ミルクランナー 前編

ジグラット(物語)・魏乳(挿し絵) 作
Copyright 2004 by Jiguratto (story)
Copyright 2004 by Ginyu (picture)

「ほら後もう少しだ、ラストスパート!」
 コーチは自転車で伴奏しながら、横を走る少女に激を飛ばした。
 既に30キロ近くの距離を走っていながら、少女のフォームの少しの乱れもなかった。息も規則正しく、乱れはない。これだけ走り込みながらこのスタミナ、やはりただものではない。
 だが――。
(くそう、ここらが限界か…)
 少女の顔が次第に苦しそうにゆがんでいくのを眺めながら、コーチは心の中でつぶやいた。足元はまだまだしっかりしている。しかし、体の別の部分がもうどうしようもないほどぱんぱんに張りつめていた――。
 少女の体つきは無駄な肉ひとつないほっそりとしたものでありながら、ただ一ヶ所、そのバストだけはまるで特大の風船を2つ無理矢理押し込んだかのようにふくれあがり、足の動きに合わせてぶるんぶるんと振り回している。その胸が今、一歩一歩足を踏み出すほどにさらに巨大化していくのが目に見えるようだった。走り始めた時より、明らかに倍ぐらいの大きさになっている。
 少女の足がいきなり止まる。少女の顔はもう一刻も我慢できないほどきつそうにこわばっていた。
「コーチ…ハァハァ、もう…だめです――」
 足そのものはまだまだ余力を残していそうだった。ただ――もう、胸が限界なのだ。
 コーチは苦々しげに自転車を止めた。ブレーキの音すら苦しそうに響き渡る。
「こらっ、お前の実力はこんなものじゃないだろう!」
 しかし少女はもう一歩も動けないという風にその場にへたりこんだまま、両手いっぱいに大きな胸を押さえるように抱え込んでいた。
「でも…もう、胸がパンパンで…今動いたら、おっぱいが、こぼれちゃう…」
 コーチは空しく頭をかきむしる。わかってはいるのだ。彼女がもう一歩たりとも前に進めないことは。しかし、彼女がランナーとしての実力を半分も出しきってないうちにこうなってしまうのが残念でならないのだ。
 しかしこうしていてもしょうがない。コーチは自転車を降りてそっと少女を立つように促がした。やっとの思いでサドルの上に彼女を乗せると、なるべく静かにべダルをこいで学校に戻った。こちらとしては極力静かにペダルをこいでいるつもりなのだが、そのわずかな振動ですら、今の彼女にはきつそうで、ちょっと揺れるたびに顔をしかめていた。このままではあと数分の間に我慢の限界を超え、ほっといても胸からミルクが噴き出してしまうだろう。早く学校に戻らなければ、と自然足にも力が入った。
「すいません、コーチ」
 後ろから、気丈に苦しみに耐えながらも、本当に消え入りそうな声であやまる声が聞こえた。彼女自身、この身がくやしくてしょうがないのだろう。
(くそう、なんとかならんのかこの体質は! これだけの才能に恵まれてながら、このままでは完走することすらできない――)

 学校に戻ると、少女はなりふり構わず洗面所に駆け込んだ。もう一刻の猶予もない。ドアを閉めると同時にタンクトップをほうり上げた。しかしその下にはまだスポーツブラがある。これまた元々巨大な上にかなり伸縮する素材で出来ているのだが、今やもう伸張率ぎりぎりにまで内側からふくれあがって、ちょっとやそっとでは脱げそうになかった。かといって脱がないことには搾れない。
(あ、だめ――もちょっと待って!) 少女は自分の胸に思わず語りかけてしまった。やっとのことで学校に着いてほっとしたのか、脱ごうとブラに手をかけたところで胸の先からじわっと白いものがにじみ出てきてしまった。一度出始めると早かった。まるで今までせき止めていたダムが決壊したかのように、後から後からミルクがあふれ始める。
(ああっ、だめーっ!!)

 しかしもう自分でも押さえがきかなかった。張りつめたブラのすき間を縫って、ミルクが脇からどんどん流れ落ちていく。少女はなんとかして手を交差して、ミルクですべりがよくなったブラをなんとか胸から引き抜いた。
 その途端、どわんと音をたてんばかりにふたつの巨大なふくらみが中から出現した。(うわっ、すごい) そのあまりの大きさに、香は自分でも驚いてしまった。無駄のないひきしまった体には不釣合いなほどにまるまると大きなスイカほどにもふくらんだ乳房の中には、信じられないほど大量のミルクがめいっぱい詰っていた。その量たるやこの巨大な乳房を持ってしても抱えきれないほどで、それがもう押さえきれずに両方の乳首から、さわってもいないうちに勢いよくミルクが噴き出し続けている。
 張りつめて、やもすると上に噴きあがりそうなミルクをなんとか手で押さえつつ、洗面台の中に白い筋を向けてシャーシャーと流し込み始めた。その時にはもうまわりには白いミルクが思いっきり散らばっていたが、ようやく心置きなくミルクを出せる、となってようやく少女は落ち着いた。
 ミルクの勢いはなかなか止まりそうにない。それほどまでに巨大な乳房の中いっぱいにぎっしり詰っていたのだ。しかし張りつめていたものが次第にすーっと楽になっていくのが少女には快感だった。
(ああ、きもちいいよー。でも、今日すっごくたまってたなぁ。なんか、また量が増えちゃったみたい…)

 その間、コーチは部室で少女が戻るのをじっと待っていた。なんとかしてやりたいのはやまやまだが、こればっかりは一人でやらせるしかない。なにせ相手はまだ高校1年生なのだ。
(本当にあれさえなければ、絶対に今すぐオリンピックに出ても金メダルが狙えるほどの逸材なのに…)
 彼女――水沢 香の体質を呪った。いや、彼女が優れているのも実はその体質のおかげなのだから呪ってはいけないのだが、ここまでくると呪いたくもなってくる。おかげで今だに30キロの壁が越えられないのだから――。

 香の体質――。普段、人は動き続けるうちに筋肉の中に乳酸というものがたまってくる。それが筋肉疲労を引き起こす元になっているのだが、彼女の場合、いくら筋肉を使っても乳酸がほとんど増えてこないのだ。だからいくらトレーニングを積んでも疲れ知らずで、おそるべきスタミナを発揮した。中学に上がる頃から陸上の才能を見出され、専門のメニューで特訓を重ねていった彼女は、みるみるうちにその才能を開花させ、早くもオリンピック候補生に名を連ねるほどになっていた。
 しかし、思春期を迎える頃から、彼女の体にある変化が訪れた。それはもちろん女性なら誰でも起こる変化だったのだが、彼女の場合、ある一点においてその変化は普通よりはるかに際立っていた。
 それがバストの成長だった。日々のトレーニングで絞り込むだけ絞り込まれた彼女の体はスリムそのものだったが、それでもなお、胸だけはそれに歯向かうかのようにどんどんふくらんでいった。日を追うごとに彼女の胸はタンクトップの布地を押し上げ、走るたびに胸が大きく揺れた。次々とブラジャーを大きなサイズに変えていったが追いつかず、かなり前から特注で作らなければならなくなってしまい、今でもかなりひんぱんにより大きなサイズに作り変えなければならなかった。
 それとともに、彼女の"体質"のやっかいな面も明らかになっていった。彼女がどんなに筋肉を使っても乳酸はほとんど作られない。しかしその代わり、乳が――即ち大量のミルクが体内で作られてその大きな胸にたまっていってしまうのだ。このほとんど駄洒落のような体質を、コーチは最初一笑に付そうとした。単にさぼろうとしているだけだろう、と。しかし――トレーニング中にどんどんミルクがたまって巨大化していく胸を目の当たりにするにつれ、この問題に真剣に取り込まずに入られなくなっていった。
 そんな彼女が選んだ競技は、長距離――しかも、よりによってマラソンだった。実際、コーチも彼女の疲れしらずの無限のスタミナを最も効果的に発揮できる競技はマラソンしかない、と思う。しかし――言うまでもないがマラソンは42.195キロもの長距離を、2時間以上かけて走りぬく過酷な競技である。彼女の筋肉そのものは、それだけの距離をそれこそ世界レコードなみのペースで走りきるだけの力を既に備えている。しかし彼女の胸は――直前におっぱいの中をきちんと空にして走っても、レース中にどんどんミルクが胸に溜まっていき、どんなにがんばっても1時間半で1歩も動けなくなるほどパンパンに張りきってしまう。これでは――完走すらおぼつかない。
 実際、今日も試しに30キロのコースを設定して走らせてみたのだ。しかし結果はご覧の通り。実はこれまでにも何度となく挑戦させてみたのだが、彼女は今だ、30キロの壁を越えられないでいた。
 しかも今もなお、彼女の胸はすごい勢いで大きく成長していっているのだ。それとともに溜まっていくミルクの量もどんどん増加していっているような気がする。このままでいけば、いずれその胸は走ることそのものに支障をきたすようになるかもしれない。
 時間がない。しかしあれだけの才能をこのまま埋もれさす訳にはいかなかった。
(なんとか方法がないものだろうか――) コーチはまた考え込んでしまった。

 10分ほどして、香が洗面所から戻ってきた。先ほどのしかめっ面が嘘のように晴れやかな顔をしている。体も軽そうだ。これからまた30キロ走れと言ったら軽く飛び出しそうなぐらいに元気いっぱいだった。そう、これが彼女の最大の特長だった。ミルクさえ出してしまえば、それまでの疲れをすべて出しきったのと同じようにリフレッシュしてしまい、また開始時のペースで走ることが可能なのだ。しかしそれでも――彼女は30キロを走りきることはないのだ、絶対に。
 コーチは複雑な顔をした。
「水沢、疲れたろう。今日はもう帰りなさい」
 しかし香はじっとコーチの顔を見つめたまま動こうとしない。
「コーチ…」
「なんだ?」
「わたし、久ちゃんと一緒に走れますか?」
 久ちゃん――日本人で初めてオリンピック女子マラソンで金メダルを獲得した高張久子の愛称だった。その後も世界各国のマラソン大会でいくつも1位に輝いた、押しも押されぬ世界的ランナーだ。香が彼女の走りを見て感激し、マラソンを志すようになった事はコーチもよく知っていた。実際、高張の足に対抗できるのは世界に香しかいない、とまで内心思っていた。しかし、今の状態ではとてもじゃないが勝負にならない。
「いいか。分かっていると思うが、お前の唯一の弱点はその胸なんだ。その胸が42.195キロのフルマラソンに耐えられるようになりさえすれば――」
「――――」
「高張にだって充分勝つことは可能だろう。お前にはそれだけの実力がある。それは私が保証する」
 香の顔がぱーっと明るくなった。
「はいっ!」
「だから、今はその弱点を克服することだけを考えろ」

 家に帰った香は、汗を流そうと風呂場に駆け込んだ。一糸まとわぬ姿でシャワーの前に立ち、勢いよく流れる水流の中にその体をひたした。
 若々しい肌に水滴がはじける。しかし身体に水をかけようとすると、胸の先がはみ出てしまっていた。
 香は、自分の胸を抱え上げてみた。ずっしりと重い。その大きさも、きのうよりも若干大きくなっている気がしてしかたなかった。
「ミルク、ぜんぶ搾りだしたはずなんだけどな…」
 このただでさえ大きな胸が、走っていってミルクが満杯になるとさらにほとんど倍近くまでふくれあがってしまうのだ。先ほど、洗面所に駆け込んだ時の張りつめた時の自分でも驚くほどの大きさを思い出していた。
 ちょっと試しに胸を振ってみた。中にミルクが残っている様子はない。しかしそれでもやはり、きのうはもう少し小さかった気がする。
(また、育っちゃったのかな…)
 そう、1回ミルクで膨れ上がったおっぱいをいくら丹念に搾りきっても、いつも元の大きさにまでは戻ることはなかった。その度に、少しづつ、少しづつ大きくなっていくのだ。ここ数年間、毎日休みなく続くトレーニングを続けていくと、終わる頃にはいつもおっぱいがミルクで満杯になってしまう。その度にミルクを搾っているうちに、今や彼女のバストサイズは通常時でも138センチにまでなっていた。ブラのサイズも、ABCD…とどんどん大きくしていっているうちに、いつしかアルファベットの最終文字、Zにまで達してしまっている――。
(これ以上大きくなったら、次、何カップって言うんだろう…)
 そんなどうでもいいことまで気になってしまう。
(でも、大きくなるにつれて、ミルクが一度にいっぱいためられるようになってきたもんね。もうすぐ30キロも突破できそうだし、もっともっと大きくなれば、いずれはフルマラソンだって大丈夫になるよね)
 若さの特権だろうか、香の考え方は常にポジティヴだった。
――フルマラソンに耐えられるようになりさえすれば、高張にだって充分勝つことは可能だろう。
 コーチの言葉を思い出していた。鏡の中の顔が思わずにやけていた。
「ああ、久ちゃんと一緒に走れたらなぁ、最高なんだけど…」

 1週間後、香はいきなりコーチに呼び出された。
「水沢。お前、来月の第3日曜は空いているか?」
「来週の第3日曜って――なんだ、女子マラソン大会の日じゃないですか。そんな日に用事なんか入れませんよ。せっかく世界レヴェルのランナーが東京に集まるんですからね。TVにかじりついて走りの研究をします」
「悪いが、そのTV観戦はあきらめてくれ」
「え?」きょとんとして聞き返した。あのコーチがこんなことを言い出すなんて――???
「そのマラソン大会に、出場が決まった。一緒に全力を尽くそう」
「へ?」香はそのまま固まってしまった。出場って、誰が? わたし? まさかね――って、わたししかいないじゃん!!
「なにをぼーっとしてるんだ。時間はあと1ヶ月しかない。今まで以上にきびしくいくぞ!!」
「え、あ、あのぉ、つかぬことを伺いますが…」
「なんだ?」
「あの、今度の大会って、確か――久ちゃんも出ますよね」
「ああ、高張もきのう、正式に参加を表明した。一緒のコースを走れるぞ、お前が頑張りさえすれば、高張とトップを争うことも可能だ」
「わたしが――久ちゃんと…」香は驚きと嬉しさのあまり、体から力が抜けてへなへなとその場に崩れ落ちた。

 とはいえこの日からコーチの苦悩は一層深まった。なにしろ大会まであと1ヶ月しかないのだ。一般参加とはいえ国際大会に無名の女子高生が――しかも初マラソンで――参戦する。もちろんノーマークだろう。しかしこれで彼女の気持ちを奮い立たせることができれば――そう考えての決断だった。なのに――香は1週間前になっても今だ30キロの壁を破れないでいた。この1ヶ月の間にも彼女の胸は更に大きさを増していき、噴き出すミルクの量もますます増えていっているようだった。初マラソンを途中棄権のような無様な結末で迎えては、彼女の今後のキャリアに傷がつきかねない。それにもし、レース中に我慢できず胸からミルクをあふれ出すような事になれば、感じやすい年頃の少女に心の傷を残しかねない。なんとしても、彼女には成績はともかくこの大会で無事完走をさせてやりたかった。
(万事休す――か…)
 コーチにしてみれば、香にアメと鞭を同時に与える格好の刺激剤となるはずだった。しかし30キロも持たないのでは話にならない。しかし「久ちゃんと走れる」と一心不乱に頑張り続けている香に対し、今さら棄権するとはとても言えなかった。
(いや、まだ何か策はあるはずだ。きっと起死回生の打開策が)
 そう、問題はあの胸だけなのだ。胸の中のミルクさえどうにかすれば、彼女の足ならば完走はおろか相当の成績を残せるはずなのだ。ミルクさえ――。
(そうだ、ひょっとしたら…!)
 次の日、コーチは車でコースの下見を繰り返した。思い描くポイントを探して、何度も何度も往復するうちに、遂に格好の場所を発見した。
(いける! ここさえ活用したら――勝てるぞ)

 大会を2日後に控えたその日、いつものようにトレーニングを終えたコーチは香に最後の激を飛ばした。
「よくがんばった。お前は、その足だけならば今、世界のトップレヴェルにあることをよーく覚えておけ」
「はいっ」
「明日のトレーニングは休みとする。体を動かすのはウォーミングアップぐらいに止め、ゆっくりと体を休めなさい」
「はいっ」
「ただ、明日午後1時にここに来てほしい。一緒にコースの下見に行こう」
「はいっ」
「そこで、あさっての作戦を与える」
「作戦?」
「ああ、お前の弱点を克服する、必勝の作戦だ。これさえうまくいけば――お前は、高張にだって勝てる!」
 コーチは、自信満々に言い放った。