薬罐の魔人物語

蓮沼刑部 作
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第1章 魔法の薬罐?


 「行って来まーす。」

 という掛け声と共に家を出る少年の名は、潟東 彩(かたひがし あきら)。
県立上堰(うわせき)高校に通う高校二年生である。
 この物語は、この少年と其の周囲で起った出来事を記すものである。


 「天気も良いし、回り道して帰ろうかな。」

 彩は外出の目的であった予約していた漫画を書店で購入すると、天気が良
かった事から、少し散歩しようと思い、いつも通る道とは違う、少し遠回りの
道を選んで帰路に着いていた。

 帰り道も半ばに差し掛った所で、大きな鳥居が見えて来た。仲江神社であ
る。彩がふと、境内の入り口に目を遣ると看板が立っており、

 「古物市開催中」

と書かれていた。

「あ、そうか、今日は第二日曜日か。」

 ここ仲江神社では毎月第二日曜日には「古物市」が開催されているのであ
る。

「臨時収入も有った事だし、ちょっと見て行こうかな。」

 彩は古物や骨董には興味は無かったが、この前の連休に親戚の家に手伝いに
行った際に、親戚の伯父さんから御礼に一万円を貰った事も有り、何の気は無
しに覗いて行こうと思い、鳥居を潜り、古物市に足を運んだのであった。

 古物市はそこそこの人出であった。彩がぶらぶらと見て回っていると、或る
一箇所に目が行った。白髪に白鬚で、茶人が着る様な和服を着た、仙人の様な
雰囲気を醸し出している御爺さんが出している店であった。主に骨董品を扱っ
ている様だが、其の値段は何十万円とする物から何千円とされている物まで、
幅広い物が置かれていた。

 「へえー、骨董って高価なイメージが有るけど、そんなに値がしない物も有
  るんだな。」

と呟きながら見ていると、彩はふいに並べられている商品の一つに目が入っ
た。それが何物であるのか一見した所判別出来無かったが、えらく古い物であ
る事は分かった。良く見てみると、現代の普通の形とは少し趣を異にしている
が、薬缶ではないかと推測出来た。

 彩がまじまじと其の薬缶らしき物を見ていると、店主の老人が話し掛けて来
た。

 「坊ちゃん、骨董に興味が有るのかい?。」

 「いえ、買い物のついでに立ち寄っただけです。」

 「其の薬罐が気に入ったのかい?。」

 「はい、何となく気になって。」

 「それは、室町末期頃の作なんだがね。」

 「へえー、そんなに古い物なんですか。」

 「そうだねえ、坊ちゃんなら大事にしっかりと扱ってくれそうだし、大丈夫
  でしょう。どうだい坊ちゃん、坊ちゃんになら其の薬罐一万円にしとくけ
  ど、如何かい?。」

 そう問い掛けられた彩は、一瞬其の値段にたじろいだが、何故だが見れば見
る程、其の薬罐に見入られた様に其の薬罐が欲しく成り、

 「御願いします。」

と答えたのであった。




 店主の老人は先程彩が買った薬罐を和紙で二重に包装しながら、

「年寄りとして言える事は、人生何が転機に成るかは分からないものだよ。だ
 からこそ用心を心掛けないとだし、だからこそ人生面白いんだけどね。」

と頬笑みながら言うと、包装された薬罐を入れた紙袋を彩に渡すのであった。

 彩は紙袋を受け取ると、老人に挨拶をして、古物市を後にして、再び帰路に
つくのであった。




 家に帰って来ると彩は自分の部屋で包装紙を解き、薬罐を机の上に置いてみ
た。

 「何で、一万円も出してこれを買っちゃったんだろう?。」

 彩は改めて考えてみるとやはり一万円は惜しかったと思い、何故自分はこの
薬罐を買おうと思ったのか理由を思い出そうとしたが、どうもはっきりしな
かった。ただ、この薬罐を見ている内に、どうしても欲しくなったという事は
何となく思い出されるのである。

 「まあ、買っちゃったものは買っちゃんたんだし、仕様が無いか。でも
  ちょっと汚れてるなあ。」

 彩がもやもやを一応振り切り薬罐を良く見てみると、かなり古い物だけあっ
て、古惚けて少し汚れている様に思えた。

 「磨いた方が良いかな?。」

 彩は脱衣場でバケツにお湯を張ると、布巾と一緒に自分の部屋まで運んだ。

 「汚れは落ちるかなあ?。」

 彩は布巾をお湯に漬し上で、バケツの上で買って来た薬罐を磨き始めた。す
ると、


 急に一瞬薬罐が光ったと思ったら、

 「ぼわ、、、、、。」

 という大きな音と共に、大量の煙が薬罐から噴き出して来た。

 「え、何、、、、、げほ、げほ、、、、、。」

 出て来た煙で彩が咽ていると段々と煙が晴れていく。そして煙が消えるとそ
こには何と、


見た事も無い和服姿の女性が立っていた。

 顔はモデル並み、否それ以上の美人であり、着ている萌黄色の和服がとても
良く似合っていた。黒髪の髪の毛は肩の中程まであり、美しいと言わざるおえ
なかった。肌も肌理細かく綺麗であった。スタイルも抜群であり、正に誰もが
振り返る程の美女である。
 しかし、彼女の姿の中で一番目を引くのは其の胸部であった。和服の胸の部
分を下から押し上げている其の胸は、彩が今まで見た事のあるどんな女性の胸
よりも大きな爆乳であった。


 「え、もしかしてこの薬罐、魔法のランプならぬ魔法の薬罐だったの?。」

 彩が呆気にとられていると、其の女性が喋りだした。

「ふわー、やっと出られた!。440年振り位かしら。」

 「えっと、どちら様ですか?。」

 「え、私?、私の名前は、紋物 葉子(あやもの ようこ)よ。宜しくね。君
  の名前は?。」

 「えっと、僕の名前は潟東 彩です。」

 「もしかして、君がこの薬罐から私を出してくれたのかな?。」

 「えっと、お湯に漬した布巾でこの薬罐を磨いたのは僕ですけ
  ど、、、、、。」

 「それで良いのよ。それが封印解除の方法だから。それにしても、あの忌々
  しい坊主め。440年間も私をこんな薬罐に封印しやがって。許せない。」

 「あの、綾物さんは440年前の方なのですか?。」

 恐る恐る彩が尋ねる。

 「そうよ。封印されている間も時間の経過は大体分かったからね。私が封印
  されたのは天正2年よ。後、葉子で良いわよ。彩君。」

 美女から名前で呼ばれて彩はドキッとした。

 「1574年ですか、、。えっと、440年前何か有ったのですか?。」

 と彩が尋ねてみる。

 「そうよ、あの月韻僧正め。私がちょっと術を使い過ぎたからって、讒言を
  信じて私をこんな薬罐の中に440年間も封印するなんて、有り得ない!。
  大体、修行中に訪れた大食国で読んだ『千夜一夜物語』に触発されて、洋
  灯の代わりに形が似ている薬罐に封印するなんて絶対おかしい。因みに封
  印解除の方法も、『千夜一夜物語』と一緒にしたんだって。」

 と葉子は憤る。

 「はあ、、、、。アラブで読んだ『アラビアンナイト』に触発されて、ラン
  プの代わりに薬罐に封印したんですか、其の月韻僧正さんは、、、、。」

 事情が分かった様な分からない様な気持ちでいた彩であったが、改めて葉子
の姿を見ると其のスタイルの良さに目が惹かれる。

 「え、何、私の姿に見蕩れているのかな彩君。」

 「いえ、そんな、、、、。」

 慌てる、彩。

 「因みに私は、体重は16貫で、胸囲は4尺で、腹囲は1尺9寸、臀囲は2尺7寸
  よ。」

 「体重が60kgで、バスト120cm、ウエスト57cm、ヒップ81cmかあ、、凄いな
  あ。」

 彩はそう呟いた後、しまったと思い赤く成った。

 それを見て、少し笑いながら葉子が言う。

 「そうだ、薬罐から出してくれたんだから、何か御礼をしなくちゃね。あの
  坊主が触発された『千夜一夜物語』に則るのは癪だけど、御礼となればま
  た別問題よね。」

 「いえ、御構い無く。」

 咄嗟に辞退しようとする彩。

 「遠慮し無くて良いから。確か『千夜一夜物語』では、洋灯の魔人は3つの
  願いを適えてくれるのよね。私は3って数字より、4って数字の方が好きだ
  から、彩君には薬罐から出してくれた御礼に、4つの願いを適えてあ げ
  る。私に ま か せ て ね。」

 再び呆気にとられる彩。

 「という事で、取り敢えず私が4つの願いを適えるまでよろしくね、彩
  君。」

 更に呆気にとられる彩であった。




 こうして、潟東 彩と、ランプの魔人ならぬ薬罐の魔人?である、綾物 葉
子の物語は始まるのであった。

続く。