初めての夏休み

蛭子 作
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 ユミの両親が海外出張から帰って来るまでという約束で、僕はユミの家に同居をする事が正式に決まった。僕の父親も、ユミの両親も同居に賛成の様子だ。でも、なんか張り合いがないな。反対されるかと思っていたのに・・・

 話は急に変わるが、この日は花火大会がある。ユミは朝から待ちきれない様子だった。
「ねえ、月野くん。似合うかな?」
「良い色の浴衣だね。でも、ちょっと胸が・・・」
 確かに。ユミのように小柄な子には良く似合うピンク色の浴衣だ。桜やスミレなどの鮮やかな花々の絵柄が全体にちりばめられ、鮮やかさと同時に無邪気さも演出されている。しかし、問題なのはユミの規格外に大きい胸。何しろTカップの胸だ。何とか、浴衣の中に収まってはいるのだが、はち切れんばかりに突き出た胸は隠しても隠しきれない。ある意味では裸より恥ずかしいかもしれないな。
 夕方。僕は自宅から持ってきた浴衣に身を包んだ。藍色の浴衣と黒い帯。鏡の前に立ち、男性モデルの様なポーズをとってみた。満更でもないか。結局、ユミは一日中浴衣で過ごしていた。まるで子供のようにはしゃいでいたが、僕も僕で、ワクワクしているのは事実。僕もユミも花火が待ちきれないようだ。
 花火大会の会場は河川敷だが、基本的に見晴らしが良ければ町内のどこからでも見える。僕はユミを連れて、二人きりになれる秘密の特等席へ向かった。
 夜は閉鎖され立ち入り禁止になる公園の展望台。僕の叔父さんがこの公園の管理人をしているので、展望台の鍵はいつでも貸してもらう事が出来る。僕は慣れた手つきで展望台の鍵を開けた。
「わぁーすごい!」
 ユミが目を輝かせた。街並みは夕闇に沈んでいたが、街灯や駅前のネオン街などが宝石箱のように輝いている。「きれい・・・」とつぶやきながら、ユミは展望台のフェンスに近づいた。僕は、そんなユミの背後に近づき、ユミのうなじによく冷えたジュースの缶をくっつけた。「キャ!冷たい!」ユミはうれしそうな悲鳴を上げる。僕は小さなユミの背中に寄りかかるようにして抱きついた。さりげなく、ユミの胸を触る。嫌がる素振りは見せない。
「月野君・・・もっと、触って。月野君に揉まれると、なんだか気持ちいいの。」
「ユミ・・・」
 僕とユミはベンチに座った。その瞬間、花火が舞い上がる。「きれい。」ユミの瞳は打ち上げ花火に釘付けだ。どうやら、しばらくお預けらしい。ポテチの袋を開け僕も花火を眺めていた。
僕は幼いころから毎年この場所で花火大会を見続けてきた。ずっと昔、父親と母親に連れられて見たのが最初だった。いつの間にか思い出から母親が消えて、父親も来なくなり、僕だけで花火を見つめていた。そして今日は掛け替えのない人と一緒に花火を見ている。来年も二人で花火を見ているかもしれない。いや、必ず来年も二人で見るんだ。そしていつか三人、四人と増えて、また二人になって・・・
僕はいつの間にか、泣き虫になっていた。静かに涙を流していた。
「ずっと、一緒だよ・・・」
 僕は静かにつぶやいて、ユミの手を握った。

「終わっちゃった。」
「うん。きれいだったね。また来年もここで見ようね。」
 満面の笑みを浮かべるユミ。僕は唐突にユミの体を抱きしめた。
「ユミ、さっきの続きしようか・・・」
「うん。いいよ。」
 僕は浴衣の上からユミの胸を揉んだ。気のせいか?前よりも大きくなったような。そんな事を思いながら、僕はユミを抱き寄せてキスをする。そして口から首筋、首筋から鎖骨、鎖骨から乳房へと舐めまわしていく。そして、浴衣の中に手を潜り込ませながら、浴衣を少しずつずらしていく。片手では持ちきれない程の胸を両手で揉みながら、乳首にキスをした。「あっ・・・」吐息混じりの声を出すユミ。かわいいと思いながら、僕は左胸の乳首に吸い付いた。そして右胸の乳首も浴衣の上からくすぐる。ビクビクっと、体を小刻みに震わせながら、ユミは吐息を荒げている。
「月野君・・・来て。」
 ユミは浴衣の帯の隙間からコンドームを取り出した。
「ユミ・・・いいのか?」
「今日、私と月野くんの初めてにしたいの。それに私の“ここ”も、月野君の“ここ”も、準備が出来ているみたいだし、ね。」
 ユミはそういうと、僕の手を取ってユミ自身の体の中で一番大切な場所を触らせてくれた。浴衣の中、下着の奥。そこは汗でもなくおっしっこでも無い、切ない汁で満たされている。そして、僕の下半身も・・・
「ユミ。こんな場所でいいのか?」
「だって、こんなに素敵な場所で、きれいな物を一緒に見てくれたよね。それに月野君、私のおっぱいだけじゃなくて、私の全部が大好きなんだよね。本当は私、こんなに大きな胸が嫌だったの。小さい頃からお化けだ、お化けだって言われて、男の子からは変な目で見られるし、女の子からはいたずらされるし・・・だけど、あの日、月野君に放課後“一緒に帰らないか?”って言われて、その時から私・・・」
 ユミは涙を浮かべている。
 僕は、そんなユミの全身を強く、強く抱きしめた。
「ユミ。つらかったんだね。泣きたかったんだね。僕もお母さんが死んだとき、あまりにも辛くて、泣くことすら出来なかったんだ。曖昧な記憶しかないけれど、その事だけはちゃんと覚えているよ。だけど、昨日ユミの胸の中で思い切り甘えさせてもらった時、僕は初めて他人の前で涙を流したんだ。そうしたら、その後、とても清々しい気分になれたんだよ。だから泣こうよ。思いきり。」
「月野君・・・」
 ユミはまるで子供のように、大声で泣き出した。今までいじめられて辛かったことや、孤独だった事を、すべて押し流すように、ユミは大粒の涙を流しながら泣き続けていた。

 帰り道。ユミは顔に微笑みを浮かべながら、僕の腕に寄り添い一緒に歩いている。
「ちょっと、照れくさかった・・・」
 ユミは頬を赤く染めてつぶやいた。
「かわいいよ。その顔。」
「月野君、ありがとう。」
 ユミは悔いなく、清々しい気分であったに違いない。しかし、僕は少しだけ後悔をしていた。なぜなら、僕とユミの初めてがお預けになってしまったからだ。
 今日、僕は生まれて初めて彼女を泣かせてしまった。けれど、涙を流せば清々しい気分になれる事を、彼女も理解してくれたみたいだ。

『続く・・・』