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峯山神社の巫女選びが終わった数日後、僕と檜原先生は居酒屋で祝杯を上げることにした。
峯山南駅前にあり、3ヵ月ほど前に学内選考会の後に来た場所であった。
「あ〜、急に忙しくなりましたね〜」
「ようやくひと段落したね。彼女たちが巫女に選ばれてから我々も色々と取材されるし、色んなところに引っ張り出されるしね。」
「ま、嬉しい忙しさだからいいですよね。」
「あ、ビールが来たな、まずは乾杯だ!」
「うえ〜い!かんぱ〜い!!」
季節は冬。ただ、居酒屋の中は暖房で暑いほどなので冷たいビールが喉に染みる。
檜原先生はダイエットでしばらく禁酒していたそうだが今日ばかりは解禁するとのことだ。
「うまいっ!」
「今日はチート・デーなんでガンガン頼んじゃいますよ〜」
檜原先生は店員を呼んで立て続けにメニューから色んな食べ物を注文した。
「いや、しかし、2人とも選ばれるとは夢にも思わなかったねー」
「そうでしたね。槙野さんはあのサイズですから大丈夫かなって思ってましたけど、桜井さんはサイズ順では厳しかったですから。」
「桜井さんはお淑やかでしっかりしているし、巫女にバッチリ向いていると評価されたんだろう。」
「関係者の話では、立ち振舞いが優美で品位の高いところが良かったみたいですね。それから、張りのあるバストも評価が高かったようですよ。」
「えっ?そんな話出てたっけ?」
彼女は少し声のトーンを落として言った。
「知り合いから聞いたんです。峯山神社には何人か知ってる人がいるんで…」
さすが人脈豊富でコミュニケーション能力の高い檜原さんだ。どこの誰から情報を引き出してくるのだろうか。
「じゃあ、槙野さんは?」
「もちろん、あのバストの大きさですよ。大きさの割にカタチもバランスも申し分ないという評価です。それから巫女舞の出来もダントツでよかったらしいですね!」
槙野さんの9Zのインパクトは絶大だった。そして、巫女舞は確かに12名の中で一番優雅に踊れていたと思う。
「本田さんの評価は?」
「本田さんは総合評価では一番だったそうです。バストの大きさでは槙野さんに及びませんでしたが、それ以外のほとんどの項目で評価が高かったそうです。」
「やはり、そうだろうな。」
本田さんの8Zバストも非の打ち所がないほど美しかったし、美人で立ち振る舞いなんかも素晴らしかった。
個人的には顔面偏差値の高い2組の与田さん(6Z)、サイズで桜井さんを上回る10組の鹿間さん(7Z)も巫女に選ばれるんじゃないかと思っていたが、僅差で及ばなかったということだった。
「桜井さんは選考会からワンサイズ上がってよかったと思います。5Zのままでは恐らく…」
「檜原先生が彼女を励ましながら二人三脚でダイエットに取り組んだお陰だよ。彼女はよく頑張ったが、先生のサポートがあってこそだったと思うよ。」
「いえ。わたしは平野先生のマッサージが効いたんだと思ってます。身体を絞ってもバストを維持できたのはもちろんのこと、バストの張りにさらに磨きがかかりましたから。」
「まあ、二人でサポートしたということでいいんじゃないかな?さあ、冷めないうちに、ここの揚げ出し豆腐は熱々がうまいんだ」
「いただきまーす♪」
出汁に浸された揚げ出し豆腐を箸で切り取り、生姜とネギを乗せて口に運ぶ、そして冷たいビールを喉に流し込む。
「んまい」
「うまいですね♪」
僕は本当に檜原先生のお陰だと思っていた。
生徒に付きっきりで同じようにダイエットするなんて簡単なことではない。周囲からは途中で諦めるだろうと思われていたが、結局のところ4月から2月までの11ヵ月間で12キロの減量に成功していた。
彼女を初めて見たときは、胸以外もふくよかでお母さん感のある女性だなと思ったが、12キロ痩せた今はぐっと女振りが上がって"美人"と言っても全く差し支えなかった。
「なに見てるんですか?」
「あ、いや、檜原先生も痩せたなぁと思って」
テーブルの上には彼女の4Zカップバストがどっかりと鎮座していた。痩せた割にバストの容量は少しもダウンしてないのは素晴らしい。
「そうでしょう、そうでしょう!ダイエットに成功したのは人生で初めてなんです。生徒たちの前で宣言しちゃいましたし、平野先生にはマッサージしてもらってますし、杉崎先生にも頑張ってと言われましたし。辞められなくなったのが正直なところですけどねー。でも、痩せ始めてからは鏡を見るのが楽しくなりましたね。メイクもちゃんとするようになりましたし。」
「なるほど、メイクもか」
「気づいてました?男の人はそういうところあまり気づかないんですよねー」
「ああ。でも最近、キレイになったなって思ってたんだよ。」
「えっ?何ですか?」
「何でもない」
「えっ?えっ?」
丸かった顔の輪郭はシャープになり、肩幅も一回り細くなったと感じる。脇腹から腰にかけてのシェイプもすっきりとした。大きかったヒップも引き締まっていくらか小さくなり丸く盛り上がっていた。
「来月に入るととうとう卒業式ですね。」
「あっという間だったな」
「淋しくなります。生徒の成長を見るのは楽しいですが、別れは必ず付きものですからね。」
空気がしんみりしてきたところで僕たちは支払いをして居酒屋を後にした。この後は僕の部屋で二次会をすることになった。
*
2月の下旬。
僕は槙野さんを伴って真壁先生の研究室を訪れていた。おおよそ一年前に起きたリ・グローイングによって彼女のバストは急激な成長を始め、4月にYカップだったバストは11月の選考会で5Zカップに、そして、2月の巫女選びでは歴代最大の9Zカップに達した。真壁先生と僕はその成長過程を見守りながら異常が起きそうならすぐに対処するようにしていた。急激に胸が成長する時期には乳腺が異常に発達してしこりなどができてしまうことがある。そうなると正常な成長が阻害されたり、別の病気をもたらすことがあるため触診によって予兆がないかをチェックする必要があった。また、肥育期に急激に脂肪が蓄積されると下垂したり、左右のバランスが崩れたりしやすい。そうならないためにはマッサージで胸筋を刺激したり、トレーニングで筋肉のバランスを取ったりする。
その甲斐があってか彼女のバストは稀に見ない急成長をしても美しいフォルムを保ち、巫女選びでも高い評価を受けた。
今はもう肥育は終了しており、彼女はやや増えすぎた体重を減らすためにバストを落とさない程度の減量を始めていた。
僕と槙野さんが研究室の扉のノックすると、出て来たのは学園主任の杉崎先生だった。どうやら真壁先生とは別の話をしていたようだった。
「どうぞ、入ってください。真壁先生がお待ちです。」
杉崎先生は教師最大の7Zカップを誇る。地道な育乳を続けてきた成果であり、成人してからでも育乳が有効であることを自ら証明していた。
僕の隣にいる槙野さんはそれを上回る9Zの膨らみを擁している。もし、槙野さんが杉崎先生のように育乳を続けていけばどこまでのサイズに達してしまうのだろうか?
「失礼します…」
「槙野さん、その後調子はいかがかな?」
真壁先生は槙野さんに椅子へ座るよう促した。
「調子は、特に問題はありません。」
「よし。では胸を見せてもらえるかな?」
「はい。」
彼女は制服の前をたくし上げて下着に包まれた膨らみを出した。
(ぼ…るんっ)
細かな花の刺繍が施された白く清楚なブラジャーの中には暴力的とも言える巨大な乳房が収められていた。
このようなシチュエーションを何度も経験している彼女はためらいなく背中のホックを外し始めた。
(プチッ… プチッ… ぼゆんっ)
ブラのカップからせり出すように柔らかそうな白い乳房がはみ出してきた。槙野さんはブラを外すと巨きな2つの膨らみを真壁先生の方に向けた。
「緩やかに減量を初めていると思いますがどうですか?」
「特に問題はないです。時々、お腹が空いて鳴ってしまうくらいで…」
槙野さんは少し恥ずかしそうに言った。肥育から減量に切り替えると誰でもそうなるのが普通だと真壁先生は言った。
(むにゅっ… むにゅっ…)
真壁先生の指が槙野さんの白い乳房に埋まってゆく。先生は触診で異常がないことを確認していた。
槙野さんのバストはつい見惚れてしまうほどに大きく美しい。その2つの膨らみが先生の触診で形を変え、歪む様子は見ていても飽きなかった。
「巫女さんの研修はいつからですか?」
「3月20日からです。」
「そうか。頑張ってください。槙野さんなら何の問題もないと思いますが。」
(むにゅっ… むにゅっ…)
「ありがとうございます。卒業するのはすごく淋しいですが、先輩やクラスメイトもいるので心強いです。」
(むにゅっ… むにゅっ…)
「よし。問題なしだ。私の触診は今日で最後だが、峯山神社でもバストケアはしっかりやってくれる。心配することはないよ。」
真壁先生の触診が終わると槙野さんは服を元通りに着た。杉崎先生は槙野さんと共に研究室を後にし、僕だけそのまま残るように言われた。
*
「平野くん、ご苦労様だったね。クラスから巫女が2人も選ばれるなんて非常に素晴らしいことだよ。」
「ありがとうございます。」
「槙野さんだが、このまま峯山神社に送り出して問題なさそうだ。なにせ、リ・グローイング後半の肥育などは初めてのことだったからね。内心うまく行くかどうか不安もあったが、君がマッサージと触診を続けてくれたお陰だよ。」
「とんでもないです。真壁先生からそのように言っていただけるなんて光栄です。」
「まぁ、そんな恐縮せず。コーヒーでも淹れるよ。ブラックで良かったね?」
先生は薬罐に水を注ぎ入れてそれを火にかけた。
「ところで君はまだ知らないと思うが、私はこの3月で峯山を去ることになったよ。定年後、嘱託でここに残っていたがそろそろ潮時だと思っていた。実は、国の機関から顧問として来て欲しいという話もあって決心をしたんだ。」
「ほ、本当ですか…」
俄かには信じがたいことだった。
峯山学園、いや、我が国の育乳研究の第一人者である真壁先生がここを去るなんて。
しかし、本人が言われているのだから間違いであるはずはなかった。
「正直なところ、育乳についての仕事はほぼやり切ったと思っていたよ。リ・グローイングという特異な事象を目の当たりにするまではね。今のところ発動条件は明確にできていないが、もしこれを人為的に発動できればさらなるサイズアップが可能になる。実に面白い研究テーマだよ、平野君。しかし…」
先生はコーヒーカップにお湯を注ぐ間、少しだけ間を空けた。
「しかし、私はいささか歳を取り過ぎた。昔のように身体に無理が効かなくなっているし、目もかなり衰えている。研究は若い人に任せて私はお国の仕事の手伝いをすることにするよ。」
*
真壁先生との話が終わり僕は研究室の外に出た。
そして研究棟の出口に差し掛かったところで杉崎先生に出会った。どうやら僕を待っていたようだった。
「真壁先生から聞かれましたか?」
「はい…3月で去られると」
「私には随分前から言われていました。先生は育乳に関する研究をほぼ完成させた、後は若い人に道を譲るだけだ、と仰られていました。ですが、槙野さんのリ・グローイングを見た先生は昔を思い出したように熱心に研究に取り組み始めました。私は引退を取りやめたんだろうとちょっと安心していたんです。でも…」
どちらかと言うとあまり感情を表に出さない杉崎先生が、普段は見せない悲しい顔を僕に向けた。
「やはり、先生の決心は変わらなかったようです…」
その顔には真壁先生への深い想いが込められているように思えた。
「杉崎先生。あなたは真壁先生のことを…」
「はい… 陰ながらずっとお慕いしておりました。真壁先生は研究一筋のお方です。恋心など叶わぬことと知りながらも先生のお側にいるだけで私は幸せでした。」
「そうでしたか…」
杉崎先生が独身を通していた理由を僕はようやく理解した。また、これだけの美貌を備えながら今まで浮いた噂がなかったことも納得ができた。
「真壁先生が成人女性の育乳法を確立させたいとモデルを探されていると聞き、私はこれに立候補しました。研究は何年にも渡ると言われましたがもちろん了承しました。お陰でYカップだった胸はこの通り7Zカップまで大きくなりました。私は胸が大きくなったことよりも先生の育乳理論が正しいことの証明ができて、研究のお役に立てて、何より嬉しかったのです。」
「杉崎先生は真壁先生に想いを伝えたことはあるんですか?」
「いいえ。それは言うべきじゃないと考えています。」
「真壁先生が行ってしまう前に伝えるべきだと僕は思います。」
しかし、僕の意見に対する杉崎先生の言葉は返ってこなかった。