変身 〜目覚めると僕は巨大なブラジャーになっていた〜

ブラン 作
Copyright 2020 by Buran All rights reserved.

ある朝、僕が目覚めると自分の姿が巨大なブラジャーに変わってしまっているのに気がついた。
どうして自分が急にブラジャーになってしまったのか、しかもそれがかなり大きなブラジャーなのかを理解するのに長い時間がかかった。
僕はあまり頭の出来が良くないかもしれないがれっきとした人間である。
暑さでおかしくなってしまった訳でもなく、人と関わるのが嫌になって荒唐無稽なことを口走り始めた訳でもないことは分かっておいてもらいたい。
もちろん僕も最初は"自分がブラジャーになってしまった"という現実をすんなりと受け入れることが出来なかった。
だが、第一に僕は知らない誰かの箪笥の中に収納されていているらしいこと、第二に僕の隣人はピンクとベージュのかなり大きなブラジャーであること、第三に僕はその隣人たちに挟まれて綺麗に並べられているというこれらの事実から"自分はブラジャーである"という結論に至った訳である。
その現実を受け入れるかどうかに関わらず僕は事実として一枚の真白なブラジャーであり、それ以上でもそれ以下でもないのである。

先ほどから僕は"かなり大きなブラジャー"であると言っているがどれほど大きいのかを説明しておこう。
ブラジャーの大きさはカップの大きさで表されることは知っていると思う。
カップはトップバストとアンダーバストの差で決定され、その差が10センチだとAカップ、12.5センチでBカップと2.5センチ刻みでアルファベットが順に当て嵌められる。
C、Dカップが一般的なサイズとされ、E、Fカップはやや大きめ、G、Hカップとなるとかなり大きめの乳房を収めるブラジャーとなる。
下着メーカーによってサイズ展開が異なるが、大きいサイズに対応しているメーカーであればI、J、或いはKカップくらいまでを製造しているようだ。
では、僕がそのうちのどれに分類されるかというとそのどれにも当てはまらない。つまりKカップよりも大きいサイズというわけだ。
本当にそんなに大きいのか?と疑われるかも知れないが僕は大量生産により作られたブラジャーではなく、一つ一つの部品を手仕事で組み合わせたオーダーメイドで作られたものだ。
これは通常の規格には当てはまらない規格外のブラジャーであることを間接的に示している。
だが、恥ずかしながら実は僕も自分自身が何カップのブラジャーなのかを知らない。
美しいレースで装飾されたフルカップの白いブラジャーであること以外、サイズの情報は知らされていない。
Kカップよりも大きいというのも確実性は高いものの確固たる証拠があるわけではない。
僕のアイデンティティのためにも正確な情報を知らせて欲しいと願っている。

これだけ説明してもまだ疑う方がおられるかもしれない。
そもそもブラジャーには目などないくせになぜ自分が真白だと言えるのか?隣人がピンクとベージュとわかるのか?と。
確かにブラジャーには明暗や色彩を感じ取る感覚器官は具備していない。これに関しては"ただ分かる"と言うしかない。
なぜ僕が突然ブラジャーになってしまったかについては理由は定かではない。
フランツ・カフカの『変身』の主人公グレゴール・ザムザが毒虫に変わってしまったように、僕もブラジャーに変身してしまったのだ。

普段僕は箪笥の中に格納されている。引出しの中は光が入らないため基本的に辺りは真っ暗だ。光が差すのは引き出しが開けられる時だけということになる。
そのときだけは目の前に水平線が開けるかのようにありとあらゆるものがはっきりと見渡せる。
自分の体が真白であることや、隣人がピンクとベージュであること、さらにその周囲には色とりどりのショーツやソックスなどが折り畳まれて几帳面に整列しているのがわかるのだ。

まだどうしても信じがたいという人のことは置いておき、僕がどのように暮らしているかを語っておこう。
先ほども言ったが箪笥の中は暗い。足が生えているわけではないので自由に出歩くことはできない。ただ、ここはいつでも良い香りがし、ふわふわとしていて居心地がよい。
最初の数日は何とかここを抜け出して人間に戻るのにはどうすれば良いかと必死で考えていた。しかし、次第に居心地のよさに慣れてしまいずっとここで過ごすのも案外悪くないなと思うようになってしまった。
僕が箪笥の外に出るのはおおよそ週に三日ほどである。もちろん、ブラジャーとして女性の胸を支えることが僕の仕事だ。
仕事を終えると洗濯、乾燥をされてまた箪笥へと格納される。
初めて仕事をしたときのことは今でもありありと覚えている。

ある日、箪笥が開けられて光が射したかと思ったら、僕は誰かの手で持ち上げられていた。
僕を持っていたのは二十歳くらいの女性で、顔はかなりの美形と言っても差し支えなかった。女は僕を白いショーツと一緒にバスルームへと連れていき、僕に背を向けて服を脱ぎ始めた。
女が着替える様子を間近で眺められる機会などそうあるわけではない。僕はワクワクドキドキしながらその様子を見守っていた。
女が髪留めを外すと黒髪が背中の中ほどまで落ちた。身長は高めで160センチ台の後半くらいありそうだった。
白い背中から腰のラインは女性的な曲線美を描いており、そこから続く大きなヒップはかなり肉感的で西洋画に描かれる裸婦を想い起こさせた。
僕がとても驚いたのは脇腹から大きな乳房がちらちらと見えていることだった。
背中を向けているというのに胴の両側から乳房がはみ出すのは相当バストが大きいことの証であろう。

女はバスルームに入り、シャワーを浴び始めた。湯が風呂場の床を叩くザーッという音が続き、中で髪と身体を洗っているようだった。
15分ほどするとシャワーの音が止まり、扉が開いた。
そのとき、僕は初めてその女の乳房を目の当たりにした。今まで見たどんな女の乳房よりも並外れて大きいのである。
それぞれがバスケットボール、いや、それよりも大きいかもしれない2つの球体をぷるぷると左右に揺らしながらバスルームから出て来たのである。
雑誌などで見るグラビアアイドルなど比較にならず、巨乳フェチ向けのビデオに登場する女優にもこれほどのものを見た記憶はなかった。
予想を超える超のつく巨乳の登場に僕の興奮は一気に高まり、観念的に生唾をごくりと呑み込んでしまった。

女はバスタオルで髪の水気を取ってから身体についた水滴を拭った。
乳房は臍が隠れるほどに大きく、女はそれを片方ずつ持ち上げて胸の下側に付いた水分を拭き取っていた。
その後、女はタオルをくるりと腰に巻いた。普通なら胸を隠すようにタオルを巻くのだろうが胸が大きすぎてそれが出来ないのだろうと思った。
ドレッサーの椅子に座り長くつやつやとした黒髪を乾かし始めた。
僕の場所からは女が手櫛で髪を解かしながらドライヤーで乾かす様子がよく見えた。髪の間から美しい横顔が覗き、手を動かす度にふるふると揺れる乳房が見えた。
髪を乾かし終わると化粧水を顔の皮膚に振りかけてパタパタと手で叩いたり乳液を擦り込んだりしていたが、おもむろに立ち上がると僕の上に乗っていたショーツを手に取った。

ショーツは僕と同じく白色だが驚くほど布地が少なかった。女が僕の目の前でそれを広げるとTバックであることがわかった。
手で左右に引っ張って押し広げるとできた空間に左足を通し、右足も同じように通すとそれをスルリと臀部まで引っ張り上げた。
そうなると次はいよいよ僕の順番であった。僕の身体がふわりと宙に浮き、カップと巨大な乳房が接触する。女の体温と石鹸の良い香りと共に柔肌の感触が体全体に伝わってくる。
女は肩紐に手を通し、バンドの両端を指で摘み後ろ手になって引っ張りながら4段もあるホックを一つずつ結合させる。
この時点で僕には少し負荷がかかるのだが負荷というほどでもない。
次にカップ部分を引っ張り上げながら巨大な乳房を包んでゆく。僕にはずっしりとした重みが加わってくる。正確な重さは不明だが片方だけで5kgくらいありそうだった。重いかと聞かれると軽くはないが、僕は乳房を支えるために設計されているので案外平気である。いや、むしろ柔肉が体にのしかかってくる重みはほどよく心地良いのである。
その後、カップと乳房の隙間から手を入れて肉を持ち上げ入りきっていない乳房を収めた。
女は下着姿のまま脱衣所を出た。女が歩くと胸が左右に揺れるので僕はその揺れを常に感じた。

女の住居はそれほど広くはないものの一人で暮らすには十分な広さであるようだった。玄関を入ると右側にバスルームとトイレ、左側にキッチンがある。奥にダイニングとリビングが兼用になった部屋とその隣に寝室があった。
女は寝室のクローゼットを開けて服を出した。
ブラジャーの上にキャミソールを着ると残念ながら僕の視界は遮られてしまったのでどんな感じの服だったのかははっきりと確認することが出来なかった。
女はメイクをしたり髪を束ねたりして出かける準備を整えると靴を履いて玄関の扉を開けた。

空気が変わったので建物の外に出たことがわかった。行き先は女のみぞ知るところであった。
僕はカップの中に充満した乳房の重みを感じながら、また、コツコツと響く靴の音に合わせて乳が左右に揺れるのを感じ続けていた。
時々、乳房が上下に大きく揺れることがあった。階段を上り下りしているようだった。上りではそれほど大きくは揺れないが、下りでは大地が揺さぶられたかと思うほど激しく振動した。
ただ、僕が乳房を包み込んでいるお陰でかなりの揺れを吸収しており、胸の形を保持いることには少し得意な気持ちになった。
女は電車に乗り、どこかに向かっているようだった。ゴトン、ゴトンと一定の間隔で音が響き、車内のアナウンスが次の駅の名前を繰り返していたが僕が聞いたことのある駅名ではなかった。
電車を降りて女はまた歩き始めた。道は登り坂になっているらしく歩幅が少し小さくなった。はぁはぁと吐息が漏れ、少し体温が上がったのを感じた。
カップの内側と背中のバンドの部分はしっとりと汗で湿り始めた。
女は10分ほど歩きどこかの施設にたどり着いたようだった。女の他にも複数の人が歩いている物音を感じていた。
突然、誰かが女に声を掛けた。

「奈緒子、おはよ〜」

「おはよー」

友達らしき女性が女に挨拶をした。
このとき僕は初めて女の名前が奈緒子であるということを知った。
奈緒子は右手を上げて手を振ったので右胸が少し持ち上がってユサユサと揺れた。
奈緒子はその女性と並んで歩きながらどこかへ向かっているようだった。そしてある建物の中に入り、階段で二階に上がると部屋の中に入った。
彼女達が歩きながら喋っていた内容を聞いていたがどうやら二人は大学生であるらしかった。
夏休みの間に何していただとか、試験勉強はどうだとかそう言う会話だったからだ。そうだとすると僕がいる場所は大学の講堂である可能性が高かった。
女が椅子に座ると大きな胸が机とぶつかった。硬い机の材質が柔らかな胸の膨らみと接触し、胸の先端より下の部分に机の端がめり込んできた。
僕も外からの力に押されてぐにゃりと変形した。
女は胸をそのままの状態にして動かす気配はなかった。どうやら胸の重みの幾らかを机に持たせかけ、荷重を分担させているようだった。
お陰で僕が負担していた重みも幾らか軽くなった。

「ふぅ」

女はごく小さく吐息を漏らした。
胸を机に置いてまさに肩の荷を下ろしたということだろう。
しばらくすると周囲が静かになり前の方から年配の男の声が聞こえてきた。
どうやら講義が始まったようであり、喋っているのは大学の教授か、もしくは講師であるようだった。
女は午前と午後に二つずつ講義を受けた。昼休みには食堂のようなところで友達と一緒にミートソースのスパゲティを食べた。
食堂のテーブルは講堂よりも高さが低く、胸を載せるのには丁度いいらしかった。女はどっさりと膨らみを下ろすとまた小さく吐息を漏らした。
午後の講義が終わると女を含めて四人の友達でファミレスに入りお茶を飲みながらお喋りをした。一時間ほど経つと誰かがアルバイトに行くと言って帰ったのでその会はそこでお開きとなった。

女は電車に乗り、日が暮れる前に自宅に帰った。玄関で靴を脱ぎ、リビングのソファにカバンを置いた。寝室に移動してシャツを脱ぎ、背中に手を回してホックを外した。
バンドにかかっていた張力が解かれ、カップの下から柔肉が溢れ出てきた。

「ふう…」

女はため息とも取れる息を漏らした。かなりの重さを誇る乳房を二つも付けて歩いているのだから疲労が溜まるのはわかる。
肩紐をずらし両腕で乳房を挟み込むような格好になりながら僕を外した。取り外された僕は無造作に箪笥の上のラタンの籠に置かれた。
そして、僕とはタイプの異なるブラジャーを取り出してそれを頭からすっぽりと被った。どうやら女は部屋で過ごすときはスポーツブラのようなものを着けているようだった。
スポブラは伸縮性のある生地でできており乳房を保定することはできるが、ワイヤーやサイドボーンといったものがなく胸を美しい形に保つという機能は有していない。
そのためスポブラを着けた女の胸は少し位置が下がり左右に少し広がっているように見えた。
僕の今日の仕事は終わったようだった。女は部屋着に着替えると寝室から出ていってしまった。

あくる日も僕は女に装着されて大学へと出かけ、夕方になると帰ってきた。
帰ってきて僕を取り外すと今度は箪笥の上ではなくバスルームの洗濯カゴのへりに掛けられた。ここに置かれたという事は恐らく洗濯されるのだろうと僕は推測した。
数時間後に、果たしてその通りとなった。女はプラスチックの桶にぬるま湯を張り、そこに液体の洗濯洗剤を入れた。

(ザブンッ…)

何の断りもなく僕は桶の中に浸漬された。湯に沈められて呼吸ができるのか心配になったが、案外平気であることがわかった。
温かい湯が身体に染み渡ってくるのがとても心地よかった。
女の指が僕の体を押した。十本の指を立て洗剤がよく染み渡るまで僕の体を揉み始めた。力は強すぎず弱すぎずで相当に気持ちよく、二日間の労苦が報われる思いがした。
その後、湯が捨てられて、今度は冷たい水の中で洗剤を洗い流した。水浴びをしてさっぱりした気分になった後、浴槽の上に吊るされて乾燥されることになった。

これが僕が奈緒子という女のブラジャーとして役目を果たした最初のときの話だ。その後も僕は定期的にその役目を担っている。
女はブラジャーを毎日取り替えるのではなく、二日間装着した後に洗濯をした。
これが普通のことなのかどうかはわからなかったが僕を含めて三枚のブラで一週間のローテーションを組んていたわけである。
僕が休みの日はピンクかベージュのブラが仕事をする。また、休日はスポーツブラだけで過ごすこともあった。
少し日が経ってくると奈緒子という女のことがだんだんとわかるようになってきた。僕が彼女について知り得た情報をここで整理しておこう。


名前:吉野奈緒子(よしのなおこ)
年齢:21歳
職業:大学生 経済学専攻
家族構成:両親と妹1人の4人家族
彼氏:なし
身長:160センチ後半
体重:やや重い
バスト:とんでもなく大きい
ウエスト:ふつう
ヒップ:かなり大きい


基本的な情報はそんなところだが、加えて言うと奈緒子さんは黒髪のロングが似合うかなりの美人である。
これだけの美人が一人暮らしをしていたら男の影くらいはありそうに思うがその気配は全く感じられない。
友人との会話でも次のような話をしていた。

「ナオ、最近何かいい話はないの?」

「ないわよ」

「もったいないわ。ナオみたいな子を放っておくなんて周りの男もどうかしてるわよ!」

「ほんとにねー。で、美穂はこの前の人とはどうなったの?」

「キモかったからもう連絡取ってないわよ〜。どこかにいい男いないのかなぁ」

美穂というのは彼女の親友で大学のクラスメイトである。
二人の通う大学は女子大であり、美奈子は男性との出会いがないとよく嘆いている。であれば女子大など選ばなければ良かったのにと僕は思うのだが後の祭りというものだろう。
ちなみに奈緒子さんは高校も女子高に通っていたそうであり、少し男性のことが苦手な節がある。
ここからは僕の勝手な想像だが、男性から胸に向けられるいやらしい視線が原因で男性不振になってしまったのではないだろうか?
それも小学生や中学生の時期にそうなってしまい、女子高、女子大へと進む道を選んだのではあるまいか?
何しろ奈緒子さんの胸はテレビのびっくり人間に出演できるくらいの大きさなのだから。
いつから胸が大きくなったのかは不明だが、子どもの頃から相当大きかったのは容易に想像できる。
真相はどうであるかは置いといて、僕がもし奈緒子さんと付き合えるとしたらこの上なく素晴らしいことだろう。
だが人間の姿に戻れたとしてその可能性は低いかも知れない。どちらかと言えば振られる可能性の方が高いのだから僕はブラジャーとして彼女を支えている方が幸せなような気がする。


三ヶ月が経過した頃、僕はある変化に気がついた。
僕は仕事柄、奈緒子さんの身体の変化にはすぐ気づいてしまう。少し前からだが、体に装着されたときに少し窮屈になったと感じている。
最初は気のせいかと思っていたが、ある日、奈緒子さんがブラを着けるとき三列あるホックの中央ではなく端で止めたので僕の気のせいではないことを確信した。
可能性として考えられるのは、彼女が太ってしまったか、或いは、胸が大きくなってしまったかどちらかだが、アンダーバストにはほとんど変化ないのでどうやら後者のようだ。
二十歳を過ぎて胸が成長することなんてことがあるのかと思ったが、カップの中で乳房がみっちりと詰まり、確実に余裕が無くなっているのでやはり成長したということなのだろう。
ただ、その変化は見た目ではほとんどわからない。元々、とんでもなく大きい奈緒子さんの胸、多少のサイズ変化で人に気づかれることはない。
この変化に気づいているのは奈緒子さんと僕の二人だけなのである。
もし、彼女の胸がもっと大きくなったらどうなるのか?僕のカップでは受け止められないほど成長してしまったら?僕は用なしになってしまうだろう。
数ヶ月後、その懸念は現実のものとなってしまったのである。


四ヶ月後、カップ上辺の曲線部分から乳房の肉がはみ出し始めた。また少し窮屈になっているが奈緒子さんはあまり気にしていない様子だ。

五ヶ月後、カップが浮き気味になり、上辺からはみ出す肉の量も多くなった。ホックを止めるときに少し苦労するようだ。

六ヶ月後、カップの上下から乳肉がはみ出し、明らかに僕の限界を超えてしまった。無理矢理にホックを止めるとバンドが背中と脇にめり込んでしまい痛みを感じるようだ。

僕はとうとういつもの箪笥からプラスチックの衣装ケースに居場所を移されることになってしまった。
お蔵入り。もう僕の役目は終わってしまったということだ。
衣装ケースには奈緒子さんがこれまでに着用してきたと思われるブラジャーたちが所狭しと詰められていた。
彼らはもう使われなくなった先輩たちであり、ここはブラジャーの墓場というわけだ。
この先、僕は一体どうなるのだろう?用がなくなった僕たちはまとめて捨てられてしまうのだろうか?
そんな不安で一杯の中、僕はだんだんと眠たくなってきた。衣装ケースの中には防虫剤が入れられており、どうやらこの匂いが眠気を誘っているようだった。
眠い…もう駄目だ。目が覚めたときに人間に戻っていてくれたらいいんだが…そう思いながら僕は衣装ケースの中で深い眠りに落ちてしまうのだった。











(ガタン、ガタン!)


僕は大きな音で目を覚ました。一体どれくらいの期間、僕は眠っていたのだろう?
一週間、一ヶ月、それとも、一年以上なのか僕には皆目見当がつかなかった。とにかく長い期間眠っていたということだけはわかった。
もう一つわかったことは、残念ながら僕はブラジャーのままだということだった。


(ガタン!)


今度は衣装ケースが大きく揺れた。地震でも起きたのかと思ったがそうではないらしかった。
衣装ケースが押し入れから出され、蓋が開けられようとしているのだ。


(バコッ…)


錠のようなものが外されて蓋が開けられた。新鮮な空気が入り込んできて眠気が解消される。蓋を開けたのは奈緒子さんだった。
部屋の風景はいつもの通りで変わっていなかったが、彼女の横には彼女よりも若い女の子が立っていた。

「うわぁー、すごい!ホントに全部取ってあるんだ??」

周りのブラジャーに視界を阻まれてはっきりとは見えないが、中学か高校生くらいの女の子が衣装ケースの中を覗いていた。
奈緒子さんに妹がいるというのは聞いたことがある。彼女がそうなのだろうか。

「由依だったらこれくらいかしら?」

奈緒子さんはそう言ってケースの中からブラジャーを一つ引っ張り出した。
そしてユイと呼んだ女の子の前でそれを広げて見せた。

「どうかなぁ?」

彼女はそれを手に取りカップを自分の胸に当てた。見た目は幼いが胸はかなり大きいように見えた。

「それは32Hよ。日本のサイズで言うとLカップくらいね。」

「ちょっと小さいかな…」

女の子はキャミソールの上からブラを当てているが膨らみに対してカップのサイズが小さいようだった。

「えっ?この大きさでダメなの?」

「ちょっと合わせてみる」

女の子は恥ずかしげもなくスルスルとキャミソールを脱いで2つの砲弾を露わにした。デカイ…なんて子だ。
肩紐に腕を通してカップを胸に当て、背中でホックを止めたがバンドはかなり緩そうだった。

「アンダーは詰めてあげるわね。でも、やっぱり小さいか…」

カップとカップの間の土台が少し浮き気味になっていて容量不足であることがわかる。

「お姉ちゃん、これは?」

由依はどうやら奈緒子さんの妹であるようだった。それなら胸が大きい理由も納得できるなと思っていたら、突然、僕の身体がふわりと浮いた。

「あっ、それはこの前まで着けてた…」

急に視界が開けたので彼女の顔をよく見ることができた。姉に負けず劣らずのかなりの美女である。彼女は僕のことを驚きの目で眺めた。

「でっか!さすがに大きすぎ!一体何カップあるのよ??」

妹はバンドの裏側にあるタグを確認したが、洗濯の方法が書かれているだけでサイズの表記はなかった。
これは僕がオーダーメイドで作られたためであった。

「Z…」

「うっそ〜!ゼットォ〜!お姉ちゃん、また大きくなってる??信じられな〜い!」

Z…だったんだ。今までずっと不明だった自分のカップサイズが思わぬ形で知らされることになった。
ゼット、ゼーット、ゼットォ…大きい大きいとは思っていたがまさか自分がアルファベットの最後に数えられるサイズだったなんて思わなかった。
奈緒子さんから情報を引き出してくれた妹に"でかしたぞ'と大きな声で言いたかった。
しかし、そのZカップが入らなくなってしまった奈緒子さんって…

「32HHがあったわ。これならどう?」

妹の由依は僕をケースに戻し、姉から提示されたレースのついた赤いブラジャーを手にした。

「派手っ!」

「国産は淡い色が多いけど、外国製ってこういう感じのが普通なのよね」

先ほどのブラを外して赤いブラを着けてみるとどうやら今度はしっくりと来たようだった。国産ならMカップに相当するサイズである。

「いい感じかも?もらっちゃっていいの?」

「もちろん。由依のために取ってあるんだから。しばらくそれでいけそうだけどまだ上のサイズもあるし、もし外国製が入らなくなったらさっきみたいなオーダーメイドブラもあるから」

由依は赤いブラを着用した姿を鏡に写しながらくるりくるりと回っていた。

「今、成長期だからすぐにお姉ちゃんに追いついちゃうかもよ??」

「はは、そうね。私が中3のときは由依ほどなかったからすぐ追い抜かれちゃうかもねー」

中3…?由依ちゃんはまだ中学三年生なのにMカップ相当のブラを着けているというのか?とんでもない女子、いや、姉も含めて全くとんでもない姉妹だな。

「さぁ、リビングでお茶でもしましょう。そのあとミシンでアンダーを少し詰めてあげるから」

そう言うと奈緒子さんは衣装ケースの蓋を閉じた。急に辺りが暗くなり、元いた押し入れの中に収納されてしまった。蓋を閉めたことで防虫剤の匂いが充満し始め、僕はまた耐えられないほどの眠気に襲われ始めた。
次に僕が目を覚ます頃、由衣ちゃんの胸はどれだけ成長しているのだろうか?いつか彼女の胸を支えることを想像しながら深い眠りに落ちていった。僕の出番が来るのはそう遠いことではないのかもしれない。


END