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砦に戻ってくるとわたしは元の相部屋ではなく一人部屋に入れられた。4人でいるときに比べればリラックスできるのはいい。ベッドと小さなテーブル、イス、部屋の隅に簡易なトイレがあった。わたしは硬く粗末なベッドの上に腰掛けた。
ディアナはどこに連れて行かれたのだろう?子どもが知らない方がいい場所って…もしわたしが負けていたら今頃そこに連れて行かれていたのだろう。
しばらく経つと、誰かが連れられてやってきた。クロエかミーナのどちらかだろう。わたしは背伸びをして入口扉についている小さな窓を覗いた。
金色の長い髪の女性が歩いているのが見えた。ミーナだった。女戦士のクロエは負けてしまったのだ。
おしとやかなミーナがクロエを負かした光景がわたしには全く思い浮かばなかった。クロエも今頃はディアナと同じ所にいってしまったのだろう。
次のバトルは1週間後だということを帰ってくる途中で聞いた。BEバトルは毎週末に開催されているようだ。
対戦相手は前日に知らされるとのこと。ミーナと戦うかのはわからないけど、初戦を勝った戦士同士でやるみたい。
バトルの日までは木偶(デク)と自由に模擬戦をすることが許されるようになった。看守に申し出れば練習してもいいそうだ。
牢屋の中での暮らしは退屈だった。朝夕の点呼と1日2回の食事、それ以外は特に何もすることがなかったのでデクとの模擬戦はいい暇つぶしになった。
バトル前日になると対戦相手が知らされたが、ミーナではなくフィオレンティーナという女性だった。名前を知らされただけで年齢や出身などの情報は不明だった。
*
バトル当日。わたしはまたコロッセウムへと移送された。衣装はこの前とほぼ同じ白いブラウスに青いフレアスカートとカチューシャという組み合わせ。
だけどブラウスのフリルのデザインが違うのと、カチューシャにはレースの刺繍があしらわれていた。
どうやら一人ずつイメージカラーがあってわたしのカラーは青のようだった。
対戦相手についての情報がないのは不安だった。年齢やどんなタイプの戦士なのかくらいは知りたかったけど仕方がない。
(ワァーーーーッッ!!!)
時々、歓声が地鳴りのようになって控室にも伝わってくる。出番がいつかも知らされていないので部屋で待つしかなかった。
「出ろっ!」
しばらくして大柄な警備兵がわたしを迎えにやってきた。
わたしはイスから立ち上がって男に連れられて歩いた。会場はかなり盛り上がっているようだった。
(ワァーーーーッッ!!!)
「それでは戦士の入場です!!先ずはイーストサイドから!!フィオレンティーナ・アッシュビル!!」
まずは対戦相手の入場だった。
大歓声の中、バトルフィールドを歩いてくる戦士はわたしよりも小さな女の子だった。黄色い衣装に身を包んだ姿はまるで妖精のようにみえた。
「戦士の紹介をいたしましょう!フィオレンティーナ・アッシュビル、エナン地方出身。花売りの少女。その姿は楽園に咲く黄色いフリージア。
若干12歳は本日の最年少の戦士です!身長142。スリーサイズは84ー53ー76と小柄ですがなかなか発育良好なお嬢さんです!」
(オオーーーッッ!!!)
彼女はくりっとした大きな目をキョロキョロと動かして辺りを見回している。金色の髪を後ろで2つに束ね、頭には黄色い花を付けていた。
衣装はバレエダンサーが着るような淡いイエローのドレスで白いタイツを履いている。見た目に反して胸は大きく、ドレスの胸元には年齢に似つかわしくない谷間が作られている。その見た目でそれは反則でしょ!
「続いて!ウェーストサァーイドォ!マリカ・マルベリー!」
(ワァーーーッッ!!!)
名前を呼ばれてバトルフィールドへ進み出た。何万もの人から注目を浴びるのはやはり心地がよくない。
「マリカ・マルベリー、16歳。イーグル地方出身。商家の生まれ。可憐な見た目と優秀な頭脳を併せ持つイーグルのブルースター。
身長は152。スリーサイズは上から72ー56ー80。今回もこの控えめボディがかなり有利に働くか!!」
(ワァーーーッッ!!!)
控えめで悪かったわね!ほっといてよ!何で対戦相手が巨乳ばっかなのっ!
「それでは、マジックスクリーンにご注目ください!!掛け率はどうなっているでしょうか!?」
掛け率
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マリカ・マルベリー 1.1
ディアナ・アークランド 5.0
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デポジット
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賞金 5000s
チップ 1524s
合計 6524s
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「おおっと!マリカ・マルベリーが圧倒的!1.1倍で人気です!胸の差もありますが初戦の巧みな試合運びが評価されているのでしょう!」
む、むねのことは言わなくていいじゃない!もう!
「このバトルの賞金は5000シリング、チップを合わせた金額は6524シリングとなります。
さあ!それではいよいよバトルを開始いたしましょう!これよりフィールド上にエクスクルーシブ・エリアを設定します。」
バトルフィールドの周囲を半透明の魔法の壁が取り囲む。観客席が見えなくなり、歓声が小さくなった。
「それではコイントスを行います。」
(ピィーン……)
「Eが表!イーストサイドのフィオレンティーナさんの先攻です!さあ!それでは!いよいよバトルゥー…スタァートォゥ!!」
〜バトル開始〜
7枚のカードが手元に配られた。
『マムク』『ムクムーン』『ドバイン』『デカバイン』『マジックリターン』『ミニマイザーブラ』『成長ホルモン』
強力な攻撃魔法が揃っていて、リターンもある。これは速攻でいくしかないわね。
わたしは『マジックリターン』と『成長ホルモン』の2枚を場に伏せた。
「マリカ・マルベリー、マジックリターンと成長ホルモンを場に伏せましたぁ!
フィオレンティーナはどの2枚を選択するでしょうか。なお、私の声は2人には聞こえないようになってますのでご安心ください。」
相手は少し迷いながら2枚のカードを選んだ。
「フィオレンティーナのカードを見てみましょう!『ムク』『マムクム』『バイン』『バイバイン』『ダークウインド』『豊乳サプリEX』『縮乳ブラ』となっています。
このうち、『ダークウインド』と『ムク』を場に伏せました。
防御にやや不安のある構成です。効果絶大のバイバインをどこで使うかがポイントになりそうです!」
〜1ターン目〜
フィオレンティーナの攻撃。
"豊乳サプリEX"
「フィオレンティーナ、持続効果のある豊乳サプリEXでまず先手を打ちます。相手のバストが毎ターン10%ずつ増加していきます!」
(ミチッ…)
「マリカ・マルベリーの平な胸元が少し膨らます!」
[マリカ:B72→79]
わたしのターン。一気に畳みかけるわよ。
"ムクムーン!"
「マリカ・マルベリー、いきなり強力なカードを使ったぁ!」
(ムクッ、ムクムクムクムク…)
「フィオレンティーナの無垢な乳房が一気に膨れ上がっていきます!黄色いドレスから大きくなったバストが……ぶるんっとばかりに溢れでます!
おっと!大丈夫か?フィオレンティーナ、バストの重さでよろめいています。さすがに+50は小さな体には堪えるようだ!」
[フィオレンティーナ:B84→134]
〜2ターン目〜
「フィオレンティーナ、カードを補充しました。」
『ムク』
「ここでまず、『縮乳ブラ』を使って大きくなったバストを押し込めます!ターンは消費しません。」
[フィオレンティーナ:B134→104]
"マムクム!"
「そして、マムクムを使ったぁ!バスト+30!今度は戦士マリカの胸が膨れていきます!加えて豊乳サプリEXの効果も追加されます。これはいい攻撃だぁ!」
(ムクムクムクムク…ムクムクッ)
[マリカ:B79→109→120]
(パツンッ!)
「おおっと!ここで戦士マリカの服のボタンが飛んでしまいました。ブラウスの隙間から豊かな谷間が覗いております!」
わたしのターン。カードを一枚補充。
『ムク』
残念。弱いカード。
とりあえず『ミニマイザーブラ』を使う。
[マリカ:B120→110]
よおし、行くわよ!
"デカバイン!"
「出ました!これも大技!バスト1.5倍の強力魔法です!フィオレンティーナはどうするか?このまま受けるしかありません!!」
(ムクムクムクムクムクムク…)
[フィオレンティーナ:B104→156]
「フィオレンティーナのバストがまた大きく膨れ上がっていきます!
縮乳ブラがちぎれそうなほどに引き伸ばされ……おっと!どうだ?支えられるか!?フィオレンティーナ、体がふらついて…」
(ズシンッ…!)
「ああっと!!支えきれずに胸が着いてしまったぁ!!勝負あり!!勝者マリカ・マルベリー!!」
(ワァーーーーッッ!!!)
(ドォーーーーッッ!!!)
「ぬあぁんと!たった2ターンの速攻でマリカ・マルベリーがフィオレンティーナ・アッシュビルを仕留めましたぁ!!」
魔法の壁が解除されると観客の大歓声が聞こえてきた。わたしは手を振って応えながらフィールドを後にした。
勝利は嬉しいけど、負けてしまった女の子がどうなるのかと思うと正直なところあまり喜べなかった。
BEバトルには、「運」「判断力」「体力」がいると言われる。「運」に最も左右されるが、カードをタイムリーに使う「判断力」も備えてないといけない。そして、胸が大きくなって来た時にそれを支えるだけの「体力」も必要だ。
そういう意味でフィオレンティーナはまだ幼く、体も小さくてバトルに向いているとは言えなかった。
わたしとしてはラッキーだったかもしれないけど、後味はあまり良くなかった。