の姿に変身をした。
クローゼットの中は2人のはるかの服でいっぱいになっていた。ノブヒコの服は追いやられ、最低限を残して他の大半は衣装ケースにしまわれていた。
ノブヒコの姿になるのは仕事で誰かと会うときくらいだがその機会もほとんどない。
先日、トランスシステムの定期点検があり丸一日、トランスを解除してノブヒコの姿で過ごすことがあったが、すごく懐かしい感じがしたのを覚えている。
おそらくマンションの近隣階の住人はここに美人の姉妹が住んでいると思っているだろう。
マンション内では誰が何階のどの部屋に住んでいるかわからないし、住民同士で干渉し合わないのであまり気にされていないかもしれないが。

今日はあきなの家に行くということで12歳の姿にチェンジする。クローゼットから少女の服を選ぶと自動調節機能で姿を変えた。
身長が163から145センチに縮み、100センチの豊かなバストが縮小し膨らみかけの68センチの微乳に変化する。
今日はTシャツにスタジアムジャンパーを着て、デニムのハーフパンツを履き、長いストレートのピンク髪にカチューシャを巻いた。
手首にはポップな柄のブレスレット、靴はリボンがあしらわれたブルーのスニーカー。これらは全てあきなから贈られたものだった。

あきなは演劇の仕事が忙しいらしく会える日も限られるようになっていた。
最近、彼女が女優として初めて出演した映画が封切られたが、熱愛スキャンダル後、女優に転身して初めての作品ということで様々なメディアの注目が集まった。
残念ながら主演ではなかったが、なかなか良い役どころを演じていた。
ヒロインの親友役で自分に自信がないぽっちゃり気味の女の子という設定だったが、世間の評価はかなり高かったようである。
もちろん僕もそれを見た。アイドル活動をしている時よりも彼女は生き生きしているように見えた。
以前、週刊誌で彼女の激太りが取り沙汰されたが、この映画のための役作りだったと勝手に解釈されてその件もひと段落したようである。

「いらっしゃ〜い♪」

活動的な少女のスタイルであきなの家を訪れると笑顔で僕を出迎えてくれた。

「きゃああっ!カワイイッ!はるか、とっても似合ってるー」

「ありがと」

僕は少しはにかみながら答えた。
あきなは完全なオフ・スタイルの部屋着を着てヘアバンドで髪を束ねていた。

「今ごはん食べてるとこなの。はるかも一緒に食べる?」

「食べてきたからいいよ」

ダイニングのテーブルにはデリバリーで注文した料理が所狭しと並べられていた。
今日は中華メニューのようで炒飯、餃子、酢豚、麻婆豆腐、唐揚げなどが湯気を立てている。とても若い女性が一人で食べる量とは思えない。
彼女の仕事が順調なのはとても良いことだが、残念ながら体型の方は元に戻る気配がない。

「最近忙しくてごめんね。ドラマの撮影が終わったんだけど、また新しく2本仕事が入ったの。その打合せとかでも時間取られちゃって…」

彼女は椅子に座り餃子を頬張った。
事務所はもう彼女にダイエットをしろとは言わなくなったようで、ぽっちゃり系女優としての地位を確立することを望んでいるようだった。

(むしゃむしゃむしゃ…)

炒飯と酢豚に舌鼓を打つ彼女。
例の激太り報道があったときよりさらに数kgの増量を果たしていることを僕は知っている。
バストもワンサイズ大きくなったが、著しいのは腰より下の部位である。
腹回り、腰回り、臀部にはみっちりと柔らかな脂肪が取りまいてくびれのラインはかなり怪しくなっている。
ふとももはむちむちと太ましく、隙間も見られなくなってしまった。
体重は恐らく60kgの大台に載っており、155cmの身長を考えると明らかに太り過ぎているだろう。

(むしゃむしゃむしゃ…)

ただ、彼女の人気はV字回復し、過去を上回るほどになっているのは事実だった。
そのひとつの理由として、これまで空白地帯だった"ぽっちゃり美女枠"をうまく獲得したことにある。
清楚で整ったルックスを持ちつつも、ふんわりとした包容力を兼ね備えた女性タレントは今まで存在しなかったと言ってよい。
加えて、グループにいた頃の暗い雰囲気が影を潜め、女神のような穏やかな表情を見せるので男女を問わず彼女に惹き込まれてしまうのだった。

(んぐっ…ごくごくごく)

ウーロン茶で麻婆豆腐を流し込むと次は山盛りの唐揚げに手をつけている。
ドラマの宣伝などでテレビに出る機会も増えているが、この間などは"痩せやすい体質なのでこの体型を維持するのは大変だ"と語っている。
それを見て僕は"よく言うよ"とテレビに突っ込んだものだ。
テーブルの上の料理は次々と彼女の胃袋に収まりもはや終わりに近づいている。その様子を見て僕は堪らず言った。

「さすがに食べすぎじゃないの?」

一瞬、彼女の箸が止まったが、最後の唐揚げを口へ運んだ。

「仕方ないわ……2人分だし」

「は?」

彼女が発した言葉の意味がよくわからない。しばし沈黙の時間が流れた。

「出来ちゃったみたいなの…」

「へっ?」

僕の頭の中が高性能コンピューターのように回転し、過去データからある可能性について演算を行っていた。

「アレが来ないの、3ヶ月前からよ。検査したら陽性だって」

「・・・・」

絶句。こういう時、本当に何て言っていいのか言葉が見つからなかった。

「おろせとか言わないわよね」

「も、もちろん。あ、いや、突然で何て言ったらいいかだけど・・・おめでとう、かな」

「ありがとう!」

僕も今年で三十になる。こうなったからには男としてけじめは取るつもりだ。



"泉あきな 妊娠していた!?お相手はあの実業家ハラダ・ノブヒコ。年内にゴールインの予定!"

週刊誌にその記事が出たのはしばらく経ってからのことだった。
当然のことながら僕たちの周囲は急なまた騒がしくなった。取材依頼は殺到するし、マンションの前では記者たちが僕を待ち構えていた。
全く気が進まないが記者会見くらい開かないと収まりがつかなそうな感じだ。
ただ僕はそんな日常にも幸せを感じていた。日増しに大きくなる彼女の腹部を見ながら確固たる幸せがそこにあることを予感していた。

END