俺は今、自室にある勉強机に腰掛けて、掌の中の砂時計を見つめている。
高校に入学し、1年とちょっと経過した。
相変わらず毎日は平凡で、退屈とも言えるし、平和だとも言える。ちょっと変わったことがあると言えば、妹が同じ高校に入学したくらいだろうか。それ以外は一年の継続で、先生は「もう受験は始まってるんだぞ!」みたいなことを言ってるけど、周囲にそんなムードは漂っていない。高校二年生というのはまだまだ遊びたい年頃なのだから。人にもよるだろうが、小川名陸(おがわな りく)という我が脳は、少なくとも高校生をそういう生き物だと思っている。
俺はあまりクラスで目立つ存在ではなく、どちらかというと影の薄い方だ。それでも、懸命に勉強しているお蔭で、誰も知らないところでクラステストの平均点を上げている。だが、これと言って勉強が好きなわけではなく、単に要領がいいから物覚えもいいという体質なだけだ。顔は可もなく不可もなく、ごく普通。
この日、俺は気ままに散歩をしていた。
日曜日というのはどうしようもなく暇で、連れ立って出かける相手も特にいないので、一人の散歩というのは面白いものだ。本屋に立ち寄ったり、ファストフード店でコーヒーを頼んだりする。一人気ままな時間というものが僕にとっては大切なものだ。
いつも通学に使う電車が通る線路沿いの道を歩く。そこには一カ所ゴミ置き場があって、たまたま僕はその前を通った。
砂時計は、そこで見つけたものだ。ゴミが置かれていないゴミ置き場に、ぽつんと置かれていた小さな箱。不思議に思って拾い上げて開けてみると、焦げ茶色の組み木の中に、くびれたガラスの筒、中には紫色の砂が入っている物体がある。それが、今俺が手に取っている砂時計だ。
ただの砂時計なら何の問題もない。ただ、それと一緒に入っていた一枚の紙に、俺は目を疑った。そこにはこう記載されていたのだ。
――本日は『マジカル・サンドグラス』をご購入いただき、ありがとございます。本製品は、世の女性の皆々様にすばらしい体を手に入れていただくべく開発された魔法の砂時計です。使用する際はこちらの説明書を参照の上、用法を守ってお使いください。
――ご使用方法。
1.本製品、紙、筆記用具をご用意ください。紙と筆記用具は付属されておりません。市販されているもので結構です。
2.紙に女性の名前と、ご希望の身長、体重、胸囲などの大きさをご記入ください。このとき、女性が本製品の近く(屋内であれば同じ部屋、屋外であれば半径十m以内)にいることを確認してください。
3.その紙を水平な場所に置き、本製品を紙の上に乗せ、一般の砂時計と一緒にひっくり返してください。砂が落ち切る三分間の間、紙に記入した大きさに体が変動し、落ち切ると同時に記入した大きさになります。
4.記載するサイズは自由です。大きくすることは勿論、お気に召さない場合は小さくすることも可能です。
5.紙を乗せずに使用した場合は、普通の砂時計と同じように使うことができます。また、男性の名前を書いても効果はありません。その他、気になることがありましたら、サポートセンターにお問い合わせください。
そこまで読んで説明書から目を離した。お問い合わせ先は汚されたように真っ黒で、電話番号は読めなかった。
……いや、ありえないだろ。
「胡散臭い」の一言だ。そんなことがあってたまるか。きっと、そんなくだらない売り文句を真に受けた人が、嘘っぱちだと騙されて捨ててしまったのだろう。こんな商品が売れたのかと思うと馬鹿らしいが、売る方も売る方だし、買う方も買う方だ。
俺は掌の砂時計を机の上に逆さまに置いた。さらさらと紫色の砂が落ちていく。砂時計という物体を久しぶりに見たこともあってか、俺はしばらくそれに集中していた。
家には誰もいない。帰宅して分かったことだが、妹も出かけているらしい。リビングに遺されたメモを見ると、数人の友達と一緒に買い物に行ったようだ。ちなみに、俺の両親は家を空けている。父の海外出張に付き添いとして母が付いていった。年甲斐もなく新婚のようにラブラブな夫婦だと常々思う。
砂が全部落ち切った。三分というのは、長いような短いような、微妙な時間だ。この時間でカップラーメンが出来上がったり、某巨大ヒーローが怪獣を撃退したりというのも何となく納得できるような、できないような。
「ただいまー」
不意に声がしたので俺は少し驚いた。
妹が帰ってきたようだ。俺は砂時計をひとまず放置し、部屋を出た。
「お帰り」
「あれ、陸にぃ、帰ってたんだ。早かったね」
「特にすることもないからな。飽きたから帰ってきた」
目の前にいる比較的低身長の女は「ふーん」と生返事をしながら、ポニーテールに結わえてある茶髪を解いた。春らしく白いブラウスを着て、と赤と黒のチェック柄のスカートの下にパンストを穿いた姿は、小柄とはいえ立派な高校生の様相だ。
この妹――名前を桜(さくら)というのだが、結構な自由人。俺の事を「お兄ちゃん」ではなく「陸にぃ」と呼びだしたのは中学生になったときからだ。お互いに小学生だった頃はかなりの甘えん坊で「大きくなったらお兄ちゃんのお嫁さんになる!」などと言い、「そこはお父さんだろ」と父の涙を誘ったこともあるのだが……今となってはただの悪ガキみたいな感じだ。身長は150センチちょっと程度のちんちくりんで、もう高校生だというのにまだまだ子供みたいな無邪気な性格をしている。時々素で中学生に間違われることもあるくらいだ。俺の身長が172あるから、だいたい20センチほどの身長差があることになる。当然のように胸も平らで、どこからどう見ても子供みたいな体格だ。本人はそのことを凄く気にしているのだが、俺に言わせると、これから大きくなるから放っておけばいいと思うのだが。凸凹ではあるが、何だかんだ言って喧嘩も少なく、兄妹仲良くやっている。
「……はぁ」
リビングにあるソファに座った桜が、唐突にため息をついた。俺はインスタントコーヒーを飲もうと台所に立っていた。
「どうした。ため息つくと幸せが逃げるぞ」
「薄幸な陸にぃに言われたくないよ」
「へえへえ、手厳しいな」
毒のある言葉に若干ダメージを負いながら、コーヒーの粉を入れたマグカップにお湯を注ぐ。立ち込める香ばしい匂い。俺はブラックでも平気だが、桜はカフェオレ並みに薄めないと飲めないというのだから、やはり子供だ。
「……お前も飲むか?」
「牛乳。冷たくていい」
冷たく俺を突き放すと、また桜はため息をついた。どうやら何かあったらしいということは、方々で鈍いと言われる俺でも流石に察知できた。俺はグラスに牛乳を一杯注ぐと、コーヒーと共にそれを持ってリビングに戻った。
「ほらよ」
俺がペットにエサをやるように目の前に牛乳を差し出すと、桜はそれを乱暴にひったくった―。そして、すぐさま口に運び、一気に飲み干す。
「ぷはぁ」
「風呂上りのオヤジか」
「牛乳好きなんだからいいじゃん」
桜は仏頂面で返した。
身長が無いのと胸が無いのとで悩む桜は、ここ最近牛乳を大量に飲んでいる。カルシウムを摂りたいのは分かるが、そればかりはどうなのだろう……。
すると、桜は三度目のため息を吐き出した。普段元気を持て余しているこいつがここまで落ち込んでいるとなると、兄として少し心配ではある。
「……何かあったのか?」
「……陸にぃ、笑わないで聞いてくれる?」
俺が聞くと、桜は上目遣いで俺を見てきた。その仕草に一瞬ドキッとしてしまう。
「あ、ああ。多分、笑わない」
「多分って……まあいいや。今日、友達と買い物に行ったんだけど……」
「おう。メモに書いてあったな。……そう言えば、お前、いつものバッグの他に何も持ってなかったな。買ってこなかったのか?」
俺が聞くと、桜は自分の胸に手を当てた。
「……いろいろ、言われたの」
「何て?」
「友達から、『桜ちゃんはちっちゃくて可愛い』とか、『抱きしめられる手ごろな大きさだよね』とか」
「……女同士でそんな会話してるのか?」
「うん」
今どきの高校生女子ってそんなもんなのか? いや、桜の周りがちょっと常軌を逸しているのだと信じたい。
「良かったじゃないか。友情が深まった感じだろ?」
「そうだけど……そうなんだけど! 私は納得いかないの!」
グラスをテーブルに置いて、桜は強く言い放った。
「だって、私だって高校生らしくお洒落したいよ。でも、こんなちっちゃな体だと、合うサイズの服が無いの。着ても何だかしっくりこなくて……服に着られてる感じがするの。胸だって、他の子はちょっとずつ膨らんでるのに、私だけ壁みたいで……」
「……そういうもんなのか」
「陸にぃは色々無頓着だからそんなこと言えるんだよ! 女の子って大変なの!」
「はいはい。ったく、子供の考えることは分からんな」
身長と胸が欲しい、ねぇ。男の俺にはよく分からない悩みだ。
俺としては身長や胸の大きさなど関係ないのだが……やはり、男として、そう言ったものに興味が無いと言えば嘘になる。
その時、ふと、先ほどの砂時計が思い出された。
俺はあの売り文句が信用できなかったから、特に意識もせずそのままにしておいたはずだったのだが、ここに来て桜の話を聞くと、そんな女性にこそあの砂時計は役立つのではないだろうか、と考え始めていた。
……いや、何を考えている。あれは嘘っぱちだろう。
……でも、試してみる価値はあるよな。バレずにこっそり試して、効果が無かったら普通の砂時計として使おう。
そう言えば、桜の誕生日が半月先だったことを思い出すと、何かを買いに行く手間が省けてよかったと思うことにした。
「……大きくならないなぁ……。でないと……いけないし」
「…………?」
桜が何かを呟いたが、俺は聞き取れなかったのでそのままにした。友達づきあいも大変なんだな、と、俺は桜の身の上に同情した。
時間帯は夜に移る。
桜が作った豚の生姜焼きを食べて夕飯を済ませると、後片付けは俺の仕事。その間、桜はソファに座ってテレビを見ている。時々聞こえる桜の笑い声を聞きながら、食器を手早く洗い、片付けていく。
一通り作業が終わると、俺は桜に気付かれないように何食わぬ顔で自室に戻った。電気をつけると、先ほどと同じ場所に砂時計が置いてある。俺はそれを手に取り、説明書に再び目を通した。
「……紙に名前と、サイズを書けばいいんだな」
俺は手ごろなメモ用紙といつも使っているボールペンを取り出し、決して上手とは言えない流し字で『小川名桜』と記入する。
身長は……165くらいあれば十分か?
俺は桜の名前の下に『身長165センチ』と記入し、砂時計と一緒にそれを手に取って、リビングに戻った。
ソファに座る桜の視界に入らないように後ろ手に隠して、部屋の隅の床に紙を置く。一瞬だけ躊躇って、俺は砂時計を逆さまに紙の上に立てた。紫色の砂が抵抗なくさらさらと落ちていく。
「陸にぃ、何してるの?」
「ん!? あ、ああ。ゴミが落ちてた」
俺は適当にごまかす。桜は「姑みたい」と笑って、視線をテレビに戻した。良かった、ばれてないようだ。場所を移動し、何食わぬ顔で桜から少し離れた床に胡坐をかいて座る。しばらく一緒にテレビを見ながら、時々桜の様子を観察。……だが、30秒くらい経っても変化は見られない。いつも通り、テレビを見ながらけらけらと笑うだけだ。
……当然と言えば当然だよな。
変な説明書に踊らされた自分が馬鹿馬鹿しい。そう思って、俺は砂時計を回収するために立ち上がろうとした。
「……ん」
桜の声がした。
視線をテレビから桜に移すと、なんだか様子がおかしい。そわそわしながら、辺りをきょろきょろ見回している。
「どうした?」
「な、なんでも……あぅ……」
桜の表情が歪んだ。目をぎゅっと瞑って、体を縮こませるようにソファに背中を埋めている。痛がっているらしい。腹でも下しただろうか……が、その考えはすぐに打ち破られた。
「陸にぃ……いやぁ……」
「ど、どうした!? 何があったんだ!?」
「ふ、服が……服がきついの……」
「服が?」
言われてみて、ようやく気付いた。桜の着ている長袖ブラウスの手首回りが、明らかに丈が足りていない。次第にそれは縮んでいるように見えた。同時に、スカートから伸びるパンストに包まれた足が伸びているのを確認した。服が縮んでいるのではない、桜が大きくなっているのだ。そのことに気付いたとき、すぐ近くにいる桜の声が遠くから聞こえてきたような気がした。
「やんっ……な、なんで……きっついよぉ……!」
その時、ビリッという布が裂ける音が聞こえた。ブラウスが大きくなる体に耐え切れなくなって破れたのだ。一度亀裂が生じると、そこからどんどん生地が分かれていく。今度は音質の異なる二回目の炸裂音が響き、パンストに穴が開き始めた。そこから血色のいい肌色が顔を覗かせる。
「はうぅん! い、いやぁ……なにこれぇ……!?」
混乱している桜と、その姿に終始驚愕する俺。はっと我に返った俺は、すぐさま部屋の隅の砂時計を見に行った。俺の視界にその砂時計が入ると同時に、紫色の砂が全て落ち切った。
「あうぅん……な、何が起こったのぉ……?」
「だ、だ、だ、大丈夫か、桜!?」
息苦しそうにしている桜の下に駆け寄る。ソファの中で、破れた生地に包まれて横になって悶えていた。
ブラウスはビリビリに破けてしまって、パンストもボロボロ。超ミニになってしまったスカートからは白と緑の縞パンが見えてしまっている。全体的に見て、明らかに体が大きくなっているのが分かった。
「……桜、立てるか?」
俺は桜に手を差し伸べる。ゆっくりと彼女の手が俺の手を掴み、ゆっくりと起き上らせる。ソファに座ってしばらく呆然としていたが、ふとした瞬間に我に返って、立ち上がった。その瞬間、上半身を申し訳程度に隠していた布が全て床に落ちた。
「きゃっ!」
「うおっ!」
俺は慌てて視線を逸らし、桜は腕で胸を隠す。
「……あ、あれ? 陸にぃ……ちょっと、縮んだ?」
「お、俺じゃない! お前が大きくなったんだよ!」
「……はい?」
桜は辺りを見回す。視界が高くなっていることに気付いたのだろう。次の瞬間には上半身を晒したまま脱衣所に向かって走り出していた。
「な、なにこれえええぇぇぇ!?」
桜の悲鳴がこだました。
俺はいきさつを全て桜に暴露した。
砂時計を見せると、桜はそれに対して明らかに訝しげな視線を送っていたが、自分の身に起きたことを理解すると、信用せざるを得なかった。俺だってそうだ。まさか、本当に桜の体が大きくなるなんて、思ってなかった。
「ほぇ〜……信じられないよ……」
桜が感嘆の声を漏らす。俺はそれよりも、完全に公然わいせつ状態になった桜の体が気になって仕方がない。できるだけ視界に入らないようにと気を付ける。
「……でも、大きくなれたんだからいいか! あははは!」
「よ、よかったな……」
嬉しそうにはしゃぐ桜。まあ、体は大きくなっても、心まで大人に近くなるはずはないからな。
しばらくその体を実感するように飛び回っていた桜だったが、唐突に動きを止めた。そしてじっと砂時計を見つめる。
「ねえ、陸にぃ……」
「……どうした」
桜は砂時計と俺を交互に見て、ぽつりと呟いた。
「……これ、胸も大きくできるんだよね?」
俺の背中に悪寒が走った。
身長を増やすだけでは飽き足らず、今度は胸までも大きくしようというのか。
「ああ……できるらしいが」
「やってみたい」
「マジかよ……」
「だって、ホントに身長が増えたんだよ? この際おっぱいも欲しい! 90センチは欲しい!」
90はでかいだろ!
必死に訴えるその態度から、余程桜が体にコンプレックスを抱えていたかが伺い知れる。その一つが無くなった今、桜の心は晴れ渡ろうとしていた。
……桜の悩みを解決するためだ。決して下心はない。
そう自分の理性に言い聞かせて、俺は首を縦に振った。
「ああ……わかった」
俺は再びボールペンを取り、別のメモ用紙に『小川名桜 胸囲90センチ』と書いた。
「……いくぞ」
「うん……」
緊張した面持ちの桜を前に、俺は紙の上に砂時計を置いた。紫色の砂が再びさらさらと安定した落下を始める。
先ほどと違い、効果はすぐに表れ始めた。
「んっ」
桜の背中がピクリと跳ねた。何かを感じ取ったらしく、そのままふらふらと後退して、胸を押さえて床にぺたんと座り込んでしまった。
「お、おい……」
「はぅっ……ああ、ん……」
俺が心配して傍に寄り添うと、桜が切なげな声を上げる。先ほどとは違う、明らかに質の異なる『女』の声。今まで聞いたこともない桜の妖美な声色を聞いて、俺は固まってしまった。
「ふわ、あぁ……んんっ、り、陸にぃ……」
「ど、ど、どうしたの?」
「お、おかしいの……ひぅんっ! 何だか、胸がっ、やぁん……熱いよぉ……!」
俺は目の前の光景を疑った。先ほどまで平らだった桜の胸が、明らかに膨らんでいる。それは彼女の腕に抑え込まれて谷間を形作りはじめ、腕の力を押しのけようと、外側にムニムニと膨らんでいく。
「ひゃあ! やだ、陸にぃ……あぁん! み、見ないでぇ……ひぅっ!」
外側に押し出されていく力を無理やり押し込みながら、桜は苦しそうに声を上げる。顔はほんのりと上気し、俺に見られていることで更に赤みを増した。胸だけがどんどん大きくなっていくその様子に、不覚にも目を離すことができない。
「はあぁんっ! す、すご、い……胸、おっきなるよぉ……! ふあぁ……くふぅん! おっきくぅ……!」
俺はただ呆けた顔をしているだけだった。俺の予想を超えてどんどん大きくなる桜の胸。中に脂肪が注入されていくようにブルンブルンと震えている。はっとして砂時計に目をやる。半分以上の砂は落ち切っていた。
「ら、らめぇ! おにいちゃぁん! 見ちゃ、やだぁ! ああん! お、おっぱい、やあぁ! わたし、変になるううぅ!」
終盤にかけて、桜はいっそう乱れだす。腕の中で膨張する力に耐え切れないのか、次第に腕の力が弱まっていく。外側に柔肉が溢れだしている。
「あ、あ、あ! はぁぁぁん! ああああああ!」
砂が落ち切ると同時に、耐え切れなくなった桜の腕が弾き飛ばされた。その瞬間、押し込まれていた力が解放され、外側に大きな胸がブルルンと飛び跳ねる。まるで別の生き物のようにバインバインと揺さぶり暴れ、桜の叫びが部屋中に木霊する。
「ひゃああぁぁん! おっぱいぃ! おっぱいやあぁ! おにいちゃんが、見てるのにぃ! はうぅぅぅん!」
桜の淫らな姿を脳裏に焼き付けると、俺は気が遠くなるような感覚を覚えた。目の前で繰り広げられる嘘のような胸の膨張。突きつけられた現実に俺は失神しそうになる。
しばらく惰性でプルプル震えていた胸は、次第に落ち着きを取り戻し、桜は肩で荒く呼吸を繰り返すのみになった。
「はぁー……はぁー……はぁー……」
その呼吸に合わせて、巨大化した胸がプルン、プルンと震える。胸自体は巨大化したが、その先についている桜色の突起は不釣り合いなくらいに小さいまま。立派に成長した桜の胸を前に、俺はただ呆然と目を見開く他はなかった。
「さ、桜……」
「はぁ……ふぅ……お、にい……ちゃん……」
桜は僕の方に前のめりに倒れてきた。俺はそれを体で受け止めると、俺の胸板に柔らかい感触がプニュンと広がる。今まで感じたことの無い極上の柔らかさ。3分前までは壁同然だったその場所に、豊かな実りが姿を現していた。
「おっぱい……あぁん……こんなに、大きく……」
悩ましい声を上げながら、桜は濁った眼で胸を見た。そして、自らの手でその柔肉を弄び始める。手の動きに合わせて、ムニムニと揺れ、たゆんたゆんと弾む。俺はその様子を間近で見て、生唾を飲みこんだ。
「見て、お兄ちゃん……こんなに大きくなったよ……」
すると、桜は下から胸を持ち上げるように両腕で支えると、俺の目の前に差し出してきた。何事かと驚き、少し後退する。
「ど、どうした、桜……?」
「これなら、お兄ちゃんも、私の事子供じゃないって言ってくれるよね?」
桜の様子がおかしい。いつも『陸にぃ』と呼ぶくせに、この時になって昔のように『お兄ちゃん』と俺に呼びかけてくる。少しだけ恐怖を覚える。
「おい、桜、どうしたんだよ」
「私、お兄ちゃんのこと、大好きだったから……早く大人になって、お兄ちゃんに愛してもらいたかったから」
……何だって?
俺に、愛してほしい?
俺が呆気にとられていると、桜は突然俺に抱きついてきた。ムニュムニュと潰れる二つの膨らみを感じ、俺の理性が再び刺激される。
「小っちゃい頃、約束したよね。お兄ちゃんのお嫁さんになるって」
「は、はい?」
「だから、早く大人になりたかった。いつまで経っても身長が伸びないし、胸も大きくならないから、お兄ちゃんに女の子って認めてもらえないんじゃないかって、ずっと不安だったの」
予想外の妹の告白に、俺の思考回路はショート寸前だった。目の前に迫る桜の顔は真っ赤に上気し、心臓の鼓動が伝わってきそうな勢いだ。
「でも、この体なら、お兄ちゃんは私をお嫁さんにしてくれるよね?」
「ま、待て、桜。日本の法律で、兄妹間の結婚はできないことになっていてだな」
「そんなこと分かってるよ。……だから、気持ちだけでも、お嫁さんにしてほしいの」
なおも迫る桜に押され、俺は床に倒れ込んだ。そこに桜が覆いかぶさってくる。目の前に、桜の潤んだ瞳と、ぷるぷる揺れる爆乳が交互に映る。
「……お兄ちゃん」
桜の顔が俺のすぐ横に触れる。首筋に熱い吐息が触れ、俺の耳から桜の声が直接脳に浸透した。
「……私のおっぱい、揉んで……?」
その瞬間、俺の理性は粉々に砕け散った――。