グラマークラス

Ecoli 作
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「このたびAJA-All Japan Airline-は、バストの大きな女性向けの新サービスといたしまして、”グラマークラス”を導入することになりました。
この業界初の試みにより、国内線、国際線の両方において、より快適な空の旅をお約束いたします。」
2015年の年末に大手新聞の中央2ページを割いて掲載されたこの広告は、世間の話題と関心を一気にあつめることとなった。

世界一の長寿国であり、かつ世界一の超乳大国である日本では、すでに政府の方針によってすべての鉄道に超乳車両および超々乳車両を設置することが義務付けられていた。
しかし空路に関してはそのようなテコ入れがなされておらず、少なからず不便を感じている女性たちがいたのである。
そのような”グラマラスな”女性たちはこれまで、ビジネスクラスやファーストクラスを利用することによってのみ、窮屈な思いを回避することができたのだが、高額な利用料を毎回払うことができる女性はほんのひとにぎりであったため、飛行機にのることそのものを諦める女性が多いのが現実であった。

また、胸の大きい女性の割合が増えるにつれて女性の利用客が減少していくことは、航空会社にとっても無視できない深刻な問題になっていた。
AJA社の独自調査によれば、東京‐大阪間の移動手段について胸の大きさ別にアンケートを取ったところ、Kカップ以下の女性の約50%が空路と答えたのに対し、Qカップ以上の超乳女性では25%、トップ‐アンダー差が100cm以上の超々乳女性ではわずか5%の利用に留まっているとの結果が出た。
この結果から、「エコノミー以上ビジネス以下の料金設定でも利益が出る」と判断したAJAは、満を持してグラマークラスを設定したのである。

なお、グラマークラスの広告には、以下のようなことが書かれている。
○【女性であれば誰でもOK】搭乗条件は特に設けておりません。女性であれば、どなたでもご利用いただけます。
○【ゆとりの空間】グラマラスな方でも大丈夫。余裕を持って作られた通路や椅子、化粧室があなたを出迎えます。
○【全席ティッツレスト(乳置き)完備】人間工学に基づいて作られたティッツレストによって、肩こりを感じさせません。
○【AV機器やインターネットも利用可能】全席に液晶ディスプレイがついており、DVD鑑賞やインターネットができます。

これだけのサービスを詰め込んで、ビジネスクラス以下の格安料金が適用されるとあって、AJAの株価は連日ストップ高を記録、Webサイトにはアクセスが集中、コールセンターも異常なまでの混雑が起こるなど、大変な人気を博すこととなったのである。

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さて、ここにも一人、そんなグラマークラスに期待を寄せている女性――というより女の子――がいた。
女の子の名前は西村 瞳。都内の高校に通う18歳の女子生徒である。
大学受験で念願の志望校に合格した瞳は、高校の友人と一緒に卒業旅行へ行くことになっていた。
しかしその大きすぎる胸がネックとなって、空路でしか行くことのできない沖縄への旅行を半ばあきらめていたのである。
しかしその矢先に発表されたグラマークラスは、まさに瞳にとっては天からの福音であった。
晴れて念願の沖縄へ行けることが決まり、瞳や友人は期待に胸を膨らませながら、旅行の準備を着々と進めていったのである。
……あのような出来事が待ち構えているとはいざ知らずに。

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さて時間は過ぎて3月上旬。待ちに待った卒業旅行への出発日である。
大勢の利用客でごった返す羽田空港に、瞳とその友人2人の姿があった。
「すごい数のお客さんだね。新宿駅よりも多いんじゃない?」
友人の一人、山本香織が言う。
「そうかもねぇ。それに大学生とか高校生とかが多いのは、やっぱり春休みだからかなぁ?」
もう一人の友人、河合美奈もゆったりとした口調で答える。
「それに……、やっぱり胸が大きい女の人がココに集まってるよね。」
瞳がまわりを見渡しながら言う。
そう、ここはAJAの搭乗ゲート付近なのだが、明らかに若い女性の比率が他より高い。あたりには、スーツケースと持ち込み用の手荷物に加えて、もう一つ胸元に大荷物を抱えたような格好の女性が、ところ狭しと立っている。
しかしその中にあっても、瞳たちに集まる視線は並大抵のものではなかった。それもそのはず、彼女ら3人はいずれも政府が新たに定めた超々々乳の基準、すなわちトップ‐アンダー差150cm以上に該当しているのだ。
その中でも瞳のバストはひときわ大きく、トップ‐アンダー差は約250cm、トップバストは約320cmという、言わば”超々々々々乳女性”なのである。

『AJA社 10:20発 那覇行きをご利用のお客さまは、12番ゲートより搭乗してください。』
搭乗開始のアナウンスが流れると、その場にいた女性たちが一斉に動き始めた。
グラマークラスの搭乗口は、一般用のそれとは別に用意されているために目立った混雑は無いと広告には書かれていたが、乗客一人一人の体駆が大きいこともあり、人数以上の混雑ぶりである。

瞳たちは手早くスーツケースを預けると、次にグラマークラス専用のボディチェックを受けたのだが、まずここで問題が発生した。
「あの〜、このゲートくぐれないんですけど……。」
ポカンと口をあけた検査員たちが見つめる先には、金属探知ゲートをどうにかくぐろうとして孤軍奮闘する瞳の姿があった。
「あのさ、横向きで通れない?」
「さすが香織ちゃん頭いい!よいしょっと……あれ、だめだ通れないや。」
「あのぉ、後ろ向きじゃあ通れませんかぁ?」
「後ろ向きだと、体は通れるんだけど胸が引っ掛かっちゃうよ。う〜ん、どうしよう…。」
いろいろな方向に体をくねらたり、しゃがんだりジャンプしたりするものの、3mを超える瞳のバストは到底ゲートをくぐれそうにない。そんなことをしているうちに、彼女らの後ろには順番待ちの列が出来てしまっていた。
「仕方ない、ここは二人で押し込むか!」
「えぇ、私は引っ張りますから、香織さんは体当たりしてくださいねぇ。」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
今にも突撃しそうな香織を、やっと正気に戻った検査員が止めに入り、結局ゲートを使わずに検査をすることで問題は解決したのだった。
そして検査を済ませた3人は、いよいよ機内へと乗り込んだ。

「うわ!エコノミークラスと全然違って、広いし綺麗だよ!」
驚きと喜びの声を挙げたのは香織である。それもそのはず、ビジネスクラスばりに広々とした座席は、大きな胸を持つ香織の体を余すことなく受け止めてくれたのだから。
「あぁ、この台に胸を乗せると肩がとっても楽ですねぇ。」
全席に設置してあるティッツレストに感動した美奈が、本当に気持ちよさそうな声を出す。アジャスターによる無段階調節と、マイクロビーズのクッション性が、超乳女性には堪らないらしい。
「え、と、……もしかしてちょっと窮屈なのって私だけなのかな?それにせっかくの液晶画面が全然見えないんだけど……。」
感動する2人をよそに、瞳の規格外のバストは”狭い”空間に閉じ込められるようにして押しつぶされ、悲鳴を挙げている。
その様子を見た乗務員が慌ててティッツレストを瞳に勧めては見たものの、アジャスターを最大にしても台の上からこぼれ落ちそうになる瞳の超乳にはあまり効果が期待できないようだ。
「あの〜、すみません、この台グラグラしているんですけど大丈夫ですか?」
などと、瞳に質問されるしまつである。

そんなこんなで3人の乗った飛行機は離陸したが、そのあとには更なる悲劇が待ち構えていた。
『ご搭乗の皆様へ連絡いたします。ただ今エアポケットに入りました。シートベルトを締め、揺れにお備えください。』
そんなアナウンスが入ったと思った次の瞬間、機体は大きく揺れ、室内にある様々なものが倒れてきた。ある席では飲みかけのコーヒーがこぼれて火傷し、別の席では眠っていた乗客の上に荷物が降ってきた。
しかし一番の壮絶を極めたのは瞳の席付近だろう。荒れ狂う気流に弄ばれる機体の動きに合わせて、瞳のバストは凶器と化していた。ティッツレストは真ん中から真二つに割られ、液晶ディスプレイには日々が入り、まわにあるすべての物に強烈な打撃を与えていた。
さらには瞳自身の顔にヒット、本人は気を失ってしまったのである。
そうなるともう抑えが利かない。必至に瞳の胸を抑え込もうとする香織と美奈の努力虚しく、怒れる暴君を押さえつけることなど不可能であった。

さて、どれくらい時間が経過しただろうか、ようやく瞳が目をさますと、あたりの光景は一変していた。
「なにコレ、なにが起こったの!?だれがこんなメチャクチャに?」
瞳が慌てながらあたりを見回す。
「あのさ、あんた以外の誰がいるって言うのよ?」
ビンタでも食らったかのように真っ赤な顔をした香織が答える。
「そうですよぉ。2人がかりで抑え込もうとしても無理だったんですからぁ。」
腕にいくつも青あざを作った美奈も、さも恨めしそうにウンウンとうなずく。
「そんなぁ。私のせいじゃないよ〜。私の……その……胸が悪いんだもん。」
半分涙目になりながら返事をする瞳に、2人は一瞬目を合わせたかと思うと笑いながら答えた。
「仕方ないよ、瞳の破壊活動は今日に始まったことじゃないんだしね。だってほら、超乳専用車両で乗客を30人くらいなぎ倒したことがあったじゃん。それに比べれば、今日は被害者2人だけだし。」
「ふふ、そんなことありましたねぇ。授業中にくしゃみをした拍子でブラウスのボタンが飛んで、先生に当たって気絶させたことも、私はちゃんと覚えてますよぉ。それに比べれば今日のは大したこと無いですからぁ。」
そのあともひたすら瞳の破壊活動を思い出しては口にする香織と美奈。
「ぜんぜんフォローになってないし……。あ〜ん、いくらグラマークラスだからといって過信はよくなかったよ……。」
とても肩身の狭い思いをしながら、那覇に到着するまでの3時間を過ごした瞳であった。

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さて、今回の事件は、社会の急速な超乳化に対し政府や産業がついて行けなかった例として取りあげられ、さまざまな波紋をよぶこととなった。
政府は公共交通機関や工業製品の構造設計の見直しを呼び掛け、より超乳化が進んだとしても、超乳女性の使用に耐えうる製品をつくることを義務付けた。
この話は、一人の少女が日本全体の産業へ大きな影響を与えた例として語り次がれている。

おしまい