配達人2〜母乳配達 危機一髪

ジグラット 作
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「さあ増田先輩、ここが今日最後の配達先ですからね」
 俺が指さすと、先輩は自転車を引きずるようについてきた。陽はもうしらじらと明けかかっている。もう時間がない。
「わ、わかってるわよ」いきがっているけども息が荒い。顔に疲れの色が浮き出ていた。無理もない。こんな大きなものをぶらさげていながら、ノルマは他の人の3倍もこなしているのだから。
「じゃ、最後ですからね。今度こそ気をつけてくださいよ」
 後輩である俺に言われて正直不機嫌そうだったけども、自分がそう言われるだけのことをしてしまった自覚があるだけに言い返せない。黙って服をめくっておっぱいを出してみせた。
「どっちにします?」最後の牛乳瓶を出しながら俺は訊いた。そしてその胸を見て改めて驚いた。今日あれだけミルクを出してるはずなのに、まるで出発前とまったく変わらないぐらい――いや、それ以上にパンパンに張りつめていた。
(先輩、大丈夫なんだろうか…)
 俺は心配になってきた。
「どっちでもいい」先輩はぶっきらぼうに答える。俺はなんだか右の方がより張っていそうな気がしたので――左の乳首に牛乳瓶を当てた。
「なんでさっきから左ばっかなのよ」
 どっちでもいい、と言ったわりには文句を言う。とはいえ瓶をあてがうのは俺なので、しぶしぶ従った。先輩はあまりに胸が大きすぎるため、自分では胸の先まで手が届かないのだ。
「じゃ、先輩、いきますよ」
 俺はいつもより何倍も気をつけて、先輩の張りつめたおっぱいを揉んだ…いや、実際のところ触ったというかなすったというか、それぐらいのわずかな刺激を与えただけなのだが、それでも先輩の左の乳首からは、とろりと濃いミルクがすさまじい勢いでびゅーびゅーと噴き出してきた。
「あ、先輩、ストップ、ストップ!」
 いつものように乳首をとんと叩いて合図を送るが、その刺激を受けてますます勢いが増したようにミルクは噴き出し続け、またたく間に牛乳瓶からあふれ出した。
(まただよ)俺は職業意識から牛乳瓶を守らんとまだミルクが噴き出し続ける乳首から引き離し、素早く蓋をすると、慣れたもので空の牛乳瓶を乳首に次々あてがった。こうなった以上、ここに配達すべきミルク4本、一気に詰めてしまおうとしたのだ。しかしすべての牛乳瓶がいっぱいになっても、先輩の胸の先から噴き出すミルクの勢いはなかなか止まらなかった。結果、行き場を失ったミルクはすべて俺が全身にかぶることになった。
 ようやくミルクが止まった時、俺は体中ミルクまみれになっていた。もっとももう今日だけで何度も浴びているので今さらどうってことないが。
「橋本くん、大丈夫?」
 ようやく止まった胸をしまいながら、先輩は今さらながら訊いてきた。
「ええ、ご覧の通り、ミルクは――無事…です」
 俺は死守した牛乳瓶を高く差し上げて見せた。

 この牛乳――もとい母乳配達の仕事を始めてから3ヶ月が経とうとしていた。最初は驚きの連続だったけども、増田先輩との呼吸もよく合い、なにより先輩の胸さわり放題、ミルクしぼり放題の役得もあって、毎朝のきつい仕事も楽しくてしょうがなかった。
 しかし驚きはそれだけですまなかった。増田先輩のその胸は、この3ヶ月の間だけでもますます大きくなっていき、それとともに噴き出すミルクの量もどんどん増えていった。元々他の人の2倍もあった配達量も段階的に増えていき、今では優に3倍にもなっている。
 先輩は持ち前の明るさでなんてことないような顔をしているけども、正直きついことはそばにいる俺にはよく分かった。他の人よりずっと早く始めなくてはならないのに、終わるのはギリギリ夜明け頃になってしまう。もちろん俺の運ぶ牛乳瓶の重さも当初の1.5倍になっているのだが、先輩の胸の重さたるや、とてもそんな増え方ではないような気がする――。
 しかもここ最近、先輩のミルクを出す量がはんぱでなく増えてきているようなのだ。かつては完璧を誇っていたミルクのコントロールも、だんだん押さえが利かなくなっているようで、しばしば今日のように牛乳瓶をあふれ出させてしまう。それでかなりロスしているはずなのに…ミルクの量はまるで搾れば搾るほどますます増えていってるみたいなのだ。

「ごめんね」
 配達を終えた帰り道、先輩がいきなりぽつりと言った。
「え、いや、いいんですよ。仕事ですし…。それに――好きですから」
 しかしくやしいけど先輩には俺の言葉はなぐさめにはならないみたいだった。その落ち込みようは端からもよく伝わってくる。
「ほんとにごめん、橋本くん。最近きみに甘えっぱなしで…。近頃、おっぱいがおかしいの。搾っても搾っても奥のほうからどんどんどんどん湧いてくる感じで、きりがないの…」
 落ち込む理由は俺にもなんとなく分かった。先輩はこの仕事に対するプロ意識みたいなものが強いので、最近ミルクの押さえが利かなくなっている事自体が自分で許せないのだろう。
 帰り道、いつもならけっこうくだらない事で盛り上がってさわがしいぐらいなのだが、この日は店までお互い一言も喋らなかった。

 店に着き、お互い自転車を置いて配達終了の報告を終えてこの日の仕事は終わる。しかしその日、帰ろうとした先輩を店長が呼び止めた。
「あ、増田くん、今日、ちょっと時間いいかな?」
 店長は50歳ぐらいの、いかにも苦労人という感じのやさしそうなおじさんだった。こんな母乳配達なんて事業をやっているからどんなエロおやじかと思いきや、非常に温和で人あたりもよく、配達人からも親しまれていた。この人だからこそ先輩をはじめとする女の子達も、この仕事にしっかり従事してきたのだろう。
 しかし、その隣にいる男が俺は気に触った。最近よく出入りしている、店長の弟だという話だったが、店長とは違い、いかにも計算高そうな冷ややかさを持っていた。店長の話では、経営コンサルタントとして活躍している自慢の弟ということだったが、俺はなんか信用できないものを感じていた。
 店長と弟は先輩をつれて奥の応接室に向かった。俺はなんか気になって一歩そちらに足を踏み出すと、
「あ、橋本くん、君はあがっていいから。おつかれさん」
 その弟にぴしゃりと言われてしまった。俺はあんたに雇われてんじゃない、とちょっとムカッときた。先輩が寄ってこなかったら、そいつに飛び掛ってたかもしれない。
「橋本くん、悪いけど、どっか近くで待っててくれる?」
 先輩は小声でそう言った。そう、明日も新鮮なミルクを提供するために、先輩の胸に残っているミルクを搾りきる、その(実は最も楽しみな)作業がまだ残っているのだ。
「ああ」俺は頷いて、どうにか怒りを抑えた。
「じゃ、また後で」先輩はまだたくさんミルクが詰まっている胸をぷるんと揺らしながら、応接室の中に入っていった。
 俺の目の前でドアが閉まる。しかし元々立て付けが悪いうえ、勢いよく閉めたので完全に閉まりきらず、すき間からわずかに中が見えた。
 俺は悪いとは思ったが、なんか心配でドアの前で耳をそばだてた。

「ええっ、配達をとりやめる!?」
 先輩が目を丸くした。
「いや、それは誤解だ。配達はもちろん続けるよ。ただ、各家の前で搾る、というのをやめるだけだ」
「でも、それじゃあ…」
 そりゃそうだろう。配達先の前で搾る新鮮さこそがこの店の一番の売りだったはずだ。営業方針の根幹に関わる大問題だ。
 ところが例の弟が、さもえらそうに懇々と説明をし始めた。
「増田くん、君のミルクはお客さんに非常に評判がいいんだよ。ぜひ君を、と望む人がどんどん増えているんだ。だから君にも無理を言って配達箇所を増やさせてもらった。結果として、君には現在他の人の3倍もの仕事をしてもらっている。しかしこれももう限界だろう」
 もったいぶってわざとらしく言葉を切ると、エヘンとえらそうに咳払いをひとつした。
「すべては配達しながら搾る、という非効率さが生んだ弊害なんだ」
「そんな…うちは家の前で搾る、しぼりたてが売りのはず…」
「もちろんしぼりたてだよ。毎朝店でしぼってもらい、それをすぐ配達人が運ぶんだよ。新鮮そのものじゃないか」
「でも…」
 店長の方を見る。しかし店長は申し訳なさそうにうつむくだけだった。
「増田くん、繰り返すけども、君の出すミルクは非常に良質で評判がいいんだ。君のミルクを届けて欲しい、という注文が日に日に増えていっているんだ。それに君だって…」
 いきなり手を伸ばして、先輩の胸を乱暴に押しこんだ。
「あ…」それだけの刺激で、先輩の胸の辺りの布地に白いしみが浮き上がった。俺はなにをしやがる、と飛び出したくなるのを懸命に抑えていた。
「配達が終わったばかりだというのに、まだまだたっぷりと詰まってるじゃないか。それをパートナーだかなんだかしらんが配達の小僧が勝手に横取りしている。なんてもったいないことだ」
「橋本くんはそんな人じゃないわ」先輩は妙に過剰反応して俺の肩を持っててくれた。
「おや、かばいだてするのかい? こんな立ち聞きするような奴を…」
 え? と状況が把握できないうちに、いつの間にかそばまで来ていたその弟がいきなりドアを開けた。いきなり支えを失った俺は、つんのめるように部屋の中に足を踏み入れてしまった。
「橋本くん!」
 俺は気まずい気持ちでいっぱいになりながらも、弟をにらみつけた。
「ふん。まあいい。よく考えることだね。この方式にすれば、当店は君のミルク一本でやっていくつもりなんだ」
「え、じゃあ他の女の子は…」
「皆やめてもらう」
「そんな…」
「だってそうだろう。わたしの計算では、この店はきみ一人が出すミルクの量だけで充分やっていけるはずなんだ。ただ搾るのと配達するのを一緒に行う、というこの店のシステムがそれを不可能にしていた。そこで、君にはこの店でミルクを搾ってもらう。それを一旦専用タンクに詰め、そこから牛乳瓶に分け入れて、それを配達するんだよ。もちろんその代わり、君には相応の報酬ははずむよ。ほら」机の上の電卓をとると数字を打って増田先輩の前に示した。先輩は目を見開いた。おそらく今のバイト代よりずっと多い額だったのだろう。
「これは最低ラインだ。1日一定量以上のミルクを出してくれたら、ほら、歩合でリットルあたりこれだけ上乗せしよう」さらに電卓を叩いた。
「こんなに…」増田先輩の顔が変わった。
「どうだい、悪い話じゃないだろう。きみにはお金が必要なはずだ」
 先輩の顔がぐっと詰まった。
「お母さんの具合がまた悪くなったんだろう。近々再入院って話じゃないか。それに弟さんもこんど中学生。ますます学資がかかるだろうね」
 先輩のこんな顔は見たことなかった。決して納得している訳ではない、しかしどうしても引き下がれない苦悶の表情だった。
「で、どうやってお店でミルクを搾るんですか?」
「最新鋭の機械を導入する予定だ。ほら、牧場で乳牛用に使われている機械しぼり機があるだろう。アメリカで最近、あれの人間用が開発されたんだ。実に効率よくミルクを搾り出してくれる優れものでね…」
「そんな機械、いやです」先輩は、言い終わるのを待たずにはねのけた。「そんなの、出るものも出なくなっちゃいます。――わかりました。そのお話受けます」
「おお、承知してくれるか」
「その代わり、環境面でひとつお願いがあります。そんな機械を買うのはやめてください。その代わり…」先輩は顔を少し赤く染めながら、それでもきっぱりと言った。「わたし専属のミルク搾り係として、橋本くんを雇ってください。お願いします」

 この件は翌日従業員全員に告げられ、大きな波紋を投げかけた。特に女の子達の衝撃は大きかった。無理もない。そりゃ先輩ほどではないにしろ、皆人並みはずれて大きな胸を抱えて、大量のミルクを配り歩いてきた実績がある子ばかりだ。仕事を失うだけじゃない。配達ができなくなったら、次の日からこのあり余るミルクをどうすればいいのだろう――そういう問題が目白押しだった。しかしその弟は、そうした問題をすべて無理矢理押しつぶした。そうなると従業員とはいえしょせんバイトの身、そうそう強くは言えなかった。言えない分、矛先は、唯一残ることが決まっている増田先輩に向けられた。今までは一緒に働いていた仲間という意識が強かっただけに、この反感は強かった。裏切り者、といった感じだったのだろう。それから数日間、先輩は針のむしろ状態だった。普段は明るく「なーに言ってんの。そんなうじうじ悩んでたらミルクの出が悪くなるってーの」なんて言ってたけど、配達帰りに2人きりになった時など、話しかけるのがためらわれるほど考え込んでいる姿を俺は何度も見ていた。

 そして10日後、店に立派なミルクタンクが据えつけられていた。明日からは先輩がタンクいっぱいにミルクを詰め込み、そこから何本も伸びている管から先輩の母乳が瓶に一気に詰められ、後は男子従業員が配達するだけになるのだ。
 なんとも味気ない――。俺はピカピカに光るタンクを見つめながら、妙に空しさを感じていた。
 そして、今日が最後となる女の子達の視線がいっせいに先輩に向けられて痛かった。さすがに先輩もこたえたのか、いつもに比べミルクの出が妙に悪くなっていた。

 最後だというのにこれといった挨拶もなく、あっさり「おつかれさん」でこの日の営業は終わった。店長はあの弟に完全に押さえこめられてしまったらしい。女の子だけでなく、母乳搾りができなくなるというので男の従業員もかなりの数やめると聞いている。店長が新しいバイト探しにやっきになっていた。
(そんなことまでして、この店最大の"売り"をなくしていいのだろうか…)経営効率ばかり考えるあの弟のやり方に俺はどうも馴染めなかった。俺だって、先輩から指名を受けなかったら、さっさと辞めてたかもしれない。
「橋本くん、ちょっといい?」
 帰ろうとしたところ、先輩に呼び止められた。「話があるの」

 その夜、俺は先輩と待ち合わせをしていた。「明日への作戦会議よ」なんて意味深な事を言われたけども、場所が食べ放題の焼肉屋だったのがなんとも解せなかった。
「あー、悪い悪い。遅れちゃったぁ」
 先輩は、胸をどすんどすんと盛大に揺らしながら、10分遅れで店の前に現れた。相変わらず質素で巨大なシャツにどうにかこうにか胸を押し込んでいるため、その内側から乳首やら何やらが思いっきり透けて見えてしまう。しかし先輩はそんな事をまったく気にする様子もなく率先して店に入っていった。
「いらっしゃいませ」
 店に入ると、なんか店員の様子が変だった。先輩の顔を見るなり、びくりとする者、慌てる者、舌打ちする者――とにかく客に対する態度じゃない。
「先輩、ここにはよく来るんですか?」
「まあ時々ね。おそらく今日で出入り禁止になっちゃうと思うけども」
 はぁ? 俺が訳分からず聞き返すのも構わず、先輩は空いている席に座った。
「さあ、今日は明日の前哨戦よ。食べましょ」
「前哨戦って――作戦会議じゃないんですか?」
「まあいいじゃない。ああ、走ったらのどかわいちゃった。とりあえず――」ビール、と大人なら言うところだろうが、あいにくこちとら2人も未成年。先輩は大ジョッキになみなみと牛乳をついで来ると、それを一気に飲み干した。
 俺はその勢いにちょっと圧倒されながらもたまらずに聞き返した。
「明日、どうする気ですか? このままおとなしく従う気じゃないでしょうね」
 すると先輩は、すっと目つきが真剣になった。
「もっちろん。明日、こんな方法が通用しないってことを思い知らせてやるのよ。今日、あのミルクタンク調べといたんだけども、見かけは立派だけど、あれけっこう使い古しのおんぼろ中古よ。容量だって、うちの店がようやくまかなえるぐらいかな…。だからね――ねえ、お願い、明日、構うことないからわたしのおっぱい、どんどん搾ってほしいの。橋本くんが一生懸命搾ってくれたら…きっとなんとかなるはずよ」
 訳がわからない。しかし先輩はこれで話はすんだとばかりに、2杯目のジョッキをぐいっと空けた。
「さあこれからは前哨戦。食べまくるわよ〜」

 それからの先輩は、とにかくあきれるほどよく食べた。何度も山のように肉を持ってきて、網をいっぱいに使って焼き上げると、レアの状態で次々と口の中に消えていく。
「先輩、それまだ生焼け…」
「いいの。これぐらいがおいしいんだから。大丈夫よ、これ牛だし」
 それに一緒に飲む牛乳の量も半端じゃない。大ジョッキをぐーっと一息に開けると、何度も何度もおかわりにいく。
「なんかここの牛乳、うすいなぁ」なんて文句を言いながら、おそらく数十杯は平気で空けてるのだが、一向にペースが衰えない。
「先輩、よく食べますね」
 俺はなんとか自分の分の肉を必死で確保しながら、訊いてみた。
「あったりまえでしょう。あのね、なんにも入れないであれだけミルク出せると思う? 毎日食費大変なんだからね。もっとも最近はミルクが出すぎるくらいだったから食べるのセーブしてたんだけど。しかし今晩は明日の決戦に向けての前哨戦。リミッター解除して食べたいだけ食べるわよ」
 そう言うと、またなみなみとミルクの入った大ジョッキをぐいっと一気に飲み干してみせた。
「明日は、本気になったわたしのすごさを見せつけてやるんだからぁ!」
 食べ放題とはいえ限度はある、という事を始めて思った。店にあれほどあった肉は、先輩のせいでそのほとんどが消えうせていた。ミルクも品切れになってしまった。お勘定の時、店員の顔が引きつっているのを俺は見逃さなかった。
(こりゃ出入り禁止にもなるわな)と俺は妙に納得してしまった。

 次の日、俺はいつもより早めに店に入った。なにせ配達より先にミルクを搾り終えてなければならないんだから。しかし来てみると、先輩は既にスタンバイしていた。
「おはようございます。あ、先輩早いですね」
「あったりまえでしょ。ま、見てよ、きのうの成果」
 先輩は自分の前でちらと胸をはだけてみせた。俺は驚いた。元々めちゃくちゃ大きいのに、今日はそれとも比べ物にならないほどパンパンに張りつめている。
「すごい…」
「でしょ。きのう食べたものが一晩で全部胸にまわっちゃった感じなの」
「先輩、そ、その…平気なんですか?」
 俺は心配になった。なんというか、あまりにもいっぱいになりすぎて、今にも先輩の胸が破裂しそうな気がしたのだ。
「大丈夫よ。あれからまだ1滴ももらしてないから。ただ――もうそろそろ始めてくれないかしら」先輩は妙にそわそわしていた。なんとか平気な顔をしているけども、さすがにちょっと胸が苦しいみたいだった。

「やあ増田くんおはよう。さっそく今日からよろしくたのむよ」
 奥から、あの弟が出てくる。店長も後からついてくるが、なんだか存在が薄かった。
「で、どうすればいいの?」
「これを胸につけてくれたまえ」と自身ありげに漏斗の親玉みたいなやつを2つさし出した。それぞれの先から太いホースが伸びている。おそらくその先に、例のタンクがつながっているのだろう。
「これがミルクの受け口? なんかそっけないわね」
 先輩は不平をもらしながらも張りつめたおっぱいを服の間から出すと、その漏斗の親玉を両方の乳首に装着した。ちょっとやそっとじゃはずれない事を確かめてから、俺の方を向いた。
「じゃあ、準備はいいわ。橋本くん、お願いね」
 俺は躊躇した。触れたら一気に破裂しそうな気がして手が伸びてこない。
「大丈夫よ。でも…いい加減そろそろ限界みたいなの。だからそんな強く揉まなくってもいいわ。そっと、やさしくなでてくれる? そうしたら、スイッチが入るから」
「スイッチ…?」
 訳がわからないまでも、おそるおそる先輩の胸に触れてみた。いつもと全然違う。びくんびくんと波打っている感じで、中におそろしいほど沢山のミルクが暴れださんばかりに詰まっているように感じられた。
 差しだしかけた手を思わず引っ込めてしまい、先輩にたしなめられた。
「ほらぁ、男の子でしょ。もっとしっかり…。わたしだって――もう、いい加減、きっついんだからぁ…」
 先輩がふと苦しそうな表情を浮かべた。胸が張りすぎてさすがにきついのだろう。
(そうだ、ここで俺ががんばらなければ…)
「先輩、いきますよ」
 俺は勇気を振り絞って、先輩のはちきれんばかりの胸をそっと、しかししっかりとなでた。胸の中にたまりまくったミルクが乳首に流れていくようなイメージでやさしく押し流す。
「あ…ああっ、出ちゃう!!」
 その次の瞬間、胸の先につけた透明な漏斗の中が白一色に染まった。ぶしゅーっ、ぶしゅーっとうなりを上げんばかりにすさまじい勢いで先輩の胸からミルクが噴き出し、それがホースを伝わってどんどん中のタンクに流れ込んでいった。
「おほっ、すごいすごい。やっぱり彼女を見込んで正解だった」隣の部屋では、店長の弟は予想外の量に驚きつつ、うれしそうだった。
「これなら予定よりずっと早く、タンクが一杯になるぞ」歓喜で踊りださんばかりだった。ただ、その歓喜は長くは続かなかった。タンクはみるみるうちに一杯になり、またたく間に満タンになっていた。
「おい、もう充分だ。もうそろそろ止めていいぞ」
 しかし俺は先輩に目配せをした。先輩もにこっと笑う。俺はさらに力を込めて先輩の胸をもみしだき始めた。この3ヶ月、だてに先輩と組んでた訳じゃない。先輩の胸をどうもめばもっと沢山のミルクが出るか、そこら辺のツボは知り尽くしている。
「うわっ、やめろ。やめなさい。何をするんだ。もうタンクは一杯なのに、そんなにミルクを流し込んで!」
 店長の弟は俺が口で言っても聞かないのを知ると、俺に飛びかかって力づくで先輩から引き離した。しかし先輩の胸からは、誰もさわっていないのにごうごうとさらに勢いを増してミルクが噴き出し続ける。
「ごめんなさい。噴乳のツボにはまっちゃったみたいなんです。こうなるともうしばらくはこのまんま自分でも止められないんですよ」先輩はけろっとした顔で言い放った。
「ああっ!もうだめた。タンクが破裂するっ!!!!!」
 その叫びとともに、タンクはすごい勢いで中身からミルクを吹き出して壊れた。中のミルクは裂けたすき間からどんどん流れていってしまう。
 先輩は、と見るともう用はないと言わんばかりに胸から器具を外していた。ミルクはピタリと止まっていた。
(先輩、ミルク、止められたんじゃないですか)
 俺は小声で言った。
(あったりまえでしょ。わたしを誰だと思ってるのよ)

「あああ、どうしよう。タンクはずたずただ。ミルクも全部あふれ出してだめになってしまった。もう配達しなければいけない時間なのに、どうしよう…」店長の弟は泣き出さんばかりに打ちひしがれていた。逆境にはけっこう弱そうだ。
「そういえば――もう配達開始の時間だっていうのに、どうして配達員がひとりも来ないんだ?」ふと気がついたらしく顔を上げてきょろきょろした。
「ああ、それなら」先輩が事も無げに言う。「搾って配達できないなら、こんなバイト続ける気はないって、みんな辞めるってきのう言ってましたよ。だからじゃないですか」
 弟の目が、今にも飛び出すんじゃないかってぐらい大きく見開いた。
「あう…お…ど…どうしよう…配達…配達ができない…お終い…俺はお終い…客先から一斉クレーム…兄貴に無理言ってやったのに…俺はお終い――」 完全にパニックを起こしていた。あわれな末路だった。ここまでくると却ってかわいそうにもなってくる。
 俺は頃合いを見計らって先輩に目で合図を送った。先輩からOKのサインを確認して店長の弟に近寄ってその肩を叩いた。
「お困りですか?」
 余裕の表情に店長の弟はきょとんとした。
「橋本くん…?」
 輪をかけて先輩が自信満々とばかりに一歩踏み出した。
「なんなら今から配達にいきますよ。ね、橋本くん」
「はいっ」
 俺はありったけの牛乳瓶を自転車に詰め込んで現れた。
「増田くん…、き、君、ミルクは…?」
「ご心配なく。まだまだどっさりありますから」
 自信たっぷりに自慢の胸を揺らしてみせた。

 それからの先輩のすごさったらなかった。一軒々々のお客さんの所に着くと、俺が差し出す牛乳瓶の中に次々とミルクを注ぎ込んでいく。俺も必死で追いついて牛乳瓶を差し出すが、胸に瓶をつけてちょっと合図を送るだけであれよあれよとミルクが瓶の中に詰まっていった。それも寸分狂わずピタリと縁までミルクが満ち満ちているのだ。久しぶりに先輩の至芸を見た思いだった。俺も負けじと詰め終わった瓶に封をして配っていく。
 配る先は多い。なにせ今日は店が抱えるすべての客をこの2人でまかなわなければならないのだ。2人とも重いものを抱えて大変なはずなのだが、気が張りつめているせいかその時はあまり疲れを感じなかった。それにしてもすごいのは先輩のバストだ。先ほどタンクを満杯にして壊してしまっているにも関わらず、それでも一向に尽きる様子もなく次々と瓶にミルクを注ぎこんでいく。まるで無限にミルクが湧いてくる不思議なポケットのようだった。
「先輩、今日は調子いいみたいじゃないですか」
「うん、やっぱりねぇ、最初にあれだけ思いっきりミルク出しとくと違うわー。今、絶好調よ」事も無げに言ってみせた。

 遂に最後の1戸を配り終わった時は、もう既に陽はすべて昇っていたが、どうにか出勤時間には間に合った。どうやら無事仕事を完了したのだ。
「はぁーっ、終わったぁ」
 疲れてないと言えば嘘になるが、それ以上に心地いい達成感に満たされて、とてつもなく気分がよかった。先輩も同じだったのだろう。すがすがしい顔をしてる。
「ありがと」先輩がにっこりと笑いながらこちらを向いた。ふき出した汗をぬぐう顔は、いつになく輝いて見えた。
「先輩、やりましたね」
「ええ、橋本くん、きみのおかげよ」
「そんな、すごいのは先輩です。俺…なんか今日、感動しちゃいました」
「そんな…橋本くんが始終サポートしてくれたから、どうにか最後までいけたの。もし息が合わないパートナーだったら――絶対途中であきらめてたわよ」

「じゃ、戻りますか」
 一息入れた後、俺は軽くなった自転車を引きずって歩き出した。
「そうね。でも…ちょっといい?」
 先輩はちょっと方向を変えて歩き出す。不思議に思いながらついて行くと、人通りのない林の影まで来て、自転車を止めた。
「どうしたんですか? 早く店に戻りましょうよ。店長が心配してますよ」
「ちょっと…5分だけでも…」
 先輩の様子はなんか変だった。
 先輩はまるでその中身を確かめるかのように、胸を抱え込んでゆさぶってみせた。
「さすがにもう、あんまり残ってないな」ここまでやってまだ余らす気だったのか、とさすがに唖然とした。
「ごめんね。お礼にわたしのミルク、橋本くんに飲ませてあげようと思ったんだけど…」
「そ、そんないいですよ。せんぱ…」俺は最後の言葉を飲み込んだ。先輩がいきなり服を脱ぎ出して、上半身裸になったのだ。その巨大なバストは、あれだけ大量のミルクを搾り出した直後とは到底思えないほど充実しきった重量感を持って張りつめていた。
「ねえ…」先輩はちょっと恥ずかしそうに続けた。「直接吸ってくれたら、まだ少しは出ると思うの。吸ってくれない?」
 俺は思わず満々と張り切った胸を見つめた。毎日先輩の胸を搾ってきた俺だが、こうも無防備に丸裸になった先輩の胸を見るのは初めてだった。なんだか神々しいもののように見えてきた。
「い、いいんですか?」俺はあわてていた。
「うん、いいよ。今日は特別」
 気がつくと俺は先輩の乳首にむしゃぶりついていた。今までさんざん手でしぼってきたけど、直接口でくわえるのは初めてのこと。無我夢中でちゅーちゅうーと吸ってみた。
「あ…い…出る…」先輩の声が、いつもと違って艶っぽかったのを憶えてる。今までとは明らかに違う感じ方をしたのだろう。
 間髪いれず、口の中に、甘い、とろっとした濃いミルクが、思いのほかたくさんあふれてきた。おっぱいの一番奥のほうにたまっていたからだろうか、ことのほか味が濃く、格別だった。

「さっきのミルク、今まで飲んだ中で、一番おいしかったです」
 店への帰り道、俺は自転車をこぎながら先輩に言った。先輩はうれしそうににっこり笑い、「そう」と言った。
「でもよかったですねぇ。あの時の弟の顔ったら! もう出しゃばってくることないでしょうね」
「どうだかね。わたしたち、クビかもよ」
「え、どうして?」
「だって、せっかく設置したタンク、いきなり壊しちゃったんだよ。逆に弁償させられたりして」
「うう、心配になってきた」

 しかし店に戻ると、店長が申し訳なさそうに出てきた。俺がすべて配り終えた事を告げると、飛び上がって喜んだ。
「ああ、今日は君たちにも迷惑をかけたねぇ。わたしも今度のことで目がさめたよ。自分やり方はもう古いだのこうしなければこの不景気を切り抜けられないだのさんざん言われてしぶしぶやってきたが、もう弟の言うことは聞かない。今までどおりの営業を続けるよ」
「じゃあ、女の子達は」
「ああ。戻ってもらう。ただ…あんな形で辞めさせるような事をしてしまったんだ。はたして戻ってくれるか…」
「大丈夫ですよ。みんな、この仕事に誇りを持っている人たちばかりですから」
 すごい久しぶりに晴れやかな店長の顔を見た。自身を取り戻した顔だった。
「本当に君たちのおかげだよ。これ…少ないんだけども――」そう言って机の抽斗からひとつの封筒を取り出した。
「え、い、いいんですよ…」先輩は反射的に突っ返そうとしたが、店長は無理矢理その手に押し込んだ。
「いいんだよ。ぜひ受け取ってくれたまえ。わたしも自分のやり方に自信が取り戻せた。君たちのおかげだよ。これはせめてものお礼だ」
「そうですか…。じゃあ、ありがたく受け取らせていただきます」先輩は封筒を押し頂くと、胸の谷間にしっかりと押し込んだ。

 店を出た時、すっかり陽は昇りきっていた。皆、仕事や授業が始まっている頃だろう。
「今日はほんと、改めて先輩のすごさみたいなのを見せつけられましたよ。すごかったぁ」
 しかし先輩は、ちょっとうつむき加減だった。何かを思いつめているような感じで…。
「ううん。こんなことできたのも、橋本くんのおかげよ」
 そんなー、とお世辞を軽く受け流すつもりで応えたら、意外にも先輩は真顔で言った。
「ううん、橋本くんがいなかったら――橋本くんじゃなかったら、今日みたいなこと、絶対できなかった。だって…」
 いきなり話がシリアスになってきたので俺はとまどった。
「え、え? え!?」
「だって…」先輩はちょっと恥ずかしそうに続けた。「橋本くん、とっても上手なんだもん。配達のパートナーになったのは橋本くんが3人目だけども…。初めてもんでもらった日から――なんか他の人にはない、電気みたいなのが走ったの。照れくさかったからずっと黙ってたけど…それからおっぱいがますます大きくなっていって、今じゃとっくに4メートル超えちゃったのよ。ミルクも自分でも押さえが効かないほど後から後からどんどん噴き出してきちゃって…」
「せ、先輩…。どうしたんですか」
 これはいつもの先輩じゃない。慣れない空気に俺はどう対処していいんだか分からなくなってしまった。
「もう、橋本くんに搾ってもらえない日なんて考えられない…」

「先輩…」
 しばらく沈黙の時間が流れる。俺はなんとかこの雰囲気を打開したいと呼びかけた。
 しかし俺の言葉が何か気に触ったのか、先輩は俺の顔をじっと見つめ返してきた。
「橋本くん、ちょっとお願いがあるんだけど…」
「ん?なんですか?」
「その"先輩"っていうの、もうそろそろやめてくれない?」
「え、でも…なんで?」
 先輩の顔を見てドキリとした。実に切なそうなのだ。
「だって…確かに店では先輩だけど、年は同じなんだし…。なんていうかそのぉ、先輩だ後輩だって、そういうんじゃなくって、もっとそのぉ…」
 先輩の顔はいつしか真っ赤になっていた。いつものハキハキした先輩じゃない、言いたいことがすごいあるのにどうしても口に出せないもどかしさみたいな、そんなものがあふれてる。そこにいるのはあの男勝りの先輩ではない、ただひとりの、ごくごく普通の女の子だった。俺は改めて先輩の顔を見た。今まで胸にばっかり目がいって考えてみればこんなにしっかり先輩の顔を見つめたことってなかった気がする。そして今さらながら思い知らされていた。
 先輩って――こんなにかわいかったんだ。

 俺は、その気持ちを真正面から受け止めようと思った。
「わかりました、せんぱ――」ついついクセで、思ったそばから言いそうになる。「あ、すいません」
 先輩はクスッと笑った。
「いいよ、だんだんで。橋本くん。これからもよろしくね――ずっと」
「ええ、ずっと。せ――増田さん…」
 先輩と俺はじっと見詰め合った。どれぐらい時間が経ったか分からない。でも俺はこの時ほど、時間が止まってほしいと思ったことはなかった。
 しかし時は無常だった。

 ぐぅ〜〜〜っ

 (え、何?)と一瞬とまどうほど大きく、先輩のおなかの虫があたりに盛大に響きわたった。
 そのあんまりなタイミングに、2人はどちらともなく思いっきり笑い出した。笑い声はますます高くなっていく。体中から力が抜けて、2人は思わず近くの道端にへたり込み、さらに笑い続けた。
「ご、ごめんねぇ」息苦しそうにケタケタ笑いながら、先輩が言った。「あんなにミルク出した後だから、実はさっきからおなかぺこっぺこでさぁ。ずーっと我慢してたのぉ」そしてさらに笑い続ける。
 おかしくてしょうがない、2人して一緒に笑うことでさらに一体感が生まれた気がして、笑いが収まった後も、しばらくそこに座りこけていた。
 先輩が、胸の谷間からさっき店長から受け取った封筒を引っぱり出し、振って見せた。
「ねえ、せっかくだから、このお金で一緒に朝ごはん食べてかない?」
「いいね」俺は立ち上がって、腰についていた草を払った。
「よーし、けってーい。それじゃ、食べまくるぞー」
 先輩はいつもの調子を取り戻したように元気に歩き出した。

 2人並んで歩きながら、俺は密かに、これからもずっと、何があってもこのバイトを続けていこう、と心に誓っていた。
 そう、このせんぱ――もとい、増田さんと一緒に――。