裏-1話 異変
私には、好きな人がいる。今、私のすぐ横で生徒たちに朝の挨拶をしているその人だ。
名前は、片岡信弥(かたおかしんや)。この学校の生徒会長をしている。
私は、その生徒会長の補佐、および秘書的存在の役割、副会長。木下椿姫(きのしたつばき)。
別にこの生徒会長が成績優秀でスポーツ万能と言う訳ではない。
ただ、ずっとこの男が好きだから、近くにいたいと思って生徒会に入っただけ。彼が会長をやるというのなら、私はその一番近い存在をやるってね。
つまらない学校生活に生徒会室っていう休憩場所はとても居心地がよいから、毎日退屈はしないわ。
「おはよう。信弥。」
「おはよう。」
「おす。信弥。なぁちょっといいか?」
「おう、なんだよ?」
「俺の男としての相談を聞いてくれ、生徒会長。」
信弥のクラスの男子が正門で朝から何やら心配な表情で話し掛けてる。
「俺、昨日の夕方告白されたんだ。」
「まじで?」
「でもそのこ、ブサイクではないんだけど、貧乳でさー。」
「おいおい、失礼だろ。その子の気持ちに対して…」
ホント、失礼。横に女子がいても平気でそんなこと口にするなんて。
「だけど、男として…いや、生徒会長として女は巨乳がいいよな??」
「…ったく、生徒会長としてはいらんが、個人としてはないよりはあった方がいいだろう。巨乳でも爆乳でも、揺れるとこにお前ロマンが…あ、」
信弥も一緒になって…ホント呆れちゃう。なんで男ってみんなそうなのかしら。
「だよな、だよな?やっぱ巨乳だよな?ありがとう会長。」
でも、信弥は爆乳が好きなんだ…。
予鈴が鳴る。朝の生徒会の活動はここまで。
信弥と自分の教室に向かう。特にこれと言った話をするわけではない。
信弥が自分の教室に入ったのを見て、私も教室に向かった。
それから放課後までつまらない授業を受ける。こんな授業受けてなんの役に立つのか全く理解ができない。
私は、授業の途中で抜け出し、生徒会室で一人過ごした。
放課後のチャイムが鳴る。
ひと際騒がしくなる廊下。誰しもが待ちに待った放課後なのだ。
しばらくするとドアが開く。信弥がやってきた。
「今日は、早いのね。」
「椿姫、おまえはなんでこんなにも早く教室に着けるんだ?」
「会長がのんびりしてるんじゃない??」
「そんな…そんなこたぁねぇよ。椿姫こそ授業サボってるんじゃないのか?」
「あら、よくわかったわね。あんな授業出てもしょうもないでしょ?」
フフ…悔しがってるわね。でも私にとってはこのやり取りがホントに好き。信弥を独占しているこの時間こそが放課後の醍醐味よね。
あ、そうだ。信弥の好みを聞いておかなくちゃ。
驚いた顔も見たいし…。
机に鞄をかけ、下を向いている信弥に近づき、声をかける。
「ねぇ…会長?」
「ん?…て、お、お、おお前近すぎ!!」
お互いの鼻と鼻が擦れるくらい、額と額が擦れるほど近づいて信弥を呼ぶ。ゴツンと頭をぶつける余裕もないくらいに近い。
信弥の目がこれでもかってくらいに開く。
「ふふふ、会長ってかわいいね。」
「バカにすんな。びっくりしただけだ。それにお前に会長って言われるとなんだか小馬鹿にされている気がするんだ。お前が会長の座に着けばより安定するだろうに…」
「私、面倒くさいのは嫌いなの。」
「だから副会長だってか?」
「そっ。」
「そっか…。」
それに…
「それより、朝の話…本当なの?」
「何が?」
「あなたのクラスメイトが貧乳よりは巨乳がいいかって話。」
「おまえ、呆れた顔で見てたのに気になるのかよ?」
「べ、別にいいでしょ?」
「あの発言があなたの本音なのかどうか、気になっただけよ。」
「ふーん、っま、嘘ではないかな…、よし生徒会の準備しよー。」
やっぱり信弥も巨乳がいいんだ。
私は、自分の胸元を見た。
けっして大きいとはいえない普通の胸。
成績優秀、スポーツ万能、お金持ち…それなりの名誉はあるけど、美人とかそういう身体の類は言われたことがないなぁ。
ちょっとひと肌脱ぎますか。
信弥が私だけを見てくれて、それでいて他の男どもも釘付けにするくらいの身体を手に入れてみせるわ。
「みんな、席に着いたか?よし。じゃぁ4月も入ったことだし今年度初の生徒会を始める。よろしくな。」
会議中も耳に何もはいらないくらい、私は一人作戦を練っていた。
・
・
・
生徒会も終わり信弥も私も帰路に就く。
悲しいかな、本当ならば信弥と同じ方向に帰りたかったけど、家の方角が逆だから叶わない。
私は一人、リムジンに乗って家に帰った。
帰るなり、一人屋敷内の実験室に閉じこもる。
目の前には国の研究施設顔負けの設備が整っている。
私は、以前闇市で買った薬剤を手に、独学で学んだ結果をもとにオリジナルの豊胸剤を作って見せた。
肌色で粉末状の粉薬。パッと見、粉ミルクとさして変わらない。これを対象人物に飲ませれば万事おっけー。
ただ、大事なのは私が飲むのではなく、男が飲むこと。
男自身にはなんの効果も出ないけど、その人の周りで変化が訪れる寸法だけど…
っま、誰よりも私が一番影響力があるはずだわ。
窓の外を見ると、夜も更けていたが、東の空がぼんやり明るくなりそうな時間だった。
「もう4時…少し仮眠でもとって明日、学校で寝ましょ。ふふ、楽しみ…。」
次の日。珍しく、全ての授業に出席した。というより朝会から放課後まで教室で居眠りしてた。
でも、誰も怒らない。だって、授業に出ようが出まいが試験も成績もいつもトップですから。
放課後のチャイムが目覚ましの替わり。
信弥を誘って、生徒会室にでも行こうかしら。
私が隣のクラスを覗いたら、信弥が学校的アイドルの伊達綾乃(だてあやの)と話してる。
「あの女、頭の中は空っぽのはずなのに、男を落とす技術だけはしっかり持ってる。それもあの豊満なおっぱいと引き締まったクビレのなせる技かしら。」
なんか心の奥が熱くなった。こんな思いするなら、早くあの薬を信弥に飲ませて、私の身体を成長させてほしい。
そう決意して私は、先に生徒会室に入った。
しばらくしないうちに信弥も入ってきた。
「うぃーっす。」
「あら、遅いじゃない。」
「おぅ、椿姫。ちょっと教室でしゃべってて。」
「ふーん、伊達さん?」
「おいおいおい、おまえはエスパーか!?」
「別に…鼻の下が伸びたまんまだからもしかして、って思っただけ。今日もコーヒー飲むよね?」
「あぁ頼むわ。」
私の趣味には紅茶がある。それが派生してか、コーヒーを淹れるのも自信がある。
それに私の淹れるコーヒーを信弥はいつも幸せそうに飲んでくれるから、私も喜んで淹れる。
いつもは家の最高級品のコーヒー豆を使うけど、今日はアレを実行する日だからちょっと安い市販のコーヒー豆で…
っま、それでも十分に活かせるコーヒーを作るけどね。
「あ、フレッシュは2個お願い。今日は甘い気分なんだ。」
「はいはい。」
その甘い気分を私にも頂戴っと。
お望み通りフレッシュを二つに、例の粉薬を入れて混ぜる。
信弥の前に出す。それを何も気づかずに飲んで書類整理を始める。
それから30分くらいしてから信弥が気付いた。
「今日のコーヒーいつもと違くね?」
「うん。豆切らしちゃって慌てて買ったら、いつもと違うやつだったの。」
「へぇ…おまえにしちゃ珍しいな。」
ばれたかと思うと、ヒヤヒヤして顔に血が上る。
ん?信弥が私の顔を見て何を思ったのかあんまり良い気がしない、なんか急に冷めたわ。
でも、これで24時間は私の身体が成熟するはず。
それからというもの、身体が火照って仕方がない。
薬がじわりじわりと効いてきている証拠だ。
帰りに信弥と校門まで行くのにも身体がどんどん熱くなって胸元が苦しくなってた。
でも、それが嬉しくもあって後でサイズを測りたいと思う私がいた。それに、信弥もちょっと胸元を見てたような気がするし…。
校門から、迎えにきたリムジンに乗って帰宅する。
途中、車内で襟から胸元を見たけど、ブラにはそこまで喰い込んでおらず、ちょっとがっかりした。
家に帰って自室で制服脱いで、サイズを測ったけど、87cm。
確か、昨日が85cmだったから確かに薬の効果が出てるけど、これはきっと闇市で売ってる薬品そのものの効果のはず。私の手の施した部分はまだ発揮できていないにもかかわらず、私は家に帰ってきてしまった。
「これじゃ、伊達さんのおっぱいに勝てっこないわ。明日、もう一度信弥に飲ませる必要があるわ。」
今日は早く寝て、明日に備えた。
朝、リムジンに乗っていたら信弥を見かけたから、その場で降ろしてもらって信弥まで走った。
「おはよー信弥。」
「ん?おはよう、椿姫。」
あれ?信弥が私の胸元ばかり見ている。どうかした?そこまで変わってないけど何か?
「何見てんのよ!」
その場の雰囲気に任せて背中をたたいた。
少し、大きくなった私のおっぱいが揺れた。
「べ、別になんでもねぇよ。」
「本当に?顔がなんだか赤いよ?息も荒いし…」
「気のせいだって!」
「ふ〜ん…っそ。」
チラチラと自分の胸元を見る。さっきよりも少しは大きくなっているはずだ、だってこんなにも近くに信弥がいるんだもの。
それに、今日は少しおめかししたから、きっと気になって私の傍にいるわ。
駅前の信号で赤信号の合間に信弥に訊いてみた。
「ねぇ信弥、今日の私見て何か思わない?」
早く答えてくれないかしら。私のおっぱいを大きくして、お願い信弥。
「…化粧変わった?」
そうそう。他には??
「よく気付いたね。うんアイプチ変えたんだ…他には?」
「まだあんのかよ?」
信弥の目の前でいろいろポーズを変えてみる。中には胸を強調するポーズもいれたが…
「てか、動かれると気づけるものも気づけないだろ…。」
鈍感すぎてこっちがため息を出してしまう。
「ふん、こんなにも変わったのに気付かないなんてダメな生徒会長ね。」
「関係あるかよ?」
「あるわよ。ちょっと気付かないだけでどれだけの生徒が困る事か…」
「…ぐぬっ…。」
信弥が本当に気づいていないのならば、私のおっぱいは全然大きくなっていないということかしら?
もしかして失敗作だったってこと??
どうしよう。失敗作だったら…変な副作用とかでちゃうのかな?
信弥がただの変態になって巷の女性を襲うなんて…ことしたら??
効いてるのかはっきりしてほしい…
…なんて考えていたら、目の前に見かけない○学生が立ちはだかった。
「あ、お兄さん」
誰?
「ん?あぁさわちゃん…おはよう。」
だから誰ってば?
校門をくぐりかけた身体がこっちへやってくる。
赤いランドセルを背負っているのに私よりも大きいかもしれないその年齢に不相応なおっぱいが寄せられて洋服を盛り上げている。一歩近づくたびに大きく上下に揺れている。
「誰?」
「さわちゃんは妹の佳奈の同級生だよ。」
「ふーん。」
「あ、今日佳奈は学校休むから担任にわたしといてくれるかな?」
「…はい。佳奈大丈夫そうですか?」
私の胸元にある頭。その顎したに広がる、襟から見える谷間には相当の破壊力があった。カワイイ顔して信弥を惹きつける…私も見習わないと…
「急な発熱だけど、たぶん大丈夫だろう。見舞いにでも行ってやればすぐ治るさ。」
優しく笑いかける信弥を見て、急に身体が熱くなるのを感じた。
○学生相手に嫉妬したのかと思った。
さわちゃんとやら○学生は私と信弥に会釈をすると学校の中に入って行った。
「…ロリコン。」
「ちげぇよ!!」
ふん。こんなロリ巨乳に魅せられるなんて信じらんない。
つづく