episode 1 16歳の誕生日
「ホッ、ホッ、ホッ」
まだ夜の開けきらない春の朝、公園の側道を走りぬいていく人影があった。
早い時間なのでまだ他には誰もいない。規則正しいその呼吸に乱れはなく、早朝ジョギングをしているに違いなかった。
走っているのはまだ若い、少女といっていい女の子だった。その子は赤い鉢巻をして、肩まで伸びたその髪が動きにあわせてサラサラと左右に揺れていた。いやしかし、髪以上に体にあわせてダイナミックに揺れ動いているものがあった。
それは胸の膨らみだった。まだ少女と言っていい年齢の、それに見合ったほっそりとした体つきにも関わらず、胸だけはとてつもない大きさに達していた。その胸は、上半身に着込んだ薄いピンク色のタンクトップを今にも弾き飛ばさんばかりにブルンブルンと跳ね回っている。しかし少女はどんなに胸が弾もうがまるで意に介してないかのように、背筋をしっかり伸ばして体の軸をぶらすことなく、力強く足を踏み出し続けていた。
「フウッ」
毎朝の日課となってるジョギングを追え、家に帰り着いた少女は靴を脱ぐなり風呂場に駆け込んだ。
「やっぱり4月になるとあったかくなってきたなぁ。汗かいちゃったよ」
誰に言うでもなくつぶやくと、少女は着ていたタンクトップを一気に脱ぎ捨てた。
ぷるん。
伸びきったタンクトップの下から、今までかろうじて隠されていた巨大な膨らみが顔を出した。といってもまさかノーブラで走っていた訳ではない。その下から現れたのはタンクトップとおそろいのピンク色の、これまたとてつもなく巨大なスポーツブラだった。
そのブラはかなり伸縮する素材で作られているにも関わらず、一目見ただけでも中からの圧力で限界まで伸びきっているのは明らかだった。あともうちょっと動いたらどこかがほころび、そこをきっかけに大破裂さえ起きそうな危うさすら感じられた。
「もう、日に日にきつくなるなぁ、このブラ」
そう言いながら、少女は両手を交差させて、ブラを一気に引き抜こうと試みた。しかしストラップは伸びきってピンと張りつめており、なかなか動きそうにない。けれども少女は慣れた感じで、少してこずったもののまもなく無事、ブラををはずすことに成功した。
ぶぉん!
張力を失った途端、スポーツブラは一気に胸からはじけ飛ばんばかりの勢いで放り出された。ストラップをしっかり手に持ってなかったらおそらく何メートルか先まで飛ばされてたのではないだろうか。そして中から――それまで押し込まれ続けていた超特大のバストが、戒めを解かれてうれしそうに――その揺れ具合はまるで笑っているようだった――出現した。
支えを失ったにも関わらず、その胸はむしろ解き放たれて重力に反発するかのごとくつんと先が上向き、力強く前方にせり出してきた。体は細身にも関わらず、胸だけは中身がたっぷり詰め込まれたように満々と張りきっている。
少女は上半身裸の状態で、自分の体を洗面台の姿見に写し出して観察した。
「ぜったいまた大きくなってるな」
少女は自分の腕を伸ばして胸を抱え込んだ。もうかなり手を伸ばさないと自分の胸の先にまで届かないほどに成長していた。ふにふにとしたやわらかさが手に伝わってくる。しかしちょっと押してみるとすぐ内側から押し返してくる力を感じるほどの弾力があった。
「よしっ。今日もおっぱいはますます快調。よーく育ってくれてますね」
少女は魅力的な笑顔を浮かべた。
さて、下にはいたホットパンツも脱いで、シャワーを浴びに浴室に向かおうとした時、ふと鏡に写った顔を見て気がついた。まだ鉢巻をしめたままだったのだ。
「いっけない」
頭に手を回して鉢巻をほどく。ただそれだけの動きに合わせて、少女の胸はふるふると大きなゼリーのように揺れ動いた。
少女の名前は堀江久美子。年齢は16歳――正確には、今日で16歳になる。そう、今日4月1日は彼女の誕生日だった。こんな究極の早生まれを誕生日に持つために、16になった今日、同時に高校2年生になった。
黒目がちのつぶらな瞳、すっきりとした鼻すじ、小さめで形のいい唇、きめの細かい白い肌――どれをとっても文句のつけようもなくバランスよく配置され、その愛らしい顔立ちは、道行く人が誰もが振り返らずにはいられないほどの魅力を持っていた。それはちょっとそこらのアイドル顔負けといって言いほどの強烈なものだったが、一方でどこかにあどけなさが残っており、まだ美女というより美少女といった方がぴったりくる風だった。
体つきも全体的にほっそりとしていて、ウエストなど折れそうなほど細い。腰の辺りもようやく女性らしい肉がつき始めたところといった感じだが、一方で胸だけは、既にとてつもなく巨大に発育していた。しかもその胸は現在も着実に大きく成長し続けており、いったいどこまで大きくなるのか本人にも見当がつかなかった。
蛇口をひねると、シャワーから勢いよく水が噴き出す。「キャッ」冷水が少女の体にはじいた。しかし走った直後のほてった体にはそれが心地いい。
冷水をまんべんなく身体にあびせてひとしきり汗を流すと、徐々に温水に変えて、今度はシャンプーを取り出して手早く髪を洗った。すすぎ終わってシャワーを止めると、若々しい素肌から水が次々と弾き飛ばされていき、ものの1分もしないうちにほとんどの水気は肌からすべり落ちていった。わずかに体に残った水分を払おうとぶるんと軽く体を振る。身体中から水滴がはじき飛んだが、最も大きく跳んだのが、遠心力でとほうもなく揺れた巨大な胸であることは言うまでもない。
バスタオルで髪を拭けば、それで水切りは完了だった。そのまま一糸まとわぬ姿で自分の部屋まで戻り、クローゼットをあけた。まずショーツを穿くと、中の白いものに目を遣りながらつぶやいた。
「さて、次の難題はこれだ」
そう言いながら手に取ったのは――これまたとてつもなく巨大な純白のブラジャーだった。
先ほどのスポーツブラと違い、頑丈な縫製でがっしりと作られたフルカップのものだったが…これまたなんととんでもなく大きなブラジャーだったろう。少女の小さな頭ぐらい、片方のカップに3つや4つ余裕ですっぽり入ってしまいそうだった。しかし日に日に膨らみ続ける少女の胸には、それでももう数日前から収めるのに毎日一苦労するようになっていた。
「うーん、きのうももう限界ってぐらいにきつかったしなぁ…。お願い、今日1日だけははもって!!」
祈るようにそのブラジャーを両手に持つと、そのまま前かがみになった。この姿勢だと乳房の重みが胴体にまともにかかるのであまり長時間はできないのだが、そのような姿勢になってもなお、少女の乳房はさらに重力に逆らうかのごとくツンと上を向こうとする。少女は手早くブラジャーのカップに2つのふくらみを収めようとあてがった。
「あ…やっぱりきつい…」
思わず心の中でつぶやく。
アンダーをきっちりと固定し、そのバストのすべてをカップの中に納めようとするのだが…つけようとするとあちこちから胸の肉がカップからあふれ出そうになってしまう。
「きのうはこんなにひどくはなかったな…」
やっぱり1日でそれだけ成長したのだろうか。しかし今、彼女の胸をかろうじてでも納めるブラジャーはこれしかない。先ほどのスポーツブラは脱ぐと同時に洗濯機に放り込んじゃったし…。さすがにノーブラだと収まりが悪くて、家にいる時たまにしかやれなかった。
「今日はあれがあるしな…」
とにかくやるっきゃない。そう決意を固めると、とにかくカップからあふれ出そうとする胸を無理矢理でもなんでもいいからすべて押し込み、その状態で両脇にストラップを挟みこんでかろうじて固定した。この状態で…背中のホックを止めれば完成なんだけどな…。でも脇を固めたまま背中に手を回すのは至難の業だった。それに、この堅固なまでに頑丈なブラジャーには、なんとホックが1ダースも縦に並んでいるのだ。できればこのまま誰かにホックをとめてほしい…。けど、家にいるのはお父さんだけだった。親とはいえ、男性にこんな姿は見られたくないし…。結局何度も振り出しに戻りながら、時間をかけてなんとかブラのホックをひとりで全部止めてみせた。
朝から大仕事を終えたように一息ついてふと時計を見ると、久美子は思わず声を上げた。
「あ、もうこんな時間!? 大変、朝ごはん作んなきゃ」
午前中のうちに、久美子は制服に着替えて学校に行った。
もちろん今は春休み中である。授業はない。なのになぜわざわざ制服を着込み、学校に行くのか…。
彼女は学校に着くと、まっすぐ保健室に向かった。ドアを開けると、そこにはもう保健の細川先生が待っていた。
細川先生はまだ20代の若い女の先生だ。去年この高校に入学して以来、久美子は急速に成長し続けるそのバストについて、細川先生になにかと相談をしていた。そうするうちに――毎月1日には、学校のあるなしに関わらず保健室で独自に身体測定を行うことになっているのだ。
「それじゃあ、服を脱いで」
毎月保健室に来て真っ先に行うこと――それが、スリーサイズを測ることだった。この高校では毎年学年の始めにしか行わないが、久美子のように急速に成長している場合、もっとこまめにデータを取る必要がある、と細川先生が主張しているのだ。そして久美子自身、自分の成長データが気になっていたから渡りに船だった。
締め切った保健室の中、久美子はまず上着を脱ぐと、ブラウスのボタンをはずし始める。バストに押し上げられて、ブラウスはとてつもなく盛り上がって山のようになっていた。第1ボタンはよくても第2ボタン、第3ボタンと進むにしたがって手をどんどん伸ばさなくてはいけなくなる。胸の頂点にあるボタンは、もう既に思いっきり手を伸ばさなければとどかない。このままでは…もうちょっとしたら、どんなに手を伸ばしても自分でボタンを止められない日が来るんだろうなぁ――久美子はちょっとため息をつきたくなった。
すべてのボタンをはずし終わってブラウスを脱ぐと、その下からは、今朝方苦労してとめた巨大なブラジャーが現れる。なんだか息が苦しい。ちょっと深く呼吸しただけで胸がブラに締め付けられて、ブラ自身からもどこかがキリキリと悲鳴をあげているような音がする。
やっとはずせる。久美子はホックをはずそうと背中に手を伸ばした。12個あるホックを上から順にパチリ、パチリとはずしていく。1個はずすたびに少しづつブラがゆるんできてだんだん呼吸が楽になっていった。
しかし――どうしたのか、途中で何かにひっかかったようになってどうしてもはずれないホックがあった。はめる時にも一番苦労したやつだ。どうしたんだろう、とあせってやろうとすると、余計にこんがらがってしまった。
「先生…すいません。ホックがはずれないんですけど――」
ちょっと恥ずかしいけど先生に助け舟を求める。
先生は不思議そうに久美子の後ろにまわってブラジャーを確かめる。
「あら――このホック、完全にゆがんじゃってるじゃない。つけるとき無理しなかった?」
「すいません。今朝、どうしても止まらなかったもので…」
でもきついブラのほうが悪いんです、と多少の不満も込めた口調で久美子は言った。
「ま、いいわ。とにかくなんとかしましょう。ちょっと痛いかもしれないけど我慢してね」
先生は後ろで、どうやら無理矢理ブラを引っ張ってなんとかホックをはずそうとしているみたいだった。その度に一層胸がつぶれんばかりに締めつけられる。
「先せ〜い、おっぱいがつぶれちゃうよー」
「もうちょっとだからね、もう一度だけ。ちょっと息を吐いて止めててね」
久美子は息を止めた。きりきりと痛いぐらいに胸が締めつけられる。
「うっ…。はいとれたわ」
そこを抜ければ後は楽だった。最後のホックがはずれた時、久美子は心底ほっとした。
そして肩にかかるストラップを落とし、やっとの思いでブラジャーをはずす。ブラジャーを今一度確かめてみると――問題のホックは強い圧力がかかったように完全にばかになっていた。苦笑しながら、久美子は生き返ったようにほっと息をついた。
ふと視線を感じて顔を上げると、細川先生が素肌をさらした久美子の胸をじっと食い入るように見つめていることに気がついた。
「な、なんですか?」
久美子はなんだか恥ずかしくなって腕で胸を隠そうとした。もっとも久美子の細腕で隠そうったってほとんど無理な話だったけども。
「あ、ごめんね。でも――毎月この日が来る度に関心しちゃうのよ。よくぞこんなに大きくなってるなぁって…」
「もう、何を今さら…」久美子はそれよりも言いたかった。「それよりもブラですよブラ。こんなきついのもう着けてられない。今日新しいのできてなかったら、どうするんです?」
「ちょっと待ってよ。それよりもまず、サイズを測りましょ」
細川先生はメジャーを手に持って近寄ってきた。久美子はさらにスカートを脱ぎショーツ1枚の格好になる。部屋の中はそれでも暖房の必要がないほど暖かかった。
「じゃあ下からいくわね」と先生は久美子の腰にメジャーを巻く。きっちりと巻き終わると、合わさった所の数字を読み上げた。
「87センチ」
久美子専用の記録シートに数値を書き込むと、先生は静かに言った。
「バストに隠れて目立たないけど、ヒップもずいぶん大きくなってきたわね。一見小ぶりに見えるけど、プリッと上がってて、見た目以上にサイズがあるわ」
久美子はそう言われてちょっと恥ずかしくなった。でもほめられているんだろう。
「でも、相変わらずウエストは細いわねぇ。次はここいきましょう」
久美子の腰から上にいくと見事なまでに細くくびれている。その一番締まった所にメジャーをまわした。
「51センチ」
おみごと、と思わず口の中でつぶやいた。急速に女らしい肉付きになってきている彼女の体の中で、唯一ここだけはこの1年、1ミリたりとも増えも減りもしていなかった。
そして次は――いよいよバストを測る番が来た。久美子は何にも言わなくとも両腕を上げた。
細川先生はわきの下にメジャーを通す。この大きさだ。普通なら本人に胸を持ち上げてもらうのだろうが、彼女の場合、その大きさにもかかわらず支えがなくてもトップバストは常に理想的な位置に来ていて、手で支える必要がなかった。
まず前にでて乳首のすぐ下にメジャーを当てる。(相変わらずきれいな色ね)メジャーに手を添えながら、その小さな乳頭を見てこんな事を思った。乳房本体がこれだけの大きさに達しているにも関わらず、そこだけは年齢相応、いやそれ以上に未成熟に見えた。
(ひょっとして、これだけの大きさになっても、彼女にしてみればまだまだ膨らみはじめたばっかり、ってことじゃないのかしら…)ふとそんな考えが浮かんでちょっと空恐ろしくなった。いったいこの胸はどこまで大きくなるのだろう…。
「先生、どうしました?」
久美子が不思議そうにかけた声にハッとした。考えにとらわれて手が止まってしまったらしい。
「いいえ、なんでもないの」あわててとりつくろい、そのまま何事もないように背中に回り、メジャーがずれないように注意しながら両腕を合わせた。
メジャーを通しても、久美子が呼吸するたびにサイズが大きく増減するのが手に伝わってくる。
「それじゃ、ちょっと息吐いて…。止めて!」
その瞬間、メジャーが合わさった部分の数字を素早く読み上げた。
「198センチ…」
「初めてあなたのサイズを測ってから、今日でちょうど1年になるのねぇ」
ひととおり診察を終えた後、雑談になった。再び服をまとった久美子に向かって細川先生がしみじみと語りかける。
「もちろん入学式前で、普通なら身体測定は式後のオリエンテーションの中でやるんだけども…。なんか知らないけども特別に1人だけ先にやってくれないか、って言われたのよ。どうしてなんだか不思議だったけど、とにかく去年のこの日、学校に来て同じように保健室で待ってたの。そうして現れたのがあなただった」
「はい」
「びっくりしたわよ。一目見た時、絶対胸にバレーボールか何か入れてるんだと思ったもの。思わず『いたずらはやめなさい』って言っちゃって…。
脱いでみたらまたびっくり。ぜんぶ本物なんだもん。で、なんで一人先にやることになったのか一目で理解したわ。あなたみたいな女の子が、全校一斉の身体測定なんかに参加したら――学校中パニックが起きるって…」
「え?――まさかぁ…?」
「いーえ、なるわよ。だってあなた、胸だけじゃなくって、全身すごく魅力的だもん。同性としてくやしくなるぐらい」
「え…あ、ありがとうございます」
なんか分不相応なほめ言葉のような気がして、久美子はとまどいの色を隠せなかった。
「本気で言ってるわよ。しかも聞いたらその日が15歳の誕生日だっていうじゃない。これからまだまだ大きくなるかもってあわてたわ。それにしても――。ねえ、1年前、あなたのバストが何センチだったか憶えてる?」
「ええ…。128センチでした」
「そう。そして今日、16歳になったあなたのバストが198センチ。この1年の間にさらに70センチも大きくなったのよね。しかもその間ウエストもアンダーバストも1ミリたりとも変わってなくて。バストだけがこのひと月間だけでも8センチも増えている…」
「――――」
「実は、悪いんだけどあなたの中学の頃の資料も取り寄せて見させてもらったわ。そしたらびっくりしたわ。だって中3の1学期の身体測定のとき、バストが72センチしかないんだもの」
「ええ…。実はその頃までは本当に胸なくって、真剣に悩んでたんです。どうしたら大きくなるんだろうって…」
「それが2学期始めの測定ではいきなり91センチになって、3学期には早くも113センチ。いかに急激に大きくなり始めたか分かるわ。周りの人も驚いたでしょうね」
「ええ。ずーっと悩んでた分うれしかったですよ。あっという間にみんな追い越しちゃって…。内心ちょっと爽快でした。ハハ」
「ねえ、どんな方法使ったの?」
「えーっ、知りませんよぉ。ほんと、ある日気がついたらふくらみ始めていたんですよ。以来、今だとどまる所を知らず…」
「おそらくこれからもね――」
「それより、先生。早くTに行きましょう」
「あ、そうね」
「だってあのブラ、きつくてもうやなんだもん」
久美子は先生の車に同乗させてもらって一緒に街へ向かった。Tというのは――行き着けになっている、大きいサイズ専門のブラジャー専門店だった。本店はアメリカにあるというこのショップ、東京にも進出して1年ほど前に初めて支店ができたが、久美子は開店以来のお得意様だった。なにせ毎月、どんどんサイズが更新されていくオーダーメイドのブラジャーを注文してくれるのだから。店の方でももう心得たもので、毎月1日の定期測定日に合わせて新しいブラジャーを用意してくれている。
「ねえ先生」
「ん?」
「ブラのサイズ、もっと大きめにするよう頼んでおいてください。でないと…とてもひと月もちません」
「分かってるわ。今日測ったサイズはさっきもう連絡したし。先方も同じ事を言っていたわ。きっと今までより大きめのものを用意してあるはずよ」
店に着くと、さっそく顔なじみになっているアメリカ人女性が姿を現した。本店からこの日本支店に出向してきた腕利きの下着フィッターだ。
「お待ちしてマシた、久美子サン」
まだどこか英語なまりが残る声で挨拶される。
店内には様々なブラジャーが数えきれないほど、しかし整然と並べられていた。しかし、今の久美子にそういうIカップやJカップといったいわゆる既製品は用がない。そういう"小さな"サイズを着けて喜んでいたのがずいぶん昔のことのように思える。
そのまま店の奥に通されると、間もなく久美子専用の新しいブラジャーが出てきた。
「どうぞ」
いつものように試着室に案内される。
試着室に入って一人になると、久美子はまた腕をめいっぱい伸ばしてブラウスのボタンをはずした。その下にブラは――もうつけてない。「あんなのもう着けられない」と保健室で断固拒否して、なんとここまでノーブラで来たのだ。
「これが今月のブラか…」
今までのにしてもこれにしても、「とてつもなく大きい」という事には変わりなくて、見ただけではサイズが分からない。けどつけてみるとはっきり分かった。
久美子はいつものように前かがみになってカップの中に自分の乳房をはめ込むようにした。それから肩にストラップを通すと、背筋を伸ばして背中のホックを止めにかかった。
「あ、これなら大丈夫だ」
今までと違い、カップの中に自分のおっぱいがすっぽり納まりこんだのが分かった。しかもまだ少し余裕がある。さすがだ。毎月通うようになって、その技術の確かさには感心させられる。まさしく自分が「こうあってほしい」と思うところを察知してすぐさま実現してくれるのだ。しかし――久美子は不安になった。今までだってこれぐらいの余裕は感じた。けどまさしく日に日に大きくなっていく久美子のバストにかかっては、これぐらいの余裕はまたたく間に埋まってしまう――とてもひと月間も使えるとは思えなかった。
その不安を胸に、久美子はブラをつけたまま、試着室を出た。今度は日本人の担当女性が近づいてくる。
「いつもながら素晴らしい仕事です。しかし――」担当者が久美子を見つめる。「この程度ではとてもひと月ももちそうにありません」
「そうでしょうね」この女性担当者は続けた。「分かります。細川さんからもあなたのデータの事は聞きました。今の成長ペースからすると、1月後にはとてもこのブラジャーではきつすぎるでしょう。でも下着フィッターとして、現時点でこれ以上合わないサイズのブラジャーをすることを許す訳にはまいりません。そこで提案したいのですが、サイズ変更を現在の月1回から、月2回に変えてはいかがでしょうか」
「月2回…ですか?」
「はい。今月の中ごろにもう一度お越しください。その頃にはこのブラジャーはあなたにとってちょうどいいか、少しきついぐらいになっているはずです。ころあいを見計らって、わたくしどもは次のブラジャーをお渡しできるでしょう」
「え…それで、お値段の方は」
やっぱりそれが気になる。今だって毎月の特注ブラに相当額のお金が必要なのだ。月2回となってその倍かかるなんてことになったらたまらない。
「いえ、堀江様には大変お世話になっておりますし、同額という訳にはまいりませんが、少しの上乗せでやるように私どもでもはからせていただきます」そう言って電卓をたたいてみせた。今までよりも何割増しではあったが、心配したよりは増えてない。よく聞くと1回あたりのブラジャーの数を減らして――使える期間が短いんだからその分確かに数は必要ない――価格を抑えたのだという。確かにその方法は今の自分にとって必要だ。OKすることにした。
ブラジャーを新品に着け替えたままブラウスを着ると、ブラが大きくなった分さらにボタンが遠くに行ったような気がした。手がどうにもボタンに届かなくなる日も近いような気がする。まだブラウスは特注すればより大きいのを作ることができる。けど腕は伸ばせないし…。でも今悩んでもしょうがない、と考えを振り払い、新しいブラジャーをしたまま、さらに同じブラジャーを2本、箱に入れてもらって持って帰った。超特大のフルカップブラは、それだけでもすごく大きいから、とても大きな箱になった。おそらく知らない人がこれを見て、まさかブラジャーが入ってるなどとは想像できまい。
「ね、今日これから何か予定がある?」車に戻ると、細川先生は言った。
「え? あの、今日は――」久美子はちょっと口ごもった。
「なぁに、あ、誕生日だから彼氏とデート?」
「そんなんじゃないですよ。ただ…」しばらく言いにくそうだったが、結局自動車試験場の名前を言った。
「どうしてそんな所に?」細川先生はちょっと解せなかった。
「あの…原付免許をとろうと…」
「あ…」それだけで分かった気がした。彼女ほどのバストの持ち主ともなると、電車に乗るのにも注意が必要だった。満員電車なんてとんでもない。どうしたってスペースを喰ってしまう彼女の超乳は迷惑になりかねないし、第一痴漢だって心配だ。だからあまり電車には乗らないほうがいい、と以前から指導はしてたのだ。かといってそれでは高校生にもなってあまりに行動範囲が狭められる。学校に来るのには自転車を使ってたがそれでは限度があるし…。
「すいません先生。でも16になったら絶対取ろうって前から決めてたんです。学校には絶対乗ってきませんから…」
久美子の必死な様子に、細川先生もうなづくしかなかった。
「いいわ。頑張ってらっしゃい。そうそう、このまま車で送ってあげる」
久美子の顔が一気に明るくなった。
「いいんですか!」
「でもね――それなら今日でなくてもいいんだけど、一度専門の先生に診てもらわない? あなたの胸。わたしのよく知ってる先生で、乳房を専門に研究している人がいるのよ。もちろん女性で、若いけどすごく優秀なの。あなたの話をしたら、ぜひ一度会ってみたいって…」
「――――」
「あなたの胸の発育が、とてつもなく人並みはずれていることは分かるでしょ。いったいこれがどういうことなのか、一度は専門家の意見を聞いてみるのもいいと思うの」
久美子自身、確かに気にならないことはなかった。かといって、16になったばかりの乙女としては、自分の身体をそんな風に診られることに抵抗がないといえば嘘になる。この細川先生に毎月診られることにだって、最初のうちはかなり勇気がいったのだ。
急に黙りこんだ久美子に、細川先生は話題を打ち切るように申し添えた。
「いいわ、考えといて。気が向いたら、わたしもついて行ってあげるから。一緒に行きましょう」
久美子は、しばらくおいてからおずおずと口を開いた。
「それよりお願いなんですけど――今晩、またプールいいですか?」
「またぁ。最近多いわね」
「ここんとこ水泳に燃えてんです」
「うーん、いいわ。9時から1時間だけね。ちょうどわたし今日宿直だし、保健室に来ればいいから」
「ラッキー。じゃお願いします」
先ほどとはうって変わってパーッと明るい顔になった。現金なものだ。
「ほら、もうすぐ試験場に着くわよ。ところで勉強なんかしてたの?」
「あ、今朝テキストは一通り読みました」
「そう…。あなたのことじゃ、それでもう間違いはないでしょうね…」
「ハイッ」久美子は素直にはきはきと返して見せた。
「着いたわ。じゃ、頑張ってちょうだい」
このブラあずかっといてください、と後部座席に箱を置いたまま、久美子は嬉しそうに試験場に消えていった。その姿が完全に見えなくなると、細川先生は車をUターンさせてアクセルを踏んだ。
「堀江久美子か…。成績は、学年トップなんて言葉がむなしくなるほど、学校始まって以来の秀才。テストで満点以外とったことなんてほとんどないんだものね。一度見聞きしたものはすべて完璧に憶えてしまうといううわさすらある驚異的な記憶力の持ち主。スポーツだってあの胸のことを考えれば信じられないほど優秀。ムラっ気はあるけどその気になればなんでも人並み以上にこなしてしまうわ。しかもあのルックス。どんなアイドルだってちょっとかなわないわね。それに加えてあのバストでしょ――。どれをとっても桁外れ。こんな生徒、どう接していいかほんと迷うわ。まあ性格は素直だから助かってるけど…。でもだからこそ――彼女が本当にすごいのは、自分がどんなに桁外れな存在かをほんとの意味で自覚してない所なのよね。自分はごく普通の高校生でいるつもりなんだから。いや、だからこそそういう所を大事に伸ばしてやらないと、しかし――」
夜もふけた頃、細川先生は保健室にまだひとり残っていた。ドアが静かにノックされる。
まだ早いと思いつつ「はい」と返すとドアが開き、ひとりの少女が入ってきた。
「先生」
「堀江さん。まだ30分前よ」
「うん。なんだか待ちきれなくって。ご飯すませたらすぐ来ちゃった」
「もう…お父さんは大丈夫なの?」
「父は今日、研究室でとまり込みなんです。だから家に一人なもんで」
思い立ったら即実行に移してしまう彼女の性格を思い出していた。久美子はもういても立ってもいられないと言う風に落ち着かない。
とりあえず話題を変えてみた。
「で、どうだったの、試験は」
「フフッ、よくぞ聞いてくれました。ジャーン」と久美子は財布から麗々しくできたての運転免許証を出して見せた。即日交付されたのだろう。
細川先生は、免許証に乗せられた顔写真を何気なく見た。ふつうこういう写真って変な顔に写ってしまうものだが――こんなものでも才能みたいなのがあるのだろうか、彼女の魅力的な表情がごく自然に写し取られていた。おそらくこの写真だけでも恋してしまう男は多かろう。内心ちょっとくやしかった。
「じゃ、いつものように。1時間だけだからね。10時にはちゃんと締めて鍵を戻すこと。いいわね」プールに向かう扉の鍵を渡しながら、今一度念を押した。
「はーい、分かりましたぁ」
久美子はプールに向かった。
久美子の通う学校のプールは、温水も使える室内型の立派なものだった。久美子は時々、夜の誰も使わない時間にひとり使わせてもらっていた。
久美子のようなプロポーションの女の子が、日中大勢の人がいるプールに現れたらどういうことになるか――それは久美子自身にもなんとなく予想がついたし、細川先生も自粛するよう求めていた。
しかし元々泳ぎの大好きな久美子がプール厳禁なんてことは堪えられなかった。そこで、特例として学校のプールを夜使わせてもらえるよう、学校側としても許可したのだった。
「さあー、一週間ぶりのプールだ。泳ぐぞ〜」
更衣室で服を脱ぐ久美子。その下には、今日あつらえたばかりのそのブラがついていた。それもはずして水着に着替えようとした時、はたと気がついた。
「あっ――。こっちもきつい…」
一週間前にはなんとか入った水着のブラが、今日はもう入らなくなっていた。一週間前にもう少しきつかったんだから、予想はついたはずなのに――ちゃんと準備しとくべきだった…。
「失敗したなぁ。どうしよう…」更衣室で、水着の下だけつけた状態で、入らないブラを手にしたまんま、久美子は立ちすくんでいた。
ちらとプールの方を見る。すぐ目の前には一面の水が久美子を待ち構えるように広がっている…。
「いいや、誰も見てないんだし。このまま行っちゃえ」
久美子は手に持っていた水着を放り出すと、上半身裸のまま、プールに向かって突進した。何の支えもないバストは、すごい勢いでぶるんぶるんと上下に揺れまくった。
しかし今の久美子はそんな事は意に介さない。そのままの勢いでプールにざぶんと飛び込んだ。
「ひゃっ! 冷たい!!」水温は泳ぐにはまだ低い。奪われた体温を取り戻すように、久美子はさっそくクロールで泳ぎだした。
彼女のようにバストが大きく突き出していれば、相当な水の抵抗を受けるはずなのだが…彼女はまるでそんなこと問題にならないかのように、自在に泳ぎ続けた。
(「お前のその胸がもう少し小さかったらなぁ…。今頃間違いなくオリンピック行ってるぞ」)以前体育の先生が言った事を思い出す。別にそんなに本格的に水泳やろうとは思わないけども、そう言われること自体はいやじゃない。けど胸うんぬんは「余計なお世話」と思ってしまう。とにかくこうして水につかって泳いでいる事自体は大好きだった。
クロールで何週も泳いでから、今度はくるっと身体を回転して背泳ぎに移行する。その途端…今まで水の中に隠れていたバストが大きく水をはね散らばらせながら現れた。そのままばた足だけでしばらく泳ぎ続ける。ちょっと視線を下にずらすと、胸の上に巨大な山が2つ、少しも型崩れすることなくうず高く積みあがっているのがいやでも眼に入った。先っぽにちょこんと乗っているピンク色の乳首を頂点に、足の動きに合わせて胸の上で山脈がぷるぷると揺れている。
「なんかプリンみたい」見ているうちに久美子はふとそうつぶやいた。そう、形よく積みあがった乳肉、適度なやわらかさ、それは見れば見るほどプリンに見えてきた。
「ああ、なんかすごいおいしそ」プリンは久美子の大好物だった。もうこれだったらいくらでも食べられちゃう、というほど昔っから好きだった。自分の胸が大好きなプリンと重なり、結局久美子は背泳ぎバタ足のまま、自分の胸を見つめつつプールを何週も往復していた。
「ああ、なんか無性にプリンが食べたくなっちゃった。よーし、今度これぐらい大きなプリン作って食べまくってやるぞーっ」
久美子は泳ぎながら、うれしそうにそんなことを考えていた。
そのまましばらくの間、時間を忘れてプールの端から端まで何度も行き帰りを繰り返していが、ふとプールサイドを見ると…いつの間にか細川先生が立っていた。久美子の格好を見て大いにあわてている。
「堀江さん!! いったいどうしたの、その格好…」
「あ…ごめんなさい。水着、きつくて入らなかったもんで…。誰もいないからいいかな、と思って」
「いいかな、じゃないでしょうに…ああ、あなた、自分がいったい何してるか分からないの」
着替えてからも先生に少しお説教された。そしてなんで細川先生がプールに来たのかが分かった。1時間って約束だったのに、いつの間にか時計は11時近くを指していた。
もう時間も遅いからとお説教も短めにすんだけど、その時「気をつけなさいね。あなたは自分がわかってないだから」と妙なことを言われた。自分のことはよーく分かってますよ、と反論もしたくなったが、長くなりそうだからやめた。それから預けてもらっていたブラジャーの入った箱を自転車にくくりつけて、そのまま乗って家に帰った。家に着いた時は、すでに11時半になっていた。お父さんは今日泊まりだから、父一人娘一人の2人家族のうちの中には久美子一人しかいない。
だからけっこう気楽ではあるが、今日はもう遅い。お風呂を入れて頭を洗うと、徐々に眠気が襲ってきた。
「今日は朝からいろいろ飛ばしてたからなぁ。でも充実した一日だった。いい誕生日だったな」
そうして久美子は一人自分のベッドに入った。それから5分後には、静かに寝息を立てていた――。
16歳の誕生日は、このように過ぎていった。