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10月に入り、学内選考会もあと1ヶ月余りと迫ってきた。学内選考会とは、峯山神社の巫女を選ぶ来年2月の本戦を前に、学内で候補者を絞り込むための選考会である。
各クラスから最大4名、学年で48名までをエントリーし、その中から6名を巫女候補として選ぶのである。最も重要なのはバストサイズであることは言うまでもないが、それだけではなくバストの形状や左右のバランス、体型、容姿なども選考対象となっている。
各クラスでの選考は希望者を募るところから始まり、希望者が4名を上回る場合は話し合い、それでも話がつかなければくじなどで選定する。
ただ、昨年度の巫女が5Z、6Z、8Zだったことから最低でも4Z以上との暗黙のラインが生徒たちの中で出来上がっているようだ。
我が8組で最大は桜井詩織の4Zで本人もエントリーするつもりでいる。本戦までにもうワンサイズ上がれば巫女に選ばれる可能性も十分にあると考ええいる。
次点は3Zの楠木柑奈と槙野奈々だ。槙野さんの成長は著しくまだまだサイズアップの期待がある。
一方で、2Z以下は正直なところ校内選考で残るのは厳しいと言わざるを得ない。Zカップ超えしていても巫女候補に選ばれない時代が来るとは学園の創始者、峯山一郎も思ってなかっただろう。
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峯山学園の秋のイベントとして、学内選考会の他に文化祭がある。毎年、10月末から11月初旬に行われ、その時期になると準備で放課後に残ったり、寮に持ち帰って作業したりするそうである。
学園の伝統で、高等部の生徒が文化祭を主催し、初等部・中等部の生徒児童を招待するという形式になっていて、外部の人を入れるということはしていない。
催し物は一般的なもので、飲食の模擬店、投げ輪やスーパーボール掬いなどのゲーム、お化け屋敷や迷路などのアトラクション等々である。
8組は何をするかをホームルームで案を出し合い、話し合った結果、お化け屋敷をやることになった。
担任としては特に手を出すことはなく、困っていることがあれば相談に乗るくらいだろうと思っていたが、檜原先生はこういうイベント事が大好きらしく積極的に顔を突っ込んでいるようだった。
「・・・でね。受付の2人以外はみんなゾンビに扮することになったんですよー。もちろん特殊メイクなんてできないですけどコスプレグッズなんかでそれっぽいものも手に入るみたいです」
お化け屋敷と聞いて和風なお化けを想像していたが、そうではなくて洋風な感じなものをやるらしい。
毎日、放課後、教室では衣装や飾り付けの製作が行われるようになった。
檜原先生が毎日、報告してくれるので僕が見に行かなくてもおおよそ順調に進んでいることはわかった。
僕も様子を見に行ったが、衣装は個人が思い思いに考えて作っており、古着などをビリビリに破いてそれを絵の具で汚すなど案外上手くできていた。
文化祭の前日は授業はなく、丸一日使って準備を行なった。僕はお菓子やおにぎりを買い、生徒たちに差し入れを持っていった。
「もうかなり出来ているみたいだな…」
「あ!平野先生!」
教室の窓は暗幕が張られていて中を見ることはできず、入口の扉の横には受付が出来ている。
ここは廃墟となった病院という設定になっており、血塗られた机にはおどろおどろしい字で「受付」と書かれている。
「はい。これ、差し入れだよ。少し休憩したらどうだい?」
「わーい!みんな〜、差し入れよ〜!」
中からぞろぞろとゾンビが出てくるのかと思いきや、衣装やメイクは当日に準備するということなのでいつもの体操着姿である。
ゾンビ化した人間を治すため廃墟となった病院に薬を取りに行くという設定になっているそうだ。
中を見せてもらおうとしたが、生徒たちにまだ入らないでくださいと言われた。
「平野先生には最初のお客さんになってもらう予定ですからね!」
*
文化祭の当日、開始時間の10時少し前に行くとほとんど準備が終わっているようだった。
受付にはナース姿の生徒が2人、梶田さんと香椎さんが担当だ。ナースの衣装は不気味さを出すためにところどころどす黒い赤色の絵の具で汚されている。ただ、Tカップの梶田さん、Xカップの香椎さんの胸元は大きく張り出して苦しそうになっていた。市販のナース服を買ってきたため彼女たちには小さかったようだ。
「平野先生!おはようございま〜す!さっそく入ってみてください!」
僕がチケットをちぎって渡すと香椎さんがありがとうございます、と言ってニッコリと笑った。
彼女の口元から2本の牙がニョキっと突き出した。
梶田さんの頬には深い傷があり何かに引っ掻かれたような跡も付けられていた。
(ガラッ…)
教室、いや、病院の扉を開けると中は真っ暗になっていた。中に入ると部屋の奥の方がぼんやりと光っていることがわかった。どうやらそこへ進めということらしい。
「ガォーーッ!!」
「ガォーーッ!!」
横から2体のゾンビが襲いかかってきた。
ゾンビたちは赤いライトで照らされて、顔の皮膚がただれ、手足も血だらけになっている。なかなか上手く出来ていると思った。しかし、2体ともに可愛すぎた。
(このゾンビたち…)
声がかわいいし、顔もキュートだ。しかも、おっぱいは特大サイズ。こんな女子高生ゾンビにはむしろ襲われたくなるだろう。
いや、いかん。教師が何を考えているんだ。
(このゾンビたちは…柿崎さんと高梨さんだな?)
メイクをしているが、顔の感じで大体どの生徒なのか検討がついた。しかし、柿崎さんは2Zカップ、高梨さんはVカップと豊かな膨らみが前に突き出しており、どうしてもそれに目がいってしまった。
僕はゾンビから逃げて光の方へと進んだ。すると机の上に液体の入った小瓶が置いてあり、これが薬であるらしかった。
それを取ろうとして手を伸ばすと警告音が鳴り、ランプが点滅した。するとベッドに伏せていたゾンビが起き上がってこちらに向かって叫んだ。
「グォーーーッ!!」
これはなかなかの迫力だった。
全身が包帯でぐるぐる巻きのゾンビ、いや、ミイラ男にも見える。目元も隠れていたので誰だかわからなかったが、包帯の巻かれた胸元はZカップ級であるのは間違いなさそうだった。胸に食い込んだ包帯が艶めかしい。
(この子もウチのクラスの子だよな?)
僕は小瓶を手に取り、次に向かう方向を探すとEXITと書かれた標識が見えた。そこが出口のようだった。
さらに大勢のゾンビたちが僕に襲いかかってきた。
「グァーーーッ!!」
「ガァーーーッ!!」
「コォーーーッ!!」
「ガォーーッ!!」
「グォーーーッ!!」
どのゾンビもメイクや服装がそれぞれ違っており、歩き方も様になっていた。ここではいちいちどのゾンビが誰なのか考えている暇はなかった。
僕は捕まらないように彼女たちから逃げ、出口の扉を開けた。
扉を出るとナースの梶田さんが待っていたので、彼女に取ってきた小瓶を渡した。
「はぁい、先生、お疲れ様でしたー。どうでしたか??」
「迫力があって良かったね。みんな良く出来ているんで感心したよ。」
「よかったぁ!はい、これ記念品のゾンビステッカーです。」
「こんなものまで作ったんだ。凝ってるねー」
「これは檜原先生のアイデアなんです」
そう言えば文化祭をとても楽しみにしていた檜原先生の姿が見えなかった。
「へぇー。いいね、思い出になるよ。ところでその檜原先生はどこに?」
「中にいませんでした??包帯巻いていたと思いますけど」
「あのミイラ… 檜原先生だったのか!」
ウチの生徒にしては少しムッチリし過ぎているなと思ったがまさか檜原先生だったとは。
少し手伝うくらいですと言ったが、自分まで生徒に混じって仮装までやるのはちょっとやりすぎだと思う。
受付にはもう初等部、中等部の女の子が並び始めていて、僕の後にも早速誰かがお化け屋敷に入っていった。教室からきゃあきゃあという叫び声が聞こえていた。