初めての・・・

蛭子 作
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 最初は、ただのクラスメイトだった。高校に入学したばかりの頃は、あいつの胸の大きさに誰もが驚かされた。けれど、時間が経つにしたがって慣れてくる。どんなに美しい景色でも、毎日眺めていれば飽きるように。
そんなあいつは、意外にも僕の近所に住んでいたのだ。正直言って驚いた。近所にあんな胸の大きな同級生が住んでいたなんて。それがきっかけで、友達になった。
 あいつの名前は“星川ユミ”。顔は童顔で背も小さい。小学生並みの身長だが、なによりも大きすぎる胸が特徴だ。胸に大玉のスイカを二つ抱えているのではないかと思うほど大きい。これは本人から聞いた確かな情報だがTカップあるという。Tカップ?そんなカップは聞いたことがない。しかし、ユミの胸を見る限りでは、嘘ではなさそうだが・・・

 この日は、特に暑かった。コンクリートの地面が歪んで見える。放課後、高校からの帰り道であるが、まるで砂漠をさまよっているような感覚だった。高校の最寄駅、バスのターミナルから停車中のバスに乗り込んだ。僕と運転手以外は誰も乗っていないようだった。
クーラーの効いた車内。暑さから解放され僕は一息ついた。
「あっ、月野くん。」
 驚いた。ユミがバスの座席に座っていたのだ。どうやら、彼女の背が小さいために見えなかったらしい。
「びっくりしたな、驚かすなよ。」
 バスの扉が閉まり、程なくしてバスは走り出す。
「隣に座ってもいい?」
「うん。いいよ。」
 二人掛けの座席だったが、異常なほどの圧迫感があった。原因はユミの胸だ。僕の腕がユミの大きな胸に押し付けられる。思った以上に柔らかい感触だ。
「なあ、ユミ・・・平気なのか?」
「えっ?何が?」
「あの・・・言いにくいんだけど・・・」僕は周囲を見回した。僕とユミと運転手以外は誰もバスに乗っていない事を改めて確認した。
「胸が・・・僕の腕に当たっているんだけど・・・」
 その瞬間、バスのルームミラー越しに、僕は運転手と目があってしまった。やばい、なんか気まずいな。
「ねえ、月野くんって、おっぱいが好きなの?」
「えっ・・・すっ、好きだけど・・・」
「それじゃ、触ってもいいよ。」
 さらに気まずい。ルームミラー越しに見える運転手が、思わずこちら側を二度見した。その表情は驚きを隠せない様子だ。おい、運転手!前!前を見て運転してくれ!僕は心の中で叫んだ。そして目の前には、巨大な胸を突き出して満面の笑みを浮かべるユミ。
(ご乗車ありがとうございます。まもなく天王橋、天王橋に到着いたします・・・)
 車内アナウンスが流れる。
「ユミ、降りてからだ。バスを降りたらにしようよ。」
「そうだね。それじゃ、公園に寄ろうよ。」
「わっ、わかったよ。」
 バスが停留所に停車した。僕とユミはICカードで乗車賃を支払う。すると、バスの運転手は小声で「グッドラック・・・」とつぶやいて親指を立てた。どうも、憎めない運転手だな。

 停留所の向かい側にある公園のベンチに座った。自動販売機で買ったジュースを飲み干すと、ユミは僕の顔を見て微笑んだ。
「月野くん、触ってもいいよ。」
「本当にいいのか?」
「うん。」
 ユミは躊躇する僕の右腕を掴んで、自分の胸に押し当てた。その瞬間、僕の胸が高鳴った。やわらかい。初めての感触だ。あまりにも大きな胸なので、堅そうなイメージがあったが、まるでマシュマロのような感触だった。
「ねえ、月野くん。私の胸のドキドキ・・・伝わる?いつも、こうなんだよ。月野くんと一緒にいると、胸がドキドキするの。」
「ゆっ、ユミ・・・」
「月野くん、お願いがあるの。こんな私で良ければ、恋人になってもらえますか?」
 僕の手に伝わってくるユミの鼓動が激しさを増した。まるで、強い風が突き抜けたような静寂に包みこまれた。夏の暑さも、セミの鳴き声も聞こえない。ただ、僕の鼓動とユミの鼓動だけが聞こえている。
「いいよ。これからも、今まで以上に・・・よろしく。」
「月野くん!」
 うれしかったのか、ユミは僕に抱き着いてきた。ユミの胸が、僕の顔を圧迫する。正直言って、苦しい・・・息が出来ない・・・けれど、うれしかった。僕にとって、初めての恋人が出来たのだから。
 今年の夏は、いつもより暑くなりそうだ。