マジカル・サンドグラス 第2話

F_able 作
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 鳥のさえずりが聞こえて、俺は重い瞼を開けた。自分の部屋の白い天井が映る。
 そこで俺は、寝室に移動したまでの記憶が無いことに気付く。いつの間に俺は寝てしまったのだろう……確か、昨日は――。
「ん……」
 ふと、耳元で女性の寝声が聞こえた。その方向に首だけ動かすと、そこには一人の健康的な美少女が眠っている。
「すぅ……くぅ……おにいちゃん……」
「……何だ、桜か……」
 可愛い奴だな、どんな夢を見てるんだろう。俺は安心して二度寝を決めた。

 ……いや、待て。

「どわああぁぁ!?」
 俺は慌ててベッドから飛び起きた。
 朝起きたら隣に妹がいたというシチュエーションは、16年(もうすぐ17年)の人生の中でおそらく初体験だ。小さい子供ならまだいいが、相手は年が一つしか離れていない妹なのだから、慌てるのも道理だと信じたい。
「んにゅ……はふぅ……お兄ちゃん、おはよう……」
 俺の奇声などお構いなしに、桜は可愛らしく朝のご挨拶。
 俺は必死に昨日の出来事を整理する。確か、昨日は何か重要な大事件があったような……そうだ、桜が大きくなったのだ。巨大化ではなく、身長が高くなって胸が大きくなったということ。その後、俺は桜に這い寄られ、甘い吐息を吹きかけられて、その後――。
 ここから先は頑張っても思い出せそうになかった。
 桜は瞼を擦りながら俺を恨めしそうな視線で見た。起こされたことが気にくわないのだろう、まだ布団の国から出てくる気は無いらしい。
「お、起きなくていい! 俺、昨日何をしたか覚えてるか!? 覚えてたら教えてくれ!」
 ほぼヒステリーに近い状況の俺を見て、桜はむくりと体を起こした。全身を覆っていた掛け布団が桜の肩からずり落ちる。
「――ぶっ!?」
 俺は思わず口を手で覆った。
 桜は、裸だった。それも、昨日手に入れた妖美なプロポーションのまま。当然、そのほんのりと色づいた素肌が白日の下に晒され、豊かな胸がぷるんと揺れる。
「おはよう、お兄ちゃん」
「お、お、おはようはいいから、何か着てくれ……胸を隠せ!」
 すると、桜はにやりと不敵に笑って、俺の口元に手をあてがった。
 そして放たれた一言は、俺を戦慄させた。

「……すごく、気持ちよかったよ、お兄ちゃん♪」
「――うわあああああぁぁぁぁぁ!」


 ものすごい罪悪感に苛まれながら、俺はクローゼットの中の制服に手を掛けた。
「だ、大丈夫だよ、お兄ちゃん。いっぱい胸揉んで貰ったけど、エッチはしてないから」
「胸を揉んでる時点で兄貴として最悪じゃねーか……」
「そんなことないよ。寧ろ健全だよ? お兄ちゃんも男の子だもんね」
 そんなオープンな奴に励まされても嬉しくもなんともない。
 俺が遅々として着替えている最中も、桜は一糸まとわぬ姿で俺の周りをうろちょろしている。時々俺を覗き込んでくるたび、艶やかな肌と瑞々しい胸の果実に目を奪われてしまう。慌てて視線を逸らすと、「お兄ちゃんのエッチ♪」などと明らかに嬉しそうな態度をとるので、非常に対応しづらい。
 と言うか、桜の様子は明らかに昨日までと違っている。まるで別の人格が目覚めてしまったかのように、それまで普通の兄妹がし得る最低限度のコミュニケーションしかとってなかった妹が、今こうして俺に対して大好きオーラを全開にして「お兄ちゃん」などと呼びかけてくるのだ。傍から見たら羨ましいかもしれないが、こちらとしてはホラー映画も真っ青の恐怖体験に近い。
「……桜も着替えろ。電車に乗れないぞ」
「……うん。じゃあ、そうする」
 ようやく桜は俺から離れて自室に戻った。
 はぁ、と大きなため息をつく。朝からものすごい体力を使ってしまった。きっと午後は昼寝コースにまっしぐらだろう。午後の授業は何だったかな……。
「お兄ちゃーん、来てー」
 などと考えてると、桜の部屋から俺を呼ぶ声がする。
 制服を羽織り、一旦ネクタイを結ばずに、桜の部屋に向かう。ちなみに、我が高校の制服は男女ともブレザーで、下にワイシャツを着ることとなっている。
「どうした?」
「ちょっと……お母さんのブラ借りたんだけど、ね」
 見ると、どうやらブラジャーを着けようとしているようだった。しかし、背中のホックが届いていない。
「んしょっ。ふんっ。このっ。おりゃあっ」
「入んないのか?」
「……お兄ちゃん、手伝って」
 まさか、母よりでかくなっているとは……。高校生で90センチの胸を持ってる奴なんてそうそういないと思うが。
 俺はブラのホックを掴んで、ぎゅっと引っ張りながらひっかけようとする。
「ふん……っ! せいやぁ……っ!」
「い、痛い痛い! お兄ちゃん痛いよ!」
「我慢しろ!」
 悪戦苦闘の末、何とかホックをひっかけることに成功する。しかし、胸はそのブラジャーによってぎゅうぎゅうに締め付けられてるようで、桜の表情は歪んでいる。
「きついなぁ……」
「だったら小さくなれっての。あの砂時計、元に戻すこともできるらしいぞ?」
「それは嫌! せっかくお兄ちゃんが大好きな体になったのに!」
 不毛な言い争いをしながら、今までにないくらい着替えと言う行為に手間取った。


 その結果、失われるのは登校時間である。
 朝食を食べる時間が無くなったり、やっと電車に乗れたものの、桜の姿が公衆に晒されることを俺が一番恥ずかしがっていたりで、校門前に到着する頃には俺はもうへとへとになっていた。時々俺の腕に抱きついてきて、ブレザーから顔を覗かせる爆乳を惜しげもなく俺の体に押し付けてくると、飲みこまれそうな極上の柔らかさがぐにぐにと腕を包み込む。その姿が、道行く学生の目に映ると、皆振り返ったり二度見したりする。当然だ、今までこんな絶世のプロポーションを手に入れた女子高生など、我らが高校にいたはずがないからである。顔立ちは小川名桜の面影を残すものの、身長は伸び、何より胸があり得ない規格にまで膨張してしまったのだ。その姿にノーリアクションを突き通せる者がいる筈もない。昇降口で内履きに履き替えると、桜は颯爽と振り返って満面の笑顔を浮かべた。
「また後でね、お兄ちゃん」
 そう言って手を振り、一年生教室の方に消えていく。ざわつく昇降口前、俺に集まる視線。全身に冷や汗を浮かべながら、俺は油が切れたブリキ人形のようにぎくしゃくとしながら、二年生教室に続く階段を昇って行った。

 教室に入ると、俺の席に座って、がくんとうな垂れる。
 朝からなんでこんなに体力を消費しなければならんのだろうか。もう当分の間動く気力も起きないぞ……。
 目を閉じて机に突っ伏していると、周囲から小声で会話する声が聞こえる。右斜め前方から女子生徒の会話。
「ねぇ、あの子誰?」
「おい、小川名って彼女いたのか?」
「一年の教室に入っていったけど……一緒にいたのってあの人だよね」
「おっぱいでかかったなぁ〜」
「結構美人だったよね」
「また一人リア充が誕生したのか」
 五月蠅い。今すぐこのひそひそ話を鎮めたいのだが、今の俺には怒号を上げる気力も体力もなかった。眠ることで少しでもHPを回復して授業に備えたい。そうしないと本当に眠ったままになりそうだ。

「あ、委員長! おはよう!」
 誰かが声を上げた。俺が視線を上げると、ふわりとウェーブが掛かったブロンドの髪をした女性が教室に入ってきたのが見えた。
「おはようございます」
 彼女は挨拶をした女生徒に軽く会釈をしながらその脇を通り過ぎ、俺の右の席に座った。俺と目が合うと、柔らかな表情で笑顔を作ると、俺にも小さく会釈をした。
「……おはようございます、小川名くん」
「あ、ああ、おはよう。委員長」
 俺はちょっとだけ固くなりながら答えた。
 彼女は江沢七海(えざわ ななみ)。我らが二年四組の学級委員長を務め、クラスメイトは親しみを込めて「委員長」と呼んでいる。誰に対しても平等に優しく接し、そのやんわりとした笑顔は見る者を幸せにする聖母のような印象を与える。それは基本的に一人きりの俺に対しても同じで、いつの間に苗字まで覚えられてしまったらしい。まあ、同じクラスが継続される一年の頃からずっと一緒だったこともあるが。生俺がもう一度机に突っ伏すると、隣から委員長の声がする。
「……小川名くん、お疲れですか?」
「あ、ああ……ちょっと眠くてな。放っといてくれ」
「夜更かしですか? 体に無理を強いるのはいけませんよ」
 俺は委員長の顔を直接見ないで、右手を上げることで返事した。


 退屈な授業が始まった。一時限目は数学。
 俺は相変わらず机に突っ伏して目を閉じたままだった。これでもかと言うほど眠く、体に疲労が蓄積しているのが分かる。肉体的にも、精神的にも俺は完全に滅入っていた。
 ふと、右隣を見る。そこには委員長がいて、真剣な顔つきでノートを取っている。体格は人並みで、年相応の身長と胸の膨らみを持っている委員長。これを考えると、桜がいかに規格外の体を手に入れてしまったのかが伺い知れた。特にあの胸は明らかに大きすぎる。本人も自称する壁がいきなりあの大きさになったのだから、本人はとても嬉しいかもしれないが。
 ……しかし、柔らかかったな、桜のおっぱい――。
 ふと思い浮かんだ思考を慌ててかき消す。いくらなんでも、グラビアアイドル並みの体を手に入れたとはいえ、桜は俺の血の繋がった妹だ。昨日、俺は本当に間違いは犯してないだろうかと不安になる。きっと大丈夫だと思うのだが……。
「小川名」
「あ……はい」
「眠気覚ましに、この問題を解け」
 野太い教師の声が聞こえて、俺は慌てて立ち上がる。黒板に書かれた数式をじっくり数秒眺め、黒板に向かい、白墨を取って問題を解答する。
「商x、余り−6x+1です」
「……正解だ」
 眠っていたのに問題が解けるのか、という教師の思考は驚きの表情から読み取れた。乾いた拍手の間を縫って、俺は自分の席に戻った。
 そこで委員長と目が合った。
「……お見事です」
 委員長が小声で俺に賛辞を贈る。俺は口に出さずに右手を軽く上げて返答して、再び机に突っ伏した。早く夢の世界に行きたいという思いが一心だった。


 そんなこんなで授業を消化し、昼休みを迎える。
 いつもなら桜が二人分の弁当を作ってくれるのだが、今日はあんなことがあったせいで時間が無く、俺は仕方なしに学食に向かうことになった。購買のパン売り場はいつも激戦区になっているのだが、俺はそれよりも食堂で食えるうどんの方が美味しいと思う。人それぞれだが。
「小川名くん」
「ん?」
 廊下でふと呼び止められた。振り返ると、小走りで委員長が駆け寄ってくる。俺に話しかけてくる人間など珍しいものだが。
「どうした、委員長」
「あの、ちょっとお伺いしたいことがあって」
 すると、委員長は背後を気にするような素振りを見せる。一体どうしたというのだろう、俺は彼女の考えが読み取れない。
「……委員の用事で一年生教室に行ったんですが、そこで変な話を聞いたんです」
「変な話?」
「ええ。見慣れない、凄くスタイルのいい女子生徒がいると」
 背筋に冷や汗を感じた。委員長は構わず続ける。
「四組にいるとのことで覗いてみたんですが、確かに不自然な生徒でした。明らかに制服が短いので、校則に違反しますと忠告したんですが、聞く耳を持たない様子で。『お兄ちゃんに会いたい』ってずっと仰ってたんです」
 ……桜、本当にどうしたんだ。まるで昨日までと人格が違うじゃないか。あの砂時計にはそんな効果もあったのか? だとしたら、俺は恐ろしい物を使ってしまったのか。
「そのお兄さんのお名前をお伺いしたら、小川名陸と仰られたので。……あの方、もしかして、小川名くんの妹さん……ですか?」
「……ああ」
 俺の短い返答に委員長は「そうですか」と返してきた。何だか機嫌が悪そうに見えた。風紀を乱すような生徒がいるなら、その兄に対しても指導の矛先は向くものだ。
「……悪い。桜にはよく言っておく」
「桜さん、と言うのですか。よろしくお願いしますね」
「ああ」
 やれやれ、俺にまで迷惑を掛けやがって。
 しかし、どう考えても桜の変貌ぶりは異常だ。まるで小さい頃の記憶が突然よみがえり、その願望の通りに生きているようだ。ということは、『お兄ちゃんのお嫁さんになる』という桜の幼少期の願いが、実はかなり本気の願いだったということになる。そこまで俺の事を想っていながら、気づいてやれなかった身の上が恨めしい。
「…………」
「…………」
 俺と委員長の間に妙な沈黙が続く。というか、委員長は立ち去ろうとしない。まだ何か用があるのだろうか。
「……まだ何かあるのか?」
「あの……一つだけ、確認させていただいてよろしいですか?」
 無言で頷く俺。
「本当に桜さんは妹さんなんですね?」
「……? そうだけど……」
「そうですか……よかった……」
 よかった? 何がよかったんだ?
「あ……いえ、こちらの話です。それでは、また」
 俺がその質問をするより早く、委員長は俺に背を向けて行ってしまった。ふわふわと靡くウェーブのブロンドヘアがいつにも増して印象的だった。
「……何だったんだ?」
 俺は委員長の何か含んだような態度が忘れられず不審に思いながらも、空腹感を思い出して学食に向かった。


 午後の授業はより一層眠い。空腹感から来る眠気に負け、何人か夢の世界に旅立っている連中がいる。俺の脳も午前とは違う眠気と酸素不足に悩まされ、大きな欠伸が自然と出てくる。先生に指名されパニックになる奴。構わず寝続ける奴。俺はその場で一旦覚醒し、落ち着いて問題に取り組む。寝ているように見えてちゃんと話の内容は聞いているのだ。睡眠学習と言うやつだ。
 それよりも、気になったことがある。ある瞬間、ふと右側から視線を感じることがあった。そちらの方向を見ると、当然委員長がいるわけなのだが、俺と目が合う時があった。委員長はすぐに視線を逸らしてしまうのだが、俺が再び顔を伏せるとまた視線を感じる。どうやら俺を見ているらしい。寝てはいけないと暗に示しているのだろうか、だが眠いものは眠いのだ。授業には参加してるから、見逃してくれ、委員長――。

 そして、あっという間に放課後になる。
 ホームルームを終え、喧騒に包まれる二年三組。俺はちゃっちゃと荷物をまとめると、席を立った。……当たり前なのだが、また桜と一緒に歩かなければならないことに少しだけ憂鬱な気分になった。
「小川名くん」
「ん?」
 教室を出ようとしたところで呼びかけられる。振り返ると、そこには委員長がいた。今日はよく委員長に出会う日だな……と思っていると。
「少しだけ、お時間を頂けますか?」
「……ああ」
 そう言う委員長に連れられて、俺は彼女の後についていった。後ろで男子が何やらざわざわ騒いでいたが、聞かないことにした。

 委員長が案内したのは、放課後には誰も使っていない二年生学習室という名の空き部屋だった。十数組の椅子と机しかない簡素な教室。少しだけ埃っぽい匂いがする。
「……委員長、話ってなんだ?」
 俺は教卓に寄り掛かって委員長に聞いた。呼び出した当の本人は、俯いて何も話そうとしない。というか、発言を躊躇っているような感じがした。
「……用事があるなら急いでくれ。多分、妹が待ってる」
「……妹さん、大事になさってるんですね」
 委員長がふとそんなことを呟いた。俺はその意図が汲み取れず、次の一言が出てこない。口を閉ざしていた委員長が、ようやく語り始める。
「桜さん、小川名くんのこと、とても好きそうでしたよ」
「……みたいだ。こないだまではそんなことなかったんだが」
「でも、その気持ちだったら私も負けてません」
「…………?」
 いきなり何を言い出すんだ、委員長。
 すると、俺が瞬きをする間に、委員長がいきなり俺のもとに駆け寄ってきて、力のある限り抱きついてきたのだ。
「うお……い、委員長……!?」
「小川名くんが妹さんを大事にしているのはよく分かります。でも、それはあくまで兄妹間の愛情……そうでしょう?」
 委員長のブロンドヘアーから、石鹸の良い匂いがした。切なげな上目遣いで俺を見上げる、大人しい委員長とはかけ離れた挙動に、俺は口をパクパクさせるばかりだった。
「……それとも、小川名くんは、妹さんみたいに……その……おっぱいが大きい方がいいんですか?」
「えぇ!? い、いや、そんなことはないし……」
「だって、妹さんは『これがお兄ちゃんの大好きな体』って仰ってましたし」
 何て事を喋ってるんだあのバカ妹は!
「私、もう覚悟を決めてあるんです。小川名くん……私、あなたのことが大好きです。だから……!」
 すると、委員長は俺から離れると、スカートのポケットの中から何かを取り出した。それは一枚の紙と、焦げ茶色の組み木に収まったくびれたガラスの筒、その中に入った紫色の砂。
「委員長、それ――!」
 俺が言うより先に、委員長は紙を机に置き、その上に砂時計を立てた。
 なんで、委員長が俺の砂時計を……? そう考える間もなく、委員長の体に変化が起こる。
「あんっ……!」
 委員長が苦しそうな声を上げた。俺は慌てて傍に駆け寄り、その体を支える。計測を始める砂時計の下に敷かれた紙には、『江沢七海 胸 95cm』と書いてあるのが見えた。
 95……桜よりも大きい。
「あぁうっ!」
「い、委員長!?」
 委員長の背中がびくびくと跳ねる。それに合わせて、制服の胸の部分が次第に盛り上がってくるのが分かった。膨乳が始まったのだ。人並みのサイズから95センチに向かって胸が成長を開始する。
「はぁん! 私、どうなって……ん、やん! くるし……っ!」
 目視で分かるくらいにむくむくと大きくなっていく委員長の胸。俺は危機的状況を察知し、委員長の服を脱がせることにした。ブレザーのボタンに手を掛け、一個一個外してく。手元が震えて上手くいかないが、とりあえずブレザーを脱がせることに成功した。
「よし、次は――」
 俺はそこで固まった。
 次に脱がせるのはワイシャツだ。しかし、その肝心なワイシャツが大変な事態に陥っていることを目の前で目の当たりにしているのだ。
「ふぁっ、やぁん! む、胸ぇ……きつ、いぃん……!」
 委員長の喘ぎ声が頭の方から聞こえてくる。
 胸の膨張によって左右に引き伸ばされたワイシャツは、ボタンをぎちぎちに引っ張っていた。それによって形成されたワイシャツの穴から、肌色の柔肉がその存在を露わにしている。俺がその光景に気を取られていると――。
 ブツッ! ブッツン! ブチィ!
「いやぁぁん!」
 ワイシャツのボタンが飛んだ。胸の頭頂部に当たる個所と、その上下一つずつの計三つのボタンが弾け、うち一つが俺の額に力強く激突する。
「ってぇ!」
 その威力はボールペンでデコピンを喰らったような鋭い痛みだ。思わず目を閉じる。それでも支えている委員長を落とすわけにはいかず、再び目を開くと、そこには窮屈そうなフロントフック式の水色のブラジャーに締め付けられた巨大な二つのおっぱいが、ワイシャツから顔を覗かせていた。
「いやあ! こんな、こんなの……あふぅん! あっ、はあっ、はあぁんっ!」
 それでもなお膨乳は続く。俺の目の前で繰り広げられる光景は、二度目だというのに、その人物が異なるだけで全く異なる印象を受ける。特に、普段大人しい委員長がこんなに乱れている光景に、俺は不本意にも興奮していた。俺も人並みに男だということか――などと間抜けな思考が出来ようはずもなく。
 そして、最後の拘束具であるブラジャーも遂にその臨界を迎えた。
「お、おっぱいがぁ! おっぱいが弾けちゃうぅぅん! あはぁぁっ!」
 バチィィン! と大きな音を立てて、水色のブラが左右にはじけ飛ぶ。そして最後の戒めを解かれたおっぱいは前方に爆発するように飛び出て、俺の目の前にその全貌を曝け出した。血色のよい肌に、ほんのりとピンクに染まった小さな突起。深い谷間を形作るのは丸々とした二つの巨大な柔肉。委員長の背中の痙攣に合わせて、目の前でぷるんっ、ぷるるんっ、とバウンドする。
 砂時計を見る。砂は既に落ち切っていた。
「ひゃふっ……はふぅ……はぁ、はわぁ……」
 整わない呼吸で必死に酸素を取り入れようとする委員長。身をよじる度に震える二つのおっぱい。桜だけでなく、委員長までもが爆乳を手に入れてしまった。
「委員、長……」
「ひゃあ……小川名くぅん……」
 切なげな声を上げて、俺を見上げる委員長。その顔は茹蛸の真っ赤になって、満足そうに笑っていた。