ミルクジャンキー その13

ジグラット 作
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「おっはよう!」
 校門をくぐった時、そんな声を思いっきり出したくなった。こんなにも立派に成長した胸をみんなに見てもらいたい、長年コンプレックスを持っていた利佳子はそんな子供っぽい欲求にとらわれていた。
 しかし、声をかける必要などなかった。校庭に1歩足を踏み入れた途端、まわりにいた生徒がその圧倒的な迫力を気配で感じてぞわっと振り向いた。一旦始まるとその流れは次々とまわりへと波及していく。100メートル先でもそのふくらみがはっきりと分かる利佳子のバストに、校庭にいた人間すべての目が釘付けになってしまった。
(わ、さすが。すごい威力ね)
 利佳子は得意になってより一層胸を張って見せた。特大のブラウスがさらにみちみちと音を立てんばかりに張りつめる。さっきから彼女を見つめ続けていた生徒達は、男女を問わず目を見開いたまま動けなくなってしまった。
(すっごーい)
 その時、校舎からチャイムが響き渡る。(あ、いっけない。予鈴だわ) 利佳子は教室に向かって歩み出した。彼女が足を踏み出すたびに、前方に1メートルほども突き出したバストが大きくどゆんどゆんと揺れまくる。その迫力に圧されて近くにいた人が利佳子の前から退いていき、自然彼女の前に道が開いた。
(わ、モーゼの十戒みたい)
 利佳子はこの前ヴィデオで観た古い映画の事を思い出しながら、教室に向かった。

 その時だった。校門の方から、ひとりあわてて駆け込んでくる人影があった。
「やっべー、遅刻するーっ」
 その人影は、校門から一直線、利佳子が今開けた道を通って、一目散に利佳子の背後に迫った。
「え?」
 近づいてくる人の気配を背後に感じて、利佳子はとっさに振り向いた。顔にひっぱられ、そのバストもぶるんと大きく横に振れる。
「!」
 走ってきた人影は驚いた。そう、ちょうど人気のない所をねらって、ただ一人向こうを向いて歩いていた女の子の横をすり抜けていくはずだった。しかしまさにその時、女の子が振り向く。それに一瞬遅れて――何かとてつもなく大きな白い壁のようなものが、ぶんとうなりを上げて目の前に迫ってきたのだ。前傾姿勢で頭を低くして懸命に走ってきたその前に…。あわててよけようとしたが間に合わなかった。
「!!!???」
 一瞬、顔全体を大きくてやわらかいものが覆う。顔の隅々までびっしりと覆われ、息ができなかった。しかし次の瞬間、猛烈な反動が顔を襲った。
「うわっ」
 それは一見やわらかそうでいてその実とてつもない質量を持っていた。そんなものでいきなりカウンターを喰らわされてしまったのだ。たまったものではない。身体全体が持っていかれそうになるのを必死に足をふんばってこらえようとしたが力及ばず、思わずしりもちをついてしまう。
「いってえ…」
 いったい何が起こったんだ? 事態を把握できないで目を上に向けると、たった今、彼の顔を覆っていたものが、はげしく上下に大きく揺れ動きながらこちらに迫ってきた。大きく前に突き出したものが2つ、彼の頭上を覆って太陽を遮った。その時になってようやく、それがその女の子の胸から突き出していることに気がついた。
(これ…バストなのか!! 信じられん…)
 2つの胸のふくらみにさえぎられて、その女の子の顔はまったく見えなかった…。

「大丈夫ですか?」
 利佳子はいきなりのことにびっくりしながらも、自分のおっぱいが人を突き飛ばしてしまったことにあわてて駆け寄ってきた。胸がはげしく揺れて顔に当たりそうになるけどもそんなこと構っていられない。
 しかし、しりもちをついている男子生徒の顔を見て驚いた。
「た、高畑くん…」
 利佳子はかーっと顔に血が昇っていくのを感じた。どうしよう、よりによって高畑くんを突き飛ばしちゃった――。
 利佳子だって中学3年生、あこがれの男性のひとりぐらいいたって不思議ではない。実は誰にも言ったことのない秘密なのだが、利佳子は同じクラスのこの高畑に淡い想いをつのらせていたのだ。勉強はあんまり得意じゃないけど、ストイックな面持ちで、しかしその内にやさしくて温かい心を持った人――。まあ少女特有の思い込みイメージが先行したきらいはあったが、クラスの他の男子とはどこか違う、特別なものを感じ取っていた。先週のはじめ、田舎のおばあちゃんが亡くなったとかでそれからずっと学校を休んでいたのだが、今日から戻ってきたらしい。よりによってその出会い頭に…。

「さ、里見かぁ…!?」
 高畑の方はもっと驚愕していた。そのなんだか分からない白い大きなものが、ぜんぶ女の子のバストだったというのだけでも驚きなのに、その胸の持ち主が、同じクラスの里見だということに…。
(こいつ、胸ぺっちゃんこじゃなかったっけ――)
 普段硬派を気取ってはいたがそこは思春期真っ盛りの男の子、女の子のチェックはおこたらない。しかし先週ずっと休んでいた高畑は、利佳子の胸が猛スピードで大きくなっていた事自体まったく知らなかったのだ。
(里見、どうしたんだよ、その胸はぁ…)
 突然とてつもない超乳に変貌したクラスメイトに、高畑は急激に強烈な好奇心を覚えた。しかし――過剰な自意識が邪魔してどうしても口に出せなかった。
「と、とにかく急がないと。さっきベル鳴っちゃったろ」
 立ち上がって腰を払うとまた駆け出そうとした。
「え? あれ、予鈴だよ」
 どうやら本鈴と勘違いしてたらしい。高畑の顔からあせりの色がすっと消えた。
「あ、なんだぁ」
 はずかしそうに苦笑いを浮かべるその顔を見て、利佳子の方もほっとした。(よかった、高畑くん、怒ってないみたい)
「でももうあんまり時間がないのは確か。急ご」
 急に元気が出て、利佳子は高畑をひっぱろうとその手をとった。
(あ…) そうなってから利佳子は自分が何をしてるのか気がついた。(わたし…今、高畑くんの手、にぎってる…)
 赤くなった顔を見られまいとまっすぐ前のほうを向いて教室に向かう。「おい待てよ」引っ張られながらも、高畑は高畑で、顔がにやけてしまってしょうがなかった。(さっきの、里見の胸――やわらかかったなぁ…)

 利佳子が教室の扉の前で立ち止まる。
(えーと)
 どうやって開けようかと迷う。真正面に立つと、胸が邪魔して手を伸ばしたって扉まで届かないのだ。また体を横にして――と思っていると横から高畑が割り込んできた。
「何ぐずぐずしてんだよ」
 利佳子の胸とドアの間に高畑の手が伸び、なんてことなく扉を引いた。
「あ、ありがとう」
「お礼はいいから。そこにつっ立ってられると胸が邪魔で教室入れないから」
「あ、ごめん」あわてて後ろに退いて通り抜けできるスペースを作ろうとすると、すぐに背中が廊下とぶつかってしまった。
(あれ、廊下って――こんなに狭かったっけ!?)

「おはよう」
 高畑に続いて利佳子が教室に入っていくと、一斉に教室の視線が利佳子の胸に集中した。
(うわっ、すご…)
 利佳子は一瞬たじろいたけども気を取り直して自分の席に向かっていくと、その間に高畑は友達に声をかけられていた。
「おう、高畑、久しぶり。もういいのか」
「ああ、きのう戻った。それにしても――」
 声を低めて言った。
「里見の奴、いったい何があったんだ?」
 その友達の顔がニヤリとゆがむ。
「へっへ、やっぱお前でも気になるかい」
「うるせえんだよ、さっさと答えろ」
「お前はいなかったから知らないだろうけどさ、先週からすごいことになってたんだぜ。なにせあの胸、毎日どんどん大きくなってったんだから。それにしても今朝はまた…先週とはくらべものにならないぐらい桁違いに大きいな。里見と、あともうひとり…あれ? そういえばまだ来てないな」
 友人に釣られて視線をまわすと、利佳子が今度は机を前にして悪戦苦闘しているのが目に入った。椅子に座ると、教室の机では利佳子の胸は半分以上はみだし、前に突き出て前の席にまで当たってしまうのだ。座るに座れず困っていた。
(ったく、世話が焼ける奴…)
 高畑は黙って立ち上がると、後ろのほうから余っている机をひとりで持ち上げて、利佳子の机をちょっと引くと空いた前のスペースに置いた。
「ほらよ。これも使えよ」そして前の子に「悪い、もうちょっと前に行ってくれないかな」と声をかけた。
 利佳子は2つ並べた机の上にようやく自分のバストを置いた。これでもなんとかギリギリだった。
「あ…ありがと」
 思わぬ親切に利佳子の頬がまた紅潮する。
(なんだろ、今日は高畑くんとなんか縁があるみたい…)
 担任の先生がやってきて朝のホームルームが始まる。いつものような朝。しかし出席を取った時、初めて親友が2人とも教室にいないことに気がついた。
(明美はともかく、智子まで…)
 意外に思った。まじめな優等生である智子が学校をさぼった事など今まで1度もない。
(まさか、また胸が大きくなっちゃって――) 先週繰り返されたパターンを思い出してドキッとしたが、考えてみるとそれはない。(明美は土曜日にミルクぜんぶ飲み干しちゃってそれっきりだからわたしがミルク飲ませない限りおっぱいがふくらむはずないか。智子は――あれから少しは膨らんだかもしれないけど、あのペースだったらそんなにいきなり大きくなるはずないし…。風邪でもひいたのかなぁ…。残念)
 利佳子は、今日学校にきたらこのブラジャーの事を2人に話したくてうずうずしてたので、2人の欠席にけっこう気落ちしていた。

「高畑くん」
 次の休み時間、廊下にひとりいるところを利佳子に話しかけられて、高畑はどぎまぎしてしまった。思わず向かい合う。自分と彼女との間には、あのとてつもないバストがはさまれているのだ。顔と顔どうしはずいぶんと離れているはずなのに、胸の先ときたら高畑のすぐ目の下で絶えずふるふると細かく揺れ動いている。高畑は目のやり場に困ってしまった。しかし目を左右にどれほど大きくそらそうと、視界の中で胸が切れることはなかった。
「さっきはありがと」
 利佳子がちょこんと頭を下げる。その動きを受けて、バストがその何倍もの大きさで上下に大きく揺れた。思わず目で動きを追ってしまう。
「あ、いや、気にするなよ」
 口では言いながらも気がそぞろで、ついついバストをじっくり観察してしまった。胸から優に1メートルは突き出しており、その巨大さにも関わらず、砲弾のように高畑の胸先に突き刺さらんばかりに力強くせり出していた。とてつもない大きさのブラウスは中身が満ちあふれてピンと張り詰め、内側からブラジャーがくっきりと浮き出てしまっている。彼女のちょっとした動きにも反応して目の前でたふたふと動きまわる様が、なんだかこちらを誘っているように見えてしょうがない。なんだか、その動きを受け止めようとしてついつい手が胸に伸びそうになってしまう。
(高畑くん、わたしの胸、見てくれてる) こんなことですら、利佳子は嬉しくてたまらなかった。見つめられている、そう考えているうちに胸が締め付けられるようにきゅーんとなってしまった。
(え、なに…)
 おっぱいが収縮するような、今まで感じたことのない感覚だった。
 思わず体を硬直させ、おっぱいもふるんと揺れる。そのすぐそばまで近づいていた高畑の手は、思わず胸に触れてしまった。
 服とブラを通してさえ、その手にふにっとした感触が伝わってきた。
(や、やわらけー)
 思わず指に力が入る。すると指先がおっぱいの中に、ずぶずぶと底なし沼にはまる様に沈んでいった。
「あっ………!!」
 今までのものとは比べ物にならない、激烈な快感が利佳子の胸を襲い、またたくまにその隅々まで伝播していった。びくっと胸が別の生き物のように跳ね上がり、高畑の手にまで伝染した。
「あ、ご、ごめん」
「い、いいの。気にしないで…」
 利佳子はそう言いつつもその強烈さに心底驚いていた。
 おっぱいがどうにかなっちゃう。そんな危機感すら抱かせるほどの快感に、利佳子は反射的にその場を離れようとした。
「あ…あの!」
 そう口を突いて出たのは高畑の方だった。その手にはまだ、ふわんとしたやわらかい感触がくっきりと残って、なかなか消えそうにない。背中を向けた利佳子を見て、あ、行ってしまう、と強烈な喪失感を覚えて、後先考えずに気がついたら呼び止めていた。
「はい?」
 利佳子が足を止めて振り返る。こうなったら何か話さなければ――。
「あの、よかったら、また、ちょっと2人で話さないか。――昼休みでも」
 自分でも意外だったが、こんな軟派なセリフが口から出てきた。でもそれを聞いた途端、相手の顔がぱーっと明るくなったのを見て、よかったぁ、とほっとしていた。
 タイミングよく始業のベルが鳴る。
「あ、じゃあ、また後で」2人はそそくさと教室に戻った。

(高畑くんがわたしに興味を持ってくれた。この胸のおかげかな、キャッ)
 それから午前中、利佳子は授業中といわず休み時間といわず有頂天になっていた。お昼休みのことを考えるたびに、また胸がしめつけられるようにキュンとなる。
(ああ、今日、わたし、今まで生きてきて一番幸せな日かもしれない…)

 しかし、4時間目が始まろうかという時――何度目かのキュンの後、また例の――胸がむず痒くなるような、あの感覚が起こり始めた。2日ぶりに…。
(え、まさか――もう終わったんじゃ)
 しかし間違いなかった。否定したくてもそのうずきはすさまじい勢いで大きな胸全体に蔓延していき、それとともにまた強烈なのどの渇きが利佳子を襲った。今までよりも、はるかに強力に。
(そんな――だめ! やっとこの胸に合うブラも制服も手に入れたのに。今飲んじゃったら、また着れなくなっちゃう。お願い、おさまって――)
 しかしその願いも空しく、のどの渇きは刻一刻と激しさを増し、到底我慢できるものではなかった。
(ミルク…ミルク…) とうとう頭の中はミルクのことでいっぱいになってしまった。しかしその片隅で、最後の意志を叫び続けるものがあった。
(今…ミルク飲んだら、昼休みに高畑くんに会えなくなっちゃう――)
 休み時間が終わろうかという時になって、利佳子は遂に我慢できずふらりと立ち上がって教室を出て行こうとした。
「あれ、利佳子、どうしたの? もう授業始まるよ」
 近くにいた女生徒が声をかける。
「あ…ごめん。なんか気分が悪くなって――保健室行ってくる」
「ひとりで行ける? あ、そういえばちょうどさっき橋本先生が利佳子探してたけど…」
「橋本先生――誰だっけ?」利佳子はミルクのことでいっぱいになりそうな頭をなんとか働かせながら先生の顔をひとりひとり思い浮かべた。けど橋本という名前に行き当たらない。
「やだぁ。その保健の先生の名前じゃない、橋本って。さては利佳子、頭に行く栄養ぜんぶ胸にまわっちゃったな」
 そのいささか失礼な軽口も利佳子の耳には入らなかった。そうか、あの先生、橋本っていったのか。そういえばずーっと保健の先生で通しちゃって、名前なんて気にしたことなかった。このブラのことでさんざんお世話になったのに――。
「そうだっけ。ごめん。とにかく保健室に行ってくるね」利佳子はこころあらずといった感じで教室を後にした。
(大丈夫かな。なんかだいぶ体調悪そうだけど…)
 廊下の向こうへと消えていった利佳子を見送りながら、ちょっと心配になっていた。とはいえこれを最後に利佳子がずっといなくなることになろうとは、その女生徒もまったく予想していなかった。

(とにかく保健室に行こう。そして、先生――橋本先生に洗いざらい話して相談しよう――)
 利佳子はのどの渇きと必死で戦いながら、なんとか保健室に向けて歩いていった。あの先生ならば、なんとかしてくれるかもしれない。なんだか分からないがそんな気がしていた。それを一縷の望みに、最後の気力を振り絞って足を動かしていた。
 しかし――その時、極限状態で極度に鋭敏になっていた利佳子の鼻は、ある匂いをかぎ当ててしまった。
(こっちの方から――ミルクのにおいがする)
 本人の意思をまるで無視して、ずるずると引きずられるように利佳子の足はその匂いの方へと引き寄せられていった。給食室の横にある準備室の中に設置された大型冷蔵庫だ。その中に、今日の給食用にと運ばれた全校生徒分の牛乳が、今運び込まれたばかりの状態で入っていた。
(見つけたぁ)
 利佳子の顔に歓喜の表情が浮かんだ。見回すと幸い誰もいない。準備室の扉がしっかり閉まっているのを確認すると、飲むのを圧し止める最後の障害すらなく、利佳子はミルクの前に立った。
 利佳子の理性はほとんど吹き飛ぶ寸前にあった。脳の片隅にあった最後の理性が一言もらす。
「ごめんね、高畑くん」
 体を横にして胸を逸らし、右手で冷蔵庫の取っ手をつかむと、ぐっと力を込めた。ドアは音もなく利佳子の手元へと引き寄せられていった。

 中から冷気とともに、ぎっしり詰め込まれた無数の紙パック牛乳がぱらぱらこぼれ落ちた。
 1個1個の紙パックに納められた量は利佳子にとっては微々たるものだったが、これだけ数があれば全部でそれなりにはなるだろう。利佳子はパックにいちいち穴を開けるのももどかしげに、次々とその中身を飲み干していった。
 開ける、口をつける。その瞬間パックはくしゃっとへしゃげて中身はすっかり空になっていた。それを放り出すと同時に次のパックを手に取りまた穴を開ける。1個につき1秒ほどしかかからない早業だった。正直いちいちパックをやりとりするのは面倒くさかったが、今はそんなことを言っていられない。とにかく少しでも多くのミルクが飲みたくてしょうがないのだ。
 いつしか利佳子の足元には、空パックの山が積み上げられていった。が、利佳子はますますペースを速めて中身を空けていく。
(あ…ブラが――)
 飲むのに夢中になっていたが、ふと、先ほどまでぴったりだったブラジャーが内側から圧迫されるように張りつめているのに気がついた。もちろん、ブラが小さくなったのでなく、胸がより大きくなりつつあったのだ。
(どうしよう…。このままじゃこのブラも着れなくなっちゃう――)
 しかし動き始めた手はもう止められなかった。牛乳を飲めば飲むほどに、のどの渇きは癒されるどころかいや増すばかりにその欲求はふくらんでいった。
(どうしよう、止まらない――)
 とにかくミルクをちょっとづつちびちび飲んでいくのがまどろっこしくてしょうがないのだ。こんな飲み方してちゃいつまでたっても満足できない。ああ、大量のミルクを息もつかせずごくごく飲み干したいなぁ。そう、また明美がおっぱいをめちゃくちゃ大きくふくらませてここに現れてくれれば大感激なのに。今なら、もういくらでも飲み干してあげるわ――。
 利佳子は実際にミルクを飲んでいながら、むしろ欲求不満がどんどん溜まっていくのを感じていた。とにかく飲んでも飲んでもどんどん胸のうちにふくらむ欲求の大きさに追いついていけない感じなのだ。
 しかし同時に利佳子は幸せだった。これで――大好きなミルクがいくらでも飲める。ほんとうにいくらでも、無制限に――。

 しかしその時、冷蔵庫の奥に伸ばした手は突然むなしく空を切った。そう、そんな事を思っているうちに、冷蔵庫の中の牛乳パックは1個もなくなってしまっていた。冷蔵庫の周りに、利佳子が放り投げた空の紙パックだけが一面に堆く積まれている。
「うそ――。今のが最後!? もう――ないの!? これっぽっち!?」
 利佳子は思わず小さな叫び声をあげてしまった。人気のない部屋の中にその声だけが空しく響く。
 利佳子の胸の内側からさらなるミルクへの欲求が怒涛のように押し寄せてきた。今までわずかづつでもミルクを補充してなんとかなだめていたものが、補給を断たれて一気に噴き出してきたのだ。
「だめ、ぜんぜん足りない!!!」
 一方で、今飲んだミルクに胸が反応し、ブラジャーが内側から圧されてみちみちと悲鳴をあげ、おっぱいが今にもあふれ出そしそうになっていた。
「ああっ、だめっ! ブラジャーが…。でも、ミルク…ミルク飲みたい――」

 その時、後ろで部屋の扉がばたんと閉まる音がした。
 今まで自分ひとりと思い込んでいた利佳子は、その音にはっと我に返った。おそるおそる扉の方を振り向く。そこには――。
「あらあらいい場面だこと。でも案外次の発作まで時間がかかったわね、里見さん」