暗夜行路

dish 作
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(殺し屋)           一
 暗夜行路店の看板にはそう書いてあった。
 茶色にくすんだ樫のドアがゆっくりと開かれて中に入る。酒場のようだ、せわしなく周りを見回していかがわしい匂いのないことに少しだけ、ほんの少しだけ安心する。
「先生、和風のリキュール頂けるかしら」
 先生と呼ばれたほっそりとして柔和そうな男が日本酒を差し出した。受け取った男は別段御釜という風でもない。寧ろこっちこそ先生と呼ばれそうな和服の男である。一気にあおるしかしどことなく上品である。粗野な感じはしない。
「どの程度です」
 和服が飲み終わるのを待って先生が訊く。
「三十(三千万)だからねぇ、まぁ三年ゆっくりでもいいし一年できつーいのでもいいわね、どうする」
 私はドキッとして二三度口をパクパクさせたけど声が出てこなかった。てっきり怖い人たちのところに連れて行かれて口を聞けないようなことをさせられてしまうんだと思っていたから何があっても反応しないようにぎゅうっと心を閉めていたのだ。
 意思の疎通なんてしたくない。口を開いたら自分の中に収めていた何かが漏れてしまうような気がした。
「きついといっても別に連日連夜奴隷みたいな扱いをさせられるわけじゃあないわよ。あんたがイメージしているような暴力男の相手させるわけでもないし」
 よっぽど顔をこわばらせていたのだろう、和服が口もとをひらひらさせながら云う。
「ただちょっと特殊な方々の趣味を聞いてもらうだけ。そしてその人たちの趣味素姓は決して云わない訊かないあんたも訊かれない。そしてここが何より違うのだけど自由じゃない一年なら一年外に出たりできないわ」
 私の顔はますます緊張しただろうかまぶたのあたりがびくびくと引きつった。和服の視線から目を離せない。
「たこ部屋に入れられたを思えばいいんじゃない? 寧ろきっちりした生活でいいんじゃないかしら社会にでてからも通用するわよぅ若いときの苦労は買ってでもしなさいってね」
 私にははじめから決定権はなかったのかも知れない。
「それとも中年のデブ親父のケツ嘗めたり暴力男のナニ咥えたりして三年過ごす? それでもまぁいいけど、どーせろくなことじゃないんだから短い期間のほうが善いわよねぇ」
 震えながら首を縦に振った。
 先生の目がギラギラ光る。
               二
 先生が小切手を出して参千萬と書き込む。
「じゃ、あたしはこれで」
「またどうぞ」
「この子が仕上がったらまたくるわ」
 先生は和服を送ってドアに「骨休み」の看板を掛けた。今日くる客は彼女だけだったのだろう。
「来な」
 暗夜行路は平屋であるが地下室がある。広い広い地下がある。一階の規模に比べて庭が妙に広いのはそういうわけである。
 ドアと階段を二度ずつくぐって八畳の畳部屋にきた。靴置き場と箪笥で一畳、蒲団でもう一畳、流しとやや大きめの冷蔵庫でで二畳半、丸盆で半畳、淋しい部屋である。窓は無論ない。剥き出しのコンクリートの壁があるだけだ。
「ここが君の部屋だ」
 先生は流しの下から日本酒と味醂を出して卵を焼き始めた。バーテンをしているのだから手先が上手なのであろう。モノの数分で焼き飯ができてしまった。簡単な卵スープもできている。
 (う)ぐぅと腹がなった。そういえば昨日から固形物を口にしていない。胃がきりきりしていた。
「掛けて食べなさい」
 まずスープに口をつけた。熱い、熱いといっても酒が強烈に効いているのである。付き合いでビール一杯をようやく飲むような彼女である。熱くなった。
 酒と食事との相性はいかなるものであろうかげんなりとしていた腹調子もすかっり酔っ払って作るより早く一皿食べてしまった。半径で彼女の手の大きさがある。今度は日本酒の原液をちびちびやっている先生の皿を凝っと見つめる。まだ半分も進んでいない。
「うん」
 ぽつりと言って先生はさっきより大盛りでチャーハンを分けれくれた。表情は変わらないままだ。
 さっきの手前もあって今度は少し上品に食べる。
 こんな量を食べれるのかと思ったけど結局食べてしまった。最初食べた分とあわせても三合はあるのじゃないだろうか。
「こっちのほうがよいよね」
 先生が渡したのはさっきのスープにも入っていた酒だ。コップで半分、ちびちび飲む。先生の飲んでいるのとはまた違うものらしい。
「さて、これ」
 渡された紙には以下のことが書いてあった。といっても先生がほとんど読んでくれたのだけども。なにしろそのときには私にはだいぶお酒が入っていたのから。
(以下の内容は渡された紙に書いてある内容である)
暗夜行路地下乙種従業員約款
壱 乙種従業員(以下乙)は暗夜行路店長(以下甲)と契約された日数を経過まで外出する権利を得ない
弐 乙は任意で24時間中8時間の労働を義務とする。但し甲の判断による労働は厳守されたし。
参 乙の食事入浴着衣は自由とする。但し甲の判断が優先す。

「簡単なんですね、なんだかもっとごちゃごちゃしているのかと思ったけど」
「基本はこの通り。何か要望があったら紙にでも書いて渡してくれればいい。あとお客さんの中には君に何かをくれる人もあるかもしれないけどそれはかまわない君の好きなようにして欲しい」
「先生、君君って私は君じゃないですよ」
 だいぶ酔っていたらしい。緊張していた反動かもしてないが地なのだろう。
「そういえば決めてなかったな、どうせ本名は使わない店だからじぶんできめていい」
 少し考えて
「なお」
「なお、これでいいかな」
「いいですいいです、わらしどうせかわれたんだからもうなんでもいいですよぅ」
「投げやりはよくない」
「先生だって男でしょう、だから女のこを売り買いしてるんだ」
「女ははもっとえげつないよ。こんなところに来る子はみんな文無しだろう。金が入用なんだろう。だから体を売る。金がない奴は健康を手放すからね。健康は命そのものだ。命があるから楽しめるしまた苦しい。身売りをするってことは命で金を払ってるようなもんだ。ところがバーをやるような女は抜け目がなくて今苦しい奴からさらにたかろうとする。具体的には女郎も身ひとつじゃできないから衣装を買う。十二十じゃあない百単位で服を買わされる。売られた女はこの分の金利に追われて結局ぼろぼろになるまで働かされてしまう。儲かるの焦げ付きそうな借金の貸し側と人馬を得るオーナーだけだよ」
「むー、じゃ先生は何なのさ。私を連れてきた人はつらいって言ってたじゃないか」
「つらいはつらい、三千万の借金があるのだからもちろんそれはそれだ。但し俺はその弱り目の人間をさらに食おうとしない」
「何でさ。そっちのほうが儲かるんでしょ」
「一時はね。でも恨みを買う。逃げ出すのもいる。それに似たような商売の店なんでいくつでもあるから条件次第でほかに移ってしまうことだってある。そういう店はたいてい人気の一人が店を支えていてライバルの金子に余裕のあるところがひっこぬいてしまう。そうなりゃその店は終わりさ。その主人だって借金で女を買ってるんだから主人だって潰れちゃう」
「じゃあ先生のところは儲かっているの」
「とんとんだね、まぁ自分が食う分には事欠かない。ちょっとした贅沢だってできる。でもそんなことは普通に勤め人やってたってできることだ」
「じゃあ何で忘八(女郎屋)なんてやってるの、やくざなの」
「難しい言葉を知っているね。別にやくざじゃないよ。堅気さ、ただね普通の仕事が向いてないんだよ。上司がいて帝国まで会社のために働くって云うのが。それこそ男だから一匹狼に憬れるのさ」
「じゃあ立派に成功したのね」
「まぁまぁだよ」
「ずいぶんしゃべるのね。はじめて見たときはもっと固い人かと思った。なんていうか無機質な感じ」
「君だってそうじゃないか。こう見えても人見知りでね。緊張してたんだ」
「あたしとおんなじねぇ」
「ああ」
 二人でくすくすと笑った。もう二三事話していたけど冗長だから書かない。そうしているうちになおはテーブルに突っ伏して寝てしまった。
 先生が蒲団に入れてやってにんまり笑う。
「それとね趣味なのさ」
 ぽつりと言って部屋を出た。
                  三
 なおは昼過ぎまで寝ていた。起きて早々自分の居場所に暗鬱としたけれど昨日のこともあってすんなり外に出ることができた。一階に出ると先生が店の準備をしている。テーブルを拭いたりグラスのほこりを取ったりと張り切ろうと思ったけれど、
「身支度をしてきなさい、それと朝食」
 この調子である。売られたとは思えない。
 鏡を見るとポニーテールにしていた髪が寝癖でぐちゃぐちゃになり、若い油が肌をてかてかにしていた。第三者から聞けば甘い芳香も自分の体臭である。とりあえずシャワーを浴びた。個室で三つほど隣り合っていて隣は見える。従業員用なのだろうか。浴場は別に数種あるが予約制らしく閉まっている。
「それにしても変に広いわねえ」
 文句をつけることではないのだがシャワー室は前後にかなりの余裕があり二人でもまぁ何とか入れそうだ。
「そういうことに使うのよね、八っ張り」
 変な想像をして真っ赤になってしまった。私だって度胸は並以上にあると思ってる。これからのことを考えて心臓がどくどくいっているが何とかなるだろう。
 はじめは何だってつらい、それにお客さんだって素人好みという場合だってある。蓮っ葉な女に魅力は負けてないはずだ。
 身長は150に少し足りないのを150といっている。胸は小振りだ、仰向けになるともむのは難しい。胴回りはがっちりしている。もともと骨が太いので裸を見られるのははずかしいがそれさえ我慢すればよい。16の小娘が一年で参千万なのだ。
 タオルでパンパンと背を打った。
「気合十分」
 そういって後ろについているバルブを閉めた。
                 四
 どんぶりご飯としゃけの切り身、味噌汁と漬物、煮物と苺と…先生は料理が好きだということがよくわかった。その割に自分ではほとんど食べない。パンとコーヒーで大体済ませてしまう。自分でもよく食べているなと思ったが不思議と胃に入る。居候三杯目にはそっとだしなどというが四杯も平らげてしまった。
 食べる度に先生もニコニコしているからついなんて言い訳してもニコニコしている。逆にお客さんの前だと表情を出さない。事務的になってしまう。
 日が沈んでからお店が開いた。何時でなく日が沈んでかららしい。普通の喫茶店と代わらない制服にに身を包み、どきどきしながら立っていたが客がこない。一時関しても二時間してもまだ来ず、四時間を越えて次の日になろうとした際にようやく一人きた。
 なおより頭ひとつ高い骨格のがっちりしたひげ男である。日焼けしていて山男といつ風体だ。
「先生、久しぶり。復帰したって達さんから聞いたから」
「山さんお久しぶり、前の子が終わったから一寸骨休めにね。また人集めからさ」「いいねー売れっ子抱えちゃってた人は。ゆっくり骨休めなんかしちゃって。こっちは先生のとこで遊べないから本職に身を入れちゃったよ」
「じゃあだいぶいい稼ぎになたでしょう。奥さんもニコニコだ」
「確かに、ここにきたって文句言う奴でもないがね、それより、早速」
「はい、彼女が新人のなおです」
「は、はい。よろしくお願いします」
 律儀に頭を下げる。
「若いねえ、うち等にゃないもんだ」
「それだから来たんでしょう」
「確かに」
 山は大いに笑った。
 地下室の「子」とかかれた部屋に連れて行かれた。中には人形に積み木、小さな滑り台、まるで子供部屋である。
「さ、はじめますか」
 まるで出前を取るように軽くいう。何をしていいかわからず私がおずおず服に手を掛けてもじもじしていると、
「お嬢ちゃん、初めてなのは知ってるし無理しなくていい、俺の言うとおりにしてくれ」
 よかった、第一関門通過である。
「こっちにおいで、ほら」
 山さんは寄ってきた私の首に皮製の首輪を嵌めた。苦しくないようにぶかぶかの状態にしている。
 よしよしといいながら顎、ほっぺた、頭とぐしぐしなでられる。厭らしいというよりは飼っている動物を撫でるような感じで非常にくすぐったい。
 ふぅふぅと息が漏れてしまう。だんだんと手は肩、背中、胸、腰、太もも、靴を脱がされて足の指の一本一本までさわさわと確かめられてしまった。
「最近はねぇ、犬でも服着せて買ってる人いるみたいだけどよくないよ。犬には最低限首輪だけつけていればいいんだからさ」
「はい」
「しーっ喋るんじゃなく返事するなら鳴いてね、犬なんだから」
「クン」
「よしよしいい子いい子、きついの脱がしてあげるからね」
 部屋が暗いこともあったけどこの人の手つきが助平な感じじゃなくてほんとに犬でも扱って楽しんでいる雰囲気だったからあんまり抵抗なく裸になれた。着ているするする服を脱がす犬さんは何やってる人なんだろう。
「いい骨格してるよ、肩の張りといい腰骨の太さといい」
「クーーン、ンーー」
 自分の体が誉められるのが嬉しくて山さんの熱い胸板に顔をすりすりとする。顔全体を使って男の人に奉仕していることに興奮して、ふぅふぅ言いながら体全体で擦り付ける。
「こらこら悪い子だ、そら」
 お尻の肉の厚いところをギューっとされた。びっくりしてキャンと短く叫んで山さんに盛りかかる格好になった。しかし倒れるようなことはない山さんはどう見ても私二人分ぐらいはある。
 私一人ずるずると地面に這いずる形になった。
「先生、餌付けしますよ」
 インターホンにそういうとステーキに鱶鰭スープ、七面鳥の丸焼き、北京ダック、ピザ、うなぎ、特大パフェ、丸ごと一個のケーキ。どれもこれも先生の手作りだとおもうと口の中がよだれで一杯になってきた。晩御飯はお客さんに付き合うから控えておきなさいと先生に言われて食べていないのだ。
「まて」
「ヴヴーーーっ、くーーーん、ンン」
 四つん這いになって腰を揺らししゃがんでいる山さんに哀願の視線を送るが眉一つ動かない。
 おいしそうな料理の匂いが部屋中に満ちてもう我慢できない。必死で哀願の声をあげるうちに顔の下は溢れたよだれでびちゃびちゃになっている。
「よし」
 その言葉を聞くが早いか四つんばいのまま目の前にあるものから順にほおばりだした。手を使うとかそんなこと一切考えられずとにかく口に入れた入れた、入れたものはみんな飲み込んだ。
 山さんはがっついて犬のように食べる少女をこの上なくいとおしい目つきで眺めていた。

「いい子じゃない」
「山さんからお墨付きをいただけるとはありがたい限りですよ」
 なおは結局山ほどの量を平らげて裸のまま寝ていた。ニンファットな体形に張り出した腹は何ともアンバランスにいやらしい。
「体の調子もいいみただね」
「ええ、見た目以上に頑丈で」
「これからが楽しみだ」
「そういう子にまず手をつけるのが山さんの楽しみでしょう」 
「いってくれるね、迷惑だったら遠慮しようか」
「とんでもない、うぶな子にいろはを教えてもらってありがたい限りですよ」
「それが楽しみでね」
 そういってバーボンを煽った。
              5
 週に二度来る山さんにはさまざまなことを教えられた。舌使い、体の這わせ方、腰の振り方、愛撫の方法。舌使いだけでも犬、牛、亀、蛇である。
 つらいといった意味がわかる気もした。
 一月もして山さんから教えられることも徐々にマスターしてきた。特に舌使いは手をなめるだけで恍惚を与えるほどにまで成長した。気のせいか舌が少し長くなったような気がする。
「今日は新しい方が来ますよ」
 山さんと入れ変わりらしい。やや緊張する。
「いらっしゃいませ」
「どうも」
 黒ずくめの男が入ってきた。まだ十台にも見えるがさすがにそれはないであろう。店内が暗いせいもある。
「よ、よろしくお願いします」
 どもってしまう。目の堀が深く妙に痩せていて骸骨のようだ。
「ん」
「なお君、先に『畜』の部屋に行って待っていて。服は脱いでおくんだよ」 鍵を渡されて地下へいく。私の部屋からそれほど遠くなかったと思う。
「山さんの仕込が入った子かい」
「そうじゃなきゃ白さんに紹介したりしませんよ」
「どうするの」
「久しぶりですからね、乳牛でお願いします。仕上がったらもう一人ぐらい入る余裕ができますから」
「暇そうな顔だったね」
「よくわかりますね」
「いや、先生の反応と考えそうなことだからさ、やさしいもんねなんだかんだいっても」
「趣味と実益ですよ」
「それは私も」

 『畜』の部屋はおが屑とわらの部屋であった。他には木の柵がある。
「そこに立っていて」
 なおは木の柵をはさんで白と向かい合う形になった。薄暗く、山さんでだいぶ慣れたとはいえ始めての人に裸体を晒す事に抵抗があって股間だけは隠している。
「違う」
 手をどけたがどうやら違うらしい。四つん這いになれということだった。わらが膝ですれてちくちくする。なるべく身じろぎしないようにして白さんのほうを見る。
 首と柵が繋がれる。ガリガリに骨ばった手で櫛を入れられる。鬢から後頭部へ、表面を撫ぜるものから頭皮を指の腹で擦るものに。
 白は顔をぐいと近づけて吐息を吸う。最初は口で吸い次に鼻から、何度も匂いを確かめる。
 勿論手のほうも続いている。段々と頬に頬より一段柔らかく、こりこりと弾力のある首の周りへ。
 顎骨の下を緩急をつけてくすぐってやると吐息がねっとり湿る。徐々にだが汗もかいて益々部屋になおが充満する。ぺシェの香りに近い。
 急に白の手が止む。今まで顔を見ていたが十分ということになるのだろう。側面に回った。肩から背中にかけては軽くなでる程度にして尻と乳房にに向かう。ここに入ってからの一月でなおの体重は二割ほど増えていた。体格に合わぬ食事量が原因であることは本人にも容易にわかったけれど手持ち無沙汰に託けてパクパクとつまんでいた。三度の食事はお代わりもする。
 こうして増えたなおの肉は尻と胸に集中していた。腹回りもふっくらしたが飽くまで健康的な域を出ない。
「ひぐぅっ」
 太ももの付け根に近いあたりを捏ねられつつ、左の乳房の芯を捏ねるようもまれる。前者は内側の皮の薄いところをもまれ、後者は乳腺をいたぶられる。神経を直接いたぶられる感にはただただ息を荒くするしかない。
 両方の感度を確かめ、今度は片方ずつじっくりと行くようだ。乳房に両腕が集中する。
 本来の大きさは片手でつかみきれる大きさであるが重力によってあまりが出る。
 半円を直径に近いところから攻めていく。絞るように均等に力をいれ、徐々に下へ降りていく。肉ひだの態を示していた乳首も指が到達するころには紅い実へと熟していた。
 実が収穫されようとすれば痙攣したように背筋が突っ張る。そうなれば膝がすれることは必定である。
 膝の周囲が赤くなったのを見た白のやさしさだろうか。くぼんだ眼窩をなおのふっくらとした目につき合わせ、粘度の高い唾液の溜まった口腔に舌を入れる。
 上下左右と舌を這わせ、ざらざらとした感触を楽しむ。なおも負けじと牛の舌で対抗する。口の周りから顎に至るまで陣地取りをするようにべろべろなめる。
 一時はこうしていただろうか、なおに疲れが見えてきた。白の手は続いており、息を荒らくさせられながら口をふさがれているのである。無理もない。
「仰向けに」
 白は短くいう。
 ぷはっ、と大きく息をしたなおは天井を見つめて放心する。インタホンでなにかいっていることがかろうじてわかる。
 先生の手によって大量の食事が運ばれてきた。ただし、流動食のようである。
「口あけて」
 力なく口を開くと漏斗みたいなものを突っ込まれた。疑問に思うまもなくゲル上の食べ物が流れ込んでくる。
 食道から、胃、腸に至るまでずるずると入っていくがわかる。一斗缶ひとつ分流されていたのだが何とか納めてしまった。口から妊娠させられたような体型になってなおは気を失った。

「白さんは焼酎だったかな」
「ああ」
 水より濃い液体を煽る。
「いい子だね、体がいい。健康体だ」
「調整は」
「十日で形になるだろう、毎日来る。ただ」
「ただ、なんだい」
「少しかまってやれよ。精神は肉体の奴隷だといっても精神も大事だ。知らん人間にばかり体をいじられてるとストレスが溜まるよ」
「僕も知らん人さ」
「意固地だね」
「そうかい」
「あさってくるよ」
「ああ」