真新しいフローリングにトスンと引越し用のダンボール箱を下ろし、本編主人公の青年はぐいと伸びをする。
季節は4月、新生活開始期だ。都会で初めての1人暮らし、住まいは郊外の中々なマンション。普通に考えれば嬉しいことづくめではあるのだけれど。
「1人ってのは思いの他さびしいもんだな。」
ガムテープをベリベリ引き剥がしながら愚痴を1つ。
実家は祖父母まで同居しているそれなりの大家族だったのだ。それが今朝から急に1人。咳をしても1人。これは思った以上に精神にくる。寂しさから独り言が出るのも仕方が無いことではないだろうか。
箱の中から文庫本を取り出そうとしたところでピンポーンとドアチャイムの音。
「こんにちはー、宅配でーす。」
インターホンからは、語尾が少々間延びした女性の声。なんとなく「お姉さん」って感じの柔らかさがあるような。
「インターネット通信販売で寝具をご注文ですよねー。」
確かに布団一式付きのベッドを先日注文した。家賃で少々無理をしたので家具は出来るだけ安くそろえたいと色んなページを見てまわり、一番安かった寝具セットを通信購入。一式セット9800円の破格が嬉しくもあり、通販ページにサンプル写真すら載っていなかったのが恐ろしくもあり。
さて、一体どんな安物が来たのか、まあ寝られればそれで十分ではあるけれど。考えながらキッチン兼玄関へ小走り、ドアをオープン。
扉の向こうには大きな女の人がいた。
何が大きいってまず背が大きい。ほぼ平均身長の青年よりずっと。ドア枠に隠れそうな高い位置にある顔は、やたらのほほんとした営業笑顔。顔だけ見れば、さっき聞いた声の印象通り「やわらか美人お姉さん」な顔なのだけれど。
そして次に体全体が大きい。いわゆるガタイとか体格とか。運送屋さんだから体力がいるのは分かるけれど、それにしても大きい。縦にも横にもぐんと広がった大きな体と先述したゆったり美人顔が凄いギャップ。
最後に胸が大きい。大きい。大事なことなので何度も書く。おっぱい大きい。
大きな体から左右にはみ出し、服を盛り上げながらぐいっと前に飛び出し。青い作業服型の制服を着ているので細かい体のラインは分からないけれど、この「細かい」どころじゃない凸っぷりなら胸が大きいことだけは絶対に間違いない。
バレーボールくらいだろうか。それともサッカーボールくらいだろうか。ボールのように丸いのかだろうか。それとも釣鐘のようにとがっているのだろうか。着ているのが硬い生地の作業服でなければ形や大きさがもっとはっきり分かったのに。惜しい。実に惜しい。
勿論そんな乳感想は顔に出さず、青年は愛想笑いで応対する。
「ご苦労様です。で、その寝具は?」
「あ、連れが持ってるのがそうですー。」
よく見ると「お姉さん」の隣に座りこんでいる女性が一人。
別にお姉さんの爆乳ばかり見ていて気付かなかったわけではない。長身のお姉さんと目線を合わせるために上向いていたから、屈んでるお連れさんが目に入らなかっただけだ。心の中で言い訳をしつつ、配達荷物に目をやる。ついでにお連れさんも軽く観察。
荷物はとにかく巨大な袋だった。シングルベッドが丸々入りそうな大きさの青い布袋。それがパンパンに膨らんでいる。まさかベッドを布の包装で運送したりはしないだろうし、となるとベッド用のマットレスや布団のセットだろうか。
その荷物を抱えている「連れ」の女性は、大柄なお姉さんと違ってごく普通の体型。女性らしい細い肩幅、小さな手。それが3抱えほどありそうな大荷物を抱えたまま廊下に座り込んでいるのだから、もはや「女性が荷物を持っている」というより「女性が荷物にしがみついている」ようにしか見えない。荷物の上に乗っかった顔は小さく可愛らしい。青年よりいくぶん若いように見える。服装はお姉さんと同じ作業服だけれど、こちらはおそらくバイトさんなのだろう。
「それじゃあ荷物の搬入をお願いします。」
言いながらドアを全開にしてストッパーをかける。通路にもベッドの設置予定場所にも荷物は一つも置いていない。冷蔵庫、洗濯機など、今朝から大荷物の搬入に何度も立ち会ったので要領はだいたいつかめている。
はいはーい、と返事をしながらお姉さんはバイトさんのそばにしゃがみこみ、荷物を抱える。無茶なサイズの荷物も大柄なお姉さんが持つと何とか持ち上がりそうに見える。
「じゃあせーので立つよー? せーのっ。」
お姉さんの合図で2人がゆっくりと立ち上がる。
立ち上がるにつれて、床にかかっていた荷の重さが2人の腕にかかる。よほど柔らかいのだろうか、4本の腕はみるみる荷に飲み込まれ、丸く膨らんでいた袋はあっという間に歪に変形してしまう。よほど重いのだろうか、バイトさんの顔が赤く染まる、息ははぁはぁと早くなり、足元はふらふらとおぼつかない。結果、長身のお姉さんが荷物ごとバイトさんを引き上げるような奇妙な立ち上がり方になってしまった。
立ち上がるのはつらくても一旦立ち上がってしまえば安定するようだ。バイトさんの表情はすぐに落ち着いてきた。重さの過半を引き受けたはずのお姉さんも顔色一つ変わっていない。あとは数メートル歩いて搬入するだけだ。しかし。
「しかし、この荷物、ドアから入らなくないですか?」
お姉さん、バイトさん、その間にお姉さんの爆乳と大荷物。この4連サンドイッチ、ドア幅80センチの倍ほど厚みがあるのだが。
「大丈夫ですよー、当社のマットレスは低反発素材ですからー。」
軽く言うとお姉さん、全身をつかってマットレスをぐいぐいとバイトさんの方へ向かって押し込み始めた。荷物に押し当てていたボール大の胸が、柔らかそうに変形しながらその中に飲み込まれる。荷物を支えていた上腕も胴体もぐいぐいとマットレスにめり込んでいく。
バイトさんはと言うと、先刻立ち上がろうとしていた時の比ではないほどの苦悶の表情。顔は真っ赤になり、息が荒くなるどころか時々小さく声があがるほど。足も踏ん張ってはいるものの膝が完全に笑い始めていて、今にも床に崩れ落ちてしまいそうだ。大丈夫だろうか、これは止めたほうがいいんじゃないだろうか、いやもう少し見ていても損はないだろう、でもやっぱり止めたほうが。
「はい、これで大丈夫でーす。」
お姉さんの声で青年は我に返る。バイトさんに見とれている間にお姉さんはマットレスの厚みを半分くらいに押し潰していた。これなら何とかドアから通るだろう。厚みを潰した分、縦に横にと広がって、もはや廊下のほとんどがマットレスで塞がれている。バイトさんは相変わらずエロい顔をしているが、休ませている暇はなさそうだ。だって急いで部屋に入れないと、どう考えても通行の邪魔だもの。
「こちらにお願いします。」
「じゃあせーので下ろしまーす、せーのっ。」
部屋の入り口、狭い廊下、居間の入り口、マットレスを押しつぶしたままの移動はなんとか完了した。荷物もなんとかベッド配置予定位置に下ろし終えた。バイトさんは既に泣きそうな顔で虫の息。音にするならきふ、きふ、という感じ。
「梱包はこちらで外しますのでー。」
お姉さんは喋りながら大袋のあちこちにあるボタンやファスナーを手際よく外していく。ボタンを外す時もファスナーを下ろす時も、ボール状の胸が左右の腕に寄せられて潰れて。これが谷間の見える服なら天国の眺めなのに、残念ながら首まで絞まった作業服で。青年は心の中で悔し涙を流す。
「はい、じゃあカバー外しますよー。」
全てのボタンやファスナーを外し終えたお姉さんが大袋をぐっと引っ張る。中からは出てきたのは。
ここまで読んできた人ならもう結果なんて分かってるでしょ。中から出てきたのは、バランスボールほどの肉量がありそうなおっぱいが2つ。それが重力で変形して床を底面にした半球に近い形になっていて。直径がメートルの半球という無茶な乳房なのに乳輪、乳首は常人と同サイズ。だってこれベッドだもの。大きい出っ張りがあったら寝るとき邪魔でしょう。
「な、な、な」
青年は当然言葉が無い。確かにマットレスや布団にしては形も丸っこいし搬入方法も変ではあった。荷が変形するたびにバイトさんが喘いではいた。荷を包んでいる袋の色は2人の作業服と同じ色ではあった。だからってそんなサイズの胸が存在するなんて普通の人なら想像さえしないだろう。それに。
「あの、さっき、『低反発素材のマットレス』だと、言っていませんでしたか?」
そう、確かにお姉さんもマットレスだと言っていたはず。
「はい。当社製の生体寝具はみんな低反発素材ですよー。このマットレスだって、ほら、ぐにぐにー。」
お姉さんはぐにぐに言いながら巨大な肉山に腕を押し込んでぐにぐにかき回す。バイトさんは搬入時と同じ泣きそうな喘ぎ顔。青年は脳がエロに支配され、何が何だか分からなくなって大混乱。
青年が混乱している間にお姉さんは腿のポケットからメジャーを取り出し、チキチキと乳山のサイズを測る。胸の付け根の鎖骨から胸のてっぺん乳首まで。左乳の一番端から右乳の一番端まで。
「素材軟度は問題なし。大きさも100の180でシングルベッドサイズきっちり。じゃあ受け取りにサインもらえますかー。」
「あ、ペンかして頂けますか。」
「はい確かにー。ではこれ、シーツです、ベッドメイキングはお客様の方でお願いしまーす。」
「はい、どうも。」
「それではまたのご利用をよろしくお願いしまーす。」
「いえ、こちらこそ、配達どうもご苦労様でした。」
朝から何度も家電、家具、引越し荷物を受け取っている青年。頭が混乱していたせいで体が流れで勝手にサインや挨拶をこなしてしまった。
正気に戻った時には部屋に一人きり。いや、バイトさん改めベッドさんと二人きり。
「こ、この状況でどうしろと。」
「あの…」
ここに至ってついに、本編のメインヒロイン、ベッドさんが初めて言葉を発する。
「あ、はい、え、あう、ど、どうしたんですか。」
「えっと…埃かぶる前に…マットレスにシーツ…かぶせて欲しいんですけど…」
言いながら自分の胸を、生体マットレスとやらを、ぴたぴた触るベッドさん。軽く叩いただけなのに柔らか素材が波打つ波打つ。
「わ、分かりました。」
緊張と混乱でもう何をすれば良いのやら分からない青年、言われるままにお姉さんに渡されたシーツの袋を開ける。びりびり。中から出てきたのはどう見ても何の変哲も無い真っ白なTシャツ。シングルベッド級おっぱいが丸ごと入る異常サイズTシャツを『変哲無い』と言っていいものかどうかは分からないけれど。
「こ、これをどうしろと。」
「あの…自分じゃかぶせられないので…」
再び自分のおっぱいをぺたぺた触るベッドさん。手を伸ばしても半球おっぱいの真ん中をやっと超える程度。これじゃあ確かに自分じゃシャツ着るのも不可能だろう。もう着せてあげるほか無い。白Tシャツ1枚でも全裸よりはマシだ。
「んっ…手が冷たいです…」
「あ、ごめん、なさい。」
速く被せて早く終わらせよう、の一念でなんとか正気を保ちつつ、ベッドさんのマットレスに白いシーツを被せていく青年。言い換えれば、女の子の超乳に白Tシャツをかぶせていく青年。
青年は忘れている。ベッドというのはシーツをかけたところで終わりではない。毎晩そこに転がって寝るのだから、むしろシーツかけ終わってからがスタートだろう。青年の戦いはこれからだ!
「ゆ…ゆっくりお願いします…乳首が…こすれて…」
「は、い、わ、か、り、ま、し、た。」
話し相手のいない寂しい一人暮らし、という10分前までの悩みはベッドさんのおかげで打ち崩された。しかし、超乳少女の乳の上で毎晩寝る生活、間違いなく一人暮らしの寂しさとは別種の精神負荷がやってくるはず。ああ、めでたくもありめでたくもなし。