利佳子は、ふと目を覚ました。
目を開いてみるとまだ窓の外は暗い。時計に塗られた夜光塗料の針は、3時半を示していた。あたりも物音ひとつせず、家族もみな寝静まっているのは確かだった。
昨夜はいつもより早い時間に寝てしまったから、変な時間に起きてしまったのだと考えることもできたけど、利佳子が目覚めた理由は他にあった。
気がついた途端、猛烈なのどの渇きに襲われていた。
考えてみればきのうは、家に帰ってから部屋にあった自分のミルクを飲み干して以来、一滴のミルクも飲んでいない。その前に明美の胸から大量に飲んでいたせいかそれから今まで特に飲みたいとは思っていなかったけども、最後に飲んでからけっこう時間がたっている。
そして今回の渇きぐあいは、今までにないほど強烈なものだった。
「ミルク…ミルク飲まなきゃ…」
利佳子も今までの経験から、他のものではこの渇きが癒されることがないことはよくわかっていた。今、家の中でこの渇きを癒してくれるのは…あの「特濃牛乳」しかない!
こうなってしまうと利佳子の頭の中からは、飲むとまたおっぱいが大きくなってしまうだとか着る服の心配だとかは吹き飛んでしまう。いや、むしろおっぱいがミルクを飲みたがっているんだ、という気すらしてきた。
利佳子は立ち上がって部屋を出、そーっと台所に向かった。大きな大きな胸が体重の移動を何倍にも増幅して揺れているのだが、今の利佳子にはその重ささえまったく気にかからなくなっていた。
台所に着くと、まっ先に特濃牛乳が置いてある場所に向かった。目が暗闇に慣れているせいか、ミルクに対して鋭敏になっているせいか、まったく迷うことなく歩き進むことができた。
特濃牛乳は、おとといの夜利佳子が20数本持っていった時のまま、まだ何十本も積み上げられていた。
「よかったぁ…。これが残っててくれて」
利佳子はそっとケースから1本、2本、3本…と次々と出してきた。最初は部屋まで持って帰って飲もうと思ってたのだけども、だんだんまどろっこしくなってきて、
「いいや、ここで飲んじゃえ!」
と腰をすえ、まず最初の1本の蓋をあけた。
口をつけると、また吸い込まれていくようにミルクが口の中に消えていく…。またたく間に、まさに一息で1リットルの牛乳を飲み干してしまった。
「だめ…これじゃぜんぜん飲んだ気がしない」
利佳子は空瓶を置く間ももどかしく次の瓶の蓋を開けた。その瓶も次の瞬間には中身がきれいになくなっている…。
「牛乳が…だんだん効かなくなってる!?」
まったく変わらないペースで10本以上の牛乳を次々と空にしていくうちに、利佳子はあせりのようなものを感じ始めた。初めて飲んだ時はあんなにも濃くっておいしく感じた特濃牛乳が、今ではまるで水のようにスイスイ入っていく。まるで、渇ききった砂漠に水をぶちまけたように、飲んでも飲んでも喉の奥にあっという間に吸い込まれていってしまう。
「どうなってるの…」そう思いながらも利佳子は特濃牛乳を飲む手を止めることができなかった。
30本あまり空き瓶を床に並べた頃から、利佳子にもようやくその味をかみしめる余裕が出てきた。
ペースこそ落ちなかったものの、舌に牛乳の甘みが感じられてきて、牛乳が喉に落ちるその感触に快感を覚えてきて、だんだんうっとりとしてきた。
それに、なんだか飲むほどに胸が心地よく張ってきて、その新しい感覚が利佳子をさらに牛乳のとりこにしていった。
「ああ…なんだかおっぱいがじんじんする…きもちいい…」
今やその手は何も考えずとも次々と牛乳に伸ばしていき、飲み干していった。利佳子は至福の時を迎えていた。
「ああ…やっぱりミルクって最高! これさえあれば後なんにもいらないわ」
利佳子は無意識のうちに次の瓶へと手を伸ばす。と――その時、手はむなしく空を切った。
「あれ?」
利佳子は訳がわからないといった風に手の先を見た。すると…目の前には、中に1本も残っていない、空のケースだけが聳え立っていた。
「え! じ、じゃあ…」
あわててまわりを見回すと、そこには数え切れないほどの空瓶の群れが…。
「あんなに残ってたの…全部飲んじゃったの!?」
利佳子は一瞬のうちに我に返った。さすがに喉の渇きは落ち着いてはいたけども、正直なんだかまだ物足りなさが残っていた。
利佳子は空き瓶の数に自分で驚いていた。残っていた特濃牛乳ぜんぶだから80リットルぐらいはあったはず。おっぱいがふくらみ始めてから、いくらたくさんのミルクを飲むようになったからって、2〜3日前だったらとてもじゃないけどこんなにたくさんの牛乳は飲みきれなかったろう。それを、いともあっさり飲み干してしまった上、物足りなささえ覚えている…。
進行している…。何が?といわれてもはっきりしないけど、利佳子の身体に今起こっている変化が急激にエスカレートしていることだけは確かだった。
呆然と立ちつくす利佳子の耳に、どこからともかく一番鶏の声が聞こえてきた。ハッとして窓の外を見やると、徐々に白み始めている。
いっけない、夜が明けちゃう。利佳子はとにかくこの場は片付けないと、とあたりに転がっている無数の空き瓶をケースに戻し始めた。1リットル瓶ともなると空瓶でもそれなりの重さがあるし、数が数だけに多少時間がかかったけども、なんとか夜が明ける前には戻し終わった。
ホッとした利佳子に、また急激な睡魔が襲ってきた。とりあえずミルクに満足したら、変な時間に起きていたことを体が思い出したらしい。
「あ…まだだめ…。またミルクしぼらないと…服が…」
しかし利佳子にはその気力は残されていなかった。最後の力を振り絞り、さらに巨大になった胸を盛大にゆらしながら自分の部屋に戻るのが精一杯だった。
精根尽き果てて、自分のベッドにどさりと落ちると、そのまま眠りへと落ちていった。
(ま、いっか…)
「お姉、遅刻するよ!」
ドアの向こうから妹の由香の声が利佳子の耳元で響いた。いっけない、あれから二度寝しちゃったんだ。土曜日とはいえ今日は昼まで学校がある日だったっけ。きのうは結局午後の授業さぼっちゃったし、今日は行かないと…問題になっちゃう。
あわてて起き上がろうとして、昨夜眠る時よりも一層重量感を増した胸の感触で思い出した。そっかー。今朝がた特濃牛乳ぜんぶ飲み干しちゃったんだっけ…。あれだけあったのにたった2日で全部空になっちゃって、お父さんびっくりしてるだろうな。
それにしても牛乳80リットルって、どう考えても80キロ以上あるよね。じゃあこの胸も寝る時より80キロも重くなってるんじゃ…。うへーっ、立ち上がれないよーっ!。
しかし利佳子は胸の重さにちょっとふらつきながらも立ち上がれた。あれれ…。こうして改めて胸を見ると、たしかに昨晩より一段と大きさと重さを増し、なお一層の充実感をみなぎらせていたけども、牛乳80キロ分がそのまま加わったようには見えない。
やっぱり不思議だ。おそらく今、おっぱいの中には何100リットルのミルクが詰まっているはずなのに…もし本当にそうなら、もっともっと大きくなってるはずだし、とてもじゃないけど動くこともままならないだろう。なのにどうして…?。
「お姉、起きたぁ?」ドア越しにまた由香の声がする。
「うん、起きたよぉ。着替えるから待って」
(ま、いいや、動けるんだし)
利佳子の根が楽天的な性格はこんな時便利だ。変にいじいじ考えずに棚あげして行動に移った。
(とにかく服をどうにかしよう)
と、きのう家庭科室から無断借用した白布を取り出した。広げてみると大丈夫かな?という心配が広がってきた。きのうはなんとかなるとは思ったけど、改めてみるとけっこう痛んでいるし、それに…今朝のあれのせいでおっぱいはまた大きくなっちゃってる。
「布、たりるかなぁ」
とにかく布を胸に巻いてみよう…とした。しかし、一層大きさを増したおっぱいに巻きつけるにはその布でもなんとかギリギリで、一人ではなかなかとめられなかった。
(ここをこう押さえて、こっちを結べば…ああ、だめだぁ。どうしてもここにもう一本手がいるよぉ)
もたもたしている間に、ドアの向こうでとうとう待ちきれなくなったらしく、由香が部屋に飛び込んできた。
「うゎっ、ま、待って…」
「もぉう、本当に遅刻するよ、お姉…」台風のような由香の動きは、利佳子の胸が目に入った途端、一瞬にして動きを止めた。その目は、最初は驚きに、そして次第に喜びに満ちあふれ始めた。
「す…すっごおい。お姉のおっぱい、きのうよりずぅぅっとおっきくなってる!」
「あ、由香、ちょ、ちょっと待って…」
利佳子が止めるのも聞かず、由香は利佳子のおっぱいに手を伸ばしてさわり始めた。
「うゎっ、すごぉい、ぷにぷにしてやあらかーい」
「あ…由香…やめ…ちょっ…ダメ…」
たいしてもまれた訳でもないのに、今またミルクで満パイ状態になっている利佳子のおっぱいは、そのちょっとの刺激で気が遠くなるほど感じてしまうようになっていた。
「うわぁ、うわぁ」由香はその感触に我を忘れて利佳子のおっぱいをさわりまくっている。(ああ、だめ…出ちゃう…)利佳子のおっぱいにぎっしり詰まった大量のミルクは、由香の手の動きに合わせておっぱいの中を右に左に暴れまわっている。それにつれて強烈な快感も湧き出していて、おっぱいの中にどんどんたまっていき、早くももう臨界点に達しようとしていた。もし今乳首をちょっとでもさわられたら、間髪入れずミルクが大量に噴き出してしまうに違いない。
(いけない。今ここでそんなことになったら、部屋中がミルクまみれになっちゃう…)
「由香!」
快感にとらわれそうな気持ちを大変な努力でなんとか引き戻し、利佳子は鋭い声を出した。由香もその口調に我に返り、手を止めた。
「ごめん、お姉。あんまり気持ちよかったから…」由香がばつが悪そうに謝ると、利佳子もなんか申し訳なくなってきた。(私の方がずっと気持ちよかったのに…) でも――そんな事に構っているには時間があまりに少なすぎた。
「ねえ、由香、ちょっと手伝ってくれる? 布のここら辺、ちょっと押さえておいてほしいの。あ、それからこっちの方も…」
それから30分後、なんとか利佳子は学校に行く準備を完了した。由香に手伝ってもらい、やっとの思いで胸に例の布を巻きつけることに成功したのだ。布の大きさは本当にもうギリギリで、結び目はその端っこにちょこんと小さなものができているだけだった。ほどけるのが不安で堅く堅く結んだから、おそらく次に一回取ったら二度とおんなじ様に結ぶ自信はなかった。
「とにかく今日一日、帰るまで絶対この布を取らないこと。それから牛乳を一滴たりとも飲まないこと。もうこれしかないなぁ」
後半の言葉に自分でもちょっと自信を持てなかったけども…今日は半ドンで給食もないし、なんとかなるよね! 家を出る時そう決意を固めてきたのだ。
もちろん上半身その布だけという訳にはいかない。かといって制服を着ることは完全にあきらめていた。ブラウスもジャケットも、腕は通せてもそれから先ボタンを締めるなんてとんでもないことだった。
どうしよう…と思った時、ふと思い出したものがあった。大相撲好きなお父さんが、以前両国で「KONISHIKIでも着れるセーター」なんてものを衝動買いしたことがあったのだ。お母さん「なんでこんな役に立たないものを…」ってぶつぶつ文句言ってたけど、KONISHIKIが着れるのなら、今の私でも大丈夫かもしれない…って、なんか女の子として悲しいものがあるなぁ。
まあとにかく、当然のごとく一度も着られることなくたんすの肥やしになっていたそのセーターを引っ張り出してきた。今までだったらその大きさだけで圧倒されそうなのに、今はそれでも「着れるかな?」と不安がつきまとう。ブラウスは袖を通すだけにして、その上に頭からかぶってみた。
胸の辺りで思いっきりつっかえたけどもなんとか下のほうにたぐり下ろしていって…やった! 着れた。けど鏡に全身を写して見るとそれでも胸の辺りは伸びてパンパンになっている。逆にお腹のあたりは(当然だけど)余ってだぶだぶで、すっごーくデブに見える。
「やだなぁ…」
せめてもの抵抗にと、お腹の辺の布をたぐり寄せてベルトの内側にしまい込んだ。すると今度はバストとウエストの格差がぐんと強調されて、すごいことになった。
「フフフ、私って、グラマー?」
「行ってきまーす」
利佳子は上機嫌だった。確かにいろいろ不安なことはあるけども、ついこの前までまっ平らな胸で悩んでいたのが、今や見たこともないような爆乳――いや、超爆乳の持ち主になれたのだ。
「文句なんか言っちゃ、バチあたるよね」
利佳子のおっぱいは今や身体からとてつもなく大きく前に突出し、釣鐘型、というよりまるで砲弾のように突き出していた。それが歩くたびに身体のわずかな動きを増幅し、ぶるん、ぶるんと揺れまくっているのだ。歩くのにちょっとコツがいるけども、つかんでしまえばなんとでもなった。
通学路も、きのう帰る時とは違って通勤・通学の人と何人もすれ違う。そして誰ひとりとして利佳子の胸を見て目を留めない人はいない。ちょっと恥ずかしくもあるけども、悪い気はしない。ただ…やっぱり歩くスピードは今までに比べて格段に遅くなっていた。
(ち…遅刻しそうなのに…)
そして、やはりその重量は、利佳子の華奢な身体に少しづつダメージを与えていた。家を出た時はあんなに元気いっぱいだったのに、胸の重さは次第に肩に、背中に、そして腰にまでひびいてきて、学校に着く頃にはそれだけでもうくたくたになってしまった。
(ううう…やっぱり重いよう。今まで肩なんてこったためしなかったのに…これが肩こりってやつなのね。15の身空でこんなの知りたくなかったよー)
途中どこかで一休みしたかったけど、既に遅刻ギリギリまで始業ベルがせまってきていてそんな時間はない。やっとのことで教室にたどりつき、戸を開けようと手を伸ばすと…手よりはるか先に胸が戸にぶつかってしまった。
「あうん」ただそれだけのことでも胸いっぱいに快感が走る。利佳子はあわててあたりを見回し、誰にも声が聞かれてないことを確認してほっとした。(もう、こんなところでミルク噴き出したら大変。がまんがまん)
ひとしきり深呼吸をして気を落ちつかせると、今度は身体を横にして、片手一本で戸を開く。めいっぱい開いても、まるまると大きく突き出したおっぱいが通るにはぎりぎりだった。
「おはよう」
お腹に力を込めて、わざと大きめの声であいさつした。もう教室に来ていた何人かがこちらを振り向く。振り向いて、利佳子の胸が目に入った途端、一人残らず目が1.5倍ぐらい見開かれてそのまま動かなくなってしまった。
「あ、利佳ちゃん、おは…」やはり振り向いて挨拶しかけた智子も例外ではなかった。無理もない。きのうもとてつもない爆乳だったが、たった1日できのうよりも倍どころでなく大きくなっているのだから。智子の口があわあわと何度か声にならない動きをした後、ようやく挨拶の続きが出た。「――よう…」
利佳子はやっとこさという感じで自分の席まで着くと、崩れ落ちるように椅子に座った。その拍子に巨大な胸が机の上にどさっと乗っかる。途端に机全体がいやな感じできしんだ。まさかこのまま壊れちゃうのでは、と一瞬不安になったけども、とりあえずそれは大丈夫そうだ。
それにしても…教室の小さな机では、利佳子の大きく突き出した胸は完全にかぶさってしまい、さらに前からはみだしてしまっていた。これじゃあ机としての機能をまったくはたせない。
しかし利佳子は今そこまで頭がまわらない。やっと座れてほっとした気持ちを味わっていた。
(しかし、登校するだけでこんなに疲れちゃうのは問題だよ…。こんなんで授業うけられんのかな…)
一方智子の方は利佳子の胸に興味津々だった。
「ね、ね、利佳ちゃん、どうしたの。きのうの明美もすごかったけど…、明美の倍ぐらいあるんじゃない? いったい何センチあるの?」
そう聞かれて、利佳子は今朝バストを測り忘れていたことに気がついた。最近ほとんど日課となっていたのに…。えーと、最後に測ったのはきのう明美が来るちょっと前で、あの時は324センチだったっけ。けどあの後明美におっぱい吸われてちょっと小さくなって、そして今朝方特濃牛乳80本飲み干して…。
「うーん、ごめん、ちょっと測ってない」利佳子は結局そう答えた。
「えーっ、知らないのぉ。うーん、じゃあ測ってみたいなぁ」
「やめてよ、こんなところで」
「うん、まあそうなんだけどね。うーん、やっぱり測ってみたいなぁ」
智子はどこか未練げだった。
まもなく先生が来て、1時間目が始まった。まず出席をとりはじめたが…明美の姿はまたもやなかった。
利佳子は机の上のスペースすべてを自分の胸に占領されてしまったため、教科書もノートも出せずただ黒板を見つめているだけだったが、先生は何にも言わなかった。いや、しきりにちらりちらりと利佳子の胸の辺りに目を配っているのが傍目にもわかったのだが、不思議に何も言わな――いや、言えなかった。そう、彼はきのう明美が登場した際に、いきなり授業を自習にしてしまった、あの教師だったのだ。
利佳子は、先生の視線が最初は気になっていたけども、だんだん、そのなんとか自然に見えるように目を利佳子の胸に向けようと必死になっている様がおかしくなってきた。
「ふふ、先生、また私の胸見てる…。なんかカワイイ」
結局明美は姿を見せないまま1時間目は終わり、短い休み時間になった。
すると、智子が早足で、しかしなぜか重々しそうな態度を演じながら利佳子の元に歩いてきた。
「ところで話は変わるけど利佳子くん、君は昨夜10時から11時の間、どこにいたかね?」
智子は利佳子の机の前に仁王立ちすると、わざとらしく角ばった口調でこんな事を言い出した。
「どうしたの智ちゃん突然…。まるで刑事ドラマみたいな口きいて」
「いいから答えたまえ。隠し立てするとためにならないぞ」
言葉だけだといかめしいが、智子の口調はおちゃらけていて、容疑者を問い詰める迫力にははなはだしく欠けていた。
「きのうの夜って…。きのうはなんか疲れちゃったから早めに寝ちゃったよ。その時間なら、もう布団に入ってた」
「デタラメを言うんでねいっ! ネタはあがってんだいっ!」
「智ちゃんそれじゃ江戸っ子のべらんめえよ。本当にどうしたのよ。きのうなんかあったの?」
きょとんとする利佳子に、智子はなおも探るように利佳子の顔を見つめていたが、やがてあきためたようにこう言った。
「うーん、じゃあ利佳ちゃんじゃなかったんかなぁ。牛乳買い占め犯は」
「牛乳買い占め犯? 何それ?」
「利佳ちゃん聞いてない? 今朝からあちこちで噂になってるんだけども。ほら、駅前にマルハチスーパーってあるじゃない? 」
「ああ、あの夜11時まで開いてるってのをウリにしてる大きな店ね」
「あそこに夜10時すぎに一人の女の子がやってきて、棚にある1リットルパックの牛乳をありったけ全部買っていったっていうの」
「全部…」利佳子はその様子を想像すると、無意識のうちにのどが鳴ってしまった。その音に自分でびっくりして、あわてて何かしゃべろうとした。
「けど、買ったってことは、お金払ったんでしょ」
「うん、それは払ったみたい」
「じゃあ犯人じゃないじゃない」
「まぜっかえさないでよ。だって考えてみてよ。他のものには目もくれず、棚にある牛乳全部よ。とてもじゃないけど10本や20本じゃ利かないわよ。少なく見積もっても100本や200本、いやあそこは大きいからもっとあったかもしれない」
利佳子の頭の中には、それが誰だかもうありありと浮かんでいた。
「しかもその子、自分で全部買い占めておいて、閉店まぎわにまた来たんだって。そして『牛乳、もうないんですか?』って店員にしつこいぐらい訊いてまわったって」
「――――」
「しかも話はそれで終わりじゃなくって、その後もあちこちのコンビニに現れて、やはり牛乳をあるだけ買ってまわったとか…。おかげで、今日は町内の店という店で牛乳が思いっきり品薄になって大騒ぎだって、角のパン屋のおばちゃんがぼやいてたわよ」
(明美ぃ…。やることが派手すぎるよぉ。いくらなんでも町中の牛乳買い占めることないじゃないのよぉ…)
「あと未確認情報だけど、なんでもその女の子が現れたのはきのうが初めてじゃないんだって。おとといの夜にもやっぱり大量の牛乳を買っていった女の子がいたって話だけども、けど本数的にはきのうとは比べ物にならないとか」
(明美ぃ…。あんたいったいどうしちゃったの? わたしだって一度にそんなたくさん飲めないよ、きっと…)
「で…話は最初に戻るんだけど、目撃者の証言をまとめると、その女の子の特徴として……とにかく『胸がとてつもなく大きい』ということで一致してるんだよね。さて利佳子くん、ここまできても白を切りとおすつもりかね?」
「そ、そんなぁ。知らないよぉ。本当に…」利佳子は必死で抵抗した。
「そっかぁ…。じゃあやっぱり」智子はちょっと目線を横に向け、けれん味たっぷりに付け加えた。「明美かな…なんてね。ハハ。ごめんなさい。ワルノリして。変な噂を耳にしたら、なんか利佳ちゃんたちのことを思い出して、ついつい暴走しちゃった」
「もう…。朝っぱらから変なこと言わないでよ」利佳子はなんとか平静を装っていたが、内心のドギマギを隠そうと必死だった。
「でもさ、最近牛乳にまつわる変なことが多いよね。ほら、3日ぐらい前だっけ、学校の給食室からパック牛乳が100個以上忽然と消えうせたって事件があったじゃない」
(あ、それ、私…)利佳子は不意を突かれて顔からサッと血の気が引くのを覚えた。智子はそれに気づかずにしゃべり続ける。
「あれもうわさではさ、持ち去られた訳じゃなくって、その場で全部口を開けられて飲み干したとしか思えない形跡が残されていたとか。こうなるともう都市伝説よね。だって紙パックとはいえ100個よ、100個。人間ひとりふたりで一度に飲み干せる量じゃないっての。――ん? 利佳子、どうしたの?」 智子は利佳子の顔がすっかり青ざめているのに今さらながら気がついた。「うん…大したことない。ちょっと気分が悪くって」
「大丈夫?保健室行く?」
ちょうどその時、2時間目の開始を告げるベルが鳴った。
「ううん。もう授業始まるし、大丈夫だと思う」
2時間目の授業が始まったが、利佳子には先ほどのような余裕はなくなっていた。目こそは黒板を向いているものの気持ちは別の方に向いていた。そしてちろちろと暇さえあれば教室のドアを覗き見ていた。いつドアが開いて明美が現れるか、そればかり気になっていたのだ。
「明美、どうしちゃったんだろう。そんなにたくさん牛乳飲んじゃって、どれぐらい胸が大きくなったの? まさかまた私より大きいんじゃ…」
自分より胸が大きい明美の姿を想像して、利佳子は言いようのない不安にかられた。しかしふときのう明美のおっぱいからミルクを飲み干した時の事を思い出して、人知れずゴクリとつばを飲み込んでいた。
「ああ、また明美ちゃんのミルクが飲みたい…」
その時、利佳子のおっぱいの先をチクリとむず痒いような感覚が襲った。それをきっかけにするかのように、またじわりとのどの渇きを覚えはじめていた――。
続く