恋愛偏差乳 〜彼女の好きな彼女〜

第二話 角砂糖とアリ

北斗のタグ 作
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 うー、ぎしぎし、ごとん、ばたん、がさがさがさがさがさがさ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 妙な音がして目が覚めた。時計に目をやると───針は夜中の1時34分を指している。
 何があったんだろう、と思い、ドアを開け、廊下に出る。懐には一応、退魔具と呼ばれる妖怪を祓う武器(私は普段、お札を使っている)を忍ばせた。これくらいあれば大抵の妖怪は祓う事ができる。私が陰陽師まがい(私は正式な修行を積んでいない為、陰陽師に『似たような事』をしているに過ぎない。それに陰陽師が祓うのは怨霊だけだ。妖怪とはまた別物になる)のお祓いを始めてからというもの、恨みを持った妖怪が家の中を荒らしていくことが増えた。勿論、神社自体に結界を張ることは怠っていないのだが、ひとつのワクチンがひとつの病気にしか効かないように、これも妖怪によってはただのお飾りのようになってしまう事がある。そのたびに私が祓うことになるのだが、律儀に夜中を狙ってくるため眠くてしょうがない。
 ひとつ大あくびをかいてから部屋を出て、そっと、音のした方に足をのそのそと運ぶ───けど、どこから音がしたんだっけ?
 まわりを見渡すものの、怪しい影とかそんなものは一切ない。ただ、寝ているときに物音がした。しかし今はしない。もともと何もない家だから、荒らしても楽しくなくて帰ったのかな?
 耳をぴん、と張るが妖気のようなものは何も感じられない。
 なんだ、ただの思い違いか。と、目を外に向けた次の瞬間
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!
 鳥居の上に何かいる。
 寝ぼけ眼のせいであまりよく見えないが、鳥居の上に何か影が見える。そちらに耳を向けると───微かな妖気。間違いない。
 手を懐に。耳をそばだてる。身が硬直する。髪が逆立つ。心臓はヤツをねらえと早鐘をうつ。
 視界はだんだんくっきりとしてくる。目が充血し。足に力がこもる。
 急いで玄関へ。慎重にドアを開ける。ここから鳥居まで約30メートル。お札の射程は最大約15メートルがいいとこ。鳥居の高さは・・・・・・・10メートルって所か。鳥居の真下で勝負をかけたほうがより確実だな。距離は全て目分量だが仕方がない。正確に図った事なんてないんだから。
 ざっ、ざっ、ざっ、ざっ・・・・・・・・・・・・・・・・
 慎重にあちらに気取られないようにゆっくり、まっすぐ。
 29、28、27、26、25、24、23、22、21、20、19・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 近づくがあちらからの反応はない。恐らく気づいていないはずだ。
「・・・・・・・うふふ・・・・うふふふふ・・・・・・・・・・・・・」
「あ────」
 あの陰は笑っている。その横に出ている大きな月が私を見て笑っているような錯覚をして、思わず身震いをする。
 射程まであと10メートル。
 そこまで何とか気づかないでくれ、と思ったがそれは無理だった。それはこちらを向く。はじめから私の存在に気付いていたのだ。
「こんばんは。凛子」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・緊張して損した。ただのよーこだ、こりゃ。
「『ただの』ってなによー。ただのって」
 眉根を寄せ、腰に手を当てて怒った仕草をする。
 ぷんすか、といった表現が似合いそうな彼女の怒り方は、彼女が式神であることを忘れさせるほどに愛らしく、可笑しかった。だからだろうか、緊張していた表情はあっという間に和らいだ。
「こらこら、思考は読めても読んじゃイカン」
 もちろん、本当にそんな能力はあるはずがない。
「んで、ここでなにしてるわけよ。よーこ」
 今晩はとても機嫌がいいのか、潜めていた眉がすぐにピンと張り、笑顔になった。
 そのままでは話しづらいと感じたか、鳥居の柱からするする降りてくる。
「なにって、月見てるだけだけど」
「じゃあなに? あなたは一人で月見て笑う趣味でもあるわけ?」
「ああ、さっきまで妖怪が一人きてたけど。あなたのことずっと覗いていたから私が声かけたの」
 なんて緊張感のない式神だ、と少し呆れた。
「何で祓ってくれなかったのよ? 家、荒らされたかもしれないのに」
「う〜ん。だって覗いてるだけだったもんなぁ。それにそんなに悪そうなコじゃなかったし。
 きっと家を荒らすどころか、覗いてただけでもそーとーの勇気を使ったと思うよ、あのコ」
「そうなの?」
「うん。凄い気の小さいコでさ、私が話しかけようとしたら全速力で逃げようとするんだもん」
「・・・・・・・・・・・その子、ほんとに妖怪、だったよね?」
 もしかして、私をつけねらうストーカーかも知れない。身の回りに何も起きた事はないけど。
「うん。だって妖気持って生まれた人間なんて、あなたぐらいなもんだもの」
 妖気というのは先天的に持っているのが普通で、こればっかりはどんなに修行をしても差が埋まる事はない。俗に言う陰陽師は妖気を扱う術を知っているが、本人は妖気を持たない。ではどういうことかというと、ややこしくて説明しきれる自信がないので止めておこう。とにかく、妖気の反応があればそいつは人間ではないということだ。私以外は。
「そう。じゃあ、安心してもいいのね。ところで・・・・・・・その子はどこ?」
「ああ、あなたが来たら一目散に逃げていちゃった」
 鳥居の柱の足元をくるくると指差しながら答えた。その仕草はなんだか子供を見ている気にさせる。
「ふぁぁぁぁぁ、緊張が解けたら眠くなっちゃった。もう寝る。おやすみ」
「今なら漏れなく私がついてくるよ」
 とか、笑顔で恐ろしい事を言ってくる。一緒にベッドに入ったら、彼女の胸のせいで窒息死だ。
「いらん」
 私は口に手をあてながら背を向けて手を振る。足取りは先程よりもなんだか軽かった。
「・・・・・・・・おやすみ。たべられても害はないから」
「は? どういう意味?」
 そのままベッドに向かうはずだった足が止まり、首だけを彼女に向ける。
「そのままの意味よ」
 というと、そのまま何も言わず、にっこり笑ったまま月を見上げた。
 月明かりに映し出される彼女の姿。腰まで伸びた金髪と白い肌が月明かりを反射するせいか、彼女の周りだけ線がぼやけて見える。耳はぴんと張り、尻から伸びた尻尾が九本、それぞれ目的もなくゆっくりとうねりをあげ、胸元が小さな赤い光を放つ。神社という空間だからだろうか。彼女が余計神秘的な存在に思えてならなかった。

 ごくり。
 口に含んだ食物を胃に流し込む。あれからというもの、私が遅刻すれすれの時間で朝食も取らずに学校に行くものだから、母が考えたのだろうか、朝食が台所から私の部屋に配達される事になった。ほどよくトーストされたパンは自分の不甲斐無さの味がする。
 コップの中身は白い液体───よーこの乳汁だ。彼女は狐だから狐乳って言った方がいいかしら。結局あの後、彼女から搾った乳汁を溜め込んだペットボトルは私の部屋に置かれることになり、仕方なく私の部屋にある小型冷蔵庫へ2本とも入れられる羽目になった。彼女はどうしても私に飲んでほしいらしい。おかげで結構幅とったんだぞ、よーこ。
 こんこん、とノックがしたあと、優阿の声がドア越しに私を呼ぶ。
「凛子姉ちゃん、いる?」
「ええ、いるけど。開いてるよ。入ってきて」
 どこかよそよそしそうに辺りを見回したあと、思い切ったように私の瞳を真っ直ぐに捕らえて口を開く。
「凛子姉ちゃん・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん?」
「レズだったんだって?」
 飲みかけていたものを危うく噴き出しそうになる。少し大袈裟に口を押さえて見せた。
「どうしたの? 突然」
「だって、よーこちゃんが・・・・・・・・・・・・・」
 あいつ・・・・・・・・・・!
「ねぇ、本当なの?」
「う〜、そうかも」
 答えに迷ったあげく、少し俯き加減にそう答えた。嘘はつきたかったが、そうなれば私は聖への思いを否定しなければならなくなる。それに昨晩のよーことの一件は・・・・・・・・・・そう思われても仕方ない、のかなぁ。
「おっきいおっぱいが好きなんだって?」
「え?」
 固まる。いや、むしろ他人の巨乳はだいっきらいだ。見ていると腹が立つ。
 彼女はそんな私を見てどう思ったかは知らないが「そう」と、一言だけ呟いて出て行ってしまった。
 なんだったんだろ?
 ふぅ、と寂しいような、ホッとしたような溜め息をつき、残りを片付ける事にした。

 う〜、気持ちいい。
 今日は昨日までの反省も踏まえて、自分の胸のことで悩まないようにした。やはり、余裕を持っての登校はすがすがしい。目の前には別の風景が広がって見える。
 隣を歩く優阿は、私の部屋に入ってきてからのやりとりから押し黙ってしまっている・・・・・・・・・嘘つくべきだったかもしれないと、心のどこかで思う。
 気まずい雰囲気で何も話せるような状態じゃないので、鞄から携帯電話を取り出してメールをチェックする。相変わらずくるのはくだらない内容の物ばかりだ───が、普段は退魔業で日常生活からはかけ離れた生活をしている私にとって、今はそれが心の癒しにもなっている。そしてその内容は・・・・・・・・・・・・豊胸術かよ。あーあ、折角いい気分で学校に行けるのに、腹立ってきた。かちかちとボタンを操作しながら反撃のメールを出す。
 そんな調子で結局、優阿とは一言も会話をしないまま学校に着いて別れた。

 普通授業は別の館内にて行われた。私の学校は私が所属する普通科の一番館、商業化の二番館、スポーツ科と呼ばれる、その名の通りスポーツ中心で授業が行われる学科(なんでも将来のアスリートたちを養成する学科だとか。ここからは有名なスポーツ選手達が多数輩出されている)が三番館、理科実験室とか調理室とか実験・実技をするための四番館、事務室とか職員室のある本館の計5つの建物にわかれ、それぞれ東西南北、本館はその真ん中に配置されている(その中に体育館、部室棟、グラウンドは含まれない)。それぞれの校舎が独立している構造のため、学科同士の交流はあまりなく、ほとんど違う学校と言っていい。そのなかで四番館の予備教室が割り当てられた。原因は・・・・・・・・・昨日の一件でお解かりだと思う。
 四番館はひとつの館として独立させるのがもったいないほどに使用される機会は少ない。人が少ないので怪談話の一つでも上がりそうだが、高校生にもなってそんな話はしないようだ。特別悪い噂の類はない。
 ひやりとした廊下の上を歩く───と、予備教室から女が出てくる。沙梨だ。
「あら、嶋津さん。おはようございます」
 と、妙に穏やかな物腰で挨拶をしてくる。気味が悪い。
「あ、お、おはよ」
 ひくっ、と無意識のうちに自分の片眉が上がるのがわかる。
「では、ごきげんよう」
 腰を軽く折って辞儀をした後、すすすすす、とまるで足袋を履いて歩いてるかのような音をたて、そのまま去っていった。
 何か機嫌が良さそうだったけど・・・・・・・何があったんだろ?
 はてなが頭の上に浮かんでるような感覚を覚えたあと、教室に入る事にした。

 私は妙な浮遊感と圧迫感を覚えて目が覚めた。辺りは暗く何がなんだか分からない。そして・・・・・・・・・縄で縛られている!
「き、いやぁ!」
 裸で、恐らくこれは亀甲縛りって、言うんだろうか。麻縄のような物で縛られ、つるされている。
「うふふ・・・・私からのプレゼントだけど、気に入ってもらえたかしら」
 暗闇から女が現れる───よーこだ。
 縄を解こうと手足をじたばたさせるがしっかり縛られていて無駄な動作に終わる。
「あ、あんたねぇ・・・・・・・・。昨日のお返しのつもりかしら?」
 努めて冷静に言ってみせる。が、心臓はばくばくなっていて身体の震えを抑える事なんてできやしない。それどころか声まで震えている。
「はぁ・・・・・・・気に入ってくれると思ったんだけどなぁ。まずは自分の胸を見てみてよ」
 と、くるりと右手の人差し指を回す。
「え?」
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ば、
「えええ〜〜〜〜〜?!」
 と。
 乳はもの凄く肥大化していた。もの凄く、て形容詞じゃ物足りない。それくらいに。
 ほんの少し前まで80を越えてすらいなかった私の胸は・・・・・・・・・・1メートルを越え、2メートルを越え・・・・・・・・・・・・・・・・・10メートル前後はあろうか。つるされているはずなのに乳だけは地面についている。それにあわせてか乳首も大きく肥大化し、20センチはあろうか、それを例えるなら保健体育の教科書に載っていた男性器の勃起状態にも似ている。後から知った事だけど、これは超乳というらしい。
「こ・・・・・・・これ・・・・・・・・」
 もう、何がなんだかさっぱりだ。思考停止。
「うふふふ。人の欲望を具現化させる術をちょっと使っただけなのに・・・・・・あなたってこんなに大きすぎるおっぱいが欲しかったんだ」
 彼女はなにやら楽しげに私の乳首を弄ぶ。
「ち・・・・・・・ちが・・・・・・っ・・・・ぁあああ・・・・・・・・!」
 強烈な快感が電撃のように私を襲う。腰ががくがく震えて股間の花弁が湿り気を帯びた。
「へえ、乳首だけでもこんなに感度がいいんだ。この穴に指突っ込んじゃったらどうなるんだろ?」
 肥大化した乳首は乳汁が出る穴が広がってるのか、両方に一つづつ肉眼でも見ることができる。その穴の中に、つぷり、と自分の指を入れて見せた。
「きゃぁあぁぁああぁぁ!」
 激痛が走る。本来乳汁が出てゆく目的のみに作られている穴だ。異物が入ってくる感覚には耐えられなくて、神経はただひたすらな痛覚を訴える。
「いいわぁ、その声。嬉しくて仕方ないんでしょう? 典型的なマゾね」
 先端が入りきったところで一度進行を止める。
「嫌よ! もうやめて! お願い」
 私は懇願する。しかしそんな私を見てよーこの笑みはますます淫乱になる。紫色の口紅が塗られている口を、ちろりとなめた。
「はぁ・・・・・・・・・でも、ちっさい胸じゃ好きなコに告白できないよ?」
「ば、馬鹿! このままでもできないわよぉ!」
 半べそかきながら反論するがそんなんで彼女の勢いはとまるはずもない。先端まで入っていた指は更に入りこんでくる。
「やだぁ・・・ぁぅっ・・・ だめだって、っ、ばぁ・・・・・ ああぁあン!」
 ぶしゅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・
 乳首から大量の乳汁が溢れる。噴き出した乳汁はよーこを濡らし、辺りにはいくつかの白い水溜り・・・・・じゃなくて乳溜まりができる。
「んふふ、まったく、自分で入れやすくしてどうするのよ?」
 潤滑油ができたおかげで彼女の指は一気に入ってしまう。
「痛い、よぅ」
 血が出る、と思ったが傷はついて無いらしく、出てくるのは潤滑油代わりになっている母乳だけだった。股間からひとすじ、汗の様な液体が流れる感覚があった。
「あ〜ぁ、本当はこのまま一人で楽しみたいんだけど・・・・・ヨロコビはみんなで分け合わなきゃダメよね」
 よーこは少し残念そうな表情を浮かべて後ろに声をかける。
「待たせてごめんね。出てきていいわよ」
 女が2人出てくる。暗くて顔は判らないが、女であるとは判別できた。一人は背中まで伸ばした長い髪をストレートにしている。もうひとりは短く切った髪の毛でふたつの三つ編みにしている。他の身体的特徴はわからないが・・・・・・・なんだかどちらも身近な人に似ている。
「さぁ、楽しみましょ」
 よーこが言うのとほぼ同時に女達が寄ってくる。私は右胸を、左胸を、腰を弄ばれていく。
「や、よ。嫌ぁ」
 周りの暗がりの中で、ただ一人はなれて見ている女がいるのに気がつく。そんな彼女の表情はどこかもの悲しそうだ。
 ・・・・・・・・・・・・・・・・・聖!
 私の身体を弄ぶ女たちの顔は見えないが、何故か知らないけど、少し離れてみている彼女の顔は妙にくっきり見える。
 やだよぉ、見ないでぇ・・・・お願いだから・・・・・・・・・聖・・・・・・・・・・
 彼女に見られながら私は快楽の地獄へと落とされていく。

「はうっ!」
 ・・・・・・・・・・・・夢だった。はぁ、よかった。でも、妙に現実味があったなぁ・・・・・・・・・・・・・・。
「おい、嶋津。今、何の時間かわかるよな?」
 心なしか先生の眉がひくひく動いていて、怒り皺ができてるようにみえる。怒っちゃ、イヤン、センセ。
 周りからくすくすと笑い声が聞こえて、なんだか恥かしい気分になって、『ははは・・・・・・』と乾いた笑いをあげ、赤面しながら着席する。そのとき、股間が少し濡れている事に気がつく。
 口から流れたよだれのあとを拭うとシャープペンを持ち、くるくるまわす。
 何だったんだろ? あの夢・・・・・・・・夢だったから、まぁ、いいか。
 私はそのまま勉強するふりをしてまた寝ることにした。

 昼休み。おなかがなった音で目が覚めた。
 さて、学食に・・・・・・・・・・・・・・・の前に一難ある。
 律儀にいつも私の目の前を通る女───沙梨だ。
 彼女は昼休みになるといつもこうだ。と、いうのは説明済みか。
 授業中は十分睡眠をとったから臨戦態勢はバッチリだ。身を硬直させ彼女を迎撃する準備をする。
「お昼はどこで済ませましたの?」
 ────へ?
「どうしました?」
 ────おかしい。明らかにおかしい。彼女は私に対してそんなこと言う人じゃなかったんだけど・・・・・・・・。そういえば朝から変だったな。
「えと、あ、これから学食行くつもりなんだけど、うん」
 話をあわせてみるが、そんな自分は自分らしくないと思う。
「あら。でしたら私と一緒に食べません?」
 ────変だ。こいつはそんなことは言わない。
 彼女の手のひらには二人分の弁当箱がのっかっている。
 ────何企んでやがる。この際だから決着でもつけようってのかよ、おい。
「え、でも、いいよ。私こづかい貰ったばかりだし」って、こんなの私の言葉じゃない。
「遠慮しなくてよろしいんですのよ。さぁ、行きましょう」
 と、半ば強引に私の手を引っ張る。弁当を片手に乗せている様子が、なんだか出前を運んでいるざる蕎麦屋のようだ。
 彼女は私が何をいようと問答無用に連れて行くつもりなのだろうことが、先ほどの会話でなんとなくわかったので仕方なく引っ張られていく事にした。

 はぁ、昨日は昨日で今日もまた変な日だ。優阿は押し黙っちゃうし、変な夢見るし、沙梨からは昼食に誘われるし。とことん変だ。まわりがいつもより風景が違って見える───のは教室が変わっただけということではないようだった。
 放課後の、それぞれが散り散りになった教室の中を見てもう二つの異変があったことについて思い出した。今日は聖が来ていない。なんでも熱が出たとかで数日は来れないそうだ。そしてもうひとつは────
「帰りましょうか」
 ────なんでお前がきてるの
 ちょこん、と隣に立っていたよーこに心の中でつっこむ。ここには来ない約束だろ、おい。
「なー凛子。誰? その人」
 隣から奇異の眼でこちらを見ている。確かに、よーこの服装は和服であり、制服姿の学生たちのいる学校においては完全に周りから浮いている。耳と尻尾を隠しているのは助かるが、服装の方も考えてくれ、よーこ。
「おほほ、凛子さんのこ・・・・・・・・」
 私は冷静に彼女の口を押さえる。ここはさっさと教室から出て行ったほうが得策みたいだな。
「私のところで務めてる巫女さんだよ」
 それだけ言うとさっさと教室から出る。友人達が「『こ』の次にくるのは何だー」とか「凛子ちゃん強引ー」とか「二人はこれから愛の逃避行よー」とかいろいろ言ってくるが全て無視する。
 彼女を引っ張り、下駄箱から出てきたところでやっと口を開く。
「何しに来たの」
「う〜ん、ヒマだったから」
 彼女は悪びれもせず、屈託もない笑みを浮かべて答える。こいつは行動の8割方は子供のように遊び半分な理由だ。しかも本人に悪気はさっぱりないんだから手におえない。まぁ、彼女のおかげか日常生活に飽きがきたことはまずないのだが。少なくとも1000年は生きてるんだから、もっとマシな行動をとってくれ。
「ヒマでもなんでも、ここにきちゃだめだって。何度もいったでしょ」
「そしたら本当に何もする事がないよ」
 しゅん、と肩を落とすよーこ。時々、私はどちらが年上かわからないときがある。今、他人がこの状況を目の当たりにしたら、私は妹を叱る姉に見えると思う。特にこのような表情をしている彼女は完全に私より年下だ。いや、もしかしたら精神年齢とかその他諸々考慮すれば、私のほうが年上かもしれない。
「でも、街中に出ることは禁止してないでしょう?」
 こいつに対して『神社の仕事を手伝う』という選択肢は禁句だ。そんなことをさせようとしたら、そのうちに日は神社がなくなっているかもしれない。
「だってこの街つまんないんだもん」
「はぁ・・・・参ったわねぇ・・・・・」
 頬をぽりぽりと掻く。最近は余計、この仕草が増えた気がする。
「凛子姉ちゃん。よーこちゃんまで」
「あ、優阿」
「おー、優阿ちゃん!」
 よーこはさっきの表情から180度変わり、必要以上に両手を振ってみせた。
「姉ちゃん。よーこちゃんなんか連れてきてどうしたの?」
 こいつも朝のときとは180度違う雰囲気に、いや、こっちがいつもの雰囲気なのだが、変わっていた、という表現がなんとなくしっくりくる。
「こいつが勝手にこっちきたんだ」
 ぷにぷにとよーこの頬をつつく。
「とりあえず、立ち話もナンだし、帰ろ?」
 基本的に歩くのは好きなのだが、立ったまんまはそうでない。駄々をごねる彼女を引っ張り、そのまま帰路に着く事にした。

 何か足りない事に気がついたのは、夕飯から30分後の事だった。自室に戻った彼女は、一つ大切な事があったような気がした───が、思い出せない。宿題の類はないし、委員会とかについていないからそういった仕事はもちろんない。
 ────あ。
 台所からコップを拝借してくる。小型冷蔵庫の扉を開けて、白いペットボトルを出し、中身をコップに注ぐ。
 なんでもよーこは定期的にチェックするらしく、一週間に最低2リットルの消費を命じられた。ってことは注ぎ足すんだろうなぁ。。。
 とにかく飲めなければならない量が多いが、一気に飲んでしまえば1リットルなんてそんなに恐い量ではない、と思う。
 こんこん。
 コップに口をつけようとしたそのとき、ノック音が部屋に木霊する。
「あいてるよ」
 がちゃり。
「こんばんは、姉ちゃん」
 優阿だ。
「どうしたの」
「あ、やっぱり飲んでたんだ」
 とか言ってにっこり笑っている。
「やっぱり、ってどういうことよ」
「だって、大きくしたいんだもんね、おっぱい」
 とかいうと、胸元ぐらいにまで伸ばした髪をわざわざ後ろに払って胸を揺らす。
 むぅ・・・・・・・・・
「見せびらかすの止めなさいよ」
 ぷぅ、と頬を膨らませて見せるがその表情は明らかに自分に似合わない。
「あら、ごめんあそばせ。どうしても髪を払うときには揺れてしまうんですのよ」
 おほほ、とお嬢様口調で私を挑発する。
「そのうちあんたなんかメじゃなくなるんだから!」
「へぇ、どんな風に?」
 彼女はとことん挑発的にその胸を見せびらかす。今度は『だっちゅーの』を見舞ってくださいやがった。
「もしかして、夢に出てきたくらいに?」
「へ?」
 そのとき何故か、克明に、学校で見たあの夢を思い出す。
 人間とは思えないくらいに肥大した胸を・・・・・・・・・・・・・
 そういえば、よーこの他にシルエットとして出てきた女の一人が、なんだか優阿に似ていた事を思い出す。
「え、もしかして・・・・・・・・・」
 本当にあった事なのかしら、と考えてみるが、現実味に欠けると思う。特に、アレの大きさは。
「ま、それはそうと、姉さん、あんましそんなのばかり飲んでると見苦しいからやめてね」
「あ、あんたねぇ・・・・・・・・・」
 だめだ。我慢の限界だ。耐えられない・・・・・・・・・・・って何が?
 こいつを襲っておかないと気が済まん・・・・・・・・・え? どうして
 何故か。キレた。
 彼女の悲鳴が聞こえて。手には柔らかくて暖かい感触があって。口からは何かを吸ったようで。
 その他のことは覚えていない。

 気がつけば、私はベッドに寝ている。そして隣には・・・・・・・・
 がーん。ゆ、優阿。
 私の目の前に処女喪失の4文字が浮かぶ。しかも実の妹で・・・・・・・・・
「うう・・・・・・・」
 隣で寝ていた彼女が目を覚ます。やっぱり・・・・・・・・・裸だ。彼女も私も。
「えーと、あの、これはなんと言うか、その・・・・・・・・・・」
「いいんだよ。これで」
 彼女は変なことを言った。頭がこんがらがるからこれ以上余計なことは言わないでくれ。
「は?」
「うんとね、よーこちゃんがね、ちょっとしたことしたんだって」
「ちょっとしたこと?」
 うん、と人差し指を頬に当て、ちょっと考えた仕草を見せて言葉を続ける。
「術をかけたんだよ」
「術・・・・・・・・・?」
「うん。なんでも『巨乳を見ると何故か無性に腹が立ってきて襲いたくなる術』とか言ってた」
 なんじゃそりゃ。 そんな都合のいい・・・・・・じゃない、メチャクチャな術があってたまるか。
 それに、腹が立つにも程がある。意識失ったぞ、わたしゃ。
「今まで効果があらわれなかったもんだから、きっかけを作ってやってくれって。んで私がいっちょかんだってわけ。流石に姉妹で、てのはちょっと抵抗があったから、ちょっと迷った」
 なる。だから昨日の朝は、考え込んでるようなカオしてたわけか。
「そうさせた動機はなんなの?」
「お姉ちゃんの為よって言いたいとこだけど、本音としては自分のためね。毎朝遅れられちゃ困るし」
「はぁ」
「ん、なんかね、その術を施された人は襲った人からおっぱい飲んで、巨乳になれるんだって。詳しい事はわからないから、あとはよーこちゃんに聞いてよね。まぁ、毎朝おっぱいの事で悩まれるとこっちも遅刻するし、テンションダウンするし。気が滅入るしね」
 ぁぅう、そこまで酷かったのか、私。
 に、してもだ。それならもっとマシな術はなかったのかよ、おい。
「ほら。ちょっとおっきくなってるよ」
 胸に手を当ててみると、かすかなふくらみができているのに気がついた。
「あ・・・・・・・・・」
「ね?」
 まぁ、いいか。ヤツに関してはあとで問いただせばいい。
 カーテンの隙間からは朝を告げる日の光。
 今日は日曜だ。眠いのでゆっくり寝ていよう。あとのことはそれから考えればいい気がした。
 ・・・・・と、優阿が私の上にのっかる。
「ね、もう一戦しよ。昨日は油断したけど、今日はそうはいかないんだから」
 私は、勘弁してくれ、と言わんばかりに大きなあくびで返答した。

 第二話 角砂糖とアリ  了
 第三話 疎い日曜日。憂鬱とともに に続く