11.夏の暑さ
7月に入り、気温はだんだんと高くなってきました。エルフは冬の寒さには慣れてますが夏の暑さはどちらかと言うと苦手です。しかも、森の中に比べると街中は格段に暑いのです。
叔父さんは昔はここまで気温が上がることはなかったと言います。人間の数が増え、車やエアコンなどがたくさんのエネルギーを使うので気温がどんどん上がっているのだそうです。
暑くなって食欲が落ちてきたように思います。エルフは人間ほど体重が大きく増減しないのですが、少し痩せてしまっているかもしれません。
夏バテの防止にはクルミや栃の実など栄養のある木の実を一日に一、二粒食べるのがよいと言われています。
私は叔父さんの店で取り扱っている木の実を少し分けてもらって少しずつ食べることにしました。
今月の下旬からは夏休みが始まりひと月足らず休みになります。ですが、その前に期末試験が控えています。クラスのみんなは時間に向けて準備を始めているようです。
私は中間試験では散々な結果でした。いきなり三年生の勉強は難し過ぎるのに加えて漢字が読めないハンデもあります。問題の意図を汲み取ることにも慣れてませんでした。
でも、期末試験では少し挽回できると思っています。エルフは口頭伝承が基本ですから人の話を聞いてそれを記憶するのが得意です。
人間は文字を書物やコンピュータに記録してそれを誰でも使えるようにしましたが、私たちは記憶を伝承することで文化を受け継いでいるのです。
そういう訳なので私は先生の話を一度聴くとまず忘れません。解らない問題に当たっても授業のときに先生が何て言ってたかを思い出せば良いのです。
試験対策ということで、みのりの家に集まって三人で一緒に勉強をすることになりました。
みのりの家は両親と姉の四人家族だそうです。家は叔父さん家より少し小さいですがまだ新しい二階建てです。みのりの部屋は姉と並んで二階にありました。
両親は仕事、姉は学校に行っているそうで家には誰もいません。
私たちは玄関で靴を脱ぎ、階段を上がってみのりの部屋に入りました。人間の家に入るのは初めてのことでとてもドキドキします。
部屋は女の子らしい可愛い部屋になっていて、学習机、テーブル、ベッド、本棚などがあり壁にはアニメのキャラクターのポスター、本棚にはぬいぐるみが飾ってありました。
「その辺に座っててくれる?ちょっとお茶入れてくる。」
鞄を床に置き、中央のテーブルの前で腰を下ろしました。
かえでも部屋の様子が気になるみたいでキョロキョロと見回していました。
「意外にキレイにしてるなぁ。私の部屋なんてとっ散らかってるわよ〜」
「普段のイメージと違うところあって面白いね」
少ししてみのりが麦茶の入ったコップを持って戻ってきました。
「こらこら、なにくつろいでるのよー。勉強しに来たんでしょう?」
私たちは鞄から勉強道具を取り出してテーブルに広げました。
今日はお互いの苦手な科目を勉強して、わからないところを教えてもらうことにしています。そうすると教える側も勉強になって効率的なのだそうです。
私は数学の教科書とノートを開きました。
「みのりは何をやるの?」
「わたし?わたしは理科よ」
(ぽゆんっ…)
私の向かい側にみのりが座りました。制服の胸の膨らみがテーブルのへりに押し当てられ柔らかそうに歪みます。
矢野パイ…
隣に座るかえでもその様子を見て呟きました。
「いいな〜、みのりは。乗せられるムネがあって〜」
「ご、ごめん。家だとクセでつい乗っけちゃうの…」
「学校だと男子の目があるもんね」
「結構重いからこうしてると楽で。肩も凝るし」
テーブルの高さも胸を乗せるのにちょうどいい高さみたいです。
「ねえ?みのりのムネってどうやって大きくなったの?」
「ど、どうやって??うーん、遺伝かなぁ… 母親も姉も大きい方だし」
「遺伝か… それ言われるとどうしようもないわね。特に好きな食べ物とかは?キャベツとか鶏肉とか育乳効果があるって言うじゃない?あとは牛乳とか乳製品」
「いちごのショートケーキ。キャベツとか鶏肉とかはフツーかな。」
「いちごショートは私も好きよ…」
「牛乳は苦手。飲まなかったから母親に代わりに豆乳を飲むように言われてた」
「ふむふむ、豆乳か。育乳効果があるとされる食品よ・・・」
「ねえ!勉強しに来たんでしょう!?かえではどの科目やるのよ??」
「私?そうね、英語やろうかな〜」
ようやく勉強がスタートしましたが、三人でいるとすぐに雑談が弾んでしまい効率的とは言えませんでした。
「なんかお腹空かない?おやつ食べる?」
「うーん、パス。ダイエット中」
「エルは?」
「私はあんまり空いてないかなぁ」
「じゃあ、私も我慢しよっと」
おやつに興味がありましたが、食べられるかどうか判断に悩みそうです。
「エルは普段間食とかあまりしないの?」
「うん」
エルフは普通、一日二食です。こちらに来てからは人間に合わせて三食にしているのでさらにおやつを食べたいとは思いません。
「やっぱりそうなのねー」
「私たちも見習わないと〜。勉強してるとつい口が寂しくなっちゃうのよね」
結局、三人での勉強会はこの一回きりとなりその後、二度と開催されませんでした。