愛の色々 その3

焔 作
Copyright 2003 by Homura all rights reserved.

季節は初夏。そう、私のハートのように燃え始める季節なのです。
私は橘綾香。つい最近まで平凡に何でもできる、特に目立たない地味な存在でした。今もそれは変わってないけど、恋愛をしています。
お相手は学園の花、神楽美雪先輩です。
やっぱり同性愛は社会的に認められないので、密かに付き合っているのですが、幸せ全開大爆発です。
その日、私は放課後にデートの約束をしていたので朝から上機嫌でした。
もっとも、暑いのはあまり好きじゃないので、二時間目に入った視聴覚室は空調が整っていて天国です。

二時間目の授業で『実録・学校であった怖い話』のビデオが流れていた。
初夏の暑さを紛らわすためというはからいだった。視聴覚室は元々空調が整っているのでそんな必要はない。
そう、私は怖い系は苦手なのだ。
今も誰かの手が後ろから伸びてくるんじゃないかと想像し、身震いしてしまう。
涼しいを通り越し、背筋が凍りそうだった。
「なあ、綾香。お前、この話を信じるのか?」
「ひゃあああ!」
突然、背中を押されて私は飛び上がった。我ながらすごい声を上げてしまった。クラスの皆が笑い、私はてへへと笑って席に座った。
ああ、今日からは地味と言われないかも。
「ちょっと、驚かさないでよ勇一郎」
私の後ろの席に座っているのは河崎勇一郎。家が近所で、小学校から一緒のいわゆる幼なじみだったりする。
「私が怖いの嫌いだって知ってるでしょ?」
「こんなの簡単な映像加工だ。俺ならもっと凄いのを作れるぞ。今度お前の家に持ってってやるか?」
「やめてよ」
私は強く言ったつもりだったが、声が強張っていた。
勇一郎は科学が大好きで、コンピューターの分野では天才。中学の頃に会社を作って、現在は急成長したその会社を売って学生ながら億万長者になっている。
その会社は勇一郎の指揮していた頃は株式の上場が近かったらしいが、今は成長が止まり投資を回収できなくて困っているらしい。
勇一郎は経営者としても天才なのかもしれない。しかし、中身は軽薄極まりない。
「ははははは。ほんとビビリだな」
「あんたは怖いもの知らずよね」
この男はインドア派かと思えば、命綱なしで岩壁に上ったりする野生児だ。興味半分で化学室で爆発を起こしたぶっとんだ性格でなければ学年屈指の良い男だろう。
「おばさんはこういうの好きだったよな。今度持ってって渡しとく。ラベルは綾香の好きなバラエティ番組にしとくかな」
「お願いだから、本当に止めて」
勇一郎と言い合っていると、いつの間にかチャイムが鳴った。
「ほら、怖くなかっただろ?」
勇一郎は笑って席を立った。
(むう)
時々、この男は優しいような素振りを見せる。どう考えても天然なのだが。
視聴覚室を出た瞬間に鬱な気分になる。蒸して暑い。
「暑いよね」なんて雑談しながら教室に向かう途中、怪しげな用務員が前から近づいてくる。
帽子を深く被り、マスクをしている。そのマスクから黒い物体――おそらく髭――が飛び出ている。
周りの人が脇目で用務員を見て、ひそひそと耳打ちしている。私もなんだこいつはと思った。
「おい」
その用務員はモップを捨て、私の手を掴んできた。そして強い力で引っ張り、私はずるずると引きずられた。
「ちょ、ちょっと?」
「仕事だ。手伝え」
その声には覚えがある。
「お、綾香の奴、用務員の兄ちゃんに惚れられたか。こりゃめでたい。ほら、餞別だ」
勇一郎は何やらゴルフボールサイズの球を投げてきた。すると、白い煙が発生する。
(け、煙球!? 助けなさいよ、あの馬鹿)
私は白煙に包まれ、誰も助けてくれない。そして授業中は使われていない自習室に投げ込まれた。
「なんだ、あの小僧は?」
用務員は帽子を脱ぎ捨て、マスクも外した。
「陣内さん。どうして学園に?」
この山男みたいな人間は私立探偵の陣内浩介。私がアルバイトで手伝った、いい加減なオヤジだ。
「うほぅ、二年生ともなればなかなかエロティックな体つきだな」
陣内さんは扉の窓から廊下の生徒を見ていた。
「質問に答えてください。それに質問したなら返答を促すなりするでしょう」
「おいおい。汗で下着が透けて見えてるぞ。お前ほどの巨乳はいないが、粒ぞろい乳ぞろいだな。誰でも挟めそうじゃねえか」
「意味が分かりませんよ。なんだって用務員に変装して? 怪しかったし」
「おお、誰も見てないと思ってブラのずれを直してる。いやはや、最近の若いのは大胆だ」
「聞いてください!」
「うるせえな。覗きに来たとでも思ってんのか? 仕事だよ、仕事」
「仕事ですか?」
陣内さんははちゃめちゃな性格だが、不思議と依頼以上の成功をおさめるので有名だ。
「おうよ。それでお前には助手をやってもらう。リッチな依頼人でな。一日三万円、前金で二十万も用意してくれた。お前は一日一万円出してやる。手伝え」
「遠慮します。巻き込まれて嫌な目に合いそうで」
「一万円だぞ? その垂れ乳を収納する下着となると高いんだろ? 悪くないと思うがな」
「垂れてなんかいません!」
だが、確かに一万円は大きい。父親の稼ぎは決して悪くはないが、私は金欠だ。父は必要以上に稼いだ分は発展途上国へ寄付するのだ。
「だめだめ。探偵の仕事で無断侵入するのは犯罪じゃないですか」
「一万円だぜ?」
「ちっ。まあいいさ。俺一人でも問題ない仕事だからな。せっかくのサービスだったのに」
「陣内さんは怪しいんですよ。見た目も頭の中身も」
「しっしっし。仕事を手伝わないなら用はねえ。帰れ、帰れ」
陣内さんは犬を追い払う仕草をみせた。
「人を拉致しといて……」
「うるせえ。本気で襲うぞ。さっさと行け。そしてちゃんと授業を受けろ」
「はいはい。どうもご丁寧に」
私は皮肉っぽく別れの挨拶を告げる。陣内さんのペースにはまってこうも簡単に抜け出せることは少ない。
(それにしても、何の調査だろう?)
陣内探偵事務所が受ける仕事はご多分に漏れず、浮気調査が最も多い。
学園の中にいる既婚者は教職員だけのはずだ。浮ついた人の話は聞いたことがない。
「あの人ならなんか知ってるかも……」
私は保健室のドアを叩いた。
「佐々木先生、お尋ねしたいんですけど……」
保健室の主、佐々木ゆかり。学校の創立当初から勤めている。
年齢は三十を越えても、まだまだ見た目は若い。それでも結婚できないのは世間体を考えない、遠慮がない性格のためだ。
生徒にとってはきれい事じゃない生の意見を言ってくれる貴重な存在だが、教職員にとっては恐ろしいに違いない。
「橘綾香ちゃんね。初めてね」
「私の事を知ってるんですか?」
実は、私は健康体なので保健室に縁がない。従って佐々木先生とも初めて話す。
「当たり前よ。まだ学生のくせに私より胸が大きい女は全部チェックしてるのよ」
「はあ……」
佐々木先生はいい年齢なのに、BかCといったところだろうか。
「私も親の貯金を勝手に使って薬の研究をしてるんだけど、大きくならないのよね。やっぱり巨乳になれば男も引っ掛かるでしょ」
美人でも器用でもないのに、散財する人が結婚できるとは思えない。だが、ここはおだてておいて本題に入った。
「もしかして、先生達の中で浮気してる人いませ……」
「いないわ」
即答だった。
「私は全職員の素行を見張っているの。浮気してる男がいたら奪い取ってやるわ。女なら強請のネタにするだけね」
「はあ……」
二度目の溜息が出た。噂以上にあくどいかもしれない。
その時、私はまだ知らなかった。本当にあくどいのが誰かということを。

放課後、私は香奈ちゃんについて行き、水泳部の練習を見学することにした。
これから校舎で美雪先輩と密会するための暇つぶし。
プールサイドに腰掛け、足を水につけてぱしゃぱしゃしていると。
「あれえ、香奈先輩、その人は新入部員ですかぁ?」
私から見ても小さな女の子が高い声を上げて近づいてきた。競泳用ではなくスクール水着だった。しかも悲しいくらいフィットしている。
「あ……」
女の子の視線が私の突出した一部分に注がれた。もしかすると私の視線を読まれていたのかもしれない。嫌な女と思われたろうか。
「せ、先輩、あの人には水泳は無理ですよ、多分。あんなにおっきなおっぱいだったら、抵抗が凄くて大変ですよ」
女の子の本音は自分が惨めに思えるとかそんなところだろう。水泳部員の胸は粒ぞろいで、彼女だけが平らだった。
香奈ちゃんは部員では大きい方だが、仮に私が入部したとしたら女王として君臨する。
「違うよ。彼女は私の友達。練習を見たいんだって。それより結ちゃん、それじゃ秋の競技会に出れないよ」
香奈ちゃんは水着について言及したのだが、結と呼ばれた女の子は勘違いした。
「ふええぇ!? 胸が大きくないと大会に出れないんですかぁ?」
可愛らしい叫び声を上げた女の子は、これでも色々なバストアップ方を試しているんですよぉ、と首を傾げた。
「違うよ。水着だってば。買ってもらえないの?」
「あ、水着でしたか。パパはあたしにはケチなんですよ。別に貧乏じゃないのに。ケチだからママとも別れちゃって……」
「結ちゃん……」
「それよりも、そこの人、どうやったらそんなボ、ボインになれるんですか?」
女の子は真剣な瞳で私を見つめた。
「別に。勝手に大きくなっただけよ」
「ず、ずるい。世の中不公平だ。わーん」
女の子は泣きながらプールに飛び込んだ。飛沫がブラウスを濡らし、青い下着が張り付いて浮かび上がってしまった。
「あ、ごめんね綾香」
「う、ううん。いいのよ」
そうは言ったものの、これでは外を歩けないし、着替えも当然持ってなかった。
「更衣室に行こう。とりあえず拭いて、着替えもあるかもしれないし」
私は香奈ちゃんに手をひかれ、水泳部の更衣室にやってきた。授業で使う更衣室とは別だ。全国区の部活は優遇されるのだ。
床は新素材のタイルで覆われ、ロッカーは電子ロックである。さらに無料ランドリー、乾燥機が設置されている。
しかも部室や水泳部専用シャワー室は別にある。シャワー室なのになぜか浴槽もあるらしい。
濡れた服を乾燥機に突っ込み、体を拭いていると暖かな感触が乳房に触れた。
「あん」
「ねえ綾香、神楽先輩とはどうなの」
背後に立つ香奈ちゃんの手がブラの中に滑り込んでいた。やわやわと愛撫され、私はぴくぴくと震えてしまった。
「うん……今日これから会うの」
「それなのにボクの練習を見にきたの、どうして?」
「あっあっあっ、学校で……ひゃっ、会う……のぉ。いやあ、やあん」
「付き合ってるんだ。ずるいなあ」
香奈ちゃんは相変わらず私のツボを的確に刺激してくる。体の命令系統は十本の指に奪われ、私は自分でも恥ずかしくなるくらい艶かしい声を上げるしかなかった。
香奈ちゃんは誰も見てないことをいいことに、いつもよりも激しく私を責めた。
乳房がぐにゃぐにゃと歪む。重力に反するように持ち上げられると、ふわふわと体が浮いたように錯覚する。
汗ばんだ乳房が私の抵抗の意思のようにぷるぷる震えた。
埋もれた香奈ちゃんの手は、私も知らなかった快感の核をとらえ、コリッという音が乳房の中だけで反響したように感じた。
「ああああ……」
強すぎる快感が子宮をきゅんきゅん疼かせ、足の感覚を奪おうとしていた。
「や……だめぇ」
最後の抵抗は、小指を咥えて必死に堪えることだけ。尚も加速する指の動きは、荒々しさを増して乳首をとらえた。
「んーー、んーー」
乳首を人差し指でくりくりと回され、乳房を思い切り引っ張られると私の意識は飛びそうになった。
それでも一線を越えなかったのは美雪先輩に申し訳がないと思ったからだ。
数分に渡る胸への愛撫が終わったと同時に、足が砕けてへなへなと全身の力が抜けて座り込んでしまった。
「神楽先輩の事が好きなんだね。じゃあ、特別にここに呼んでもいいよ。このロッカーの中身、自由に使っていいから」
香奈ちゃんはどこか寂しそうに私を見下ろし、カードキーを二枚渡すと更衣室を後にした。
私は携帯電話を開き、愛しい人の番号を呼び出した。

(続く)